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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第五章 北の大地にて(八月)
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柏木の秘密1

 戦い始めてから、かれこれ20分が経過した。

 椿は、短めの槍を振り回す。片桐に憧れて始めた槍術だが、5メートルはある片桐の槍は振り回せない。よって、その半分くらいの長さの槍を自分の武器として、日々修行に励んでいた。

 だが、そんな椿にも、疲れが見え始める。徐々に仏打(ぶっだ)と体力が尽きようとしていたのだ。

 修行では、2時間以上戦えるだけの体力はある。だが、初めての実践経験。余計な神経を使い、無駄な部分に力が入っている為、疲労がいつも以上となっていた。


 ……まずい、目眩がする。

 槍に仏打を流して戦うと、こんなにも消費が激しいのね。


 椿は、頭を小突きながら、意識を保つ。


 ……でも、妖力を使っているお姉様達も同じはず。

 確か妖力は、仏打よりも消費が激しいと聞いたことがある……てっ! ヤバッ!


 足の力が急に抜けた。

 グラリと揺れる足に、無理やり力を込めて踏ん張る。

 倒れそうな体を気合いで立て直すと、まだやれると、自分自身に云い聞かせ顔を上げる。


 ……私は、まだやれる。お姉さま達だって、厳しい顔をして……って、あれ?


 そう、椿の予想に反し、そこには爽やかな顔をしながら、河童を切り付けている浅倉達の姿があった。


 ……何故? どうして、お姉様達は、余裕なの?

 私と同じ用に、力を流し続けているはずなのに、なぜ動けるの?


 椿は、浅倉の動きに注意がそれる。だが、その隙を狙って、椿の背後から河童の爪が襲い掛かかる。

 河童は伸びる腕を有している。長さにすると、3メートル程で、鉤爪(かぎづめ)で切り裂く攻撃を得意としていた。さながら鎖鎌の用な攻撃と呼べよう。

 河童の腕は、遠心力を利用し、椿の背中を目指して弧をえがく。だが、その攻撃に浅倉がいち早く反応する。


 ドサッ! ゴロゴロゴロ!


 切り落とされた河童の腕は、縦回転しながら地面を転がり進む。


「椿、大丈夫?」

「お姉さま、ありがとうございます」


 椿は、お礼を口にする。だが、その時既に浅倉は、椿に背中を向けていた。

 河童の攻撃が激しいため、悠長に話している時間など無いのだ。


「お姉様!」

「何?」

「背中を向けたままで結構ですので、教えてください」

「私に答えられる事ならどうぞ」

「では、お言葉に甘えて。お姉様は、なぜ妖力が切れないのですか? もしかして、とてつもない妖力の持ち主なのですか?」

「え? ……私が、とてつもない妖力の持ち主? ハハハ」


 浅倉はベッと舌を出して、笑顔を作る。


「そんな訳無いでしょ。私の妖力量は、中の上よ。私が戦えているのは……」


 ズバァァァァ!


 話ながら、襲いかかる河童を切り裂く。


「戦えているのは何故ですか?」

「戦えているのは、仲間の力を取り込んでいるからよ!」

「……仲間の力……?」

「そうよ」

「……つまり、お姉様は部下の性欲を飲んでいる……と……」

「違う!」


 鬼の形相が、椿に向けられた。



 ● ● ●



 時間は布虫を倒した後まで(さかのぼ)る。


 その日、鋼組の面々は、食堂でささやかな打ち上げをしていた。

 浅倉は、ウーロン茶を片手に持ちながら席を移動する。そして、とっくりに口を付けて、ラッパ飲みをしている柏木の正面に座った。


「柏木さん、お疲れ様でした」

「組長ちゃんもお疲れ様」

「あらあら、せっかくお酌でもしようと思ったのに、これではダメですね」


 浅倉は、呆れた顔を浮かべる。


「組長ちゃん、何云ってるの。このトックリは、俺のコップ。ここに一升瓶から、注いでくれればいいじゃない」


 浅倉の呆れ顔が、更に増す。


「ハイハイ。それじゃあ、私の飲みかけのウーロン茶を注いであげるから、それで我慢しなさい」


 そう云いながら、浅倉はトックリの中に飲みかけのウーロン茶を注ぐ。


「おっ、これって、組長ちゃんと間接キスか?」

「間接キス? いぇ、違うわ。飲みかけを押し付けただけよ」

「それでも嬉しくなるなぁ~」


 柏木の頬が緩む。


「嬉しいの? それじゃあ、嬉しくさせたお礼を頂いても宜しいかしら?」

「おう、全然かまわないぜ! ……で、お礼は何がいい? 直接キスでも、濃厚キスでも、ベロベロキスでも、何でもいいぜ!」


 ムダにキメポーズをする柏木。だが、浅倉は、それらをスルーする。


「そんな気持ちの悪いモノは要らないわ」

「酷いなぁ。俺傷つくぜ」

「随分と簡単に傷がつくのね。当たり屋ヤクザの骨見たいじゃない。まっ、戯言は置いておいて、私が欲しいのは、柏木さんの妖力についての知識よ」

「俺の妖力?」


 柏木の目が天井を見る。考える。だが、何も分からない。

 それもそのはず、今さら自分の妖力について質問されても、分からない。自分が当たり前と思っている事程、他人から何故と質問されても分からないのは世の常識だ。


「実は、以前から柏木さんのライフルについては、疑問だったんですよ」

「疑問? あぁ、そういう事ね。俺のライフルを見てみたいのね」


 そう口にすると、柏木は、腰のベルトを緩めはじめる。


「そんな汚いモノ、見たくありません」

「えっ? 俺の散弾銃を見たいんじゃないの? すごいぜ、1回に数万発の弾が飛んでだな……」


 浅倉が、頭を抱える。


「だれが、散弾銃の話をしているんですか。貴方のライフルの話をしているんです」

「あっ、そっ。ざ~んねん」


 浅倉が会話に食いつかないので、ガッカリする。


「で? 組長ちゃんは、俺の散弾銃の何が知りたいんだい?」

「……いゃ、だから、散弾銃については、何も知りたくありません。ライフルですよ、ライフル」

「あぁあぁ、悪い悪い。ライフルね。……まっ、俺のライフルもすごいぜ。なんせ百発百中だ!」

「それは知ってます」

「そう、俺が放つ弾は、必ず卵に当たり、妊娠率は100%! なんなら組長ちゃんにもぉ」


 バゴォォォォオオオオ!!


 浅倉のチョップが柏木の脳天に突き刺さる。


「何バカな事を云っているんですかぁぁあああ!」

「くっ、組長ちゃん……冗談だ、冗談。今のは、悪ふざけが過ぎた」


 柏木は頭を擦りながら、起き上がる。

 浅倉はゴホンと咳払いをすると、柏木の目を見つめる。


「私は真面目に聞いているんです!」

「すまん、でも、今ので酔いが冷めたよ」


 浅倉は、大きくため息をつと、目付きを変える。


「で、本気で聞きますが、柏木さんのライフルって、妖力を何処(どこ)(まと)わせているのですか?」

「はて? 質問の意味が良く分からないんだけど、まぁ、強いて云うならば、そりぁ、銃でしよ?」


 だが、浅倉は、首を横に降る。


「はじめは、私もそうだと思っていました。ですが、それは違いますよね。私は刀に妖力を流しています。そして、妖力は電気の様に溜めることは出来ません。多分もって1、2秒。私も包丁に妖力を込めて投げた経験がありますから、なんとなく分かります。つまり、柏木さんの妖力は、弾……更に細かく謂えば弾頭に込められて居るのでは無いですか?」


 とろりと酒に酔った目をしているが、柏木の焦点が、浅倉の顔へと合う。


「流石は組長ちゃんだね。当たりだ。俺の妖力は、弾頭に込められている」

「やはりそうでしたか。ですが、そうなると、疑問が残るのですよね」

「疑問?」

「えぇ。柏木さんは、弾を5発撃てますよね。いゃ、正しくは、5発()()打てませんよね。前々から疑問に思っていたのですよ。なぜ5発なのか……と」


 柏木のコメカミに、汗がにじむ。


「細かいことを気にするね。組長ちゃん、シワ増えるぜ」

「ごまかさないでください!」


 浅倉は、ピシャリと柏木の減らず口を止める。


「まっ、しょうがない。じゃぁ、俺の秘密を話しましょう。ただ、これはトップシークレットなんで、交換条件だ」

「交換条件?」

「あぁ、組長ちゃんにも話したくない事を話してもらう。この条件が飲めるなら話そうじゃないか」


 柏木の目が細くなり、蛇の様に笑った。

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