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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第五章 北の大地にて(八月)
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柏木の秘密2

 柏木の顔が不適な笑みを浮かべる。

 何でも1つ話したくない事を話す。こんな条件下なら、話に乗ってこないと踏んでいるためだ。

 だが、浅倉の回答は違った。


「……いいわ。確かに私だけ話を聞くのはフェアーじゃないわね。1つだけ、なんでも質問に答えてあげる。これでいいかしら」


 驚いたのは柏木だ。

 まさか、こんな条件に、堅物の組長が、乗って来るとは思いもしなかったからだ。


「へへへ、OKだ……。じゃぁ、契約成立って事で」


 柏木の顔がクシャッと潰れ、笑みがこぼれる。


「……で、何が聞きたいんだい? 今なら新規会員様特典で、2割引きで教えるぜ」

「さそれは有りがたいわ。……じゃぁ、取り敢えずあなたの妖力について教えて頂戴」

「……なんか、さっきもそう云ってたな」


 柏木は、とっくりの中に入っている、日本酒のウーロン茶割を口にする。

 唇を濡らすと、大きく息を吐く。


「さて……ちょっと長い話になるぜ」

「かまわないわ」

「じゃぁ……」


 そう前置きをすると、柏木は姿勢を正した。


「俺の妖力は、他人とは使い方がちょっと違う」

「違う?」

「あぁ、普通妖力は武器に(まと)わせて使うよな。だが俺の場合は、銃に妖力を纏わせても、弾が飛んで行ってしまうので、あまり意味が無い。それに、妖力はダダ流しなので、5発撃ち終わる前に、俺の体が持たなくなる」

「そうなのよ。そこが疑問だったの。以前鴻巣へ行ったとき、あなたは空中から鹿鬼に向けて弾を撃った。しかし、その後楠君を助ける時まで、あなたの妖力は切れていなかった。あれ、30分以上あったわよね。つまり、弾の制限回数はあれど、時間制限がない。これって、妖力の使い方としては私の知るソレじゃないのよね」


 浅倉の眼光は鋭い。

 柏木にとって、その眼差しは熱すぎる。


「ホント、よくそんな細かい事を覚えていらっしゃる」

「ありがとう。で、ソレについて説明していただけるかしら?」

「まっ、約束だからな」


 柏木は、枝豆を手に取ると、プチッと一粒取り出す。そして、その枝豆を弾頭に例えて、浅倉に示した。


「……俺の妖力は、細い糸のようなもので、直接弾丸、正確には弾頭に結びついている」

「細い糸?」

「あぁ、そうだ。つまり、俺は絶えず()()妖力を流し続けているのさ。よく妖力を、瓶に入った()に例えるだろう」

「瓶に入った()ね」

「細かい事は気にしない。……で、その瓶を逆さにして水が流れる様に、妖力も流れていく」

「そうよ。だから、妖力は長持ちしない。でもそこに、私は無理矢理栓をして、止める努力をした。こうする事により、より長い時間戦えるようになったわ」

「あぁ、聞いたぜ。おしっこをしている時に、無理やりおしっこを止めるみたいなものだとな」

「そうよ」

「年頃の娘なんだから、少しは恥ずかしがってくれよ……」

「いいから、話を続けて」

「へいへい。……で、話を続けるとだな。俺の場合は、その瓶の蓋に小さな穴をあけて、細く少しずつ妖力を放出していると謂った感じなんだよ」

「つまり、おしっこを、細く出し続けているので、長時間おしっこをすることが出来ると……」

「あっ、うん。組長ちゃん、おしっこから離れよう。可愛い顔して、おしっこを連呼するのはどうかと思うぞ。……まぁ、そんな忠告は、今更だけどな」


 柏木は自分のペースで話が進まないので、つい苦笑いを作る。


「しかしだ、俺は今瓶で説明したけれど、うちらは、絶えず妖力を作り続けてもいるよな」

「そうね。少し休めば妖力は回復するわ」

「そう。つまり俺は、妖力を回復させながら、細く妖力を放出し続ける。だから、妖力が枯渇しないのさ」

「……なるほど。でも、弾を発射させた後は、妖力はどうなるのかしら。確かに1、2秒は、妖力が弾頭に纏った状態ではあるだろうけど……」

「そこな。それは、撃った後も、妖力を供給し続けているので、問題はない」

「え? 供給しつづける?」

「そう。飛んで行った弾に、細い糸みたいに妖力のヒモが付いているのさ」

「そっ、そんな事が可能なの?」

「練習でな」

「つまり、柏木さんは、凧あげの凧の様に、妖力のヒモを付けていると……そう云っているのね」

「まっ、そういう事だ」


 浅倉の目がまん丸に開く。目から鱗の発想に驚愕したのだ。

 だが、すぐに冷静さを取り戻し、柏木の矛盾点と謂うか、まだ何かを隠している事に気が付く。


「……でも、それではおかしいわね」

「何が?」

「いゃ、弾頭に妖力を細く供給しているので、長時間戦えるのは理解したわ」

「そうだね。で、そこに何か問題でも?」

「えぇ、布虫って、弾丸が当たった時、直径1メートル位の穴が開いたじゃない。まぁ、そのお陰で腕が弾け飛んだのですけど」

「それが何か?」

「普通、銃弾が当たっても、小さな穴が開く程度なのよ。1メートル以上の大きな穴なんて空かないわ!」


 柏木の目が険しくなる。


「ホント……よく、まぁ……細かい所まで気が付くことで」

「えぇ、私、結構細かい所まで気になる(たち)なのよ」

「……気になります?」

「えぇ、気になるわ」

「はぁ……細かい女は嫌われるぜ……」


 ため息交じりに、柏木の顔が緩む。

 自分の上官は、意外と冷静に物事を見ているのだと、感心した為だ。


「じゃぁ、説明するぜ。弾を撃つと、糸みたいに妖力が付いて行くってさっき話したじゃないよぉ」

「えぇ」

「では、そのヒモを途中で切ったらどうなると思う?」

「切る?」

「そう。供給していた妖力の糸を切るのさ」

「飛んで行った凧みたいになるのかしら?」

「残念、違います。妖力は流れるものだから、その糸はどんどん短くなって行く」

「わかるわ」

「ちなみに、組長ちゃんは、ライフルの弾って、飛んでいるときは回転しているの知っているかい?」

「えぇ、もちろん。ライフリングって云ったかしら。銃身に溝が彫られていて、弾を回転させながら発射する事により、直進性を高めて命中率を上げる。確か、そんな感じのよね」

「当たりだ。つまり、弾は回転しながら飛んでいく。糸の付いた弾が回転する。これが何を意味するかと謂えば、風車の様に妖力の糸が回転している事になるんだわ。だから、当たった時に大きな穴が空く。まぁ、聞いてしまえば、さほど面白くないトリックさ」


 柏木は、話がひと段落つくと、とっくりの中身で、口内を潤わせる。

 浅倉の方は、謎が解けてご満悦な顔をする。


「いえ、とても参考になったわ。これなら布虫の腕が吹き飛んだのも納得がいくわ」

「それは良かった」

「でも、鹿鬼のときは、そうしなかったわよね。それはなぜ?」

「鹿鬼の装甲は固いからね。妖力の糸を切らないで、当てているんだわ。その方が威力は増すのでね」

「……なるほど。色々考えているのね。ありがとう、参考になったわ」


 お礼を告げると、浅倉は席を立ちあがるべく椅子を引く。

 しかし、そこに柏木が口を挟む。


「ちょっと待って下さい、組長ちゃん」

「何かしら?」

「約束、忘れていないですよね」

「約束?」

「そう。なんでも1つ質問に答えてくれるってあれですよ」

「あぁ、そんな条件を出したわね。忘れてないわ。なんでも答えるわよ」

「じゃぁ、お言葉に甘えて」


 柏木がゴホンとせき込む。


「では、教えてください。組長の初体験はいつですか?」

「……なんの?」

「そりゃぁ、ロストバージンの時に決まっているじゃないですか」

「あぁ……そうね。それは分からないわ」

「分からない? それはどういう意味ですか?」

「どういう意味かは、自分で考えなさい。ただ、貴方の質問には、ちゃんと答えたから、これで貴方との約束は果たしたわ」

「いゃ、これは詐欺でしょう!」

「そんな事はないわ。ちゃんと報酬はは払ったわよ」

「ずりー。組長が詐欺を働く真似して、良いのかぁぁぁあああ!」


 柏木の悔しがる声が食道に響いた。

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