柏木龍三
お久しぶりです。
半月ぶりの投稿となります。大変長らくお待たせしました。
間が空いたことについては、後書きにて。
浅倉と、柏木は向かい合って食堂の椅子に腰かけて居た。
だが、食堂には二人以外の姿は見られれない。流石に時計の針が十一時を過ぎれば当然といえよう。
食堂の営業時間は、周回遅れ並みに過ぎていたのだ。
そんな中、厨房では、消えたはずの電気とガス……そして、片桐の怒りに火が灯る。
「柏木、迷惑だから、こんな遅くに夕食を食べに来るな! お前なんか、泥団子か鶏のエサでも食ってろ!」
片桐は、怒りをあらわにする。かなり柏木にご立腹だ。
しかし、そんな憎たれ口を叩きながらも夕食を用意する。その辺りが、寺子屋で多くの子供の面倒を見て来た賜物なのだろう。やはり、根は良い男なのだ。
「ほらクズ、野菜炒めと生姜焼きだ。崇めながら食え」
本来のメニューは焼きサバ定食であったが、材料が全て無くなってしまったため、賄メニューをテーブルに置いた。
そんな片桐に、浅倉は頭を下げる。
「片桐さん、夕食が遅くなってごめんなさい。私の練習が遅くなったので、お手間をかけてしまって」
「いぇ、組長はいいんですよ。ダメなのは、ソコの粗大ごみです」
「あぁ? 誰が粗大ごみだ。不燃ごみに云われたくないぜ!」
売り言葉に買い言葉。
この二人は、何も無くとも、喧嘩ができる。
しかし、今回の原因は、浅倉の練習による夕食の遅延だ。浅倉は、全面的に自分に非があるため、二人の間に入る。
「片桐さん、今回遅くなった理由は、私が悪いのです。ですから、柏木を叱らないで下さい」
「……まぁ、組長がそう云うなら、いいでしょう」
「ありがとうございます」
浅倉は、片桐に頭を下げた。
片桐も、浅倉に頭を下げられてはと、ふぅとため息を吐くなり怒りを収める。
「そんな訳で、柏木、今日は組長に免じてゆるしてやる」
「云い方がいちいちムカつくな」
「なんだって? よし、お前には、食後泥水コーヒーを持ってきてやる」
「泥水って時点で、コーヒーじゃねぇだろう」
「色は同じだろう」
「コーヒーってのはな、色で判別する飲み物じゃ無いんだよ」
ヒートアップして来る二人を見て、浅倉は再び体をねじ込む。
「ちょっ、ちょっと待って下さい」
どうして、火が鎮火してきた所に、お互い油を注ぐかなぁ……。
浅倉は、そう考えつつも、両手を広げて、二人に間隔を取らせる。
「せっかくのご飯が冷えてしまうから、食べましょう。柏木も落ち着いて、片桐さんも、厨房でフライパン等の水仕事をお願いします」
二人が、お互いに背を向けるのを見届けると、浅倉は、肩を落としながら席に着いた。
● ● ●
カラン!
乾いた食器音が鳴る。
「ごちそうさまでした」
片桐の作った賄料理を平らげると、浅倉は湯呑を手に取る。
「あぁ~~。お茶が美味しいわ~」
「そりゃぁ、あれだけ死にそうな訓練をしていた訳だから、お茶もさぞ美味しい事でしょうよ」
「そうかもねぇ~~」
浅倉は、お茶請けに出されたたくあんを、爪楊枝に突き刺す。
ポリポリといい音を鳴らしながら咀嚼する。と、そのリズムが連射をした時の、銃弾の音と重なる。
「あっ、そう謂えば柏木。貴方っていつから拳銃を使えるの?」
「――拳銃ですか? つーか、それより組長ちゃんはいつから俺の事を柏木って呼び捨てにしてたんですか?」
浅倉は、キョトンとした顔を作り出すと、片手で持っていた湯呑を、両手持ちへと替える。
「いゃ、そんなあからさまに話を逸らさなくていいのよ。それとも、私が部下を呼び捨てにして何か悪いかしら? ねぇ、柏木」
「いぇ、滅相もございません」
浅倉の迫力に圧倒される。
「……で、質問に答えてくれる。柏木は、いつから銃を使えるの?」
「いつと云われても、覚えてないですね……前からとしか……」
「そうね。質問が悪かったわね。では、誰に教わったの? 銃って、そう簡単に覚えられるものじゃないわよね。軍にいたの?」
「軍? あっ、そうそう。陸軍にいまして、その時に……」
「……嘘ね」
蛇に睨まれた蛙の様に、柏木の目は踊り出す。
すると、カウンターで拭きものをしている片桐と目が合った。
(おぃ、片桐、俺を助けろ!)
必死にアイコンタクトを送る柏木。
だが、その合図に気付いていながらも、あえて無視を決め込む片桐。
「ふぅ、やれやれ。今日も疲れたな。明日のご飯は何にしようかなぁ~っと」
片桐はワザとらしく声を上げると、首を回しながら、肩をもみ始める。
――あいつ、俺の視線を、分かっていて無視していやがるな。マジゆるさねぇ!
柏木は、机の下で、拳を握りしめる。
だが、今の柏木はそんな悠長に事を考えている場合ではない。浅倉の視線が怖いのだ。
まるで鷹が得物を狙ているかのような、そんな目だ。
「柏木、どこ見てんのよ。さっさと話しなさいよ」
浅倉の言動がエスカレートしていく。まるで、酒でも入っているのかと疑いたくなる程の絡み方だ。
これは後に判明する事となるのだが、心技は極度に集中力を高める技となる。よって、フィードバックにより、気が緩んだときは、通常よりも気が緩む。つまり、酒に酔った時の様な行動を起こす事となるのだ。
「ほら、柏木、さっさと話しなさいよ。それとも、ついているのかぁぁあああ!?」
いきなり出たとんでも無い発言に驚く柏木。
思わず股間に手を当てる。
「いっ、いゃ、ちゃんと付いていますよ!」
「なに? 本当か?」
「本当ですよ。付いてますって」
浅倉の目が坐る。
「……じゃぁ、取っ払え!」
「えっ、取っ払う!?」
益々困惑する。
「自分で取っ払えないなら、私がやってやる。え~っと、どこ置いたっけかなぁ、私の刀は……」
「ちょっ、なに物騒なモノ出そうとしているんです」
「あぁん? だって、取れないんだろう。怨霊だが、呪いだか知らんけど……。私が刀でちゃんと切ってやるよ」
「……おっ、怨霊?」
「そうだよ。それ以外に何が取り憑くんだ?」
赤面する柏木。
「あ~、そうですよね。怨霊ですよね。怨霊。アハハハ。大丈夫ですよ。怨霊は俺には憑いていませんから」
「じゃぁ、呪いか?」
「呪いも大丈夫です。あっ、そうだ。俺、風呂に入らないと、じゃっ組長ちゃん、また明日」
「あっ、ちょっと待て! 逃げるな柏木!」
しかし、柏木は足早にその場から立ち去って行った。
「ちっ!」
浅倉は小さく舌打ちをすると、残りのお茶を飲み干した。
● ● ●
かっぽ~~~ん。
桶の置かれる音が、銭湯に響く。
「おい柏木」
「何でしょう組長ちゃん」
「今、女湯には誰もいない」
「男湯もそうっす」
「じゃっ、さっきの話の続きをするぞ」
氷山銭湯は午後九時には閉店となる。その後は従業員が使用するのだが、流石に日付を跨ぐころには誰も入っていない。
そしてそんな中浅倉は、柏木が銭湯に入るのを見るや否や、自分も女湯へと入ったのだ。
ストーカーまがいな行動であるが、今の浅倉は、酒に酔っているのと然程変わらない。気になり出したら、止まらない、好奇心旺盛少女となっていた。
「で、柏木。君が銃を使える理由を聞きたいのだが」
「はぁ」
柏木が、大きなため息をつく。
「組長ちゃん。話すのは別に構わんが、おもしろくないぜ」
「かまわない。それでも聞いておきたいのだ」
浅倉は天井を見上げる。
冷やされた湯気が、再び水滴となって湯船に戻る。
柏木も同じ様に天井を見つめる。
同じく冷やされた湯気が柏木の額に落ちる。
柏木は、弾ける水滴を見つめると、ゆっくりと目を閉じ、口を開く。
「……組長ちゃん、俺は、元々孤児だったんだよ。あの時は毎日食料をただひたすらに探していた。探すと謂う行動、つまりは俺の神経はひたすらに何かを追い求める目に集中していた。そうなると、どうだろう。スリが道行く人から財布を盗むのが見える様になってきたんだ」
「……ほう。それでは、そのスリを成敗していたと」
「……いゃ、その逆だ。俺は、金を盗んだスリから、財布を盗んで生活をする様になったのさ」
「つまり、スリから財布を取り返して、持ち主に返えす時、手数料を取っていたと」
「違いますよ。組長ちゃんは、本当に善人だな。そんな事はしませんよ」
「では、なぜその様な事を?」
柏木は湯舟からお湯を救い上げると、顔にあふれ出た汗を流す。
「それは、効率を考えたからです。ほら、スリは、一人じゃなくて、何人もから金を盗むでしょう。つまり、スリの財布を盗めば、一回でたんまりと金が手に入るんですよ」
「……なるほどな。考えたな」
「だが、そんな事は長く続かず、俺はスリに捕まった。当然、裏路地に連れ込まれてボコボコにされた。俺の命もここまでと諦めたよ。しかし、その行動を見ていたのが俺の師匠だ。まっ、師匠と謂っても仕事は殺し屋だ。ろくなもんじゃない」
「……殺し屋……ね」
今度は浅倉が、湯舟からお湯をすくうと、顔を流した。
「つまり、柏木は殺し屋に助けられて、殺し屋になったと……」
「まっ、そういう事だ。これは後から知るのだが、師匠が俺を弟子に迎えた理由は、単純に仕事が増えたからとの事らしい」
「つまり、労働力が欲しかった……と」
「そう謂う事だ。なにせ、元手はただだ。ただで手に入る労働力なんだから、安いよな。……そして俺は銃の扱いを覚える。得にライフルの腕は良くて、教えて貰って三ヶ月で華々しくデビューしたよ」
浅倉は、湯舟の縁に腕を掛けると、その腕の上に頭の加重をあずける。
「……なるほどな……それが柏木のルーツか。……で、その師匠は、今はどこに? 息災なのか?」
「いゃ、俺が十二歳時に殺されたよ。もっとも、褒められた人生じゃなかったからな。仕方が無いだろう」
柏木は天井を見上げる。
天井から落ちる雫が、師匠を殺した弾丸と重なる。湯舟に落ちた雫は弾け飛び、その水の動きが血しぶきを想起させた。
浅倉は、柏木の複雑な気持ちを読み取る。
だが、幹部としての思考は止められない。心は、次に生まれた疑問へとシフトする。
「そうか。師匠の死は残念だったな。……だが、一つ教えてくれ。何故そんな殺し屋が、ここ、妖鬼殲滅隊に入っているのだ? 殺し屋をスカウトするとは思えないのだが……」
そう。浅倉の疑問はもっともだった。
妖鬼殲滅隊はあくまで軍の施設。犯罪者をかくまわせる為の施設では無いのだ。
質問を受けた柏木は、首を一周回すと、小声でも女湯に聞こえる様に、真上に顔を向けた。
「俺が、妖気殲滅隊に居る理由はな、…………それは……」
「……それは?」
「俺が、オヤジの暗殺に失敗したからだ」
「オヤジ? 金沢支部長の事か」
「そうだ」
半月ぶりの投稿となります。
実は別サイト、エブリスタにおいてオレンジ文庫企画のコンテスト用作品を作成していました。『泣ける青春』とかで、プロットを書き終えたのが、十月半ばだったのです。
で、時間が無いぃぃぃいいい! って事で、そちらに全振りする為、鋼鉄の舞姫を休載させていただきました。
申し訳ございません。
オレンジ文庫? と首を傾げるかと思いますが、実は、私のメインジャンルは「青春・ラブコメ」なのです。そう、格闘はここでしか書いていないのです。
あと、下ネタ作品もありますが……まぁ、あれは気晴らしてきなものでして……ハハハ。
そんな訳で、もし興味がありましたら、エブリスタの方も読んでいただければと思います。
『想い人は親友彼氏』
泣いてもらえれば幸いです。
尚、ペンネームは変わらず「YOI」となっています。
では、また来週お会いしましょう。




