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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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中心の男

 屋上には夏だと謂うのに、冷たい風が流れ混んで来る。

 スーっと横切る風は、私達の火照った身体を少しだけ冷やす。


 タンッ!

 

 恐呼が後方へとジャンプし、間合いを確保する。

 8メートルくらいはあるだろうか。つまり、鞭の間合いだ。

 ちょっと走ったくらいでは、恐呼に攻撃は届かない。……そう、私の小太刀で戦うのには、不利な距離となる。

 恐呼はその間合いを確保し、確認するように鞭を振り回す。

 

「さっきは私の眷属が邪魔したみたいで、悪かったわネ」

「……お気になさらず……」

「そっ、有り難う。……では……やり直そうかしラ。……あー、え~と……Aさん!」

「……そのイニシャル呼びは止めてもらえないかなぁ? なんか、私のカップサイズがA見たいじゃ無い」

「……確かにそうね、ちゃんと正しいイニシャルで呼んであげないと悪いわよネ。AAさん」

「おぃ……更に小さくなっているわよ!」


 私は、左手に刀を持ち、斜に構える。そして、剣先を恐呼の眉間に向ける。


「恐呼、これで最後にしてあげるわ!」

「ふっ、貴女に何ができて?」


 その言葉が終わるかどうかのタイミングで、私の左方から鞭が襲いかかる。


 キン!


 下から上へと鞭を払い除ける。


 ……行くわよ。


 足の爪先に力を込めて、勢いよく恐呼に向かって、走り出す。

 だが、当然恐呼の攻撃は止まることを知らない。


 ……右来る……それと左下……。


 キンっ! キンっ!


 右左と鞭を打ち落とす。


 ……あと、2メートル……。


 恐呼との距離が、一足一刀の間合いに入る。


「もらったぁ!」


 左手を大きく振りかぶる!

 片手上段切りだ!


 ……が、……恐呼は回避行動に入らない。


 ニヤリ。


 恐呼が不適に笑う。


「残念でしたわね。……それは私のセ・リ・フ!」


 またしても、音の無い攻撃が、私の背後から迫る。

 一直線に襲いかかる鞭の攻撃を、今から躱す事は不可能!


 音もなく襲いかかるそれは、まるで、獲物に跳び掛かる蛇の様であった。


「さようなら! お嬢ちゃん」


 私が振り下ろす小太刀よりも先に、鞭の攻撃が私の背中を貫く! …………予定だった事だろう……。


 がきぃぃぃいいん!


 甲高い金属音が、私の後方から鳴り響く!


「えっ? なぜ刺さらなイ?」

「……残念……さようならは、私のセリフだったみたいね、恐呼!」


 ザシュゥゥゥ!


 恐呼の体を脳天から、真っ2つに切り裂く。


「なっ、なぜ……私の攻撃……は……って、それ……は……何?」


 恐呼は、私が右手に把持している小太刀を指差す……。


「これ? ……これは……何かしら?」

「ふざけるな!」

「いゃ、本当に知らないのよ」


 私は、パタパタと手を左右に振るも、恐呼は、全く信じない。

 しかし、そんな茶番をしていると、先程私を襲った看護婦が背後に現れた。


「恐呼……それはね、桜草来国光打ち直し。折れた桜草来国光を擦り上げた刀よ!」

「なっ、お、お前は……」


 恐呼が驚く。


「実はさっき、上乃ちゃんに襲いかかった時、渡したのよ。貴女の眷属じゃなくてごめんなさいね」

「そっ……そんな……バカな……」


 パリーン!


 恐呼の胸部に埋め込まれていた宝石が砕ける。


「あらぁ、眷属じゃないのに驚いて、死んじゃったのかな?」

「……私が切ったからよ。姉さん、なに都合よく成果を横取りしているのよ」

「ばれた?」

「ばれるわ!」


 ドンッ!


 私は、姉さんにツッコミをいれた。


「それにしても、上乃……」

『うぉぉおおおお!』


 病院の下方から歓喜の声が上がる。

 どうやら、眷属達は、恐呼呪縛から解放されたらしい。


「ふぅ……まぁ、いいわ……取り敢えず、お疲れ様。組長」

「有り難う……姉さん……」


 姉さんは、私の肩に手を回して、私を労ってくれた。

 久しぶりに姉さんの温もりを感じる。

 懐かしい匂いがした……。


「あっ、そうだ姉さん」

「何かしら?」

「姉さんは、何でここにいるの?」

「えっ……あっ……それは……」

「普通の人はここには居ないわよね。それにマイクの時も、どうして私の場所が分かったの?」

「それは……たまたま?」


 じーーー。


「……聞き方を、かえるわ。今日はなんでここに?」

「……それは……コスプレしたいから?」

「……へぇぇぇ……」

「……なッ何よ、その目は」

「いぇ。そういう事にしておいてあげる」

「……アハハハハ……有り難う」

「まぁ、何となく予想はつくけどね……」


 私は、これ以上姉を困らせない様、この話を終えた。


「それにしても、パインの云っていた通りね。コアを壊せば、恐呼は死に、眷属も元に戻る。よかったわ」


 一応大丈夫だろうとは考えていたものの、パインの話を完全に信じていた訳ではなかった。

 心の中には、もしかしたら……といった考えは、絶えずあったのだ。

 

「そういえば、上乃。それにしても、よく私のメッセージが届いたわね」

「……メッセージ……? あぁ、刀の事ね」

「そうそう」

「そりゃぁ、姉さん、あんな見えにくい場所に刀を置くんですもの。この刀の事はバレずに戦えって事だと、直ぐにわかったわ」

「そりゃぁ、よかった。流石は姉妹ね」

「……いゃ、あんな置かれ方をすれば、誰でも気づきますって」

「だって、貴女鈍いところあるじゃない」

「……どこが」

「だって、小学校の時の晴臣君が、貴女の事好きだって知ってる?」

「……えっ?」

「幼なじみの康和君が貴女に何度も告白してたの知ってる?」

「……ウソ……」

「はぁ……ほらね。鈍子じゃない」

「……うぎゅっ……」


 上乃は、姉に口で負けてしまい、赤面する。

 そんな妹の姿を見るなり、瑞乃は高笑いをする。

 何とも平和な光景である。


 ……だが、そんな穏やかな空気はそう長く続かない。


 ザワッ!


「姉さん!」

「えぇ、何かとてつもないものが来るわ! 気を張って、上乃!」


 上乃と瑞穂は背中合わせに立つと、上下左右を警戒する。

 ……だが敵の発見には至らない。


「……どこ? どこにいるの?」


 コトッ。


 足音がした方へ、姉妹が同時に顔を向ける。

 すると、横たわっている恐呼の傍らには、見慣れない男が立っていた。


 ……いつの間に……。

 ……それに、この男は誰?


 上乃と瑞乃は無意識に構えを取る。

 ……だが、男は二人には見向きもしない。


「恐呼、無駄に眷属など作るから、力が無くなったんだ。力を無駄にしおってからに……」


 一拍おいて、やっと上乃と瑞乃は、その男から距離を取る。

 二人は、間合いを確保するのを忘れる程に、男に飲まれていたのだ。


 2メートル程の背丈に、真っ赤な2本の角。

 目は赤紫色に輝き、鍛え上げられた筋肉が脈動している。

 上半身が裸で、ズボンのみを履いたその鬼は、恐呼の上に左手をかざす。


 ズバーーーー!


 鬼が、自分の左手首を、右手の手刀で切り裂いた。

 ダバダバと垂れ落ちる真っ赤な血液は、恐呼の胸部に埋め込まれているコアにかかる。すると、コアが修復を始め、恐呼も、再び元の姿へと戻った。


「えっ、私、死んだはず……って、棟梁! なぜここに?」


 浅倉の瞳孔が開く。


 ――棟梁? つまりこれが敵の親玉?


 棟梁と呼ばれた鬼が、恐呼の前に仁王立ちで立つ。


「恐呼。お前にはこんな所で死なれては困る。まだまだ働いてもらわなくてはならないのでな」

「ハハッ。棟梁の御髄のままに」


 恐呼が深々と頭を下げると、棟梁と呼ばれた鬼が浅倉の方に顔を向ける。


「キサマが、我々の邪魔をしている小娘だな。名をなんと云う?」


 浅倉は圧倒されながらも、持って生まれた精神力で、なんとか凌ぐ。


「私は、妖鬼殲滅隊鋼組組長、浅倉上乃! いずれ貴方を打ち滅ぼす者よ!」

「ククク。そんなに、膝をガタガタさせながら云うものでもないぞ」

「あっ、貴方の名前はなんて云うのかしら? 私だけ名乗るのは不公平だと思うのだけど」

「女、その度胸だけは買ってやる。俺の名前は、刀傷(とうしょう)、我々の組織である真世会(しんせかい)の棟梁をしている」

「真世会ですって? それが貴方達の組織名って訳ね」

「そうだ」

「あと、ついでに教えてはもらえないかしら? 刀傷、貴方達の狙いは何?」

「俺たちの狙いだと……」

「そうよ」

「そうだな……とりあえずは、埼玉の制圧ってところだな」

「なぜ、埼玉なの! 帝都東京を狙わない理由はなに?」

「帝都か……別に、埼玉を手中に収めたら、ついでに貰っても構わない。さほど欲しい訳でも無いしな」

「質問の答えになってないわ。……なぜ、なぜ貴方は、そこまで埼玉に固執するの。神奈川の方が発展しているし、千葉だってある。埼玉である理由が分からない!」

「別に……埼玉である理由など、お前に話す必要はない。それよりも、去れ。今回は俺に話しかけて来たその度胸を買って見逃してやる。だから、おれの目の前から、去れ!」


 だが、浅倉は、刀を構える。


「断る! 私の使命は、この街を守る事だ。一歩も引かない!」

「なるほど……威勢だけは大したものだな。では、俺に一太刀でも当ててみろ。そうしたら、俺が引いてやろう」

「棟梁! こんな雑魚、棟梁自ら相手をする等あり得ません。私めが相手をします」


 恐呼が間に割って入る。


「恐呼、お前の気持ちは分かるが、今は休め。まだ完治していないのだからな」

「……もったいないお言葉」


 恐呼がひれ伏す。


「さて、待たせてしまったな、小娘」

「いぇ、お構いなく。では、行きます」


 浅倉は、両手に小太刀を構える。


「ほぅ、小太刀二刀流か……。面白い……それでは、私も刀を使った方がよいであろう」


 刀傷はそう口にすると、木刀を出現させる。


「……木刀ですって……もしかして、私なめられてます?」

「別に、なめて等おらんよ。かの宮本武蔵だって、木刀で佐々木小次郎をやぶったのであろう? まぁ、二刀流はソナタの方だがな」


 浅倉は、じりじりと間合いを詰める。

 だが、身長差、刀の長さ、どれをとっても、絶対的に相手の方が有利。浅倉が勝つためには後の先(ごのせん)を決める、つまり相手の攻撃を躱してから懐に飛び込む。この達人的な技を繰り出さなくては成らない。

 『スー』

 浅倉は呼吸を整える。


 ……気迫だけで分かる。

 この者を相手に、後の先が出来るだろうか……。


 それでも、浅倉は、相手の構えを注意深く観察する。


 ……刀傷は中断の構えを取っている。

 どの方向からも柔軟に対処できる万能の構えだが、今の私には、二刀ある。

 これが私に残されたただ一つの道……。


 覚悟を決めると、小細工無しで、最速最短で刀傷に向かう。

 浅倉は、飛び出しながら、自分の刀を木刀の上からかぶせる。

 下に打ち付けられた刀は、通常押し返そうと反発し、上方への力を加える。だが、刀傷は全くそれを行わない。

 つまり、浅倉が押し付けた力は、そのまま下方へと進むのだ。


 ……なぜ、こんなに軽い?

 って、なっ、木刀を手放している!


 浅倉の視線が、一瞬、下方の木刀へと移る。

 だが、この瞬間を刀傷は見逃さない。

 リーチ差を利用して、左ストレートを浅倉の顔面へと叩き込む。


 「ガハッ!」


 首の骨が折れそうな程のパンチを顔面に食らった浅倉は、そのまま後方へと吹き飛び、屋上の柵を超えた。


「上乃ぉぉぉおおおおおお!!」


 瑞乃は走って、屋上から落下をしようとする上乃に手を差し出す。

 しかし、瑞乃の手は上乃には届かず、上乃は、屋上から自由落下を続けた。


「上乃……」


 地面を覗こうとする瑞乃だが、刀傷と恐呼がいる最中、背中は見せられない。

 落ち行く上乃に背中を見せて、瑞乃は、刀傷と対峙する。


「お前は、先ほどの小娘の姉か?」

「そうよ! 私は浅倉上乃の姉、犬塚瑞乃よ」


 ……なによこの気迫。対峙すると恐ろしい程に伝わってくる。

 上乃は、こんなのに立ち向かって行ったのね。

 我が妹ながら、感心するわ。


 身構える瑞乃に対し、刀傷は構えを解く。


「……なるほど。ソナタは、姉か……それでは、生きていたら、先ほどの小娘に伝えてやってくれ。刀傷は約束通り、この場は去ると」


 そう云い残すと、右腕に突き刺さっている短刀を引き抜いて地面に転がす。


「よくあの体勢から、突くことが出来たな小娘……」


 フッ!


 刀傷は、瑞乃が瞬きをする間に消えていた。

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