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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第六章 浅倉暗殺計画(九月)
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休日は突然に

「ごちそうさまでした」


 浅倉は、朝食を食べ終えると両手を合わせる。

 食器を返却口へ戻すと、巫女装束に着替えるため、そのまま更衣室へと向かった。

 社務所のロビーを通って廊下に差し掛かと、向かいから金沢が歩いて来るのとすれ違う。


「おはようございます宮司」

「おう、おはよう、浅倉」


 金沢は、珍しく宮司の服装をしている。いつもは作務衣を着ており、知らない人は庭師と見間違うほどだ。

 そんな金沢だが、浅倉の顔を見るなり立ち止まる。そして、何かを思い出したかのように、ポンと手を打つ。


「あっ、そうだ浅倉。お前にくれる良いモノがあった」

「ヨイモノ……ですか?」


 浅倉は、疑いの眼差しで金沢を見る。

 実は以前、金沢に良いものをくれてやると云われて、喜んで後をついて行った経験がある。しかし、着いた先は迷い老婆の元であり、良いどころか、家族を探すのに散々苦労した。あの日は暑く、滝のような汗を垂らし、それは酷い一日をおくったものだった。

 そんな記憶は、まだ新しい。よって浅倉は、金沢の言葉を信じる事は出来ないのだ。

 浅倉は、ギュッと心の帯を締める。


「……で、私がもらえるモノとは何でしょうか?」


 浅倉の言葉の端々には、疑念の声が混じる。


「そう警戒するなよ。……まぁ、モノというか……早い話が休みだ」

「……やすみ?」

「お前さん、有給がたまっているだろう。それを使えと云ったんだ」


 有給休暇。そういえば、こっちに来てから一度も使ったことがない。

 夏休みは使ったけれど、あれは特別休暇。つまり、私の有給はフルで残っている。


「じゃ、そんなわけで、お前さん、今日は休みな」

「は、はぁ……」


 突然言い渡された休みに戸惑いが隠せない。


「どうした戸惑って。特に予定が無いなら、川越にでも行って来たらどうだ?」

「川越ですか?」


 川越市。埼玉県でも有名な観光地。

 小江戸と呼ばれる倉作りの町並みが美しく、訪れる者も少なくない。十月に行われる祭りでは、地面が抜け落ちる程の人で溢れかえる。

 位置関係は、大宮市の西側にあり大宮とは隣接している市となる。また、有名な仏閣、神社も存在する。その中でも、川越氷山神社。ここには妖鬼殲滅隊の川越支部が存在していた。


「川越に行くなら、ついでに向こうの宮司に手紙を渡してきて貰いたいのだが、いいか?」

「えぇ、そのくらい構いませんが」

「じゃ、後で俺の部屋まで来てくれ」


 ……だが、この時の浅倉は、気がつかなかった。

 一見すると、観光ついでにお使いを頼まれた風に感じられるが、巧みな話術により、休みの行き先が川越に確定されたという事に――。



 ● ● ●



「では、この手紙を宮司に渡せばよろしいのですね」


 真っ白なワンピースに着替えた浅倉は、金沢から封筒を受け取ると、鞄の中にしまった。


「悪いな。でも、川越観光といったら川越氷山神社ははずさせないだろうから、ついでと云えばついでだろう」

「そうですね。川越氷山神社は有名ですからね。では、行ってきます」

「おぅ、キヲツケテな」


 含みのある言葉が浅倉の背中に投げ掛けられる。

 浅倉は社務所を出ると、参道を歩く。長い参道は途中までは大宮駅へ向かう道と重なるのだ。

 そんな長い参道を歩きながら、浅倉は石畳をマジマジと見る。


 そういえば、先日この上をグライダーが走ったのよね。

 にしても、これがカタパルトになるなんて、想像もつかなかったわ……。


 浅倉は、トントンと石畳を爪先で蹴り込むと、先日の出撃を思い返していた。

 だが、そんな地面を見ている浅倉の背中がポンと叩かれる。浅倉は「ん?」と言葉を漏らしながら、首を後方へと向けた。すると、そこにはゲンゲンこと整備班長の藤沢及び、整備班の面々が立っていた。


「あっ、ゲンゲン」

「おぅ、浅倉組長。今日は、平日だってのに、どうしたんだい?」

「いや、突然支部……宮司から、休みを云い渡されまして……」

「良いことじゃないか」

「まぁ、そうなんですけど、今週末に水判土へ行くのに、遊んでいて良いのかなぁと……」

「ハハハ、組長は真面目だな。良いに決まってんだろ。ところで組長はどこに行くんだい?」

「私は川越支部……川越氷山神社へ行くところなんですよ。あと、せっかくなので、観光でもしようかと思いまして」

「おぉ、良いじゃん。うちらも丁度川越へ、遊びに行くところだったんだよ。せっかくだから一緒に行こうか。ついでに神社の場所も案内するよ」

「本当ですか? それは助かります」

「なに、良いってことよ。うちらも川越支部の連中に用があるしな」


 整備班の面々が、大きく頷く。


「そうなんですか。ところで、皆さんは、どんな用事があるのですか?」

「あっ、……あぁ……何と云うか……。そう、コミュニケーション! コミュニケーションをとりに行くんだよ!」

「確かに。整備班通し、情報のやり取りとか有りますしね」

「そうそう、色々話して、色々深めないとな」


 藤沢の口から出る言葉は、所々おかしい。

 しかし浅倉は、藤沢の言葉を勝手に補完し、会話を上手に聞き取る。

 そんな浅倉に助けられておる藤沢だが、首裏には、ツーと汗が流れていた。


「さぁ、行くぞ!」


 藤沢はこれ以上話してボロが出ないように、浅倉の前を歩き出した。



 ● ● ●



 一時間後、浅倉は、大きな鳥居の前に立っていた。


「うわぁ、これ、大宮のより大きいですよね。参道にあるニノ鳥居は大きいと思っていましたが、これはそれ以上ですね」

「そうだな、大きいな。でもよ、それよりも、お使いを済ませないとだろ」


 藤沢は浅倉を社務所へと誘導する。


「そうですね、でも、まずは神様にご挨拶をしないと」


 浅倉は、お辞儀をすると、本殿へと歩き出す。


「いゃ、それもいいんだけどさ……」


 そんな浅倉の後ろ姿を見ながら、藤沢は頭をボリボリと掻く。

 浅倉は、本殿にて二礼二拍手一礼を済ませる。


「水判土作戦が上手くいきますように……」


 必死にお願いする浅倉の背中を、藤沢は貧乏ゆすりをしながら待ち構える。


「終わったか、浅倉組長。それじゃぁ、そろそろ社務所へ……」

「いぇ、確か、この神社には、絵馬のトンネルがあるんですよね。素敵と名高いトンネルを見ないとですよ」

「いゃ、あっ……」


 浅倉は、何か物言いたげな顔をしている藤沢の横を通り、絵馬のトンネルへと向かった。

 本殿の横には、側面から天井までビッシリと絵馬の掛けられているトンネルが存在する。長さは十五メートル程だが、その美しさには目を見張る。


「うわぁ、何ですかこれ、素敵すぎませんか?」


 浅倉の顔は、満面の笑みで溢れかえる。

 だが藤沢は、絵馬など一切気に掛けず、手元の時計をチラチラと見続ける。


「組長、ソロソロ宮司さんが、待って居るかと思うのだが……」


 ()かす藤沢に対し、浅倉は首を傾げる。


「いぇ、こちらの宮司さんは、私が来ることを知らないと思いますよ。特に待ち合わせはしていませんし」


 ロボットの様にカクカクと藤沢の腕が上がる。


「あっ、いゃ、それがな。金沢のオヤジは電話したらしいのだよ。すぐに行くって」

「……そうですか。では、仕方が有りませんね。それじゃぁ、取り敢えず用事を済ませることとしましょう。見学はその後でじっくりとさせてもらいます」


 浅倉はため息を付くと、肩を落とす。


「ところで……社務所って、どこかしら……」


 浅倉に考える間を与えずに藤沢が答える。


「大丈夫だ。俺が案内するから、なっ! さぁ行こう!」


 浅倉の背中がポンポンと押される。「えっ」と戸惑うも、浅倉は自分の意思とは関係なく、ドンドン社務所の方へと歩かされるのだった。



 ● ● ●



「ようこそ、大宮支部のみなさん。お待ちしていましたよ」


 社務所に到着すると、出迎えてくれたのは、宮司でも巫女でもなかった。何故かこちらのメンバーと同じく、繋ぎを着た男性整備員達なのだ。

 人数にすると、ざっと十人はいる。

 浅倉は戸惑いながらも、その中心人物に頭を下げる。


「初めて。私、氷山神社で巫女をやっております浅倉と申します。宮司さんにお取り次ぎをお願いしたいのですが……」


 しかし、その男は、浅倉の存在を無視するかのように、藤沢の顔を見つめていた。


「よう、ゲンゲン。遅れて来るんじゃねーよ。五分の遅刻だぞ」


 ドスの効いた、ヤクザみたいな声が響く。


「うっせ~な。うちの組長は、取り敢えず、宮司に用があるんだ。まずは宮司を、出せやコラ!」


 こちらも負けてはいない。だが、はたから見れば、浅倉を筆頭に、大宮組対川越組のヤクザ抗争事案とも見える。


 えぇぇえええ……なっ、何が起きているの? うちってヤクザじゃないわよね……。


 状況が理解出来ない浅倉は、オロオロと軽く取り乱す。だが、そんな時、辺り一面に氷水をブチ巻いた様な冷たい声が浸透する。


「これ、二人とも。レディーを、何怯えさせて居るのですか?」


 水色の袴姿の男が現れた。


「はっ、初めまして」


 条件反射で、浅倉が頭を下げる。


「おやおや。あなたが噂の浅倉さんですね」

「噂のって……。若干噂が気になる所ですが、まずは、こちらを」


 浅倉は鞄の中から封筒を取り出す。


「うちの宮司から、手紙を預かっています」

「これはこれは、わざわざご丁寧に。立ち話もなんですから、お茶でもご用意致しましょう」

「いぇ、お構い無く」


 浅倉は丁重に断りを入れる。

 だが、宮司のただならぬ雰囲気は、浅倉の言葉をかき消した。どうやら、お茶を飲まずに立ち去れる雰囲気ではなかったのだ。


「……で、では、お言葉に甘えて一杯だけ……」


 ひるんだ、浅倉は、言葉に屈した。

 浅倉は、背中を丸めながら、宮司の後を着いていこうとする。だが、そんな浅倉の肩に藤沢が手を掛ける。


「浅倉組長、待ってくれ」


 藤沢の顔が怖い。


「ゴクリ……はい、何でしょう?」

「正装は持ってきたか?」

「……正装ですか?」


 浅倉は、ワンピースのスカートを摘まむと、少し広げて見せる。


「これじゃぁ、マズいですか?」


 藤沢が大きく頷く。


「あったり前だろ。組長は知らないかもしれないが、ここは正装する場だ」


 やれやれと首を左右に振ると、藤沢は鞄の中から一組の服を取り出した。


「こんな事もあろうかと思って、俺がちゃんと正装を用意しておいたから。さっ、これに着替えて。更衣室は、そこな」


 手際よく、浅倉を更衣室へと誘導する。

 少し強引に浅倉を更衣室の中に入れると、カーテンを閉める。


「あの……」

「その服装が正装だから 、さっさと着替えてくれ。宮司を待たせても悪いしな」


 一方的に会話を終えると、更衣室の前から、人の気配が消えて行った。


 ……一応警戒はしていたけど、覗きが目的では無いみたいね。

 では、なぜ?


 浅倉は首を傾げながら受け取った服を、広げる。


「なっ、こっ、これが正装? ……本当に、私、これを着るの? まさか間違って渡したとかないわよね」


 浅倉は唖然としながら、服を眺めた。

 


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