蕎麦屋の中身
「ども。お初に、お目に掛かります。アタイは群馬支部、鋼組組長、草津鶴羽云うねん。宜しゅう」
大刀を肩に抱えた女性が、軽く手を上げる。
身長は160センチ程の細身で筋肉質。20歳前後の容姿にショートカットの髪。
一見して美人顔だ。
そんな草津に対して、浅倉も挨拶を返す。
「初めまして。埼玉支部、鋼組組長、浅倉上乃と謂います。宜しくお願いします」
二人はお互いに手を差し出し、握手をかわす。
お互いに、肌の体温を感じたところで、先に口を開いたのは浅倉だった。
「まず初めに聞いておきたい事が有るのですが」
「なんや? ナンボデモきくで。……だが、想像は、出来る。何で群馬もんがこんなとこに居るのかって、事やろ」
草津の口元がニヤリと緩む。
だが、浅倉はその表情に対し、半分目を閉じて、すました顔を作り出す。
「いぇ、その似非関西弁は何かと思いまして」
草津が噴き出して笑う。
「かかか、これか? これはアタイの趣味や。気ぃせんといて」
「いゃいゃ、めっちゃ気になりますがな」
浅倉は、草津に付き合って、つっこみを入れる。
「あーははは! あんさん面白いな」
「別に、貴女を楽しませるために居る訳じゃ無いんですけどね」
「せやな。……で、アタイらがなんでここに居るかは聞きへんのか?」
浅倉は、被っているベレー帽を正し、姿勢も正す。
「……そうですね。話したいのであれば、どうぞお話下さい。止めはしませんし、ちゃんと聞いてあげますよ」
「……いけすかんヤッちゃなぁ。……自分では聞いてない。だが、話したければ話せという訳やな」
「まっ、そういう事です」
草津は顎に手を置き、少し間を取りながら、思案する。
場の空気を浅倉に持っていかれている今、何とかして自分の方に引き込みたいと画策しているのだ。
「……せやな、別に話してもかまへんが、面白ぉ無いで」
「じゃぁ、結構です」
「まちまち、ちょいまってや。ソコは止めるとこやろ。少しくらい、アタイを立ててくれても良いんちゃう? アタイがここにいる理由、聞いたら、腰抜かすで」
「いえ、想像はつくので」
「それじゃぁ、その答え、聞かせてもらおうかいな?」
「いいですよ。ようは、あれでしょ。単純に群馬支部、つまり高崎市からの方が近かったってだけでしょう?」
「……フフフ。……当たりや」
「えっ……当たりですか? 腰抜かす答えは何処に行ったのですか?」
「そんなものは、あるようで無いもんや」
「いい加減な……」
そんな二人の横から、先程、浅倉に足蹴りを繰り出した女性が声を掛ける。
「鶴羽さん、ソロソロ無駄話止めてもらっても良いですか?」
「なんやねん伊香! 無駄話なんてしとらんわ! それに前に云うたろ。アタイの事は、『つーちゃん』と呼べと」
「……はい、そうでしたね。では、ボクの名前も伊香保なので、『たもちゃん』って呼んでもらってもいいですか?」
「分かったよ伊香」
「どの辺が分かっているんですか?」
2人の会話に、浅倉は、一歩足を引きながら、2人の顔をさりげなくインプットする。
……この似非関西人達はいったい何なの? 私に漫才でも見せたいの?
……とはいえ、こんなふざけた二人だが、鹿鬼を倒したのは事実。
つまり、その実力は折り紙付きって事よね。
浅倉が床に倒れている鹿鬼に目を向ける。
パックリと右半分が切れた胴体からは、赤黒い血が流れ出ている。
胴の半分以上を一刀両断しているところを見ると、草津の刀の威力がまじまじと分かる。
「せや、浅倉はん」
「何?」
バガァァァァアアアアン!
浅倉が返事をすると同時に、浅倉の背後にある金物屋の屋根が吹き飛んだ。
浅倉が、後方に目を向けると、上空には、何やら大きな物体が舞い上がっている。
「云い忘れていたけど……」
ひゅるるるるるる~~~~。
ドサァァァアアアアッ!
道路に肉の塊が落ちる。
「……もう1体の鹿鬼も、うちの所の『万座』が片付けておいたで」
「あっ、有り難う……」
浅倉の声が震えた。
「よかよか。ついでやねん。まっ、埼玉さんには、荷が勝ちすぎる様なら、ゆうてや。アタイらが、まっさらにしてやるさかい」
浅倉の拳が強く握られる。
「お気遣い有り難うございます。ですが、今後はその様な事が無いように、気を付けます」
「エエねん、エエねん。弱い者は、強い者が守る。これがアタイら、鋼組群馬支部の仕事やさかい」
「そうですか……」
「せや。弱き者は、みんなまとめて群馬支部に任せとき!」
「ウフフフ、それじゃぁ、その時はお願いしますね」
浅倉は、笑顔で応える。
「おう、まかせとき! さて、お前ら、帰るで!」
「草津さん、せっかく本庄に来たんだから、名物のつみっこくらい食べて行きませんか。ボクお腹が空いたのですが」
「うるせぇ、伊香はその辺の雑草でも食ってろ! 万座も、落ちている蕎麦拾ってないで、帰るぞ!」
草津が声を張り上げると、二人は、しょぼんとしながら、草津の後に付く。
「そんじゃ、上乃ちゃん。また今度会いましょう」
草津は上乃達に手を振ると、しょんぼりとした二人のケツを叩きながら、駅へと向かって行った。
浅倉達は、その後姿を、暴れ牛が通り過ぎたように見送る。
「……それにしても組長、よくあの草津って女に切れませんでしたね。完全に我々の事をバカにしていたじゃないですか」
「ん? そぉ?」
「そうだよ。だって、お姉ちゃん、バカにされていたんだよ」
「そうかしらね。私は違うと思うけど」
「組長ちゃん、それは、なぜそう思うんだい?」
「いゃ、だって、草津さんは、一度も埼玉支部って云ってなかったわよ。『弱い者』と云っていただけで」
「そうでごわすが、その弱い者と謂うのが、我々の事を云っていたのではないのでごわすか?」
「いぇ、多分違うわ。草津さんの謂う弱い者とは、町民の事よ。つまり、町民は自分たちが守るってずっと云っていたのよ。もし、私があそこで、『弱い者とは私たちの事ですか?』と聞いたら、きっと彼女は『あんさんらの事とは一言も云ってないで』って答えるでしょうね。そして、ケタケタと笑ってマウントを取ったに違いないわ」
「そうですかね……」
「えぇ、彼女の性格から推測するに、それは間違いないわ。きっと今頃私が、彼女の話術に引っかからなかったから、悔しがっているはずよ」
浅倉達は、草津達が消えて行った本庄駅の方向を見つめていた。
● ● ●
「へくしょい!」
草津は、本庄駅の駅前で、派手なくしゃみをする。
「草津さん、大丈夫ですか」
伊香が、心配してなさそうに、声を掛ける。
「大丈夫や。つーか、もう少し、感情を込めてくれてもよかないか?」
「ボクは、草津さんに込めるほど、安い感情なんて、持っていませんよ」
「……失礼やな……まっ、ええわ。しても、あの白ベレー女、絶対にアタイの事、噂していたで」
「そうですか? 草津さんって自意識過剰ですからね」
「別に、自意識過剰じゃないわ! だがな、気を付けなあかんで、あの女。したたかなようで、結構やり手やで。アタイの言葉遊びにも気が付いて、落ち着いて対処していたしな」
「……草津さんは、ホント性格が悪いですよね。向こうの組長さんが気の毒になりますよ」
「ケッ、何を云う。性格の悪さなら、伊香には、負けるわ!」
「ただ、ボクも、あの組長さんには興味があります」
「……ほぅ……それはなぜ?」
「あの組長、ボクの回し蹴り、瞬きもしないで見ていたんですよ。それはもう、ボクが目の前で、足を止めるのが分かっていたかのようにね」
「そーなん? したっけ、あの女と戦うときが楽しみなんさー」
「……草津さん、口調が、群馬弁に戻っていますよ」
「そんな訳、ねえさぁ!」
さて、次週のストックが有りません。
来週までに新しい話が出来ていることを、祈っていて下さい。
ポニョみたいに、足出ろ!と言って足が出るように、アイデア出ろ!と言って、アイデアが出れば良いのですがね。




