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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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ツインズとの闘い2

「ハーイ! 楠サーン。まだ戦えますか?」


 竜吉達の背後から、パインが手を振る。


「もちろん。これしきではやられませんよ」


 楠が、力強く答える。

 だが、楠にも意地がある。ホッとしたのを表に出すわけには行かない。余裕綽々を演じるため、親指を立ててパインに応えた。


「OKでーす! ではでは、楠サーン。行っちゃいましょう! なんてたって、オイドン達は、今がチャンスでーす。敵をサンドしているですよ」

「……云っている意味が良く分かりませんが、つまり挟み撃ちをしているって事ですよね」

「YES! それでは、1匹ずつ倒しましょう。オイドンは、あのハンサムな方をやっつけるです。なので、楠サーンは、あのブサイクな方をお願いしまーす」

「「俺たちは一卵性双生児だ!」」


 兄弟から同時にツッコミが入る。


「流石ツインズでーす。ブレスがピッタリですね」

「……ありがとうな……だが、俺たちは犬ころじゃないんだ。1匹2匹と数えるのは止めてもらえないか?」


 礼と注意を同時に告げると、竜吉と寅吉は背中合わせに立つ。


「日本語は難しいでーす。では、人はなんて数えるんですか?」

「ん? 人か? ……そりゃぁ、1体2体かな」

「……それって、死体の数え方ですよね」


 楠が、すかさず答える。


「細かいな、少年。どうせ君たちもこれから死体になるんだ。どんな数え方だろうとも、構わないだろう」

「確かにそうですね。すでに人間やめて、死体の貴方達には、1体2体って数え方がお似合いですよね」

「おぃおぃ、少年。俺たちは、別に死んでいる訳じゃ無いんだぜ。体の構造が変わっただけだ。そうだな、新人類って呼べば分かりやすかな」


 竜吉は、講釈をたれながらも、姿勢を正す。両手には、しっかりとメスを握りしめ、腰を少し落とす。

 同じく、背中合わせの寅吉も両手にメスを把持すると、大きく伸びをする。


「さて、そろそろ再戦と行きますか。こちらは、2対2になろうとも、体制に影響無いしね」

「……へぇ。僕たちは、随分と甘く見られているんですね」

「そりゃぁ、くたばる3秒前少年と、ボケた外人。そんな奴ら、敵になるまい」

「……なんですか、その恋する3秒前見たいな言い回しは。僕は恋する乙女ですか?」

「別に、そういう意味で云ったわけじゃないのだが……。まぁ、思春期になったら出直して見てくれ」

「あのう……」


 楠と竜吉の会話にパインが口を挟む。


「……ところで、無駄マウスは、そろそろ良いですか? オイドンも尾びれを切らしてきましたよ」

「……金髪……尾びれじゃなくて、(しび)れな。尾びれなんて、元々無い」


 パインと正対している寅吉が、慌ててツッコミを入れる。


「冗談でーす。知っていてボケました」

「……金髪。お前、イラッとするやつだな」

「お褒めにあずかり、光栄でーす!」

「……褒めちゃいない」

「おかしいでーす。日本は、褒めて育てるって聞きましたよ」

「……そりゃぁ、自分の子供とかの話だな。俺とお前は敵だ。つまり……」


 会話を強制終了させた寅吉が、宙に舞い両手を大きく広げる。

 先ほど楠に攻撃を与えた一人時間差だ。

 宙に舞った時には、既にメスは投擲(とうてき)されている。寅吉のオーバーアクションは、投げたメスに気付かせまいとする視線誘導だ。


「これでも食らいな!」


 宙に舞った寅吉は、聴覚にも訴える。

 『これでも』と云われてしまえば、当然、両手に持っているメスに目が移る。そして、既に自分に向かって飛んでいるメスには気が付くことなく、攻撃を受けてしまうのだ。

 ……だが。


「よいしょ」


 パインは自分の正面に棺桶を立てかける。とはいえ、敵の攻撃を防ごうとかそういう意図はみられない。

 ただ背中に背負っていた大きな荷物を下ろした。それだけの行動に取れる。

 すると、運よく最初に投げたメスが、カン、カンと、棺桶にはじき返され床へと転がる。


「ん? これは何でごわす?」


 パインは、落ちたメスを拾おうと、腰をかがめる。すると、今度は空中から襲い掛かるメスが、背中の上を通り過ぎて床に突き刺さる。

 なんと、完全に運だけで寅吉の攻撃をかわしてしまったのだ。


「おぃおぃ、嘘だろう。俺の攻撃を読んでいたのか? まさかあんなボヘボヘとした奴が……」

「ボヘボヘとは失礼な。オイドンはちゃんと考えているでごわすよ。今から、攻撃をしてくるんでしょう。かかってくるでごわす!」


 寅吉の顔から力が抜ける。


「いゃ、もう攻撃したんだけどね」



 二人がそんなやり取りをしている最中、竜吉も楠に攻撃をしかけていた。

 メスを投げてからの左後ろ回し蹴り!

 楠の正面には、白衣がシーツの様に広がっている事から、左方からの攻撃は見えにくい。


 ……くっ、左方からの水平攻撃……早い!


 楠はとっさに後方へ飛びのけようとするも、先ほど左足に受けた傷のせいで反応が鈍る。


 ……左足に力が入らない。しかも、攻撃を受けた左腕ではブロックも心もとない。

 このままでは、回し蹴りを食らう……。何か方法は……。


 楠は、頭で考える。だが、楠の脳は優先して回避行動を取らせようと体を動かす。すると、回避行動を取らなくてはならないと考える上半身。次の指令が来てから動こうとする下半身。チグハグな思考回路により、楠は上半身だけ後ろにのけぞる体勢となった。

 そう、マイク戦にて、散々マイクが使用したスウェーバックを自分自身が使ったのだ。


 ギュワン!


 楠の鼻すれすれで、回し蹴りが吹き抜けていく。

 しかし、これで終わるほど竜吉も甘くない。

 吹き抜けた左足が地面に到着する前、その回転力を利用して、右正拳を楠の顔面へと打ち込む。


 ……この体勢はバランスが悪すぎる。よくマイクはこの体勢で堪えられる。


 のけぞった状態からの、右正拳……。もう後退して躱すようなマネはできない。

 このとっさの状況に、楠は、無傷の右足に力を込める。

 頭で考えるよりも体が動く。格闘センスの賜物といえよう。

 右足の(かかと)を軸に、体を時計回りに回転させる。その回転力を利用して、竜吉の右フックに近い正拳突きを、左手で押し出す形に軌道をそらす。

 まるで倒れそうで倒れない、地球ゴマの様だ。

 傷を負った左手では、軌道をそらすのが手一杯だが、楠はこの状況から、つま先へと軸を移す。時計回りに回っている体に対して更に捻りを加える。背筋に力を込めて、体を浮上させる。


 ここだ!


 楠は、回転力を利用した、右手裏拳を竜吉の右顔面へと叩き込む。

 しかし、その攻撃を竜吉は先読みする。


 ……少年……やるじゃないか。回転力を利用しての裏拳。

 ……だが、これならギリギリ避けられる。残念だったな。


 今度は、竜吉が首を無理やりのけぞらせて、楠の裏拳を躱そうとする。

 先程楠がやってのけた回避行動に似ている。


「残念だったな少年。その攻撃当たらないぜ!」


 竜吉の顔がニヤける。


「そうですか?」


 裏拳の死角から、銀色に輝く何かが飛び出す。


 ザシュゥゥゥウウ!


 竜吉の右頬から、鮮血が噴水のように吹き上がる。


「なっ、なぜ……確かに裏拳は避けたはずだ……」


 楠は、竜吉との間合いを確保する。


「そうですね。それは、これのせいじゃないですか?」


 楠は、ケロリとした顔を浮かべながら、右手に握っているメスをピコピコと揺らす。


「なっ、なぜ、少年がそれを持っている」

「なぜ? と云われましてもねぇ。さっき、あなた方が私にプレゼントしてくれたメスですよ」

「プレゼント? いゃ、お前は先ほど自分に刺さったメスを捨てていたではないか。なぜまだ手元にある」


 竜吉は切れている頬に手を当てて、直接圧迫止血で流れる血液を止める。

 そんな竜吉を見ながら、楠は微笑む。


「予定では、あなたのコメカミにメスを突き刺す予定だったんですけどね。ちょっと外れて残念です」

「そんな事は聞いていない。なぜお前がメスを持っているのかって聞いているのだ!」

「おゃおゃ。二人称が上から目線の『少年』から、『お前』に変わっていますよ。先ほどまでの余裕は何処へ行ってしまったのですか?」


 楠は、いたずらに竜吉をあおる。

 そう……楠は、わざわざネタ晴らしをするつもりなどなかったのだ。

 楠は先程攻撃を食らった際、左腕と左足に突き刺さったメスを右手で引き抜いた。そして、それを投げ捨てる際、自分の体の陰となる位置に投げ捨てる。つまり、達吉達は音のみでメスが捨てられた事を判断し、何本捨てられたかまでは、視覚では把握できていなかった。

 この時、楠が投げ捨てたのはメス1本だけ。全て捨てると見せかけて、鉄甲の隙間にメスを隠匿していたのだ。

 だが、当然竜吉は2本とも捨てられたと誤信している。この誤信こそが、今回楠の攻撃を受けた敗因なのだ。


「くっ、少年……許さないぞ……。絶対に切り刻んでやる」


 鬼の形相で、竜吉が楠を睨みつける。

 だが、それを涼しい顔で受け流す。


「安心してください。僕も貴方を許す気なんてサラサラありませんから」


 実際のところ、左腕と左足を損傷している楠の方が断然不利な状況となっている。

 だがしかし、楠は苦痛をおくびにも出さない。それどころか、自分の方が有利であると、場の空気を自分に引き込む。

 これも、捻くれた話し方をする師匠、瑞乃の賜物と謂えよう。


 ……なんか、考え方が師匠に似て来たな……。


 楠は、そんな事を思いながら、チロリと唇をなめた。



 ● ● ●



「ハックショイ!」


 ……だれ? 私の噂をしているのは……。


 この時、物陰に潜んでいる瑞乃が、密かにくしゃみをしていた。

 

 バトルシーンは、絵が無いと難しいですよね。

 あんまり手数を増やさないようにはしているつもりなのですが、分かりにくくてスミマセン。

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