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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第六章 浅倉暗殺計画(九月)
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水判土戦線1

松の内も終わりました。おせち料理も食べ飽きましたね。

 九月の最終土曜日。浅倉たちは司令室に集合すると、机型モニターに視線を落としていた。

 天板がモニターになっている大型の机には、大きな地図が映し出されている。場所は大宮市の一角に位置する水判土(みずはた)地区だ。隊員達は、その地図を食い入るように見つめていた。

 そんな空気のなか、三沢は指示棒を手に取ると、カツンとある田んぼを指し示す。


「では、今回の作戦について説明します。明日、ここ水判土地内で収穫祭が行われます。また、特設舞台にて、浅倉組長が神楽舞いを披露します。……が、これにあっては、既に広報担当が広く宣伝してあります」


 尾花沢が、ゴソゴソと新聞を広げると、全体に見えるように、高々と上げた。


「バーン! 見て下さい、この新聞の広告を! 『氷山神社の天女が水判土に舞い降りて舞う!』この触れ込みで、もう、世間の関心は上乃ちゃん一色です!」


 尾花沢声が興奮でおさまらない。

 だが、その反応とは裏腹に、浅倉の顔がひきつる。


「ねぇ、すいちゃん。そもそも誰よ、その氷山神社の天女って……」

「そんなの、上乃ちゃんに決まっているじゃない。他に誰がいるのよ」

「いゃ、いるじゃない。氷山神社のアイドル、キューティーすいちゃん」


 尾花沢はキョトンとした顔で、自分の顔を、指差す。


「へ? 私? 上乃ちゃん、なに云っているのよ。私はそんなことしないわよ。だって、金成さんの天女であればいいのだから」


 尾花沢のおのろけに、浅倉のこめかみがピクピクと痙攣する。


「はぃはぃ、彼氏がいるすいちゃんには関係の無い話でしたね」


 彼氏のいない浅倉は、敗けを認めると、尾花沢から新聞を取り上げる。


「それはいいとして、このキャッチフレーズは誰が考えたの? 『アサクラ、桜の如く舞う!』……これ、センスがオヤジの駄洒落じゃない!」


 浅倉の指摘に、三沢が、慌てて唇の前に指を立てる。


「しーー。……それ……支部長よ……」


 びくんちょ!

 浅倉の身体が、急にブリキのオモチャ見たいにカクカクと動き出す。


「あっ、えぇぇと……これ……素敵ですね……」


 浅倉はタラリと汗を流しながら、ゆっくりと金沢の方へと、首を動かす。


「コホン。悪かったな、オヤジみたいなセンスで」

「いゃ、それは……その……」


 浅倉は、両手に黒板消しをはめて、黒板を消す様に、シュパシュパとエアーワイパーをやって誤魔化す。


「いや~~、とても良いセンスだと思います。浅倉が桜に舞うなんて、私には考え出せないセンスですよ。アハッ、アハハハ……」


 浅倉の額と背中には、新たに嫌な汗が流れだす。

 そんな中、金沢は顔を赤らめながら、椅子から腰を上げた。

 制帽のつばを摘まんで顔を隠しているところを見ると、どうやら、かなり恥ずかしかったのだろう。しかし、金沢は空気を変えるため、軽く咳払いをする。


「さて、諸君。これは我々にとってまたとないチャンスとなるだろう。なにせ、我々は今まで一方的に攻められていた。しかし、今回は違う。我々が敵をおびき出す番だ。初めて優位な態勢から戦いを挑める。つまり、罠が張れるということだ」


 金沢の拳が、強く突き上げられる。


「よって今回の目標は、敵の生捕りとする! 敵を取っ捕まえて、何が目的なのか、吐いてもらおうではないか。……フフフ」


 珍しく、金沢が不適な笑みをこぼした。



 ● ● ●



 日曜日、田んぼの中には特設舞殿が作られる。

 地上から二メートル程の高さに作られた舞台は長方形だが、両そでと、壁面には暗幕が施されている。これは、背面と側面からの狙撃防護として、目隠しの役割を果たしているからだ。

 射線が多いと、敵の居場所が絞りこめない。つまり敵の確保、又は迎撃が困難となる。

 三沢の作戦は、敵の攻撃を正面からのみに絞り混むといった、基本に忠実なものだった。

 だがしかし、そんな舞台の様子を、高台から見ている小柄な青年がいた。


「おやおや、射線絞らせるとは、敵さんもやりますね。かなり狙撃を警戒していますね」


 釣り竿のケースを肩に掛けた青年は、手の平を、おでこの上に当てながら、舞殿を見下ろす。日除けを作りながら、舞殿を見下ろしている瞳は、不気味な程に紫色に光る。

 そんな中、青年の後方に警戒任務に当たっている警察官が現れた。


「おぃ、そこの青年、こんな人気の居ない所で何をしている」


 警察官は警棒を構える。


 青年は、ゆっくり反転すると、警察官を観察する。

 笑顔で答える青年は、糸目で笑うため、警察官は瞳の色を把握出来ない。


「お巡りさん、何でしょうか?」


 警察官は、警戒レベルを下げない。

 

「だから、こんな所で何をしているのかと聞いている」


 警棒の先端が、青年の眉間に向けられる。

 しかし、青年はそれを受け流す。


「やだなぁ~お巡りさん。こんな人気の無い所でする事なんて、一つしかないじゃないですか」


 青年は、手を口に当てて小声で囁く。


「彼女とエッチな事をするんですよ。……あっ……そ・れ・と・も~~、もしかして、見たいんですか?」


 警察官の顔が、怒りで赤くなる。


「バカにするな! 本官がそんな事をするわけ無いだろう! もう行く!」


 苛立ちを隠せないまま、踵を返すと、警察官は青年に背を向けて歩き出した。

 ……が、なぜか立ち止まる。


「そうだ、青年。一つ聞き忘れた事がある」


 振り返る警察官の目は鋭い。


「……なっ、何でしょう?」

「そなたの名前を聞き忘れた」


 青年は、ホッと胸を撫で下ろす。


「なんだ、そんなことですか。いいですよ。僕の名前は似鳥雄介(にとりゆうすけ)。どんな女も打ち落とす、スナイパーの似鳥とでも覚えておいて下さい」


 警察官は鼻で笑う。


「女を落とすのも、ホドホドにしておけよ。でないと、いつか女に刺されるぞ」


 似鳥に、人生の先輩として助言を云い残すと、警察官はその場を去っていった。

 似鳥は、そんな警察官の背中を、なんとなく目で追った。

 警察官の体は徐々に小さくなる。そして姿が見えなくなると似鳥は小声にて呟く。


「やれやれ、僕はちゃんと答えたんだけどな『打ち落とす』って……。まっ、普通の人は、女を打ち落とすと聞いても、殺すとは解釈しないよね。でも、誤認したのはお巡りさんの勝手だからね……」


 似鳥は、舞殿の方へ体を向けると、釣竿のケースを開けた。ジーっと鈍いファスナーの音が止むと、中からは長い銃身が姿を見せる。

 黒光りする銃身を持ち上げると、ライフルの本体が姿を表す。


 ……さて、悲劇のヒロイン浅倉さん。今日は、真っ赤なドレスを着せてあげますよ。


 糸目が開き、紫色の瞳が輝くと、似鳥はゆっくり銃を構えた。

 


 ● ● ●



 正午を過ぎて、太陽が傾き始めると、神楽舞いの時間が差し迫る。

 そんな中、舞台そでに用意された大型のテント内では、最終ミーティングが行われていた。


「では、最後にポジションの確認をするわよ」


 三沢は、机の上に地図を広げると、地図上に鬼の絵柄の駒を二個置く。

 位置関係は舞殿を頂点にすると、ちょうど二等辺三角形となる。


「今、鬼の駒を置いた場所が高台となっています。裏を返せば、狙撃出来るポイントは二ヶ所しか在りません。そこで、この高台二ヶ所には、それぞれ片桐君と楠君に行ってもらいます」


 二人は、コクリと頷く。

 だが浅倉は、眉を潜めると、別の位置を指差す。位置としては舞殿と二ヶ所の高台を頂点とした菱形の位置となる。

 つまり、舞殿の真正面となる高台だ。


「三沢さん、ここかですと、舞殿から真正面ですが、敵は狙ってきませんか?」

「それは……」


 三沢が答えようとすると、柏木が割って入る。


「組長ちゃん、そこは遠すぎる。何より届いたとしても、手前の高台で気流が乱れて、とてもじゃないけど、狙える距離じゃない」

「そうなんですね。射程距離とかよく分かっていないものでして……。素人がしゃしゃり出てスミマセン」


 ペコリと頭を下げる。

 しかし、三沢は気にした様子もなく、首を左右に振る。


「いぇ、浅倉組長の意見も、もっともだと思うわ。ただ、今日は風もソコソコ強いから、奥から狙うのは、ちょっと無理かしらね」


 三沢は、浅倉の疑問が解決し、会話が一段落したのを確認すると、今度は片桐と楠を見つめた。


「話がそれてしまったけど、二人にお願いしたい事があります。端的に云うと、敵を生捕りをして欲しいの。こんな機会は滅多にないですし、なにより我々は情報が欲しい」

「そうですね。分かりました」


 片桐がハキハキと答える。


「とは謂えですが……まぁ、暴れるようなら、足の骨を二、三本折っても構いませんし、半殺しでも構いません」

「はっ……はぃ……」


 三沢があまりにも涼しい顔でむごい事を口にするものだから、片桐は頷きながら言葉を詰まらせる。

 しかし、そんな片桐の横では、素直な楠が首を傾げていた。


 う~ん。……三本目の足って、どこにあるのだろう?


 ……と。



「さて、お次はパイン君」

「イエス・マム!」


 パインは凛々しく右手で敬礼をする。


「パイン君は、舞台そでで待機していて下さい。浅倉組長に何かあった場合の救護をお願いします」

「任せるでゴワス」


 右手の敬礼を下ろさないまま、今度は左手で敬礼をする。

 おでこに三角おむすびを作っている姿は、おでこからビームでも発射しそうなくらい間抜けな姿だった。

 三沢はクスリと笑うと、柏木に顔を向ける。


「……で」


 三沢の瞳が、鋭くなる。


「柏木君、あなたが要よ。貴方には舞殿の下に潜んでもらい、狙撃主よりも早く相手を撃ち抜いて下さい」


 柏木が、後頭部をガリガリと掻く。


「簡単に云ってくれるが、それは難しいですよ」

「もちろん分かっています。ですが、それ以外に方法が見当たりません」

「出来るだけはやりますよ。俺も組長ちゃんを失いたく無いですしね。――だが、先手が相手の攻撃から始まるのは確定だ。つまり、初弾は避けないとだぜ」


 柏木が浅倉に顔を向ける。


「えぇ、それは覚悟の上よ。絶対に避けて見せるから」

「本当に、お願いしますよ。俺は組長ちゃんの葬式に出たくはないのでね」

「修行の成果を見せてあげるわ」


 浅倉が力いっぱいに答えるのを耳にした三沢は、大きく二度頷いた。


「それでは、各人配置について下さい。そして最後に……」


 金沢は三沢の言葉を聞くなり、スクリと立ち上がる。


「よし! 鋼組、出撃!」

「「「「「了解!」」」」」


 全員の敬礼が揃った。

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