表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
59/101

ツインズとの闘い1

 医院長室では、楠が男と対峙していた。

 正面には白衣を着た二人の男。二人とも細身で、高身長。

 まるで合わせ鏡の様にそっくりだ。


「一応お尋ねしますが、お二人は、双子ですか?」

「えぇ、そうですよ。まずは自己紹介でもさせて頂きますかね」


 楠から見て、右手の男が答えた。


「初めに、私の方が兄の竜吉、そしてこちらが、弟の寅吉。まっ、かっこいい方が、兄で、ダサい方が弟と思ってもらえればかまいませんよ」

「おぃ、俺と同じ顔だろう」

「いゃ、私の方が3割かっこいいと思いますよ」

「……そうだな。頭の悪さは3割増しだな」


 医師の二人は、白衣をヒラヒラと揺らしながら、とりとめの無い口論をする。

 だが楠は、そんな二人を目にしても、ピクリとも動じない。攻撃の構えを、崩す気配が全く無いのだ。

 楠は警戒をしていた。油断を誘って、隙あらば攻撃を仕掛けてくるタイプの敵であることの。


 ……敵の攻撃方法が分からない上に、二人相手は大変だ。気を引き締めなくては、一気にやられる。


 楠は、拳を強く握りしめる。連動して、鉄甲に連結している紐が、ギリギリと音を立てる。

 また、拳に握られているナックルは、鈍い光を放ち、臨戦態勢を合図する。

 楠は、フッと息を吐いて、細く息を吸う。

 攻撃を仕掛ける前のルーティンだ。


 ……さて、新調したナックルの威力、試させて頂きますよ。


 このナックルだが、指の第一関節から第三関節までを覆う形となっている。

 楠の戦闘スタイルは、中華拳法や空手に近い武術だ。よって、無手で戦う方が戦いやすい。

 以前布虫と交戦した際は、手の甲から爪の様な突起物が出ているものを利用したが、切り裂くのを目的としなければ、ナックルの方が動きやすいのだ。


「……ところで、お二人さん。僕の相手は()()()がしてくれるんですか?」


 楠は、しれっと2択を提示する。

 人は、2択を提示されると、どうしてもその選択肢を選ばないといけないと誤信する。

 『コーヒーと紅茶どちらにしますか?』と、注文をされて『緑茶で』と答えられないのと同じ真理だ。

 つまり、楠は、さりげなく1対1を相手に提示したのだ。

 そして、その選択肢について、医師の兄弟はしっかりと口論していた。


「そうですね……。兄の私としては、お子様をいたぶる趣味は持っていないのですよ。そこで、ここは弟に譲ろうかと……」

「いゃいゃ、兄とか弟とか関係ないだろう。弟の俺もそんな趣味ね~よ」

「そうですか……残念です。兄弟で、意見が分かれてしまいましたね」

「……いゃ、分かれてないだろう。同意見だろう」

「……そうじゃなくて、どちらがあの少年をいたぶるかって選択肢ですよ」

「あぁ、そっちか。別にいたぶらなくてもいいんじゃないか?」

「そうですね。やはり兄弟の意見はそろえた方がいいですよね」

「だな……意見は同じ方が良い」


 フッ!


 弟の言葉を最後に、二人の姿が、楠の眼前から消える。


 ……早い!


 楠が、二人を見失った瞬間、楠の座標に、メスが牙を向く。


 サシュゥゥ。


 そう、双子は会話を終えると同時に、楠の両サイドに飛んだのだ。楠の死角に潜り込んだ二人は、両サイドから、挟み撃ちをする形で楠に襲い掛かった。

 あまりの速さに、二人がいつメスを出したのか、いつ飛び込んだのか……凡人では、到底分かるスピードではない。

 神速とも呼べる速さで、楠の首を切り落としに掛かった兄の竜吉。

 同じく神速とも呼べる速さで、楠の大動脈を切り裂きに行った弟の寅吉。

 そんな二人は、目を合わせる。


「おぃ……竜吉。お前、腕が落ちたんじゃないか?」

「何を云う。……寅吉、お前の腕が鈍ったんだろう?」


 お互いに罵り合う声だけが、部屋に反響する。


「「……まっ、いずれにしてもだ……」」


 見つめあっていた双子の兄弟は、一斉に、首を医院長の机に向ける。


「「……なぁ、少年。いつからそこにいる?」」


 医院長の机に腰かけている楠は、口角を上げて微笑む。

 楠は、ソコとはここのことかい? と云わんばかりに、天板をコンコンと2度叩く。


「いつと云われましても……今さっきからですかね……。まっ、1つ確かな事としては、1時間も前から、ここで待ってたりはしてませんよ」


 小馬鹿にした口調で答える。


「ふっ、なめてくれる。……だが少年……君は面白いな。称賛にあたいするよ」


 竜吉はマッドサイエンティストがキメポーズを取るかの様に、両手を大きく広げる。すると、着ていた白衣が、まるでマントがなびくかのように、大きく広がった。

 楠は、庭先に干してある、シーツの様ではないかと、目を奪わる。……が、楠の耳には『バサッ』と白衣が広がる音に混じり、シャープな音も平行して届く。

 その音の正体が、何であるかは判明しない。だが、経験から楠は、危険な音と認識する。


 ……来る!


 なんと、広がった白衣の後ろから、寅吉が一本のメスを楠の顔面めがけて投げつけた。

 メスは、白衣を突き抜けて、楠の顔面を狙って一直線に進む。

 もっとも、楠に、この行動が見えていた訳ではない。

 だが、目眩ましの動きから予測するに、寅吉が何かしらを仕掛けてくるのは、容易に想像がついた。


 人間の目の構造は、顔面に対して、直線的に迫って来る物体の、距離と速度を測るのは苦手とされている。

 楠も同じく、メスが迫って来ることは分かっても、その距離と速度を完全に把握することは不可能だった。よって、若干早めに回避行動を取る。

 しかし回避行動を予測してか、追い打ちを掛ける様に、竜吉が、楠の足を狙ってメスを投げる。


 ……波状攻撃か……。

 だが、これなら避けられる。


 ザリッ!


 楠は、足を反らしてメスを躱す。

 しかし、敵の狙いは、足への攻撃ではなかった。足元への視線誘導が、真の狙いだった。視線誘導を受けた楠は、完全に寅吉を見失う。


 ……しまった、片割れは何処に?

 敵の本当の狙いは、こっちか!


 楠は、首を左右に振る……が、寅吉は、既にそんな楠の背後にまで移動していた。

 寅吉は、強く地面を蹴り出し空中へと体を浮かせる。……直後、楠の延髄にジャンピングボレーシュートさながらの蹴りがクリーンヒットする。


 ドゴォォオオオウ!


 鈍い音と共に、楠の体が、前のめりに床を滑る。

 まるでボーリングの玉がレーンを滑るかのようにだ……。そして、ピンの代わりに調度品へと楠の体は衝突し、破損した家具が、部屋中に散乱する。


 ……ヤバイ……僕に何が起こった?

 攻撃を食らったのは分かるが、それ以外が全く分からない。


 楠は、延髄……つまり、首を後ろから思い切り蹴られていた。この攻撃は、脳が揺さぶられると同時に、脳が頭蓋骨の内側に強打される。その影響により、三半規管がマヒし、歩行すらおぼつかなくなる。

 一歩間違えれば、一生歩けない体へとなる事だろう。

 だが、褒めるべきは、この時の楠の格闘センスだ。蹴りを入れらえる瞬間、自分から前方へと飛び出し、ダメージを最小限に留めた。

 もはや、反射としか言い表せないセンスにて、ギリギリの所で耐えるのだった。


「ぐっ……痛い……じゃないですか……」

「凄いな。今のを食らっても、まだ、生きているのか……」

「お陰さまでね。まっ、本当は、完全に躱して技の名前でもお伝えしたい所なのですが、今日のところは勘弁して下さい」


 師匠……静流布(しるふ)の習得は、まだ難しいですよ……。


 楠は、首の裏を抑えながら、瓦礫の中から立ち上がる。

 額からは血が垂れ落ち、服も上半身がボロボロに破けている。

 だが、まだ目は死んでいない。目の色は狩りをするオオカミの様にギラついていた。


「なぁ、少年」

「……なんですか?」

「殺しても、かまわないか?」

「貴方のお兄さんをですか?」

「まぁ、それは、オイオイ殺すからいいんだけど……まずは少年、君からだ」

「それはお断りします」


 二人の間に、竜吉が口を挟む。


「おぃ、二人とも、俺を殺すって話はスルーかよ」

「……なんですか、お兄さんの方は、かまってちゃんですか?」

「悪いな少年。うちの兄は、ちょっと面倒くさいところがあってな……」

「やれやれ、俺はすっかり悪者かよ……」


 竜吉は、背中を丸めて、首の後ろに手を当てる。すると、そんな竜吉の背後に、寅吉が先程と同じく隠れる。


 くっ……また死角に入られた。

 弟の攻撃は、死角からの隠密移動。相手に自分の姿を見せない攻撃が最大の武器と謂った所か……。


 竜吉は先ほどと同じように、白衣をガバッっと広げる。


 ……また、メスがくるか……。


 しかし、楠の予想に反し、竜吉は、一直線に楠目指して走り出す。


 ……距離を詰めて来た……だが、予想通り、弟の姿は見えない。

 つまり、兄の背後に追従して走っているという事か?


 楠は、相手から来る、次の一手に備える。

 迫る竜吉の顔に、笑みが浮かぶ。

 

「少年……これはいかがです?」


 竜吉は、右手を振りかざす。そのモーションと同時にメスが楠に襲い掛かる。

 楠は、そのメスを避けようと、一瞬竜吉から目を離す。しかし、その一瞬を狙ってか、寅吉が天井付近へと舞う!


 ……弟か……。


 寅吉が鳥の羽ばたきの様に、大きく手を広げる。

 楠は、その動きに備えるべく構える。


 ……弟の両手には4本のメス……。

 ……来る!


 楠が、そう判断をした瞬間、楠の左肩と、左足に、メスが突き刺さる。


「なっ……いつの間に……」


 楠の片膝が落ちる。

 だが、楠とて、休む暇などはない。先ほど大きく振りかぶった寅吉からは、合計4本のメスが、体めがけて飛んで来るのだ。


 カン、カン、カン、カン!


 これを、神速とも呼べる速度で撃ち落としながら、後退する。

 戦況が不利と感じるなり、間合いを確保するのは戦闘慣れしている証拠だ。


「……寅吉さんでしたっけ? 今の凄い技ですね。最初に食らった方のメス、全く見えませんでしたよ。因みに、技に名前などあるのですか?」

「技の名前? そうだなぁ……技の名前は……『弟カッコいい投げだ』」


 楠は、体に刺さったメスを引き抜く。


「……成る程……素敵な名前ですね」

「いゃ、ダサいだろう」


 竜吉が口をはさむ。


 楠は、後方にメスを投げ捨てると、再び構えを取る。

 左足の太ももからは、血がポタポタと、たれ落ちる。

 利き足の右でない分、多少はましであろうが、攻撃力と、速度は格段に落ちるのは免れない。


 ……この足で、どのくらい踏ん張れるだろうか……。


 足に力を込めると、血液が吹き出た。


「少年……、これでチョロチョロと動けなくなったかな」

「僕はネズミか何かですか?」

「まっ、害虫にはかわりないね。……さて、次で終わりにしようかね」


 医院長室の空気が固まる。


「少年……行くよ……」

「……返り討ちにしてあげますよ」

「じゃあ、オイドンは、打ち首にするでゴワス」


 バッ!


 睨みを聞かせていた3人が、一斉に出入口に顔を向ける。

 すると、出入口の男と、一番近くにいた竜吉は目が合う。


「……誰だ、お前は!」

「フフフ、……何だかんだと云われたら、答えてやるのが世の情け!」

「…………いゃ、何だかんだとは云ってない。誰だお前はと聞いたんだ。……これだから、日本語の分からない外国人は……」

「……やっ、やかましいでゴワス! 拙者の名前は、パイン! パイン・トレスと申す! 行く久しく!」

「……行く久しくって……、お前、誰と結婚するんだ?」


 緊張で張りつめていた空気が、一気に緩んだ

一年前は、ここまで書けるとは思っていませんでした。

ネタが途中でなくなってしまいましたし。


ですが、皆さんのお陰で続ける事が出来ました。

今後とも応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ