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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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屋上での戦い

 上空には、満月が白く輝く。

 傾いてオレンジ掛かった太陽と、月の調和が何とも美しい。

 微風が流れる屋上では、まるでそんな2つの星を連想させるかの如く、2人の女性が向かい合っていた。


「さて、この辺でいいかしら? 女剣士さん」

「構わないわ恐呼……。因みに名乗ったか、どうだったか忘れたけれど、私の名前を伝えておくわ。私の名前は浅倉上乃(あさくらあがの)。貴女が最後に聞く名前よ」


 浅倉は、短刀を抜き、剣先を恐呼の眉間に向ける。


「フフッ」


 恐呼も2本の(むち)を出現させ、猛獣を調教しているかの様に、床に叩きつける。

 『バシッ』と鳴り響く轟音は、まるで雷を彷彿とさせる。

 恐呼の鞭は、一般的な鞭とは少し違う。全体的にガンメタリックに輝いている金属製だ。持ち手はザラついた金属グリップとなっており、根元はしなりが効くように、少し硬めの金属ワイヤー。先端に向かうにつれて、柔らかい金属ワイヤーへと変わり、先端には剣の様な刃が付いている。

 さながら、金属製のサソリの尾っぽとも呼べよう。


「浅倉上乃ですか……貴女の名前なんて、覚えられるかしらネ。私、主役は覚えられるけど、エキストラの名前までは、覚えてられないのよネ」

「大丈夫よ。貴女が死ぬときに痛みで『アガッ』て叫ぶでしょうから、そうすれば概ね私の名前よ」

「偏見ね。……大体、死ぬときて『アガッ』なんて云うのかしラ」


 恐呼は、無駄話をしながらも鞭を振りかざす。

 『ビュッ』と空気を切り裂く音を後方に置いて、しなやかな鞭が浅倉に襲い掛かる。


「なっ……音より早い!」

「あら、どうしたの? 私が貴女名前を覚えるよりも、貴女が、心の底から、恐怖を呼ぶ方が先じゃやい? そして、それが私の名前よ。恐怖を呼ぶと書いて恐呼……。畏怖しなさい」


 右、左と恐呼の攻撃は止まることを知らない。

 浅倉は、それを必死に打ち返す。

 休憩を知らないラッシュに、浅倉は応戦する一方しか出来ていない。


「……まったく早いわね。息継ぎってのを知らないのかしら……」


 それでも必死に浅倉は食らいついていく。

 両方向からの読めない動きに対して、恐呼の腕の動きと感覚で対処する。


「さて、浅倉……そろそろ体も温まってきたかしら?」

「……えぇ、ちょうどエンジンが掛かってきたところよ」

「そう。じゃぁ、ギアを上げていくわね。ちゃんとついてきなさいよ!」


 恐呼が叫ぶと、地面と水平に鞭が襲って来る。まるで大蛇が襲って来るかの様だ。

 しかし、恐呼の技の怖さはそこでは無かった。先端の刃体の根本が地面に叩きつくと、刃体がホップアップする。

 つまり、刃体の先端が、浅倉の胸元に向かって、跳ね上がって来たのだ。


 ……くっ、近くで、跳ね上がって来るのか! まるでガラガラ蛇ね!

 こんな鞭の使い方は見たことが無い!


 キンッ!


 鞭の先端の刃体部分を、浅倉は払い落す。


 ……今度は右から……本当に早すぎるのよ! 少しは休ませなさいと云いたいわね。

 ……けど、今はまだ、この速度についていけてる。

 これは、私の速度が上がっているの? それとも恐呼の速度が落ちているの?


 浅倉は、物差しを見失う事に不安をおぼえる。

 なぜか?

 それは、現在浅倉は、速度メーターの無い車を運転するようなものだからだ。

 例えば、2台の車が並列で100㎞/hの速度で走っていた場合、相対速度は㎞/h。つまり相手方の車は止まって見える。

 もし、自分の車は100㎞/h、相手車が120㎞/hで走行したとするならば、相手の車は20㎞/hの速度で、遠ざかる事だろう。この場合は、じわじわと引き離されて行く感覚となろう。

 でば、自分の速度が80㎞/h、相手の速度が120㎞/hだとするならば、そのさは40㎞/h。それなりの速度で引き離される感覚となろう。

 つまり、浅倉の最高速度が100㎞/hとし、恐呼の最高速度が120㎞/hだとした場合、100㎞/hの速度から120で㎞/hで攻撃をくり出すよりも、80㎞/hまでそくどを落とし、120㎞/hの攻撃をくり出した方が、より効果的なのだ。

 そう、浅倉は、その錯覚を懸念していた。 

 

 だが、実のところ、浅倉が恐呼の速度に着いて行けているのは錯覚ではなく、理由があった。それは、以前とは違い、今回は音に着目していたためだ。

 恐呼が振るう鞭は、構造上一度後方へと引く。その際、『ビュン!』っと鞭が唸る事から、そこから自分の元へと到着する時間を逆算すれば、たとえ恐呼の鞭が音速を超えて来ようとも躱すことが可能なのだ。

 これも、以前恐呼と戦った経験がなせる技だ。


 ……以前はあの鞭に散々やられたし、2本目の出現には苦汁を飲まされたものだけど、今回は、そうはいかないわ。

 私の先行で勝たせてもらう!

 恐呼、貴女の敗因は……音よ……。


 浅倉の耳は、着々と音に慣れ、浅倉の回避行動も同時に上がる。

 しかも、何度も攻撃を受けていると、恐呼の攻撃パターンが読める。

 鞭は基本的に水平方向か、斜め上方からの攻撃しか無い。よって、タイミングさえ掴んで仕舞えば、踏み込める隙も出来ると謂う事。

 浅倉は、相手の攻撃を弾きながら、その時を待ち望む。


 キン! ビュッ!

 キン! ビュツ!

 キンっ……! ビュッ!


 ……今、僅かに、鞭を振りかぶるタイミングが遅れた。

 来た! チャンス到来!

 ……恐呼、残念だけど、この戦い私が終わりにさせるわ!


 浅倉は、右足を蹴り出して、一直線に恐呼へと飛び出す。


「恐呼! もらったぁぁあああ!」


 浅倉が叫ぶ。

 大きく振りかぶった刀は、確実に恐呼の脳天を目指す。


 ……恐呼の鞭の位置は……。よし! 右腕は引いている。左腕は……良く分からないが、あの位置では、私に攻撃していない。

 つまり、音よりも早い一撃は私には当たらない。

 この速度なら、私の刀が先に恐呼の頭に届く!

 ……恐呼、悪いわね。この勝負、私の勝ちよ!


 浅倉が、恐呼の手前2メートルまで近づいた……。

 恐呼の目が引きつる。口は半開きになり、焦りが隠せない……が、その半開きの口から舌が出る。


「残念でした、またどうゾ!」


 恐呼がそう告げると、なんと横から、看護婦の格好をした眷属が、浅倉を押し倒す。

 勢いよく突き倒されたため、2メートル程眷属と共に転がり飛ぶ。


 ……しまった! これが恐呼の狙いだったのね!


 ゴロゴロと転がった浅倉と看護婦だが、転がった先でマウントを取ったのは、看護婦の方だった。

 浅倉に、馬乗りになったかと思うと、大きく口を開けて、喉元に食らいつこうとする。


「さ・せ・る・か!」


 浅倉は、巴投げの要領で看護婦を蹴り飛ばす。


 ……まったく、世話かけさせて……。私はこんな所で眷属になっている場合じゃないのよ。


 浅倉は、起き上がろうと、床に腕を付く。すると、手のひらに、違和感をおぼえる。


「何これ。ゴツゴツして痛いわね……って……ん?」


 浅倉は、一瞬戸惑うも、何もなかったかのように立ち上がる。


「ふぅ」


 一息つくと、再戦の準備はととのっているとばかりに、恐呼の方を睨みつけた。

 だが、恐呼は浅倉が見ているのに気が付いていないのか、唾を吐き捨てながら、独り言を投げ捨てる。


「チッ、あの眷属め、邪魔な事を!」


 どうやら、あの看護婦は、恐呼の差し金ではなかったらしい。

 恐呼としても、予想外の攻撃だったらしく、妙にイラついていた。

 それもそのはず。なぜなら先ほどまで浅倉が立っていた場所、つまり看護婦に突き飛ばされた場所を確認すると、そこには鞭の先端部が垂直に突き刺さっていたのだ。

 つまり、あの看護婦が邪魔をしなければ、今頃浅倉の串刺しが出来上がっていた。


 浅倉は、恐呼から目を反らし先ほどまで自分が居た場所を確かめる。

 

 ……それにしても危なかったわね。あの直上からの攻撃を食らっていては、終わっていたわ……。

 それにしても、直上からの攻撃……音がしなかった……。つまり、恐呼が鞭を振りかぶる度に出していた音は、囮だったって事ね。

 双鞭といい、音のフェイクといい、なかなかの食わせ者ね。

 つまり、普通にやっていては勝てない。

 騙し合いに勝たなくてはならないと謂うことね……。


 反省をする浅倉をよそに、恐呼はガツガツと地面を蹴飛ばしている。


「チッ、あの看護婦さえいなければ、あのくそ女は串刺しだったのニ! よくもあの眷属、邪魔してくれたわネ……。あいつは後で殺すワ!」


 そう言葉を吐き捨てると、恐呼は再び背筋を伸ばし、鞭を振りかざす。


 バシッーーン!


 怒りの音が爆発する。


「ふぅ……では、第二試合を始めましょうかしラ、浅倉ぁ!」


 恐呼の挑発に対し、首を一周回して余裕を見せる。


「何を云っているの? 第二試合じゃなくて、ファイナルマッチよ! 次で貴女は終わりよ。恐呼!」


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