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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第六章 浅倉暗殺計画(九月)
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無我静流駆

 浅倉は、目を閉じる。

 呼吸を整えると、自身の心音が耳に届く。


 ……心臓の音がうるさいわね。だったら、心臓のノイズを消す。


 浅倉は、聴覚から心音を取り除く。

 すると、今度は、葉の揺れる音、風の音が耳に届く。


 ……自然の音がうるさいわ。


 先程と同じことを繰り返す。すると自然音のノイズが、消えた。

 次々に音を消してゆく。

 浅倉は、無我の領域へと沈み混むように入る。


 ……音がすべて消えたわ。……でも、まだ、人口音がまだ残っているわね。……この音は、……あぁ、そうか。柏木が銃を構える時の空気の振動音。それと、柏木の袖が上着と擦れる音。

 意外と聴こえるわね。

 そして、ゆっくりと音を消しながら撃鉄を下ろす音。

 ……そろそろか。


『キリキリ』


 ギアの噛む音が聴こえる。これはリボルバーが回転する音だ。


 来る!


 浅倉は、上段から高速で刀を振り下ろす。


 ……空気を切り裂く弾丸の音が聞こえる。

 場所が分かれば、私のもの! 飛んでくる弾丸を、私は切る!


 ザシュッ!


 柏木が放ったゴム弾は浅倉の正面で真っ二つに切り分けられる。


 やった! 私、ついにゴム弾を半分に切ったわ!


 だが、浅倉が喜んだのもつかの間。真っ二つに分かれたゴム弾は、浅倉の両おでこに直撃した。


「あぐっ!」


 夢にまで見た弾丸の切り分け。だが、切り分けた弾丸は両サイドへ飛んで行かず、結局直進してきたのだ。

 浅倉は、またしても大の字に倒れた。


「なっ、何てこと。せっかく切ったのに、私に当たったら、意味ないじゃない。こないだ活動写真を見に行った時は、切った弾丸が両脇に飛んで行ったのに……。何て事、あれは嘘だったのね!」


 ショックのあまり、寝転がったまま空へ向けて叫ぶ。

 そんな組長に、銃を撃った本人が近づく。


「組長ちゃん、そりゃそうだろうよ。だって、弾丸のベクトルは組長ちゃんめがけて進むんだぜ。切った事により、多少軌道は変わるかもしれないが、切れた弾丸はお互いに直進しようとする。つまり、組長ちゃんめがけて、二発の弾丸が飛んで来るって訳だ」

「か・し・わ・ぎ……もしかして、私が弾を切りたいって云った時から、こうなる事分かっていたかしら?」

「そりゃそうだろうよ。まっ、なんかの練習かなと思って付き合っていただけだ。まさか敵の弾丸を切って避けようと思っているなんて、今の今まで分からなかったよ。組長ちゃん、小説や、活動写真の見すぎだぜ」

「うぅぅぅ」


 恥ずかしさのあまり、顔を覆いながら、横になる。


 私はなんてバカなの。そんなの少し考えれば分かる事じゃない。直進方向へ進むベクトルの方が横へ行こうとするベクトルより力が強いのだから、ほとんど直進してくるのなんて、当たり前じゃない。そんな単純な事も私は考えられなかったの……。って、ん?


 浅倉は、先程の店主の助言を思い出す。


 まてまて。そもそも無意味なら、店主は私に無我静流駆なんて教えない。それに、父も店主に、わざわざそんな大変な技を伝授する必要もない。つまり……。


 浅倉は、ヒントを掴むと、むくりと起き上がる。


「柏木、次は実弾を撃って」

「はい? いゃいゃ、死にますよ」

「もし当たっても、パインにすぐ頼めば大丈夫でしょう。それよりも、分かったの」

「何がです?」

「実弾のよけ方がよ」


 自信満々の瞳に対し、柏木の肩は下へと落ちる。しかし、その瞳には抗えず、首に下げていたインカムに声を乗せた。


「柏木だけど、休んでいるところ悪いなパイン。ちょっと庭まで来てくれないか。組長ちゃんの傷を癒してくれ」


 柏木は「うんうん」数回うなずくと、会話をやめた。どうやら、応援の算段はついたらしい。インカムから手を離すと、今度はポケットの中から実弾を取り出す。そして、リボルバーを開くと、一発ずつ装填した。

 弾丸は、『シャー』と金属の擦れる音を放ちながら、全ての穴に入りきる。


「組長、後悔しないでくださいよ」


 五発弾を込め終えると、リボルバーを収める。『ガチャン』と響くロック音が後戻りできない事を告げた。

 柏木は、右足を一歩下げると、いつでも銃を撃てる体制を取る。

 同じく浅倉も、両手に刀を構えると、同じく右足を引いた。


 ……ゴム弾ではダメだ。緊張感が足りない。それに、無我静流駆(むがしるく)を極める為には、乗り越えなくてはならない壁がある。


「来い! 柏木!」


 浅倉の掛け声と共に、柏木がトリガーを引く。


 ズガァァァン!


 銃声と同時に、浅倉の後方にある境内の瓦が飛んだ。

 しかし、柏木がミスをした訳では無い。柏木は確実に、浅倉の右肩を打ち抜く軌道に銃弾を放った。だが、結果としてその銃弾は反れ、境内の瓦を吹き飛ばすに至ったのだ。


「くっ、組長ちゃん、何をしたのさ」


 浅倉は、吹き飛んだ、瓦の行方を確認し終えると、柏木と正対する。


「いぇ、避ける動作と、弾の軌道をそらす動作。これを一度にやってみただけよ。弾が切れるなら、刀の側面に軽く当てて軌道を逸らせるくらい容易なはず。そして、それと同時に体をよじれば銃弾が避けられるはずと考えただけ。それよりも、残りの四発、連射してきなさい」


 浅倉は、柏木に剣先を突きつけると、彼もそれに答えるように、少しだけ口角が上がる。


「いいぜ。だが、組長ちゃん、本当に死んでも知らないからな」


 柏木は大きく深呼吸をする。


「じゃっ、行くぜ!」


 スーっと、銃を持ち上げると、シングルアクションの銃とは思えないほどの早さで、で四発の弾丸を打ち込んだ。

 リボルバー式の銃は、『撃鉄を起こす』『引き金を引く』この動作により玉が発車される。しかし、早打ちは両手を使ってこの動作を短縮する。

 まず、パーに開いた左手の人差し指側面で撃鉄を起こす。撃鉄が起きたら引き金を、引いて弾丸を打ち出す。戻った撃鉄を今度は中指の側面で起こす。そして、先程と同じように引き金を引いて、弾丸を、打ち出す。これを薬指、小指と繰り返す事により四発の弾丸が連続して打ち出される事となる。

 早打ちは練習なしには出来ない芸当だ。しかもちょっとやそっとの練習で出来るものではない。これだけ見ても、柏木がライフル以外に、どれだけ銃に触れていたのかが分かる。

 だが、その早技を受けた浅倉はというと、やはり無理があったのだろう。

地面に右膝をを着くと、苦しい表情を浮かべた。


「ぐっ!」


 うめき声が漏れると、ジワリと肩口が血で滲む。


「残念……避けきれなかった」

「いゃ、残念じゃないでしょう」

「残念よ。最後の一発は躱しきれなかったからね……でも、まっ、上々の成果って所かしらね」


 額から汗を流しながらも、浅倉は笑顔を作る。


「いゃいゃ、俺の早打ちを避けるなんてとんでもないぜ。普通じゃハチの巣だ。上々の一言で済ませるなんてもったいない」

「ありがとう。でも完全に避けている訳じゃないから……」


 謙遜しながらも、その顔つきは自信に満ち溢れている。


「でも、この技は、名前の通りシルクの上を行く技ね」

「名前の通り?」

「えぇ、そうよ。ムガシルクとは、貴族にしか身に着ける事が出来ない高級シルクの名前よ。ただのシルクではない一段上質の技って事かしらね」

「なるほど。技の名前も色々考えられているんだな」


 ウンウンと腕を組みながら首をたてに振る。するとそこに、パインが慌てて庭に飛び込んで来る。


「ボス! おいどんが心の傷を癒しに来たですよ! 龍三にふられたからと謂って、自殺とかしないでクダサ~イ」

「へ?」


 思いもしないパインの言葉に、つい間抜けな返事が漏れる。


「……私がふられた? しかも柏木に? ねぇ、柏木。あんたパインになんて伝えたのよ」


 浅倉の声の裏に、刃物が見え隠れする。


「いゃいゃ、ちょっと待ってくれ。俺はただ、組長ちゃんの傷を癒してくれと云ったはずだ。まったく、どこで心の傷に変わったのやら……」


 そんな会話を一切聞かないパイン。パインは浅倉に駆け寄ると、ギュゥと抱きしめた。


「さぁ、おいどんの胸で泣くがいいです。レディーの涙は見たくないので、見ません、見せません勝つまでは」

「ぐっ、ぐるじぃ……。しかも意味が分からない……」


 浅倉の頭がパインの胸に押し付けられる。まるで万力で締め付けられている様だ。

 だが、その行為に柏木の胸はムカムカと苛立つ。

 つかつかとパインの背後に回り込むと、尖がったパインの耳を横に引っ張る。


「な~に、どさくさに紛れて組長ちゃんを抱きしめてんだ。いいから離せ」

「あぅ! 痛い。痛いでごわす」

「安心しろ。痛くしているんだ」


 だが、それでもパインは浅倉を離さない。


「お前もしぶといな。いいからは・な・せ!」

「いゃいゃ、そうは、いかないでござる。龍三がボスをふった傷は、おいどんが慰めるでごわす」

「俺が、組長ちゃんをふった記憶はない」

「そんな事はない。見るです! ほら、ボスの耳が真っ赤です。泣きつかれて耳まで真っ赤に……ゲフ!」


 パインの腹に、近距離からのショートアッパーが撃ち込まれる。

 浅倉も我慢の限界に達していたのだ。


「いっ、痛いでごわす。ボス……」

「当たり前でしょう。バイン、私を窒息死させる気?」

「いぇ、そんな滅相もな……ゴペ!」


 パインが変な声を上げる。


「ペッペッペッ……なんか口の中に入ったですです。ニガイで……ペッペッ」


 パインの口の中から吐き出された物体が、地面に落ちる。

 地面に落ちたのは、白と黒の絵具を混ぜた様な物体だ。


「これは、なんでござるか?」


 苦い顔を浮かべるパインに、浅倉が微笑む。


「それはカラスの糞よ」

「かっ、カラス? なぜカラスの糞がおいどんの口の中に?」


 それもそのはず。パインは上を向いて口を開けていた訳では無い。普通に立っていて、浅倉と会話をしていたのだ。しかし、糞が口の中に入る。通常ではありえない現象だ。

 パインは首を傾げるが、その様子をいたずら小僧の様な笑顔をした浅倉が見ている。


「フフフ、私を窒息させそうにした罰よ」

「いゃ、罰は分かったでござるが、なぜおいどんの口の中に入ったですか?」

「それはね」


 浅倉は空を指差す。


「空からちょうどカラスの糞が私達の頭上に振って来たのよ。私はそれを感じ取ると、一歩下がった。そして、落下してくる糞めがけて、裏拳を放つ。ポイントは、裏拳で糞を打つのではなく、落下する糞より少しだけ早く裏拳を打ち込むこと。そうすると、風圧で、糞が落下軌道から、真横の軌道へと変わる。するとどうなるか」

「横移動した糞はおいの口の中に入るって訳どすな」

「そういう事」


 浅倉が人差し指を立てて、ウインクをする。


「ボス、酷いでゴワス。にしても、よく空から降って来る糞なんて分かったでござるな」

「そりゃぁ、弾丸に比べれば、止まって見えるわよ」


 浅倉は、自分が着実に強くなっている事を実感していた。

スミマセン。コンテスト用の作品をかき上げる為、十月一杯はお休みとさせてください。

書き上がらないのです。

ご迷惑をおかけしますが、また来月お会いしましょう。

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