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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第五章 北の大地にて(八月)
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vsガンダ1

 ……いてて……。でも、あれだけ吹き飛ばされても、打ち身だけで済んだみたいね。

 これだけは幸いね。


 ガンダに吹き飛ばされた浅倉は、気合で立ち上がると、サトイモの葉の中から顔を出す。

 正面には霧がかった大きな物体が見える。まるで、雲でできた体育館があるようだ。

 周囲を見回すと、ガンダが歩いた後は、まるで爆撃を受けたかのように、土地や建物も荒れていた。


 ……まるで竜巻ね。


 浅倉は、再び霧の空間を見つめると、インカムに右手を当てる。


「全員、一端柏木さんの位置まで後退。そこで再度作戦を練ります」

「……ザザッ」


 応答は無い。だが、浅倉は味方を信じて、一先ず柏木の位置まで下がった。


 ……みんな、無事でいて。



 ● ● ●


 

 柏木のいる位置は、深谷駅の周辺ともあり、商店街が立ち並んでいた。

 柏木は、その商店街を背中に配置する形で銃を構えている。まるで町の門番であるかのような布陣だ。

 そんな街の入口に、浅倉は、ボロボロになりながら現れた。


「柏木、状況報告を……」

「組長ちゃん、大丈夫かい? もうボロ雑巾じゃないか」


 だが、浅倉は、柏木の言葉を無視するかのように、険しい表情を浮かべる。


「私は大丈夫だ。柏木ところで他のメンバーはどうなっている?」


 浅倉に余裕が無いのは、柏木もすぐに感じ取る。なにせ口調が固い。まるで士官学校卒業したてのころを彷彿とさせているのだ。

 だが、柏木はその空気を読み取る。浅倉を気遣い、肩をすくめたかと思うと、笑顔を作る。


「あぁ、安心してくれ。組長ちゃんで最後だ。残りは、パインが回復させてくれた」

「そうか。皆無事でよかった。だが、ガンダの強さは想像以上だ。攻撃が通らない訳でもないが、かなり厳しい状況といえるだろう。しかも、敵は霧で全く見えない状況だ。これでは攻撃を当てようがない」


 浅倉は奥歯を噛みしめながら、霧で覆われているガンダを睨みつける。

 ガンダは徐々に駅方向へと近づいて来る。だが、浅倉の心は、それよりも別の所にあった。

 そう、霧により全く見る事の叶わない場所。

 霧の中では、「バリバリ」と、明らかに木造建築物の破壊される音が広がっている。この音の発信源は見えなくても感じられる。記憶に新しい、先日お世話になった、曼殊沙華寺だ。

 見えないが故の悔しさ。怒り。これらが混ざり合い、複雑な心境で霧を見つめる。

 そんな中、浅倉のストレスは徐々にピークへと近づく。浅倉は、トコトコと歩くと、壁にもたれかかっている片桐の前まで足を進めると、悲しそうな表情を浮かべる。


「片桐、そなたの故郷が壊されている。すまない……」


 浅倉は、ベレー帽の先をキュっと下げて謝る。

 だが、片桐は、浅倉から視線を逸らし空を見つめる。

 

「いゃ、組長が謝る事じゃないでしょう。別に組長が悪い訳じゃ無い。悪いのは、あそこで暴れている河童だ」

「それはそうだが……」


 浅倉が口ごもる。


「組長安心してください。俺は、やられた分はちゃんと請求しますよ。もちろん、利息付きでね」


 落ち着いた口調で話す片桐だが、いつになく、彼の目は鋭い。

 故郷を奪われたのだ。当然と謂えば当然だ。

 強気な姿勢の片桐に、浅倉も励まされる。ガンダとの闘いはまだ始まったばかりだと。

 浅倉の目に光が戻る。すると、手にしていた刀を十センチ程抜いたかと思えば、勢いよくサヤに収める。


 チャキーン。


 甲高い金属音が響き渡る。


「……いいわね、私も一度やってみたかったのよ。借金取り! ……で、利息は単利かしら、複利かしら?」


 片桐の口元が緩む。


「ふっ、当然複利ですよ。しかも一分十割で行かせてもらいます」

「なかなかの利息ね。闇金も真っ青だわ」


 浅倉の顔に笑顔が戻る。


 ……とはいえ、あの霧の中の鹿鬼をどうやって攻略するか。

 姿は全く見えないし、攻撃も当たる気がしない。せめて、敵の場所が分かれば……。


 顎に手を当てて考える浅倉に対し、パインが手を上げて、発言の許可を求める。


「ボス、ちょっとおたずね申す」

「なにかしら、パイン」

「あのフォグ。どこから湧いてるですか? モンスターの体? 地面?」

「そりゃぁ、体から発生されているんじゃないかしら。温泉じゃ無いんだから、地面からは出ないでしょう。それにほら、あの体育館みたいな霧の塊、ちゃんと中心が濃いでしょ」


 浅倉は、霧を指差して霧の濃淡をパインに説明する。


「オゥ! おいどんもあのフォグ欲しいで~す。フォグの中からさっそうと現れるバンパイアハンター。演出ばっちり! もてもてで~す」


 親指を立てるパインに呆れる浅倉。


「もてもてって、そもそも、パインは映画俳優にでもなりたいのかしら?」

「ノー! でもアクションスターにあこがれありま~す」


 浅倉の瞼が更に落ちる。


 ……アクションスターね。

 でも、あの霧じゃぁ、スターと謂うよりも、怪獣映画よね。『バンパイア・ハンターvsガンダ』みたいなサブタイトルが付きそうだわ。


 だが、呆れた顔を作り出す浅倉の横目に、パインがシュタッと手を上げる。


「では、おいどんは、もう一戦してくるで~す!」

「へ?」


 浅倉の瞳孔が開く。

 

「ちょっと、パイン。何云ってんの。もう一戦って、ガンダの攻撃見えないじゃない」

「見えない? なぜ?」


 二人の会話が噛み合わない。


「なぜって、あんなに霧が濃くちゃ見えないじゃない」

「ハハハ、そりゃ目では見えないで~す」


 なぞかけをされている気分の浅倉。


「あのねパイン。見るって、目以外のどこで見るのよ。まさか心の目とか、そんな達人みたいな事云わないでしょうね」

「ボス。心眼とか、小説の読みすぎで~す。超音波に決まっているじゃないですかぁ~」


 パタパタと手を上下させるパイン。

 それに頷く浅倉。


「そうよね。心眼なんてありえないわよね。超音波に決まって……って、え? パイン、貴方使えるの? 超音波?」


 キョトンとするパイン。


「え? ボス使えないですか? 使うと便利ですよ。夜も見えますし。今日から使い始めるべきで~す」

「そんなお得なクーポン券みたいに云わないでよ……って、ん? ってことは、今もガンダの位置分かるの?」

「分かるで~す。霧の後ろに見える杉の木、間もなくあそこと重なるで~す」

「あの杉の木の先端から、何センチ下にガンダはいるの?」

「そうですね、これくらい?」


 パインが指を広げて、位置を示す。

 浅倉の眼光が輝く。


「柏木、今のパインの指の感覚、覚えた? 銃を構えて」

「えっ!」


 いきなり話を振られて戸惑う柏木。だが、すぐに反応できるのは一流の戦闘員といった所だ。

 柏木は、照準を杉の木の下方へと合わせる。


「組長ちゃん、いつでも打てるぜ!」

「了解」


 小さく頷くと、浅倉はパインに視線を送る。


「じゃぁ、パイン。ガンダが杉の木の真下に来るまでをカウントダウンして」

「分かったで~す」


 親指を立てるパイン。

 再び柏木に顔を向ける浅倉。


「柏木は、弾がガンダに当たったら、そのまま妖力の紐は切らないで」


 ここでやっと柏木は浅倉の狙いが読めた。


「ははん、なるほどね。妖力の紐をたどって、やつの場所を知ろうってんだな。組長ちゃんも色々と考える」

「ありがとう。これが仕事なのでね。作戦を立てて実行するのが組長の仕事よ!」


 二人の意思疎通がなされている最中、パインだけが、呆れ顔を作る。


「柏木、どうでもいいですけど、3・2・1」


 ズカーーーーーン!


 柏木のライフルが火を噴く。


 バシュッ!


 ガンダの腹に弾がめり込む。

 銃身の先からは妖力の糸が伸びている。まるで魚釣りのロッドを投げているみたいだ。


「組長ちゃん、奴にヒットしたから、これで敵の居場所はわかるぜ。だがよ、妖力の減りは結構激しいぜ。20分は持たないかと思う」


 浅倉の顔は、想定内と落ち着いた表情。

 しかし、浅倉の注文はこれで終わらない。


「柏木、ついでに。残りの弾を銃から抜いてくれるかしら?」

「残りの弾?」


 柏木は首を傾げながら、リボルバーから弾を取り出す。

 取り出された弾を浅倉は預かると、それぞれ片桐と楠に手渡した。


「柏木さん。これで私と、片桐さんと楠君の位置は分かるわね」


 柏木に向ける浅倉の顔には、余裕が戻っていた。

 

「まぁな。一応みんなの位置は分かるけど……で、どうするんだい?」


 柏木の顔は、丸めた紙屑の様に歪んでいる。

 そんな柏木の顔を見る浅倉は、少し嬉しそうに微笑む。


「そんなの決まっているじゃない。今回の作戦指示は、柏木さん、貴方がするのよ」

「なるほど。俺がね……」


 柏木は、深呼吸をすると、浅倉の作戦を理解する。


「了解だ。俺が指示を出す。……って事で、初めに片桐、お前単身で特攻しろ!」


 片桐が柏木を睨みつける。


「柏木、串刺しにするぞ!」

「やれるものならやってみろや!」


 いつもの空気が鋼組に戻る。

 すると、組員全体に笑顔が戻る。


「いいわね。これよ。この空気よ」

「なに? 組長ちゃんは、片桐と俺が喧嘩しているのが好きなのか?」

「別に二人が喧嘩しているのが良いとは思ってないわ。でもね、貴方達のおかげで、皆に心の余裕ができるのよ」

「そりゃどうも。……でもよ」


 柏木の顔が、急に真面目モードへと変化する。


「俺、パインの位置までは分からないぜ」


 浅倉は、そんな柏木の質問を、そのままパインにスルーパスする。


「パイン、貴方はみんなの位置が分かるわよね」

「イエス! ボス!」

「では、パインには、近場から指示を出してもらいます」

「分かったでごわす」


 パインの返事に、片桐と柏木、楠の三名は不安な顔を浮かべる。

 あのお調子者の指示を、どれだけ信じてよいものか分からない為だ。

 だが、浅倉だけは涼しい顔をしていた。


「さて、これで作戦は立った。借金の回収に向かうわよ!」


 浅倉は、刀を抜くと、霧の塊へと歩き出した。


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