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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第六章 浅倉暗殺計画(九月)
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大宮スレイヤーズ

 浅倉は、正装と呼ばれた衣服に袖を通すと更衣室を出た。


「……ゲンゲン」


 浅倉は、藤沢を睨み付けるよう見る。その声質は、明らかに不機嫌そうなトーンだ。


「おぉ、組長。似合っているじゃないか!」


 喜ぶ藤沢と反比例して、浅倉の顔は益々曇る。


「似合ってるって、どこがですか? そもそも、この服は何なのですか!」


 上着の両脇腹付近を摘まむと、ビヨーンと広げて見せる。


「何って……見ての通り、野球のユニホームだ」


 そう、浅倉の胸元には、大きくオレンジ色で『大宮スレイヤーズ』の文字が刺繍された。

 そんな誰が見ても野球のユニホームと分かる服装であったが、ズボンだけは選手のそれとは違っていた。ボールガールの様に、ショートパンツとアレンジが加えられているのだ。


「いゃ、私だって、この服装が野球のユニホームだって事くらい分かります。ただ、これのどこが()()なんですか? と、お聞きしているのです」


 浅倉は力強く詰め寄る。


「おぃおぃ、組長は何を云っているのいるんだい? 野球をするのだから、ユニホームは正装だろうに。さっきまで着ていたワンピースで、野球が出来るとお思いか?」


 藤沢は、浅倉にそう告げると、おもむろに、着ていた作業着のチャックを下ろす。

 すると、中から浅倉と同じユニホームが姿を現した。


「……え? もしかして……」


 浅倉が、もしやと疑念を抱くと、先程までいた大宮氷山神社の面々も、いつのまにかにユニホーム姿となっていた。


「よし、藤沢。準備はいいな?」

「おうよ、山崎。今日は、うちが勝たせて貰うぜ!」


 いつの間にかに川越氷山神社の山崎までユニホーム姿となっており、そんな二人は、ガッシリと腕を組み合う。

 そんな熱い展開に着いていけない浅倉は、口を半開きに開ける。


「……なにこれ? ドッキリとかそういうイベントなの?」


 一瞬放心状態になりかけるも、持ち前の精神力で情報を分析する。


 ……良く分からないけど、大宮氷山神社と川越氷山神社とで野球の試合をするといった流れよね。

 では、なぜ私が巻き込まれた?

 一見するとユニホームだが、ズボンはショートパンツ。つまりはマスコット的立ち位置。

 ……ってことは、私の仕事はマネージャー。色々雑用をお願いしたいのね。


 一瞬にして悟った浅倉は、胸を張って藤沢の前に立つ。


「ゲンゲン分かったわ。私にマネージャーを頼みたいのね」

「ん?」


 だが、質問をされた藤沢は、不思議そうに首を傾げる。


「何を云っているんだ? 選手に決まっているだろうに」

「……へ?」

「おぅ、見ろ山崎! この子が、今回うちの要となる浅倉組長だ!」


 浅倉を紹介された山崎の顔が曇る。


「藤沢……。云いたか無いが、そんな娘っ子に選手が勤まるのか?」

「バカにするな、聞いて驚くなよ。なんと、うちの組長は二刀流なんだぜ」

「ほっ、本当なのか嬢ちゃん」


 山崎は、目を丸く見開きながら浅倉の顔を見る。


 ん? 山崎さんは、何を驚いて居るのだろう。二刀流って別に……あっ、そうか、私の剣技は川越支部には伝わっていないのね。だから私が二刀流で戦うのを疑問視しているのか。


 浅倉は納得すると、山崎にまだあいさつをしていない事から、お辞儀をする。


「初めまして。埼玉支部鋼組組長、浅倉上乃と申します」

「初めまして。俺は川越支部の整備班長をしている山崎信平だ。宜しくな。ところで、いま藤沢のやつが話していた二刀流ってのは本当なのか?」


 浅倉はなめられまいと澄ました顔を作り出す。


「えぇ、その通りです。私の特技は二刀流です」


 面と向かって云い切られると、山崎の闘志が燃え上がる。


「……そうか、本当に二刀流なんだな。投げて、打つとは大した選手だぜ」


 投げる、撃つ……選手? あぁ、鋼組の組員の事を指しているのですね。

 なんか、回りくどい言い方をする人ですが、これが山崎さんの個性なのでしょう。


 浅倉は、若干勘違いをしながら理解する。


「それ程でもありませんよ。私達は、今まで沢山の敵を倒してきていますから」

「ほぅ……。沢山の敵とはな……。中々の腕前な様だな。で、ちなみに決め球はなんだ?」

「決め技? そうですね。私は上段から一気に下まで切り落とすのが得意ですかね」

「上段……つまりワインドアップからのフォークか。速そうだな」

「速いですよ。その辺の人には見えない早さですよ」


「そうかそうか、それは楽しみだ。ワーハハハハ」


 豪快に笑う山崎を横目に、藤沢が小声で浅倉の耳元へ近づく。


「……組長、ところで、いつの間にフォークなんて投げられる様になったんだい?」

「……フォーク? どうしたんですか急に。スパゲティーでも食べるのですか?」

「…………ん?」

「ん?」


 お互いに、不思議そうな顔で見つめ合う。


「組長、一つ聞いてもいいかな?」

「はい、何でも」

「野手って知ってるかい?」

「もちろんです」

「じゃぁ、ルールは知ってる?」

「いぇ、全然」

「全然?」

「えぇ、全然」

「……それは、全然問題なく知ってると解釈して良いのかな?」

「いぇ違います、全く知りませんと解釈して下さい」

「全く?」

「はぃ、これっぽっちも」

「………………」

「どうしました?」


 藤沢は、いきなり両膝を地面に着いて、へたり込んだ。



 ● ● ●



 浅倉達は、歩いて近くの球場へ向かっていた。


「で、ゲンゲン。説明して貰いたいのですが、何故私が野球をする事になっているのですか?」


 浅倉の疑問も(もっと)もな話だ。

 元々休暇をもらい、川越観光をするはずだった。また、ついでに川越氷山神社への御使いを頼まれた。

 だが、突如として道案内役として藤沢が現れる。

 これ幸いと道案内をお願いしたが、蓋を開けてみたらどうだろう。野球の人数合わせに使われているではないか。

 浅倉とて、すぐに金沢の策略だと気付く。

 そして今、その説明を、藤沢に求めているのだ。


「いゃぁな、元々今日は川越と試合する約束だったんだよ。ところがメンバーが風邪と忌引きでいなくなってしまってな、金沢のオヤジに相談したんだよ。ほら、先方も休み取っているのに、悪いだろ。そうしたら、組長が全く有給を消化してないって話になってさ……」

「成る程、つまり私はあのくそジジイにはめられたんですね」


 浅倉の拳が強く握られる。


「いゃ、悪いとは思ったんだよ。でもな……スマナイ」


 藤沢の腰が直角に折れた。


「……はぁ、いいですよ。その代わり、これが終わったら、焼き芋おごってもらいますからね」

「勿論だ。じゃ、契約成立と謂うことで」


 藤沢が差し出した手を、浅倉はしぶしぶ握り返した。



 ● ● ●



 浅倉と両氷山神社の整備班面々は野球場のグラウンドに立っていた。

 スコアボードには先攻に大宮、後攻に川越の文字が記載されている。


「よし、組長、うちらは先攻なので、その間にルールを説明する」


 藤沢が木の枝を手に取ると、地面にダイヤモンドを書き出す。しかし、浅倉の顔はさっそく分からないをアピールする。


「あのぉ、先攻って何ですか?」

「……え? 先に攻撃をするって意味だけど……」

「あぁ、成る程。つまり最初はこちらが撃ち込んで、途中で相手と交替するのですね。つまり、同時には戦わない掛かり稽古みたいな感じですね」

「……いゃ、剣道の試合じゃないんだぜ、これだから武道しかやってないやつは……」


 ここから説明しなくてはかと、藤沢は頭を抱えた。

 だが、藤沢は根気よく、一通りルールを説明する。


「分かりました、つまりスリーアウトを取ると、攻撃と防御が入れ替わるのですね」

「まぁ、そうだ」

「では、スリーインを取るとどうなるのですか?」

「……スリーイン?」

「アウトがあるのだから、インもあるのでは?」

「…………インは無い」

「そうですか。なんか、バランスが悪いですね」

「そういうものと、割り切ってくれ」


 と、この時、カキーンと大きな音が聞こえる。

 空高く舞い上がった玉は、スタンドへと落ちる。


「あっ、私知ってます。これってホームランってやつですよね」

「違う、ファールだ」

「ファール? ダメなんですか?」

「残念ながら、点にはならん」


 藤沢は、更に補足説明をする。


「ゲンゲン、分かりました。取り敢えずレフトにいる私は、ボールを取ったらショートかサードの選手に投げれば良いのですね」

「そうだ、概ねそんな感じだ。取り敢えず誰かに投げろ」

「合点承知!」


 ビシッと敬礼をすると、チェンジの号令がかかる。


「では、浅倉、出陣します!」

「おぅ、宜しくな」


 浅倉は頷くと、守備位置へと走り出した。……だが。


「組長、グローブ、グローブ忘れてるよ!」


 幸先不安な一回の裏が始まった。

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