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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第五章 北の大地にて(八月)
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高崎エクスプレス

「浅倉上乃、ただいま参りました」


 私は、作戦司令本部に到着すると、敬礼をした。

 すると、間髪入れずに、三沢さんが、指揮をとる。


「皆、集まったわね。では、今回の敵について情報を伝えます。敵は鹿鬼が2体、本庄市に出現しました。各員は、至急出撃準備に取り掛かって下さい」

「了解!」


 私達は三沢さんに敬礼をする。


「ですが、1つ注意事項があります」


 ……注意事項?


 三沢さんが、言葉を付け足す。


「皆に行ってもらう本庄市ですが、埼玉の中でも北の地、中山道の宿場町の中でも、最北に位置します。つまり、フライングスーツでは行くには、距離が遠すぎます」


 ……やはりそうか。何度か飛んでいるうちに、その問題については何となく感じていた。

 多分フライングスーツの最大飛距離は30キロメートル程。つまり、それ以上は他の交通機関を利用しなくてはならない。

 今回は、汽車を利用しろと云う事だろうか?


 そんな私の考えをよそに、三沢さんは指示を進める。


「現在、我々が使用している煙突砲の最大飛距離は35キロメートル。つまり、おおよそフライングスーツで飛べる飛距離は、鴻巣市辺りが限度となっています。よって、今回のミッションは、鴻巣市からは汽車に乗り換えて、現場までで行ってもらう事になります」


 私は、三沢さんの伝えたい内容を繰り返す。


「つまり、鴻巣駅まで、フライングスーツで飛んで、その後、汽車に乗り込むのですね」

「いぇ、それでは時間がもったいありません。そもそも、我々は一分一秒を大事にしなくてはなりません。……よって、走行中の汽車に飛び乗ってもらいます!」

「なっ! いゃ、確かにその方が早いですけど……」


 額から汗が、滴る。

 空母に、飛行機が着艦するのでは無いのだ。

 そんな簡単に、汽車の天井に乗り移る事など出来るのだろうか?

 不安材料しか無い。


「我々は現在、臨時便を走行させています。予定ですと北本駅から鴻巣駅の間で追いつく計算となります。鋼組は、その汽車の屋根に飛び乗って下さい。そこからの指示は、既に汽車に乗車している者が指示しますので、その者に従って下さい」

「分かりました」

「では、鋼組、出撃!」

「了解!」


 私たちは、三沢さんからの出撃命令により、各々出撃体制へと入る。

 それにしても、煙突砲は相変わらず暗くて狭い。……だが、なぜかここに入ると気が引きしまる。

 視覚的、いゃ、体感として、出撃を肌で感じる為だろう。


「嬢ちゃん、出撃準備はいいかい?」


 げんげんの声が、私のインカムを通して聞こえる。


「えぇ、打ち出してちょうだい」


 すると、今度は、指令本部からの通話に切り替わる。


「上乃っち、飛ばすよ!」

「……あっ……え~と、今日は、うどちゃんが射出するのね」

「そうよ。よろしくね」

「……はぃ。よろしく……」


 参った。今日の射出はうどちゃんだ。

 実は、うどちゃんの射出には困ったことがある。今までに何度かうどちゃんの射出で、飛び出した経験があるのだが、いい思い出が無い。

 私は、鹿鬼や妖怪退治以外にも、演習や新型フライングスーツのテスト等で、数回うどちゃんの射出を味わっている。

 しかし、何度経験しても、うどちゃんのカウントダウンは、中々に酷い。

 初めてうどちゃんの射出で飛び出したときは『5・4・3・2・1・0』で、その後、全然飛ぶ気配が無かったので、下を見た瞬間に射出。私の首は、下を向いたままロックされてしまった。

 忘れもしない苦い思い出だ。

 そして、二度目の射出の時はこうだ。


「上乃っち、行くよ」

「了解」

「カウントダウン入ります。5・4・3・2・1・0」


 しーん。


 …………えっ、飛ばない?

 でも、前回は、これでカタパルトが故障したと思い込んで下を見て、私は首を痛めてしまった。

 今回は、そんなミスをしない。


 しーん。


 ……ねぇ、うどちゃん。……それにしても……遅すぎやしない?

 いゃ、ここで下を見てはいけない。前回の失敗を思い出すのよ。


 しーん。


 ……やっぱり故障かしら?


 私は、足元を見る。

 すると次の瞬間。


 ゴフゥゥゥゥゥウウウウ!!


 カタパルトから射出された。


「ガガガッ、首、首がもげるぅぅぅぅ」


 そう、私の首は再び下を向いたままロックされてしまったのだ。

 ……完全にやられた。


 そして、そのまた暫くして、三度(みたび)うどちゃんの射出に鉢合った。


「上乃っち、射出するよ」

「……はい」

「5・4・3……」


 ……まっ、どうせ、すぐに射出しないんだから、気長に構えましょう。


「はぁ……」


 私は、ため息をつきながら、うつむいた。


「……2・1・0」


 ゴフゥゥゥゥゥウウウウ!!


「あっ、がっ、首、首がもげる……」


 今回に限って、ちゃんとゼロで射出されたのだ。


 そして、今回が4度目。私は、もう騙されない。

 私は、どんなことがあっても、下を向かないと覚悟を決める。


「上乃っち。射出するよ」

「えぇ、準備は万端よ」


 私は、深呼吸をするため、大きく息を吸う。


「すうー」


 そして、息を深く吐く。


「ふうー」


 ……と次の瞬間。


 ゴフゥゥゥゥゥウウウウ!!


「あっ、がっ、首、首がもげるぅぅぅ」


 しかも、よりによって、真呼吸で息を吐いた瞬間なんて、一番力が入らない時じゃない……。

 なんで、今回に限ってカウントダウンが無いのよぉぉぉぉおおおお!!


 私は、4度目の頸椎打撲を味わうのだった。



 ● ● ●



 私は首を痛めながらも最高到達点まで登り、その後はフライングスーツを広げて、滑空体勢へと移行していた。


「司令本部三沢から、浅倉組長」

「あっ、あっ、浅倉……です……どーぞー」

「組長、先程の射出見ていたわ。今、尾花沢さんが水沢さんの頭にチョップを叩き込んでいたところよ」

「あっ、ありがとうございます。仏の顔も3度までと云いますが、私は4度も耐えているので、そろそろ限界です」

「……ごめんね。ところで、そろそろ汽車が見えると思うのだけど、客車の上に着陸する経験なんて無いでしょうから、気をつけてね」

「了解しました。なんか空母に着艦するみたいですね」

「そうね。浅倉組長は、気楽に考えてくれるので、助かるわ。――では検討を祈る」


 三沢さんからの無線が切れた。


 さて、そろそろ見えて来る頃だと思うのだけど……。


 私が眼下を見下ろすと、煙を上げて走行している汽車が下方に見えた。

 蛇の様に伸びる車両。

 一直線に走っているので、着陸はしやすそうだ。だが、滑走路となる客車の屋根が見えない。

 風向きのせいもあるのだろうが、汽車は煙を吐き出しながら走行している。その煙が丁度車両の屋根を覆う形となっているので、足場となる屋根が見えないのだ。

 高速で着陸するのに、足場が見えないのは致命傷だ。下手すれば上手く着陸できず、汽車から転げ落ちる可能性も秘めている。


 ……参ったわね。

 同じ方向に進んでいる車両の屋根に着陸するだけだから、簡単と、たかを括っていたけれど、これはかなり難易度が高いわよ。


 私は、煙の切れ間から、微かに見える客車の屋根を脳内にインプットする。

 屋根の形状と高さを脳内で構築させ、仮想滑走路を作り出す。


 ……さて、行くわよ。


 私は、滑空の角度を変更し、真っ黒な煙の中へと突入した。

 ズボッと入った暗闇の中、今までに、幾度となく着陸した感覚を頼りに、体を起こす。


 ……ここ!


 体を地面に対して垂直に立てる。……が、床がない。


 まずい…………けど……。お願い! 足を床につけさせて!


 あると思った場所に床がないのは恐怖以外のなにものでもない。階段を下り切ったと思って足を出したが、もう一段階段があって、転倒した経験はないだろうか? 私は今、その感覚の境地に立っていた。


 ……まずい、バランスを崩す。


 額に汗が滲んだその瞬間、(かかと)に床の感触が現れる。


 きたぁぁああああ!


 私は屋根を滑走路の様に滑る。煙の層を抜けたため、屋根はしっかりと見える。……が、今度は、客車と客車の連結部分が差し迫る。


 げげげ! そんなの有り?

 このまま進めば、溝にハマる。……だが逃げ道も無い。一か八か!


 私は膝を沈める。


「飛べぇぇええええ!」


 渾身の力を込めて、車両から車両へと飛び移る。履き物と、屋根の擦れる音が甲高く耳を打つ。焦げ臭い匂いが鼻を突く。


 ズザァァァァ。


 私は、体感を駆使して何とか着陸した。


「ははっ、やったわよ。私、やって見せたわよ! さぁ、私に続いてみんな下りてらっしゃい! 簡単だから!」


『……嘘つけ』


 何故か、まだ上空にて待機している組員の心の声が、聞こえた。

 

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