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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第六章 浅倉暗殺計画(九月)
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場所は水判土(みずはた)

筆が進みません。

困った……。

 浅倉が狙撃された日の夜、鋼組の面々は司令室に呼び出されていた。

 正面中央の席には金沢が深く腰掛け、各個人の席には欠員を出すことなく組員が静かに座っていた。

 最後の一人、参謀の三沢が資料を持って司令室に入ると、金沢は椅子の背もたれから腰を離す。


「お前ら悪いな。こんな時間に呼び出してしまって」


 軽く手を上げる金沢に対して、鋼組の面々は軽く会釈をして応える。


「さて、今回呼び出した理由はお前らも分かって要る事だろう。そう、今回初めて、敵が我々の拠点に攻撃してきたと謂うことだ」


 厳密には浅倉が狙撃されただけとも謂えるが、これは云い方を変えれば、埼玉支部そのものに攻撃を仕掛けてきたとも受け取れる。

 つまり、今まで妖鬼殲滅隊に興味を示さなかった敵であったが、初めて排除すべき邪魔者と認識したと捉える。

 金沢は、両手の指を絡めるように組むと、肘を机の上に乗せた。


「で、浅倉。何か心当たりはあるのか?」

「心当たりですか……」


 浅倉はアゴに手を当てて考える。だが、思い当たる節が見当たらない。


「鹿鬼は今までに何体が倒していますが、それくらいしか思い当たりません。とはいえ、戦っているのは私だけでは有りませんので、私個人への恨みとなると……」


 浅倉の首が傾く。

 そんな浅倉を見ていた三沢が、手元のタッチパネルでメインスクリーンを操作する。


 蕨  → 鹿鬼二体討伐

 鴻巣 → 鹿鬼一体討伐

 桶川 → マイク退却

 鴻巣 → マイク討伐

 大宮 → 恐呼討伐

 深谷 → 河童鹿鬼討伐


「これが、鹿鬼に対して、浅倉組長の関わった記録になります」

「あらぁ。意外と関わっているわね」


 ぽかんと間抜けに口を開けながら浅倉は、ディスプレイを眺める。


「浅倉組長。あらぁじゃないわよ。この中で何より着目すべき点は、浅倉組長は、敵の幹部であるマイクと恐呼を討伐している事です。そして、更に云えば、幹部並みの強さを誇る河童鹿鬼。これを討伐した事が、敵からの評価ポイントを押し上げています」


 いやぁ、と少し照れる浅倉。

 だが、三沢の顔は険しい。


「浅倉組長。評価ポイントが高いというのは、我々サイドからの見解です。敵サイドから見れば、浅倉組長は脅威以外の何者でもないのですよ」


 そう。改めてみると、浅倉の活躍は著しい。むろん単独討伐は恐呼戦くらいしか無いが、指揮能力をも考慮すれば、浅倉の能力の高さはかなり高い位置にあると謂えよう。

 浅倉は、改めて自分の活躍を目の当たりにすると、引き締まった顔付に戻る。


「つまり、敵は私の存在が邪魔と判断したって事ですね」

「十中八九そうでしょうね」

「そこで、正面から切り付けるのは得策では無いと考え、狙撃といった手段を取ってきたわけね」

「そうなんだけど……まさか敵側に狙撃手がいるのは誤算だったわ。そこで、柏木君にお話を聞きたいのだけどいいかしら?」


 いきなり三沢に話を振られて、慌てて振り返る。


「えっ、すみません。話を聞いていませんでした。俺に何のようでしょう。夜の店の話ですか?」

「はぁぁぁぁ……」


 三沢がおでこに手を当てて、大きなため息を吐く。


「柏木君、違います。敵の狙撃の腕前を聞いているのです」


 あぁ、と手をポンと叩く。と、柏木の目つきが変わる。


「敵の狙撃手は優秀ですよ。あの高さと不安定な足場から組長ちゃんをしっかりと狙いましたからね。あの時組長ちゃんが、裾を引っ掛けなかったら、今ごろ組長ちゃんのコメカミには穴が開いていましたよ」


 浅倉は、慌てて、自分のコメカミを擦る。


「ここに穴を空けたくはないわ……」


 三沢はそんな浅倉を横目で見ると、姿勢を正す。


「さて、敵の狙いが分かった所で、我々は次の作戦に移りたいと思います」


 組員の面々が唾をのむ。


「敵の狙いが浅倉組長と分かっている以上、浅倉組長を囮に使わない手はありません。そこで、今回と同じように、今月末に水判土(みずはた)で行われる収穫祭において、浅倉組長にはもう一度舞って頂きます」


 浅倉の瞳が大きく開く。


「浅倉組長。よろしいかしら?」

「よろしいかどうかと問われても、答えなんて一つしか無いのでは? 三沢参謀」

「そんなこと無いわ。今の所、それしか手段が無いってだけよ。明日になったら、いいアイデアが生まれてくるかもしれないでしょ」

「鶏の卵じゃ無いんですから、毎日ポコポコアイデアなんて生まれませんよ」


 浅倉は、大きく息を吐くと、納得した視線を三沢に送る。


「参謀の案で行きましょう。今月末って事は、再来週の日曜日ですね」

「そうです。あと二週間しかありませんが、大々的に浅倉組長が舞う事を宣伝します。また、こちらの作戦として、敵が現れたところで、柏木君に狙撃してもらいます」

「なんとも、アバウトな作戦ですね」

「概要はね。ただここから練るのが私の仕事よ」


 三沢は親指を立てて、浅倉に示す。


「では、その作戦。私も一緒に考えても良いですか?」

「そうね。浅倉組長には命張ってもらうんですから、当然許可しますよ。一緒に、いいアイデアを見つけ出しましょう」


 その返事に浅倉もコクリと頷き、敬礼をした。

 話もまとまり、指令室の空気は、雰囲気的に終わろうとしていた。だがしかし、ここで金沢の椅子が音をたてる。


「なぁ、浅倉」

「はい。金沢支部長、何でしょうか」

「いゃ、大した事じゃ無いんだが、お前、弾丸避けること出来ないか?」

「だ、弾丸を避けるのですか?」


 金沢は、大した事じゃ無いの意味を勘違いして居るのではないかとすら考える浅倉。

 だが金沢の眼は真剣だ。

 無謀な提案を、子供のお使いの様に告げられた事に驚く。


 ……パリッ!


 まばたきを忘れた瞳が、瞬間に乾く。


「申し訳ありません。私には弾丸を躱す程のスピードを持ち合わせていません」


 一時の沈黙が流れると、金沢は再び背もたれに体重をあずける。


「いゃ、無理ならいいんだ。流石のお前とて、お前の親父と同じ事をしろと謂うのは無理があるわな。聞かなかった事にしてくれ」


 その言葉を最後に、金沢は離席した。

 浅倉は、その後ろ姿を見送りながら拳を握りしめる。


 ……支部長は私の父を知っている。

 そして、父は弾丸を打ち落とす事が出来た……。

 ふっ、おもしろい。やってあげようじゃ無いの。


 浅倉の目に、灯火が宿る。


 父に出来る事ならば、私に出来ないはずはない。

 やって見せましょうその芸当。


 浅倉は髪をかきあげると、司令室を後にした。



 ● ● ●



「むぎゅう」


 浅倉は誰も居なくなった境内の中で伸びていた。


「だからさぁ組長ちゃん。いくらゴム弾とはいえ、これを避けるなんて無理だって。弾丸は見えないんだぜ」


 柏木は、地面に伸びている浅倉に手を差し出す。


「柏木さん、そうは謂ってもこれが出来ないと、私死んじゃうかも知れないんですよ」


 引き起こされながら答える浅倉の体は、アザだらけだった。


「でもよ、弾を避けるったって、そんなに早く体は動かせないでしょうに。普段鍛えている筋肉じゃ無いんだから……」

「……普段鍛えている筋肉じゃない……そうか!」


 浅倉の眼力が強くなる。


「そうよ、それよ!」

「え? どれ?」


 困惑する柏木の前から姿を消すと、浅倉は自分の刀を持って現れた。


「……組長ちゃん、その刀でどうするの……って聞きたいけれど、まさかだよね」


 柏木の表情は、寝ぼけ眼の様にトロンと溶けている。

 だが、相反して浅倉の表情は力強い。


「そのまさかよ。切るわ!」

「切るわって、そんな、失恋した女が髪を切るみたいに、さらっと簡単に云わないでくれよ」

「柏木、その発言は問題があるわよ。失恋した女が髪を切るのにどれだけ勇気が必要かなんて、貴方は知らないでしょう」

「……そうだな、失礼した。撤回させてもらう」

「よろしい。もう少しで、日本中の女性を敵にまわす所だったわよ」

「……既に、敵はけっこういるんだけどね……」


 トホホと目尻が下がる。


「……にしても組長ちゃん、まるで経験者の様な口振りだったなぁ。もしかして、髪を切る重みを知っているのは、組長ちゃんの人生経験からだったりする?」


 浅倉の顔が赤面する。


「黙秘します」

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