昼食摂りながら雑談する男子と女子の一幕
これは恋愛で良いのだろうか。
一応
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の続きっぽいものになります。
「ごめん兄くん、臨時で委員会の打ち合わせ入ったから、今日のお昼は一緒に食べられなくなっちゃった」
「ありゃ……飯の時間取れるのか?」
「ランチミーティングってことになると思うから大丈夫だよ」
「そっか、頑張ってこい。弁当はこれな」
「うん、ありがと。それじゃ行ってくるねー」
星寺政則から弁当を受け取り、科守美咲が教室を出て行く。
その姿が見えなくなるまで手を振り続ける政則をジト目で眺め、守垣匠は口を開いた。
「あー目の前の色男の股間が突然爆ぜたりしねーかなー」
「やっかむなよご同輩。だいたい、いま股間爆ぜたら俺魔法使いが確定して死んでも死にきれなくなるだろ」
「……え、お前ら『まだ』なの?」
「守垣くん、俺達高校生なんですよ?」
「清いお付き合いとか昭和かよ? と言うか政則、お前そんな真面目くんだったっけ?」
「タイミングの問題がなー。ここんとこ、お袋も叔父さんもちゃんと帰ってきてるから、朝までふたりきりって日がないんだ」
「なるほど、あったら行くとこまでイク気なのな?」
「……その辺は想像に任せる。あと、な……」
「なんだよ?」
「ちょっと美咲とな、意見の食い違いがあって。そこの擦り合わせ中でもあるんだ」
「ふーん。それ、俺が聞いてもいい奴?」
「ダメな奴かなあ。だからまあ、察しろ」
「へいへい」
それ以上は聞かず、匠は自分の弁当を取り出した。
目の前に置かれる容器を見て、政則が眉をひそめる。
「またコンビニ弁当かよ……ちゃんと栄養バランス考えろよ?」
「安心しろ、健康を考えて飲み物はトマトジュースにしてる」
「それはそれで飯としての食い合わせが不安なんだが?」
「そういう政則はどうなんだよ? 今日はお前が弁当作ったんだろ?」
「……それを言われると弱いな。今日のは手抜きだし」
「ほらみろ。どうせ冷凍食品を……」
政則の弁当箱をのぞき込み、匠は思わず唸った。
「卵焼き、唐揚げ、ご飯にきんぴら、サラダ、そしてプチトマト……量以外は女子が作る弁当じゃねえか。しかも全部手作りっぽいし」
「まあ手作りではあるんだが……野菜がな。にんじんとゴボウのきんぴらとポテトサラダくらいしかないからプチトマトを突っ込んだけど、足りないかなって」
「いや十分だろ。と言うかご飯が白くないのは」
「雑穀米だ。美味いぞ?」
「健康、考えてるんだなあ……」
「美咲のぶんもあるからな。俺ひとりならオール茶色弁当でも構わないんだが」
「いやお前、前は科守さんにも割と容赦なくオール茶色弁当食わせてただろ。まあ本人喜んでいたけど」
「自分じゃ作らない弁当だからってな……いま思えば、気を遣わせてたなあ」
遠い目をする政則の姿に、匠がため息をつく。
「お前さあ……本当に、科守さんと付き合うようになったんだなあ。先月、地味に凹んでたのと同一人物だとは思えんわ」
「その節は本当に済まんかった」
「まー俺も政則が告白したら科守さんは絶対OKすると思ってたからな。振られたって聞いた時は耳を疑ったし」
コンビニ弁当に箸を付けつつ、匠は当時を思い返す。
美咲に告白して振られたと告げる悪友は気丈に振る舞いながらも明らかに意気消沈しており、その日はなけなしの小遣いをはたいてカラオケを奢ったものだった。
「厳密には誤解だったんだけどな。保留が断る口実じゃなく、本当に保留だったとは俺も思わなかったよ」
「仕方ないって。話聞いて俺も『いまの関係を壊したくない』くらいの意味だろうなと思ったし」
「実際、そのあとも今までと変わらない態度で接してきたからな。だから俺も、美咲の前じゃ普段通りを心がけてたんだが」
「そのぶん、こっちじゃヘロヘロになってたよな」
「本当助かったわ。お前がいなきゃ俺、変に暴走して美咲を傷つけてたたかもしれん」
「なに、高校からの付き合いとは言え政則とはそれなりに深く関わってるからな。多少の迷惑は想定内だ」
得意げに告げて、匠は弁当の白身魚フライを口に運ぶ。
そしてトマトジュースを一口。
「……合わねえ」
「だから言っただろ。食事に合わせるのは普通にお茶とかにして、野菜ジュースとかは食前に済ませとけ」
「次からはそうする……しかしさあ」
「なんだよ?」
「結局付き合うことになったのって、科守さんが先輩に告白されて、お付き合いの意味を納得したからなんだろ?」
「ああ。あいつ、本当に今まで男女の付き合いってことにピンときてなかったらしい」
「科守さん、天才過ぎて天然に片足突っ込んでるところあるからなあ……いや、そこで告白した女子に向かって『お前の身体が目当てなんだよ』って言える先輩も凄いっちゃ凄いが」
「ああ、凄いよな。痺れも憧れもしないけど」
「でも、それで科守さんは政則への返事保留を解いたんだろ? 先輩はある意味キューピッドだったわけだ」
「まあなあ。そこにも少々、思うところはあるけど」
「なんでだよ? 幼馴染って関係を崩してでも告白した相手が受け入れてくれたんだから、素直に喜んどけ」
「いや嬉しいぞ? 嬉しいんだが……その……」
「なんだよ?」
「あいつ、先輩の『お前への告白は身体目当て』って言葉に自分を省みて、俺相手なら身体目当てでも構わないと受け入れてくれた訳だけどさ」
「うんそうだね、もげて爆ぜろ。肉体関係込みでのお付き合いを考えてなおOKされるとか羨ましいにも程があるんだが?」
「でもさ……」
弁当をつつきつつ、政則が言いよどむ。
「なんだよ? あんな美少女と幼馴染で、そのうえ告白までOKされて、何の不満があるんだよ?」
「いや、不満はない。不満はないんだが……」
「だが?」
「そこでちょっとな、認識の違いというか、将来設計の擦り合わせがな? 大変な訳なんだよ」
「あー……政則、お前それ話せない奴だろ? うっかり口滑らせる前に黙って弁当食っとけ」
「すまん。察しろと言ったのは俺の方なのにな」
「……まあ、今のでだいたい察したけどさ」
「マジか。お前本当、この手のことには聡いよな」
「やめろマジでやめて。俺の経験値はリアルじゃないの、主に創作物とその手の文献からなのっ」
驚きの表情と共に見つめられ、匠は恥ずかしげに焼売を口に運んだ。
「創作物はともかく、恋愛や人間関係の書籍を読み漁って現実に当てはめててるのは普通に凄いと思うが?」
「色々な人間模様を言語化出来るのはまあ便利だけど、それ以上の役には立たねえぞ? 少なくともモテる心理学とかは九割嘘だ」
「一割あるのか、本物が」
「他人が有効利用しているのは見た」
「あっ」
「そんな顔をするな。唐揚げ奪うぞ」
察した表情を浮かべる政則に眉をしかめ、威嚇するように匠が箸を延ばす。
「告白絡みで面倒かけたし、別にひとつくらいなら普通にやるぞ? なんなら卵焼きも付けようか?」
「マジか。じゃあ貰う……卵焼きは甘い奴?」
「今日はデザートのつもりだったからな。蜂蜜入りだ」
「甘い奴か……お前の作る甘い卵焼き、ほぼお菓子でガチ美味いんだよな。貰うわ」
「ほいよ」
政則が弁当の蓋に手際よく唐揚げと卵焼きを載せ、差し出してくる。
「ありがたい。正直ちょっと物足りなかったんだ」
「匠って帰宅部なのによく喰うよな」
「自転車通学はカロリー消費するんだよ……くそ、唐揚げうめえなオイ」
「下味しっかり付いてるだろ? 皮取った胸肉だからヘルシーだぞ」
「メシウマでスイーツ全般手作りのを提供出来るとか、その時点で彼氏スペック高いんだよなあ……科守さんも胃袋掴まれて可哀想に」
「なんでだよ?」
「政則の飯と菓子を普段から食べてたら舌が肥えて、半端な手料理じゃ満足出来なくなるだろが」
「美咲は一生俺の料理を食べられるんだから問題ないだろ?」
「そこで『なに当たり前のこと言ってるんだコイツ?』って顔するのやめろ。察したこと大声で話すぞコラ」
「ごめんなさい」
「わかればよろしい。まあ将来設計は大事だし、じっくり話し合って双方が納得出来る落としどころを見つけるんだな」
頭を下げる政則に鷹揚に応じつつ、匠は卵焼きに箸を付けた。
「あっま、うまっ……これもうプリンだろ」
「だろ? 美咲が好きなんだ、この卵焼き」
嬉しそうな政則をジト目で睨みつつ、匠は心の中で「やっぱり爆ぜろ」と呟いた。
その頃。
「私、初めては着けないで欲しいんですけど、兄くんはそんな危険なことダメだって許してくれないんですよー」
「ランチミーティングの参加者全員女子だからって何ぶち込んできてるの美咲さんっ!?」
「大丈夫なように用意はするよって言ってるのに、それだと私の身体に負担がかかるから、と……でも、初めてが器具越しってちょっと、いやかなり嫌じゃないです?」
「ここにいる全員彼氏持ちだと思うなよ科守」
「戦争か? 戦争したいのか?」
「これは愚痴や相談に見せかけたのろけですね間違いない」
(……本気で悩んでいるんだけどなあ……)
ランチミーティング中の雑談で周囲から総ツッコミをくらい、美咲はしょんぼりしていたのだった。
なんの話なんでしょうね。
ちなみに、ここで欲望に負けると若くして頑張るルートに入ります。
何がとは言いませんが。
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