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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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中庭

 祝1周年!

 ガシャーン!


 豪快な音と共に、正面玄関のドアガラスが砕け散る。


「予定通り、俺が先行します!」


 物干し竿のような棒を把持した、片桐が一番槍を務め、病院内へ突入した。

 エントランスホールに入ると、そこは吹き抜けの広い空間だった。

 片桐は、その場で一度足を止める。

 すると、片桐の侵入に気が付いた眷属が、一斉に片桐の方へ顔を向ける。


「やれやれ、随分と沢山いるじゃないですか。包囲される経験はないのですが、これがそうなのでしょうね……」


 片桐は、大きく息を吸い込んだ。



 ● ● ●



 大宮第八病院は北を上にして上空から見ると、百の字の様なデザインの作りとなっている。

 南側、つまり、百の字の最終画となる横線。この真ん中に正面出入口は存在する。

 中に入り、北へ進むと、第1中庭。更に北へ進むと第2中庭となっている。


 正面出入口から、エントランスホールへと侵入した一行を待ち受けていたのは、約100名の眷属。

 だがしかし、元々浅倉達が考えていた眷属とは、勝手……いゃ、種類が違った。

 パインの報告では、眷属と謂うのは、普通の人間よりも身体能力が上がる。つまり、見た目は普通でも、力はプロレスラー並みの相手であると聞いていた。

 しかし、浅倉達の前に現れたのは、プロレスラーはおろか、老人の様な動き……つまりゾンビに近い存在だった。

 一見すると、普通の人間の様に見える。

 服装も普段着のままだし、腐敗などもしていない。

 ただ、大きく異なる点として、髪は全員白髪となっており、瞳は紫色に輝いていた。

 また、口が半開きの為、よだれが首筋に垂れており、襟元がベタベタと濡れている。

 半開きの口に着目すると、その口からは、異様に発達した犬歯が飛び出ている。

 これを見れば、吸血鬼の眷属であることは容易に判断が付く。

 そう、敵は、いつでも噛みつける準備をしているのだ。


「ねぇパイン、聞いても良いかしら?」

「なんでもござれ!」

「……なんか調子が狂うわね。……まぁ、いいわ。眷属ってのは、みんなこういった獣みたいになるの?」

「いや、眷属はちゃんと人格があったりするでごわすよ。ただ、恐呼と謂うのは、まだバンパイアになってから日が浅いのでしょう。こんな出来損ない、100年以上生きているバンパイアなら、作ることはないでごわす」

「ひゃ、100年かぁ……。確かに、その長さから考えると、恐呼なんて、ほんの生まれたての赤ん坊ね。つまり、恐呼は、まだ上手に眷属を生み出すことが出来ないって事なのね」

「そうでーす。おかださんで、楽勝ね!」

「おかださん? ……あぁ、岡田さんじゃなくて、お陰さんね」

「そうとも云いまーす」

「そうしか云いません! ……まっ、いいわ。取り合えず作戦通り、私と楠君は秘匿先行します。残りの者は、囮役でお願いするわね」

「了解!」


 浅倉の掛け声と共に、組員が散会した。



 ● ● ●



 エントランスホールの中心では、片桐が物干し竿の様な棒を振り回している。

 数人の眷属は、既に片桐に挑んで倒されたのだろう。胸を押さえながら、床に寝そべり苦しんでいるのが見受けられた。

 その姿を見てか、眷属らも無闇矢鱈と飛び出さない。

 個人で戦いを挑んでも、敵わないと踏んだのだろう。

 眷属らは、誰が指示するわけでもなく、片桐の周りを囲み始めた。

 まるで、これからリンチでもするのかと思える様な陣形だ。


「やれやれ、俺は別に、フルーツバスケットがしたい訳じゃないんですけどね……」


 片桐が皮肉を吐いていると、その円の一角が裂ける。


「がボゥおあぁぁああ」


 (うめ)き声とも、叫び声とも言い難い声を発しながら、大柄な眷属が、その裂け目から片桐に向けて走り出してきた。


「ゾンビにも一番槍とか、序列があるのですか?」


 片桐が棒を構える。

 その大柄ゾンビ……もとい、チンピラ風の服装をした大男は、着ていたシャツを破り捨て、上半身の肉体美を披露しながら右手を振り上げる。


「ほぅ、結構鍛えているじゃないですか。……が、筋肉の付き方が素人ですね」


 大男が片桐を睨み付けながら、一気に間合いを詰める。


「ゴァァアアア!」


 咆哮と共に、ランニング右ストレートが片桐に襲い掛かる。……が、パンチは片桐に届くどころか、大男の方が、後方へと吹き飛んだ。

 そう、片桐は敵の推進力を利用しながら、喉に突きの一撃を食らわせたのだ。

 体重と加速された力を、喉の一点ですべて受け止める大男。

 流石の大男とて、これには耐えられない。


「……さて、素人一人を倒すのは容易なのだが、この囲まれているのを全てとなると、それはそれで骨が折れる」


 片桐は、周囲を見回す。

 相変わらず敵に囲まれている。

 一斉に襲いかかって来られると、流石の片桐とて苦戦を強いられる。


「……まいりましたね」


 そうつぶやくと、そのタイミングを計ったかのように、眷属が片桐に襲い掛かる。


「ちぃ!」


 棒の両端を上手く使いながら、前方と後方、又は左右から同時に襲いかかってくる眷属を払いのける。

 しかし、相手を殺すことが出来ない以上、急所をついて、痛み付けるのが精一杯だ。

 片桐は、エントランスホールから、中庭へと眷属をかき分ける様に走り出す。


「よし、こちら片桐、中庭に到着した。全員手筈通りに頼む」


 片桐は無線を入れると、中庭に足を踏み入れる。

 中庭は、テニスコート2面程の広さを有しており、片桐は、その中心へと移動した。


「さて、出来損ないども、来やがれ!」


 先ほどと同じように、片桐を眷属が取り囲む。

 樹液に群がる昆虫の様に、眷属が次々と中庭に集まり始める。

 そして、数人が集まると、照らし合わせたかのように、一斉攻撃を仕掛ける。


「……しぶとい連中だ!」


 片桐は、中庭の中心で敵を引き寄せるように暴れる。……が、次の瞬間、中庭へ通じる扉が次々と閉められる。


 バン! バン! バン!


 豪快な音が鳴り響くと、片桐は、袋の中のネズミとなった。

 しかし、片桐は、その状況を見てもあせらない。

 落ち着いて眷属を叩きのめしているのだ。

 そして、肩で息をするほど体力が削られてきたころ、片桐の頭上から声が降って来る。


「おぃ、準備出来たぜ! 能面!」

「誰が能面だ!」


 柏木の言葉を合図に、片桐は走り始める。

 走る方向は、2階の窓が開いている場所だ。片桐は、狙いを定めると、地面に棒を突き立てた。


 ブワァ!


 棒高跳びの要領で、片桐の体が宙に浮く。

 2階の窓へと飛び込もうとする。

 ……だが、棒をついて、体が浮いたその無防備な一瞬を、敵は逃さなかった。

 ここぞとばかりに、眷属が飛びかかって来た!


「……柏木……俺、襲われるぞ!」

「そうか……それは良かった」


 柏木の冷たい返事が、無線で流れたか流れないかの合間に、一発の銃声が中庭に木霊する。


 ズガーン!


 片桐に襲いかかる眷属が、見事に撃ち落とされた。


「俺が居なければ、お前は今までに何度死んでいるんだろうな……」

「その言葉、俺が10倍にしてお前に返してやるよ」

「じゃあ、俺は100倍だ!」


 無益な口論が、いつものように始まった……。


「なぁ柏木……。所で、あの眷属殺して無いよな。ピクリとも動かないけど……」

「ん? 一応技術班お手製のゴム弾らしいから、大丈夫だと思うんだけどな……細かい事は、俺に聞くな」

「……そうだな。バカに聞いた俺が悪かったよ」

「……ほう、それじゃあ、もう一度、中庭に落ちてみろ。今度は助けてやらねぇからな」

「……ザザッ……2人とも……あんまり馬鹿やっていると、休み削りますからね」


 険悪な2人に、三沢の声が突き刺さる。


「「スミマセン」」


 情けない声が、無線に流れた。


「……さて、予定通り、中庭に眷属を閉じ込めたな。あとは、同じ事を北側の中庭でもやれば、大分無傷で眷属を捉えられるな」

「……そうだな。そして、残りは、組長にお願いするとしよう」


 お互いに頷くと、二人は北側の中庭へと向かって走り出した。



 本日3度目の更新!

 年末依頼の大放出です。

 この作品が気に入っていただけるのであれば、評価の程よろしくお願いします。<(_ _)>

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