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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第五章 北の大地にて(八月)
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vsガンダ2

 白く霧がかった空間が目の前に広がる。まるで大きな綿あめ建造物があるかのようだ。

 浅倉は、あと二歩踏み出せばその霧の中へ突入できる位置まで歩みを進めていた。


「柏木さん、皆の配置はどうかしら?」

「あぁ、順調だ。組長ちゃんがゴーサインを出せば、皆突入できる位置だぜ」

「……そう、じゃぁ行くわよ」


 浅倉は小さく細かく深呼吸をする。

 目の前は侵入を拒むかのような濃霧。入るのに躊躇するのは否めない。だが、両手に握った刀の柄を強く握りしめると、浅倉は覚悟を決めた。


「総員、突撃!」


 号令と共に、地面を力強く蹴ると、浅倉の体は霧の中へ吸収される。


 ……重いわね。


 細かい水の分子が、前へ進もうとする体をせき止める。重たくのしかかる抵抗は引き返せと無言の圧を加えてくるのだ。

 だが、それでも必死に前へと足を動かす。ホワイトアウトした視界では、どのくらい進めば敵にたどり着くのかが全く分からない。これはある種の恐怖だ。色は違えど、暗闇で戦っているのとたいして変わらないのだ。


 ……足元が見えない。道はあると思って進んでいるが、もし障害物が現れたとしても、私は躱すことが出来ないだろう。

 だが、それでも、仲間を信じて、進むしかない。


「上乃、伏せて!」


 突如インカムにパインの声が流れる。

 反射で上乃は地面に伏せる。


 ビュヒュゥゥゥ!


 何かは分からない。だが、高速で移動する物体が、浅倉の背中を通り過ぎた。電車のホームで黄色い線の上に立ち、線路に背中を向けた状態で、背後を特急電車が走り抜ける感覚に近い。

 もし、少しでも頭を上げていたのであれば、頭は粉砕していた事だろう。そんな事を考えると、背筋に冷たい汗が流れる。


「キヨ、ジャンプ! 上乃、右に飛んで!」


 パインの声が、せわしくインカムに響く。

 敵の攻撃を唯一把握できるパインが、的確に指示を出す。

 ガンダから見て右斜め前、二時の方向から浅倉、左斜め前、十時の方向から楠。そして、正面十二時の方向にパインといった布陣を取っている。だが、パインだけは敵の動きを観察するため、ガンダの攻撃範囲外に位置取っていた。

 またこの時、片桐はというと、ガンダの背面から距離を詰めていた。しかし、敵の背面に回り込んでいる為、パインの位置からは片桐の場所は視認できない。よって、アドバイスの声は掛からない。

 片桐は槍を構えたまま、ガンダの背中に近づく。だが、敵は片桐の存在を無視している。気が付いていない訳では無いようだ。知りつつあえて無視をしている。そんな様子がうかがえた。つまり、ガンダは背中に背負っている甲羅に対して、絶対的な自信があるのだろう。

 そんな中、片桐のインカムに無線が流れる。


「おぃ、片桐聞こえるか?」

「なんだ柏木」

「お前の位置と敵の位置は把握している。敵の動きは、打ち込んだ弾から距離的なモノしか分からないが、まぁ、概ねお前の10メートル前方って所だ」

「分かった。お前の事は信じられないが、一生に一度くらいは信じてやろう」

「そうかい、ありがとうよ。……ところで、本当にやるのか?」


 いつになく柏木が真面目な通信をする。


「当たり前だ」


 短く返事をすると、片桐は無線を切る。


「さて、では行かせてもらおうか、河童よ。見せやろう、とっておきってヤツをな!」



 ● ● ●



 突撃する5分前の事、出発しようとする浅倉を片桐は引き留めた。


「組長、少し宜しいか?」

「なんでしょう」


 浅倉が足を止めると、片桐の方へと体を向ける。


「実は、河童の事なのですが、前回沼地の近くで大量の河童と戦闘した事があるじゃないですか」


 浅倉は、数日前の河童との戦闘を思い返す。


「えぇ、もうろくババアじゃないから、よく覚えているわよ」

「組長がもうろくしていない事など分かっています。……っと、そうではなく、河童の特徴といいますか、彼らの習性と呼ぶべき行動の事について気になる点がありまして」

「気になる点?」


 浅倉は顎に手を当てて、河童の動きを思い返す。


「河童に、気になる習性なんかありましたか?」


 浅倉には、ピンと来る習性は思い浮かばない。


「えぇ、一つ大きく気になる事があったのです。それは、河童は我々に平気で背中を見せると謂った事です」


 浅倉は、河童との戦闘を思い返す。すると、河童が背中を見せたことは多々ある。そう、それは普通の戦闘ではありえない行動。敵に対して背中を見せるなど、殺してくれと言っているようなものだからだ。

 だが、河童はどうだろう。確かに当たり前の様に背中を見せる。いゃ、厳密には、背中をみせるというよりも、背中の甲羅で攻撃を防いでいた事すらもあった。つまり、それは言い換えるのであれば、甲羅に絶対的自信があるという事だ。

 浅倉は、刀を通して、腕に伝わった甲羅の硬さを思い返す。


「確かに、河童は背中を簡単に見せるわ。でもそれは甲羅の硬さに絶対的自信がある証拠って事じゃないかしら?」


 片桐は、浅倉の言葉に頷く。


「えぇ、正にその通りだと思います。ですが、言い換えれば、そこが弱点になるとは思いませんか?」

「……弱点? 確かに背後に対して河童は鈍感だ。でも足や首をを狙おうとすれば、相手だって警戒するでしょう。敵は甲羅を天然の盾くらい思っているのでしょうから、甲羅以外は警戒しているはずよ」

「ですね。ですから、甲羅以外は狙いません」

「片桐さん、何を云っているのかしら。甲羅は破壊できる代物では無いですよ。これでも私、何度か甲羅を切ろうとチャレンジしてみたんですよ。ですが、十連敗したわよ」


 片桐の顔に笑みが浮かぶ。


「ハハハ、普通なら壊すことは出来ないでしょう。普通なら」

「……ほぉ。つまり、片桐さんなら破壊は可能とおっしゃっている訳ですね」


 片桐の口元が少しだけ緩む。


「そうですね、そう云っていると捉えて構いません」

「随分な自信があるのね。……で、気になるのはその自身なのですが、何処から出てきているのですか?」


 片桐の笑みは相変わらず変わらない。


「そうですね。では組長、ここで少し力のおさらいをしてみましょうか?」

「おさらい?」

「そうです。我々が使う力についてです」


 片桐は、槍の先端を人差し指でなぞる。


「まず、我々が使う妖力についてです。これは物質を硬化させる力と呼べるでしょう。どんなに切り付けても刃こぼれのしない刀。どんなに殴りつけても壊れない拳」

「えぇ、それは分かるわ。妖力を纏わせないと、刀が折れるのは経験済みよ」

「そうですね。では次に神力です。これは尾花沢が使っていた力、破邪の力です。つまり浄化に特化した力となります。攻撃を受けた場所が浄化されます。ですから、妖怪や幽霊的な敵には有効かつ効き目が高いです。もっとも、妖力も妖怪を殺す力はありますから、硬化のみの力という訳ではありません。ですが、今回は()()という観点から話せば、神力には敵わないでしょう」

「そうでしょうね。浄化の力は神力には敵わない。これも布虫戦で経験済みなので、理解はしているわ。――で、問題になるのは最後の力、仏打(ぶっだ)ね」

「えぇ、そうです。では、ここで質問です。そもそも仏打とは、いったいどんな力だと思いますか?」

「仏打……ね」


 浅倉は椿に攻撃を受けた時の事を思い返す。


 あの時、椿は私の顔に軽く手を触れた。だが私は、危険を感じて挟まれた椿の手から顔を抜きだし攻撃を躱した。……いゃ、躱したと思った。しかし結果は知っての通り、膝から崩れ、その場に倒れた。

 つまり、何らかしかの攻撃により、三半規管がおかしくなったと考えられる。

 あの後、私なりに原因追及の為思考を巡らせた。そして出た答えは、一つしか見当たらなかった。そう、原因はおそらく……。


「震動……」


 片桐の目が緩む。


「正解です組長。その通り高速震動を体内に叩き付ける。それが仏打の力となります。――では、ここで話を変えます。例えばコンクリートに鉄の棒を思いっきり突き立てたとしましょう。コンクリートはどうなりますか?」

「……どう? 表面が少し削れるんじゃないかしら?」

「その通りです。ほとんど壊れませんし、地面に刺さる事も無いでしょう。ですが……」



 ● ●  ●



 片桐は、ガンダの背後に回り込むと、槍を構えた。


 ……そう、妖気を纏わせた槍に仏打を加える。

 これは何を意味するか? 単純に云えば、壊れない棒に振動を加えるという事。

 それ、すなわち……。


 片桐の全荷重を掛けた突きが、ガンダの甲羅に突き刺さる。


「削岩機!」


 掛け声と共に突き刺した槍は、見事にガンダの腹を突き抜けた。



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