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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第六章 浅倉暗殺計画(九月)
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魔球

今年も読んでいただきまして、ありがとうございました。

 マウンド上では、山崎が地面を蹴って、ポジションを確かめる。

 ピッチャーにとって、マウンドの地形は微妙に違っても気になるものなのだ。

 足場が気に入った高さになると、山崎はグローブを構える。

 その様子を大宮ベンチでは、固唾を呑んで見守る。


「ゲンゲン大丈夫なのですか? 相手は魔球を用意したって云ってましたよ」

「大丈夫だ。そんなの大したこと無い!」


 自信満々に藤沢は答える。

 浅倉はその言葉を信じて、マウンドへと視線を移す。

 マウンド上の山崎はキャッチャーとやり取りを済ませると、コクリと頷いた。球種が決まると、左足を地面から離す。スーッと上がった足は、少し不気味だった。

 だがその不穏な動きの正体はすぐに判明する。離した足の動きは止まらない。足の高さは頭上を超えて更に上へとあがる。そしてあろうことか、バレリーナの如く、180度の開脚を見せる。

 まるで、地面に突き刺さった杭の様に、地面と垂直に足が上がっているのだ。


 ガタリ!


 ベンチに座っていた藤沢の腰が浮く。


「あっ、あれは……幻の」


 藤沢の驚きに、浅倉も釘付けとなる。


「……幻の?」


 マウンドを見つめた藤沢は、浅倉を見ることなく、語り始める。


「間違いない。あれは、大リーグボール⒉0号の構えだ」

「……大リーグボール⒉0号?」


 ⒈0号はどこへいったのか気になる浅倉であったが、興奮している藤沢に温度を合わせる。


「組長、よく聞け。あれは、とんでもない魔球だ」

「そうなんですか?」

「あぁ、スパイクを頭上まで蹴り上げるだろ、そうすると、スパイクに絡み付いた砂がパラパラと落ちる。その、落ちてくる砂のカーテンに向けてボールを投げると、ボールは砂のカーテンを突き抜ける。だがこの時、回転するボールの回りに砂が絡み付く。さながら惑星の周りを回る、複数の衛星みたいなものだ。そしてボールが地面スレスレを飛ぶとどうなるか? そうだ、地面の砂と衝突しあう事で、ますます砂が舞い上がる。そしてその砂もまたボールにも纏わりつく。つまり、砂ぼこりでボールが見えなくなるなるんだ」

「……消える魔球……」


 ゴクリ。


 浅倉の喉がなる。


「そうだ、あれが噂の消える魔球だ……。だが、低空飛行で飛んでいるボールはストライクとはならないし、ましてや砂ぼこりにまみれて見えないのだから、ストライクになりようもない。そこで、ボールはストライクを取るため、ホームベースの手前でホップアップする。ホームベース手前に現れたボールは、見事にストライクゾーンへと入る……」

「そっ……そんな恐ろしい球打てるわけ無いじゃないですか」

「そうだな……だが、安心しろ」

「なぜです!」

「考えてもみろ。そんなボール、投げられるわけ無いだろう」


 カキーン!


 ボールはいい当たりをして、レフト線を抜けた。


「……私の興奮を返して下さい」

「……そんなこと云われてもな。俺は、ただ解説しただけだし……」


 浅倉は口をへの字にしながらマウンドに視線を向ける。

 ピッチャー山崎は、打たれてさぞガッカリしている事と思いきや、その顔はまだ自信に満ちていた。


「あれ? ゲンゲン、相手のピッチャーまだ元気ですね」

「あぁ、これくらいではへこたれないのだろう。アイツの神経は図太いからな」


 浅倉は大したメンタルだと感心する。

 マウンド上の山崎は、肩を鳴らす。更に首を鳴らすと、リラックスしながら地面を蹴る。そして、何故か再び藤沢にボールを突き出す。

 先程までのリラックスムードとは打ってかわって、その目には炎が浮かび上がっていた。

 大宮ベンチに緊張がはしる。 


「藤沢、これで終わりだと思うなよ。魔球はまだある!」

「なに!」


 藤沢も再びベンチから腰を上げる。


「面白い! 山崎、お前の本気を見せてみろ!」

「云われなくても、見せてやる! 目ん玉かっぽじって、よく見やがれ!」


 再び始まった熱い展開に、浅倉も唾を飲み込む。


 ……いよいよ本気なのね……。でも、かっぽじるのは耳でなくて? 目ん玉かっぽじったら、つぶれるけど……。


 浅倉は、山崎の発言に若干つっこみを入れながらも、息を止めて、相手の投球フォームを見つめる。


 ザリッ!


 先程と同じように足が高く上がる。


「……また大リーグボール⒉0号ですかね?」

「……いゃ、身体の角度が違う。あれは振り下ろす足に力を込めるフォームだ!」

「……蹴り下ろす足に力を込めるとどうなるのですか?」


 藤沢が、手を組んで顎を乗せる。


「いいか、これからあの足は高速で蹴り下ろされる。そして、その際に出来る真空の渦の中にボールを投げ込む。そうなるとどうなるか? そうだ、ボールは空気抵抗もなければ、真空の渦に引き込まれる力によって加速する」

「そっ、そんな恐ろしいボールが投げられるのですか?」

「そぅ、その名もファイヤーバキュームボール!」

「ふぁ……ファイヤーバキュームボール。とんでもないボールですね」

「あぁ、最高時速は250キロに達する」

「……そんなの打てないじゃ無いですか!」

「安心しろ」

「安心出来ますか!」

「大丈夫だ。考えてもみろ、そんな魔球が投げられるわけ無いだろう」


 カキーン!


 いい当たりが、今度はライト線へと飛んだ。


「……ゲンゲン」

「なんだ?」

「だから、私の興奮を返して下さい」

「だから知らんよ。俺はただ魔球の解説をしただけだ。アイツが投げられるとは一言も云ってないぞ」


 そりゃそうだがと、浅倉は顔で訴える。

 しかし、ボールが打てるのはありがたい。このまま行けば、逆転も夢ではないと浅倉は願う。

 そんな願いが叶ったのか、遂に同点まで追い付いた。

 しかしながら、波の勢いはここまでで、七回の裏へと攻守が変わった。

 浅倉も、だいぶ守備が板に着いてきたのたろう。「バチこーい!」等と声を出して士気を上げる。

 だが、ここでピッチャーに異変が訪れる。肩周りを気にし始めたのだ。タイムがかかり、内野陣がマウンドへと集まる。どうやら筋を痛めたみたいだ。大事には至らない様だが、これ以上の続投は無理らしい。

 マウンドで藤沢が困った顔を作り出す。そう、九人ギリギリで試合に挑んでいるため、控えの選手等はいないからだ。

 キャッチャーマスクをギリギリと握りしめる藤沢だが、踏ん切りを着けたように顔を上げる。


「選手交代!」


 ……まっ、そうでしょうね。横尾さん腕痛そうですから。

 で、ゲンゲン。誰が投げるのですか? 敵と同じように、キャッチャーのゲンゲンが投げますか?


「ピッチャー横尾に代わって、浅倉!」


 へ~、浅倉さんかぁ……浅倉さんって、私以外にもいるんだ。

 ……いゃ、私の記憶にはいないなぁ。……って事は、浅倉さんか助っ人に来た?


 浅倉は、ベンチ方向へ首を回す。

 だが、ベンチには、人っ子一人見当たらない。


 うん。やっぱり居ないよね。

 つまり……。


「組長、早くマウンドに来てくれ!」


 ……あっ、やっぱり私なのね。


 浅倉は、何かを諦めたかのように、トボトボと歩き始めた。


 マウンドに到着すると、藤沢がボールを浅倉に渡す。


「まかせたぞ!」

「まかされません! 大体、私はピッチャーなんてやったことはありません。それよりも、私、今さっき野球を知ったんですよ」

「大丈夫だ。俺がちゃんとボールも愛も受け止めてやる」

「いゃ、そういう問題じゃなくて……。って、その前に、私、愛は投げませんから別に受け止めてくれなくていいです」

「アーハッハッハッ! この状況でも落ち着いていられるのは、流石鋼組組長だ。まっ、ボールなんて、投げればいいんだよ。適当に持ち方を変えながら俺の所に投げればいいから」

「なんですか、そのアドバイスは」


 適当な作り笑いをしている藤沢を疑いの目で見る。


「適当なアドバイスに聞こえるかもしれないけど、意外と理に叶っているんだぜ」

「そうなんですか~」


 疑いの目は継続している。

 だが、そんな浅倉に、藤沢は親指を立てて、ウインクをする。


「実はな、ここだけの話、組長には魔球を用意してある」


 疑いの目が最高潮に達する。


「ゲンゲン……云いたくは無かったのですが、もしかして、ゲンゲンってバカなのですか? さっき散々魔球は無いって説明を私にしてたじゃないですか」


 そんな疑いの言葉を、首を横に振って受け流す。


「組長、今から俺は組長に、魔球を教える。あいつがやったインチキじゃなくて、本物だ」

「本物?」


 疑いの隠せない声色が、マウンドの上に流れた。

ちゃんと連載を続けられている事に、自分でもビックリしています。

ですが、いつも各章が終わりに近づくと、次章はどうしようと悩むばかりです。

さて、どんな話になるのでしょうか。私も知りたいところです。

さて、ここまで読んで下さっている方にお願いがございます。もし宜しければ、評価など★をいれてもらえれば幸いです。

では、あなたにとって、来年はよい年になります様、よいお年をお迎えください。

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