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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第六章 浅倉暗殺計画(九月)
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金沢暗殺2

 ズガーンとの銃声音が、参道に響く。龍三の手元からは、五発の弾丸が金沢へ向けて発射されていた。

 拳銃からは、白煙が立ち上ぼり、風に揺れる。だが、そんな緩やかになびく煙とは裏腹に、耳をつんざく悲鳴がほとばしる。


「ギャァァアアアアア!!」


 地面に倒れる男からは、鮮血が流れ出る。

 しかし、声を上げているのは、金沢ではなく、流れ弾を受けた参拝客でもない。そう、金沢の周りにいた側近達三名なのだ。

 龍三は金沢を睨みつける。


「……おぃ、あんた、何をした?」

「何って云われてもな……」


 そう答える金沢は、手に持っていた扇子を広げると、顔を半分隠す。


「……それは、鉄扇か?」

「ご名答」


 もだえ苦しむ側近を無視して、金沢は答える。


「あんたひでぇな」


 龍三は呆れ顔をうかべながら、ポケットの中に手を入れる。だが、金沢はそれを見逃さない。


「ぼうず、お前の弾込めと、俺の鉄扇、どちらが早いかな?」


 そんなのは言わずもがな。圧倒的に、弾込めの敗けだ。

 龍三は、手を広げたまま、ポケットから手を取り出す。


「あんたの云うとおり、弾込めは止めておくよ。……で、撃った俺が云うのもなんだが、その側近、助けなくて良いのか? ほっておくと、死ぬぞ」


 一見敗北を認めたような口調だが、噛みつきそうな瞳が光る。


 ……さぁ、隙を見せろ。ヤツが看病に当たったその瞬間、俺は弾を込める。そして、背後からズドンだ。


 龍三は平静を装いながら、金沢の動きを注視する。

 金沢は、チラリと側近の顔を見る。……が、すぐに龍三へ視線をうつす。


「こいつらなら別に、死んでも構いやしないよ」

「おぃおぃ、あんたさ、少しは名のある幹部なんだろう。部下を見殺しとは、随分と、使い捨て生活なんだな」

「……いゃ、こう見えて、俺はけっこう部下想いなんだぜ。上司にしたい芸能人、一位に選ばれたくらいだ」


 龍三が呆れ顔を作る。


「おぃ。あんた、いつから芸能人になったんだい? それに、どの口がそんな言葉を吐く。今、目の前で部下がもだえ苦しんでいるのに、よく部下想いとか云えるなぁ」


 金沢は首を傾げると、鉄扇で、転がっている側近を差す。


「もしかしてお前、部下って、こいつらの事を差しているのか?」

「それ以外、どこにいるんだよ」


 金沢は、眠たそうに目を半分つぶると、今度は親指で地面に転がっている側近を差す。


「やれやれ、ぼうずは、相当勘違いをしている様だな。こいつらは、俺の部下じゃない」

「……というと?」

「どこかで雇われた殺し屋だろう」

「……なっ!」


 龍三の口が開く。


 殺し屋だと? 軍服を着ているから、てっきり側近かと思っていたが……。すり替わって殺すタイミングを見計らっていたのか。

 確かに俺以外にいてもおかしくない依頼だったしな。


 龍三が思考を巡らせている間、金沢は鉄扇を広げる。すると、何処からともなく拳銃が出現する。

 まるでマジックショーでも見ているかの様だ。


「こいつらな、俺が丸腰だと思って、車の中で襲おうと考えていたんだよ。でも、俺が銃を手にした瞬間、凍り付いちまってな」

「それで?」

「で、俺が隙を見せないもんだから、側近のふりをしたままここまで来たって訳よ」

「成程な。そこで運良く襲撃して来た俺の弾を跳弾させて、殺し屋を倒したと」

「ご名答!」


 龍三は、頭をガリガリと搔き始める。


「ちぇっ、こりゃぁ、かなわない訳だ」


 龍三の目から殺気が消えた。


「……あんた、すげぇな。こないだのライフルも躱したし、今回の連射も躱した。認めたくはないが、俺の完敗だ。さっ、煮るなり、焼くなり好きにしてくれ。どうせアンタの事だ。きっと優秀な側近がその辺に隠れているんだろう」

「……ぼうずは面白いな。それに感が良い。確かに俺の部下はその辺りに隠れている」


 金沢はトコトコと龍三に近づく。


「ところで、ぼうずの名前を聞いてもいいかな?」

「俺の名前? そんもの聞いてどうするんだ?」

「どうもしないよ。興味のあるヤツがいれば、名前くらい聞きたくなるだろう」

「興味のあるヤツね。まっ、いいだろう。どうせ俺はここで死ぬんだ。最後に名乗っておくのも悪くないか」


 龍三は、笑いながら深呼吸をすると、大きく息を吐いた。

 これが最後の会話かと思うと、少しだけ寂しさが残ったのだ。


「俺の名前は龍三と云う。幼少期は別の名前があったけど、今は龍三だ。これが人生最後の自己紹介、受け取ってくれおっさん」


 龍三は両手を広げて目を閉じた。


 ……さっ、殺せ……。


 だが、金沢は龍三の覚悟を全く気に留めていない。

 それこそ、興味の無い政治家の演説を聞いているかの様だった。


「ふ~ん、龍三か。して、苗字は何て云うんだ?」


 ……まだ殺さないのか?


 龍三は瞼を開けると、正面を見る。

 目に映るのは、とぼけた顔をしたオヤジ。

 自分の覚悟を軽視されたみたいで、少しだけ腹が立つ 。

 

「苗字? そんなものはねぇよ」


 口調が若干砕ける。


「本当か?」


 本当かと尋ねられても、嘘ではない。

 だが、あえて名字を名乗るとするならば、育ての親を思い出す。

 性格は冷たく、師弟らしい会話は無かったが、飯はちゃんと食べられた日々。あれはあれで、孤児時代の生活から比べれば、暖かかった。


 ……師匠、俺の人生はここで最後だ。最後に師匠の名前かりるぜ。


 そう決意すると、龍三何かを悟った表情を浮かべる。


「俺の名前は柏木。柏木龍三だ!」


 金沢が微笑む。


「そうかそうか。お前の名前は柏木龍三か。良い名だ」

「ありがとうよ。さっ、これで良いだろう。殺せ」


 柏木は、再び両手を広げると、武器を手放した。


 ガシャリ!


 自由落下をする拳銃は、石畳に当たると、鈍い金属音を跳ね上がらせる。

 ……だが、そんな銃を、金沢は拾うと、おもむろに銃の手入れ度合いを確かめる。


「ふむ、悪くない。……おぃ、柏木。お前、俺の部下にならないか?」

「……は?」


 唐突すぎる言葉に間抜けな声が漏れる。


「柏木。お前、前回もそうだが、今回射撃するとき、弾に妖力を込めたろう」

「ようりょく?」


 頭の悪いガキが、要領の得ない返事する。そのような感覚を覚えた金沢は、ニヒルな笑いを作る。


「成る程。その話っぷりだと分かっていなさそうだな」


 金沢は、銃を横にし、リボルバー部分を柏木に見せる。


「柏木は、弾を撃つとき、ここに力を込めないか?」


 柏木は首を傾げる。


「力つーか、威力を上げようと考えて撃つな。そうすると、いつもよりも、強い弾丸が出るんだよ。不思議だよな」

「それが妖力だ。通常同じ拳銃で撃てば、誰が撃っても威力は同じだ。だが、お前はより強く弾丸を発射できる。これは予測だが、より遠くからでも、標的を狙えるんじゃないか?」

「……さてな。そんな事試したこと無いし、分かんねーよ」

「そうか。まぁその話はオイオイするとして、俺の部下になるかの返事を貰えるか?」


 柏木は腕を組むと、首を左右に振った。


「残念ながら、その申し出は受けられない。なにせ今回の仕事は国の権力者からの依頼らしいのでな。俺が今回の仕事を破棄した時点で、俺に刺客が送られて来るだろうよ。裏切り者を許す組織ではないのでね」

「つまり、依頼が無くなればいいんだな?」

「あんた、何を云っているんだ? 依頼主はシークレットで分からないんだぜ」

「そうか?」


 金沢は、腕を組みながら、顎に手を当てる。


「オッサンは、凄いんだか、凄くないんだか、分からないヤツだな」

「まっいい。柏木、近日中にでかいニュースが出たら、俺に、もう一度会いに来い。悪い様にはしないぜ」


 そう云って、柏木の肩をポンっと叩くと、金沢は境内へと歩いて行った。



 一日の後、陸軍大将事故死の報が世間に流れる。と同時に、柏木の元へ、金沢暗殺依頼破棄の連絡が届いた。


「……おぃ、あのオッサン、何やった?」


 柏木は、新聞を机に叩きつけると、銃をホルスターにしまう。

 日が落ちるのを待ち、人々が寝静まると、柏木は、帝国陸軍朝霞駐屯地へと忍び込んだ。

 窓から室内を覗き込むと、八部屋目で金沢の姿を見つける。


「遅かったな」


 音も立てずに窓を開けたはずなのに、一センチ開けたところで、窓に背中を向けた金沢が柏木に声を掛ける。


「俺は焦らすタイプなんだよ」


 開き直った柏木は、平然と窓を開けた。

 室内に風が流れ込むと、金沢も、窓の方へと振り返る。


「俺は、焦らされるのはタイパが悪いから、嫌いなんだがな」

「オッサン。それじゃあ女は満足しないぜ。オッサン、下手だろう。自分だけ満足する派か?」


 柏木は、怖いもの無しと言葉を並べる。


「いい根性してやがる。気に入ったぜボウス。で、どうする? お前が危惧していた追っ手はもう居ないだろう」


 柏木は眉毛をピクリと動かす。


「そうだ、それを聞きにワザワザ来たんだ。……で、なぜ陸軍大将が、あんたの暗殺を依頼した張本人って分かったんだ?」


 金沢は、鼻で笑い、受け答える。


「ふん、そんなの簡単だろう。俺の事を殺すほど嫌っているヤツってことだ」


 痒くもない頭を、ガシガシと掻くく。


「……成る程ね。確かに簡単だ。云うだけならな」

「……で、俺の下で働くのか?」


 頭を掻いていた手を止める。そして、懐から銃を取り出すと、金沢に放り投げた。


「働くよ。今度は俺が殺されかねないからな。それとも、今殺すか?」


 両手を上げて、降参を示す。


「殺さないよ。俺の頼みを断ったら、足と手が無くなって、芋虫みたいな生活を送ってもらうだけだ」

「こえぇ事を、さらりというヤツだな」

「ありがとうよ」

「……誰も、褒めてねぇよ」


 金沢はニヤリと笑うと、銃を柏木に投げ返した。



 ● ● ●



「……っとまぁ、こんな感じで、俺はオヤジに拾われたんだよ」

「……あぁぁ」


 浅倉の声が、か細い。


「組長ちゃん、どうした?」

「のっ……のぼせた……」


 ぐったりと、風呂桶の縁にもたれ掛かる浅倉は、後半ともなると、ほとんど話が耳に入っていなかった。

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