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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
55/102

引き抜き

 なんと、この度「鋼鉄の舞姫」おかげさまで、無事一周年です。

 毎週欠かさず更新してきましたが、皆さまの応援のお陰で、なんとか一年乗り切りました。

 今後も応援の程よろしくお願いします。

「うっ……明るい……朝か……」


 私は目を覚ます。

 折りたたまれ座布団を、枕代わりにして、床に寝かされている。

 胸には薄手のタオルケットが一枚。


 そういえば、ここに来た初日も、この天井見たわね。

 私は、全く成長していないって事かしらね……。

 ……とはいえ、取り合えず起きて、朝の仕事をしなくては。


 私は、手を突いて、起き上がる。


 ……あれ?


 私はつい癖で、右手を地面に付いて、起き上がった。


 ……私の右手……くっついてる。

 いゃ、くっついているって考えが、おかしいのか。

 つまり、右手が切り落とされたのは、夢だったのね。

 ……だとすれば、いつからが夢なのかしら?


 私は、夢と現実の記憶が混ざったまま、起き上がる。

 すると、私が起き上がったのを見計らったかのように、襖が開く。


 ……この光景も、以前見たわね……。


 しかし、今回現れたのは、楠君ではなく、うどちゃんだった。


「上乃っち、みんな食堂にいるよ。起きたら話したい事があるから、来てくれってさ」

「分かったわ。直ぐに行く」


 私の返事を聞くなり、うどちゃんは、反転した。


 ……さて、皆が食堂に集合とは……なぜ?

 朝の集会なんて文化、ここにはなかったわよね……?

 いや、夢が続いているのか……、はたまた記憶が抜けているのか……。


 私は、タオルケットを畳むと、食堂へと向かった。



 ● ● ●



 さて、何の用かしら?


 私は、色々考えながら、食堂のドアを開ける。

 すると、そこには、いつものメンバーが座っていた。

 片桐さんに、柏木さん、楠君。それと、すいちゃんと、うどちゃん。

 あと……金髪の外人さん……って、誰この人?

 ……いゃ、見覚えがある。そうだ、お守りの中身が見たいとか云っていた、変な外国人だ。


 私が、若干困惑をしていると、片桐さんが、私を手招きする。


「組長、こっちだ」


 私は、片桐さんに案内されるがまま、席に着く。


「所で組長。昨晩の事、どの位覚えています?」

「……昨晩? えっ、どういう事?」

「……いゃ、多分記憶の整理が出来ていないだろうと思って、変な聞き方をしてしまいました。申し訳ありません」

「いぇ、それより昨晩と謂えば私、夢を見ていたの。恐呼に、右腕を切り落とされる夢を」


 全員が、急に沈黙する。


 えっ、何? 私、何か変な質問をした?


 食道にいる面々の顔を、時計回りに見回す。

 しかし、数人は、私から目を逸らす。


 ……何? 何があったの?

 私が記憶を無くしている間に、何があったの?


 そんな私を気遣ってか、片桐さんが、私に話しかけて来る。


「組長、腕が切り落とされたのは、夢ではありません。現実です」

「……! えっ、だって、私の腕、くっついていますよ。いくらなんでも切れた腕はくっつきませんよ」

「はい。通常であれば付く事はありません。……ですが、そこの彼が付けてくれました」


 片桐さんが、手を向けて指示したのは、あのへんな外人さんだ。


「あの……私、片桐さんの云っている意味が分からないのですが……」

「……そうですよね。順を追ってお話します」


 片桐さんは、重々しく返事をすると、昨晩の事を話し始めた。



 ● ● ●



「昨夜、組長は暗がりの中、恐呼と戦っていました。私と柏木は、武器調達のため、後退したのは覚えていますか?」

「勿論です。2分程、私が、恐呼の相手をすれば、3人で戦える。そういう作戦でしたよね」

「えぇ、その通りです。……で、恐呼と戦っていた組長ですが、組長は、チャンスを見出します。恐呼の鞭が後方に下がった瞬間です」

「覚えているわ。鞭は一度後方に引かないと攻撃が出来ない。私はそのスキを狙って一気に間合いを詰めた」

「その通りです。ですが、その時誤算が起きました」

「……誤算……もしかして、二本目の鞭が現れたのは、夢じゃなかったのね」

「その通りです。恐呼は左手にも鞭を出現させていました。そして、それは既に攻撃態勢に入っていたのです」

「……そして、右上段で切りかかった私の腕は切り落とされたと……」

「……はぃ……」


 ギリッ!


 浅倉は、強く拳を握りしめた。

 自分の判断ミスにより、作戦が失敗してしまったことに。


「情けない、……私は、まさか恐呼が左手にも鞭を出現させているとは思わなかった。マイクだって、両手で攻撃してくるのだから、その予想をしなかったのは、私の判断ミスだわ」


 浅倉は、握った拳を広げて、掌の爪痕を見る。

 彼らは、何もない空間から、武器を自在に出現させることが出来る。

 そんな、物理法則を無視した者であり、常識が通用しない相手もである。

 浅倉は、そんな基本的な事項を忘れていた自分が情けなくなった。


「まぁ……この際、組長の判断ミスは置いておくとして、話を進めます。恐呼の鞭は特殊でして、先端が刃物になっています。鞭のしなりを利用して切り裂くため、その威力は絶大です。……そして、今回、その餌食となったのが、組長の右腕と謂う訳です」


 浅倉は、その時の状況を思い返す。

 忘れたくても忘れられない、最悪の瞬間だ。


「えぇ……良く覚えているわ。私の右腕が、私の体から切り取られた瞬間を……。手に握っていた刀の感覚が、一瞬で亡くなった瞬間をね。私の人生で、最悪と感じられた瞬間だったわ……」


 浅倉は、右手を見返す。

 そして、右腕が動く喜びも同時に感じていた。


「……で、本題はここからね。私の記憶は、その後、恐呼に切りかかった所までです。私は、恐呼の攻撃が避けられずに死を覚悟しました。……ですが、今ここにいる。その説明が頂きたいわ」

「……そうですね。それでは話を続けます」


 片桐は、一杯水を飲むと、再び、浅倉の目を見る。


「組長が恐呼に襲われる瞬間、私と、柏木はまだ武器を手にしていませんでした。しかし、恐呼の鞭は、組長の心臓めがけて一直線に伸びていた。あの瞬間は、今でもハッキリと、私の脳裏に焼き付いています。……そして、もう終わりかと思った次の瞬間、組長と鞭の間に、黒い物体が割り込で来ました」

「……黒い物体?」

「えぇ。端的に話しますと、そこに座っている、パイン・トレスの棺桶です」

「……かっ……棺桶?」


 浅倉の目が、瞳孔と共に、真ん丸に見開く。

 また、パイン・トレスと紹介された金髪の外国人が立ち上がる。


「初めまして、アガノ。私の名前はパイン・トレス云いま~す!」


 浅倉も慌てて、立ち上がると、お辞儀をする。


「あっ、初めまして。浅倉上乃と云います。え~と、ここの巫女をして……ハッ!」


 浅倉は、焦った顔を浮かべながら、片桐の方を向く。


「片桐さん! 私達この人に、さっきから組長って話していますよ!」

「……あぁ、その事ですか。それについては、支部長から許可をもらっています。それに我々の事も既に話してあります」

「あぁ、そうなの……って、え? ……何を話てしまったの……機密事項なのに?」


 慌てる浅倉をよそに、パインは自身の右腕を指差す。


「アガノ。右腕の調子はどぉですか?」

「どうって……もしかして、これ、貴方が治してくれたの?」

「そうで~す。私の血で治しましたぁ!」

「……血?」

「Yes! ブラッドでぇ~す」


 浅倉が頭を抱える。


「ごめんなさい。私の頭がついて行かないわ……。誰か、端的に話してくれるかしら……」


 パインが、手をあげる。


「OK! パインがタンシオに話しま~す!」

「…………ありがとう。でも、タン塩じゃなくて、端的に話してちょうだい……」


 パインが親指を立てて、『了解した』を表現する。


「では、僭越ならがら、パインが話しま~す。では、皆さん、手にグラスを持ってくださ~い!」

「……飲み会じゃ無いんだから、グラスなんて持たないわよ。いいから、早く話してちょうだい!」

「Oh! アガノ、怖いで~す。ちょっとしたジョークで~す」


 キッ!


 浅倉が、パインを睨み付ける。


「……ではぁ、仕切り直して話しま~す。まず、パインはハーフバンパイアで~す。なので、パインの血を傷口に掛けると、元に戻すことが出来るので~す。治癒の力、つまり私と、アガノの愛の力!」


 浅倉は、顎に手を当てて腕を組む。


 ……ハーフバンパイア?

 バンパイアって、ドラキュラとか、あれの事よね。あれって、妖怪とかその類じゃないの?

 ハーフって事は、人間との混血?

 妖怪と人間の混血……そんな事が可能なの?


 浅倉が思考を巡らしているのを他所に、パインは、無視された会話を、必死に強調している。


「アガノと私の愛! アイ! あい! の力により、アガノの右手は治りました!」

「……ちょっと黙って、パイン」

「……ごめんさいよ」

「いゃ、御託は良いとして……。これだけは、ちゃんと聞きたいわ。貴方が、私の腕を治してくれたって事で、あっているかしら?」

「そうで~す。バンパイアの血は、例え腕が切れても、直ぐなら治りま~す」

「そうだったの。ありがとう。でも貴方ハーフバンパイアなのよね」

「そうで~す。なので、バンパイアの血よりもちょっと、治るの遅いで~す。バンパイアの血なら、腕瞬間接着剤の様に、直ぐ着きま~す」

「そぅ……。パインさん、腕を着けてくれた事にはお礼を云うわ。有り難う」

「どうたまして」

「……でも、なぜ貴方は、あんな場所に居たの?」


 浅倉は、パインが、あの場に居た理由を気に掛ける。

 ……なぜなら、浅倉は、パインの行動の裏を読んでいたためだ。

 助ける行動は、一見すると敵意が無いように思われがちだが、実際はそうとは限らない。

 浅倉に恩を売る事により、敵陣へと入り込む。つまり、スパイ活動と考えれば、充分にあり得る方法だ。


 ……さて貴方は、なんて答えるかしら。パイン。

 気になるわ……。


 浅倉は、パインの回答を一字一句漏らすまいと、耳に神経を集中させる。


「なぜあんな場所に居たか……そうですね。話すべきでしょうね」


 周囲の者が息をのむ。


「実は、私の仕事、バンパイア・ハンターしてるで~す」

「バンパイア・ハンター?」

「そうで~す。この国で謂う所の、吸血鬼倒すで~す」

「それと、鹿鬼……何が関係あるの?」

「関係ありありで~す。あの少女、吸血鬼で~す。若い男の血、すする。すると、自分若返る。まごうとなき、バンパイアで~す」


 ……なるほど。これで恐呼が若返っている事の理由が付くわね。

 若い男の血を飲むと、恐呼は若返るが、血を吸われた男は干からびる。いゃ、老いる。

 これで、ミイラの謎が解けたわね。

 しかし……。


「パインさん、よろしいかしら?」

「なんでしゃろ」

「パインさんは、どうして恐呼の位置が分かったのですか?」


 パインが口を閉ざす。

 浅倉は、その顔を凝視する。


 ……パインは理由を話さない……。つまり、自作自演?

 ……パインも敵って事かしら。


「ん~。日本語難しいですけどよろしいか?」


 パインが口を開いた。


「構わないわ。ある程度はこちらで補完するから」

「では。話すです」


 浅倉が息を止める。

 緊張が走る。


「私達バンパイアは、相手の位置がなんとなく分かる種族です。なぜなら、我々バンパイア、数少ない。結婚相手探す大変。なので、なんとなく分かる」

「……つまり、パインさんは、今でも恐呼の位置が分かるという事なの?」

「そうで~す。それも先ほど、美人ボスの話したデス」


 ……なるほど。つまりパインは、バンパイア・レーダーの役を担っているわけね。

 なかなか便利な機能ね。


「つまりパインさんは、恐呼……あの少女を追ってここまで来たって事ね」

「そうで~す。でも、ちょっと手強わそうで~す」

「そう、……で他の鬼達のいる場所も分かるのかしら?」

「……他の鬼?」

「そう。恐呼以外にも、マイクとか王龍騎とかいると思うのだけど……」

「マイク王? そんなカラオケの王様みたいな人いませ~ん」


 浅倉が目頭に指を当てて瞑想にふける。

 マイクに対してのツッコミは無しだ。


 ん? ……ちょっとまって。それは、どういうこと?

 つまり、マイクや王龍騎はバンパイアではないって事?

 鬼ではあるけれど、吸血鬼ではない。つまり他の鬼って事?

 ……いゃ、その考え方は違う。

 日本古来の鬼の中に、吸血鬼という異種の鬼が生まれた……そう、考えるべきね。

 ……敵が一種類ではない。これは、厄介だわ……。

 まっ、いずれにせよ、このバンパイア・ハーフが役に立つのは間違いなさそうね。


 浅倉は、心を整理し終えると、パインの目を見る。そして手を差し出す。


「パインさん、私たちと一緒に戦いませんか?」

「え……あなた達と?」

「そう。私達の目的は、あの吸血鬼の一味を壊滅させる事。どうかしら、鹿鬼を倒すまでで構わないので、私たちの組織に加われないかしら?」

「あの少女以外にも、まだいるですか?」

「いるわよ。少なくとも、3人は……」


 パインは、腕を組んで、考える。


「う~ん。どうするですかねぇ?」

「まぁ他の鹿鬼を見ていないから、中々難しい判断だとは思うけれど、少なくとも、恐呼を倒すまでは一緒に戦えるのじゃないかしら?」

「確かに、あの少女を倒すまでは、一緒でもいいかもしれませ~ん」

「それじゃぁ、決まりね」

「でも、お断りで~す」

「……なぜ?」


 浅倉は、差し出した手をそのままに、額から汗を垂らす。


「なぜと云われても、私は勝手やっているからで~す。組織、大変。私自由」

「……成程じゃぁ、自由契約ってのはどうかしら? 鹿鬼が出たら、共闘する。それ以外は、干渉しない」

「……まぁ、その条件なら考えてもいいですが……」

「それで十分よ」

「それにしても、アガノは、私が断ってもその手を引っ込めませんでしたね。何故ですか?」

「それは、貴方と共に戦いたいのと、貴方にくっつけてもらった腕がどれくらい機能しているのかを、貴方に確認してもらう為よ」

「アガノ……貴女は面白い女性ですねぇ」


 その言葉を最後に、パインはアガノと強く手を握る。

 そしてこの時、条件付きとはいえ、鋼組に待望のメンバーが増員された。



 一周年記念としまして、本日連続投稿させていただきます。

 よろしくお願いします。

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