引き抜き
なんと、この度「鋼鉄の舞姫」おかげさまで、無事一周年です。
毎週欠かさず更新してきましたが、皆さまの応援のお陰で、なんとか一年乗り切りました。
今後も応援の程よろしくお願いします。
「うっ……明るい……朝か……」
私は目を覚ます。
折りたたまれ座布団を、枕代わりにして、床に寝かされている。
胸には薄手のタオルケットが一枚。
そういえば、ここに来た初日も、この天井見たわね。
私は、全く成長していないって事かしらね……。
……とはいえ、取り合えず起きて、朝の仕事をしなくては。
私は、手を突いて、起き上がる。
……あれ?
私はつい癖で、右手を地面に付いて、起き上がった。
……私の右手……くっついてる。
いゃ、くっついているって考えが、おかしいのか。
つまり、右手が切り落とされたのは、夢だったのね。
……だとすれば、いつからが夢なのかしら?
私は、夢と現実の記憶が混ざったまま、起き上がる。
すると、私が起き上がったのを見計らったかのように、襖が開く。
……この光景も、以前見たわね……。
しかし、今回現れたのは、楠君ではなく、うどちゃんだった。
「上乃っち、みんな食堂にいるよ。起きたら話したい事があるから、来てくれってさ」
「分かったわ。直ぐに行く」
私の返事を聞くなり、うどちゃんは、反転した。
……さて、皆が食堂に集合とは……なぜ?
朝の集会なんて文化、ここにはなかったわよね……?
いや、夢が続いているのか……、はたまた記憶が抜けているのか……。
私は、タオルケットを畳むと、食堂へと向かった。
● ● ●
さて、何の用かしら?
私は、色々考えながら、食堂のドアを開ける。
すると、そこには、いつものメンバーが座っていた。
片桐さんに、柏木さん、楠君。それと、すいちゃんと、うどちゃん。
あと……金髪の外人さん……って、誰この人?
……いゃ、見覚えがある。そうだ、お守りの中身が見たいとか云っていた、変な外国人だ。
私が、若干困惑をしていると、片桐さんが、私を手招きする。
「組長、こっちだ」
私は、片桐さんに案内されるがまま、席に着く。
「所で組長。昨晩の事、どの位覚えています?」
「……昨晩? えっ、どういう事?」
「……いゃ、多分記憶の整理が出来ていないだろうと思って、変な聞き方をしてしまいました。申し訳ありません」
「いぇ、それより昨晩と謂えば私、夢を見ていたの。恐呼に、右腕を切り落とされる夢を」
全員が、急に沈黙する。
えっ、何? 私、何か変な質問をした?
食道にいる面々の顔を、時計回りに見回す。
しかし、数人は、私から目を逸らす。
……何? 何があったの?
私が記憶を無くしている間に、何があったの?
そんな私を気遣ってか、片桐さんが、私に話しかけて来る。
「組長、腕が切り落とされたのは、夢ではありません。現実です」
「……! えっ、だって、私の腕、くっついていますよ。いくらなんでも切れた腕はくっつきませんよ」
「はい。通常であれば付く事はありません。……ですが、そこの彼が付けてくれました」
片桐さんが、手を向けて指示したのは、あのへんな外人さんだ。
「あの……私、片桐さんの云っている意味が分からないのですが……」
「……そうですよね。順を追ってお話します」
片桐さんは、重々しく返事をすると、昨晩の事を話し始めた。
● ● ●
「昨夜、組長は暗がりの中、恐呼と戦っていました。私と柏木は、武器調達のため、後退したのは覚えていますか?」
「勿論です。2分程、私が、恐呼の相手をすれば、3人で戦える。そういう作戦でしたよね」
「えぇ、その通りです。……で、恐呼と戦っていた組長ですが、組長は、チャンスを見出します。恐呼の鞭が後方に下がった瞬間です」
「覚えているわ。鞭は一度後方に引かないと攻撃が出来ない。私はそのスキを狙って一気に間合いを詰めた」
「その通りです。ですが、その時誤算が起きました」
「……誤算……もしかして、二本目の鞭が現れたのは、夢じゃなかったのね」
「その通りです。恐呼は左手にも鞭を出現させていました。そして、それは既に攻撃態勢に入っていたのです」
「……そして、右上段で切りかかった私の腕は切り落とされたと……」
「……はぃ……」
ギリッ!
浅倉は、強く拳を握りしめた。
自分の判断ミスにより、作戦が失敗してしまったことに。
「情けない、……私は、まさか恐呼が左手にも鞭を出現させているとは思わなかった。マイクだって、両手で攻撃してくるのだから、その予想をしなかったのは、私の判断ミスだわ」
浅倉は、握った拳を広げて、掌の爪痕を見る。
彼らは、何もない空間から、武器を自在に出現させることが出来る。
そんな、物理法則を無視した者であり、常識が通用しない相手もである。
浅倉は、そんな基本的な事項を忘れていた自分が情けなくなった。
「まぁ……この際、組長の判断ミスは置いておくとして、話を進めます。恐呼の鞭は特殊でして、先端が刃物になっています。鞭のしなりを利用して切り裂くため、その威力は絶大です。……そして、今回、その餌食となったのが、組長の右腕と謂う訳です」
浅倉は、その時の状況を思い返す。
忘れたくても忘れられない、最悪の瞬間だ。
「えぇ……良く覚えているわ。私の右腕が、私の体から切り取られた瞬間を……。手に握っていた刀の感覚が、一瞬で亡くなった瞬間をね。私の人生で、最悪と感じられた瞬間だったわ……」
浅倉は、右手を見返す。
そして、右腕が動く喜びも同時に感じていた。
「……で、本題はここからね。私の記憶は、その後、恐呼に切りかかった所までです。私は、恐呼の攻撃が避けられずに死を覚悟しました。……ですが、今ここにいる。その説明が頂きたいわ」
「……そうですね。それでは話を続けます」
片桐は、一杯水を飲むと、再び、浅倉の目を見る。
「組長が恐呼に襲われる瞬間、私と、柏木はまだ武器を手にしていませんでした。しかし、恐呼の鞭は、組長の心臓めがけて一直線に伸びていた。あの瞬間は、今でもハッキリと、私の脳裏に焼き付いています。……そして、もう終わりかと思った次の瞬間、組長と鞭の間に、黒い物体が割り込で来ました」
「……黒い物体?」
「えぇ。端的に話しますと、そこに座っている、パイン・トレスの棺桶です」
「……かっ……棺桶?」
浅倉の目が、瞳孔と共に、真ん丸に見開く。
また、パイン・トレスと紹介された金髪の外国人が立ち上がる。
「初めまして、アガノ。私の名前はパイン・トレス云いま~す!」
浅倉も慌てて、立ち上がると、お辞儀をする。
「あっ、初めまして。浅倉上乃と云います。え~と、ここの巫女をして……ハッ!」
浅倉は、焦った顔を浮かべながら、片桐の方を向く。
「片桐さん! 私達この人に、さっきから組長って話していますよ!」
「……あぁ、その事ですか。それについては、支部長から許可をもらっています。それに我々の事も既に話してあります」
「あぁ、そうなの……って、え? ……何を話てしまったの……機密事項なのに?」
慌てる浅倉をよそに、パインは自身の右腕を指差す。
「アガノ。右腕の調子はどぉですか?」
「どうって……もしかして、これ、貴方が治してくれたの?」
「そうで~す。私の血で治しましたぁ!」
「……血?」
「Yes! ブラッドでぇ~す」
浅倉が頭を抱える。
「ごめんなさい。私の頭がついて行かないわ……。誰か、端的に話してくれるかしら……」
パインが、手をあげる。
「OK! パインがタンシオに話しま~す!」
「…………ありがとう。でも、タン塩じゃなくて、端的に話してちょうだい……」
パインが親指を立てて、『了解した』を表現する。
「では、僭越ならがら、パインが話しま~す。では、皆さん、手にグラスを持ってくださ~い!」
「……飲み会じゃ無いんだから、グラスなんて持たないわよ。いいから、早く話してちょうだい!」
「Oh! アガノ、怖いで~す。ちょっとしたジョークで~す」
キッ!
浅倉が、パインを睨み付ける。
「……ではぁ、仕切り直して話しま~す。まず、パインはハーフバンパイアで~す。なので、パインの血を傷口に掛けると、元に戻すことが出来るので~す。治癒の力、つまり私と、アガノの愛の力!」
浅倉は、顎に手を当てて腕を組む。
……ハーフバンパイア?
バンパイアって、ドラキュラとか、あれの事よね。あれって、妖怪とかその類じゃないの?
ハーフって事は、人間との混血?
妖怪と人間の混血……そんな事が可能なの?
浅倉が思考を巡らしているのを他所に、パインは、無視された会話を、必死に強調している。
「アガノと私の愛! アイ! あい! の力により、アガノの右手は治りました!」
「……ちょっと黙って、パイン」
「……ごめんさいよ」
「いゃ、御託は良いとして……。これだけは、ちゃんと聞きたいわ。貴方が、私の腕を治してくれたって事で、あっているかしら?」
「そうで~す。バンパイアの血は、例え腕が切れても、直ぐなら治りま~す」
「そうだったの。ありがとう。でも貴方ハーフバンパイアなのよね」
「そうで~す。なので、バンパイアの血よりもちょっと、治るの遅いで~す。バンパイアの血なら、腕瞬間接着剤の様に、直ぐ着きま~す」
「そぅ……。パインさん、腕を着けてくれた事にはお礼を云うわ。有り難う」
「どうたまして」
「……でも、なぜ貴方は、あんな場所に居たの?」
浅倉は、パインが、あの場に居た理由を気に掛ける。
……なぜなら、浅倉は、パインの行動の裏を読んでいたためだ。
助ける行動は、一見すると敵意が無いように思われがちだが、実際はそうとは限らない。
浅倉に恩を売る事により、敵陣へと入り込む。つまり、スパイ活動と考えれば、充分にあり得る方法だ。
……さて貴方は、なんて答えるかしら。パイン。
気になるわ……。
浅倉は、パインの回答を一字一句漏らすまいと、耳に神経を集中させる。
「なぜあんな場所に居たか……そうですね。話すべきでしょうね」
周囲の者が息をのむ。
「実は、私の仕事、バンパイア・ハンターしてるで~す」
「バンパイア・ハンター?」
「そうで~す。この国で謂う所の、吸血鬼倒すで~す」
「それと、鹿鬼……何が関係あるの?」
「関係ありありで~す。あの少女、吸血鬼で~す。若い男の血、すする。すると、自分若返る。まごうとなき、バンパイアで~す」
……なるほど。これで恐呼が若返っている事の理由が付くわね。
若い男の血を飲むと、恐呼は若返るが、血を吸われた男は干からびる。いゃ、老いる。
これで、ミイラの謎が解けたわね。
しかし……。
「パインさん、よろしいかしら?」
「なんでしゃろ」
「パインさんは、どうして恐呼の位置が分かったのですか?」
パインが口を閉ざす。
浅倉は、その顔を凝視する。
……パインは理由を話さない……。つまり、自作自演?
……パインも敵って事かしら。
「ん~。日本語難しいですけどよろしいか?」
パインが口を開いた。
「構わないわ。ある程度はこちらで補完するから」
「では。話すです」
浅倉が息を止める。
緊張が走る。
「私達バンパイアは、相手の位置がなんとなく分かる種族です。なぜなら、我々バンパイア、数少ない。結婚相手探す大変。なので、なんとなく分かる」
「……つまり、パインさんは、今でも恐呼の位置が分かるという事なの?」
「そうで~す。それも先ほど、美人ボスの話したデス」
……なるほど。つまりパインは、バンパイア・レーダーの役を担っているわけね。
なかなか便利な機能ね。
「つまりパインさんは、恐呼……あの少女を追ってここまで来たって事ね」
「そうで~す。でも、ちょっと手強わそうで~す」
「そう、……で他の鬼達のいる場所も分かるのかしら?」
「……他の鬼?」
「そう。恐呼以外にも、マイクとか王龍騎とかいると思うのだけど……」
「マイク王? そんなカラオケの王様みたいな人いませ~ん」
浅倉が目頭に指を当てて瞑想にふける。
マイクに対してのツッコミは無しだ。
ん? ……ちょっとまって。それは、どういうこと?
つまり、マイクや王龍騎はバンパイアではないって事?
鬼ではあるけれど、吸血鬼ではない。つまり他の鬼って事?
……いゃ、その考え方は違う。
日本古来の鬼の中に、吸血鬼という異種の鬼が生まれた……そう、考えるべきね。
……敵が一種類ではない。これは、厄介だわ……。
まっ、いずれにせよ、このバンパイア・ハーフが役に立つのは間違いなさそうね。
浅倉は、心を整理し終えると、パインの目を見る。そして手を差し出す。
「パインさん、私たちと一緒に戦いませんか?」
「え……あなた達と?」
「そう。私達の目的は、あの吸血鬼の一味を壊滅させる事。どうかしら、鹿鬼を倒すまでで構わないので、私たちの組織に加われないかしら?」
「あの少女以外にも、まだいるですか?」
「いるわよ。少なくとも、3人は……」
パインは、腕を組んで、考える。
「う~ん。どうするですかねぇ?」
「まぁ他の鹿鬼を見ていないから、中々難しい判断だとは思うけれど、少なくとも、恐呼を倒すまでは一緒に戦えるのじゃないかしら?」
「確かに、あの少女を倒すまでは、一緒でもいいかもしれませ~ん」
「それじゃぁ、決まりね」
「でも、お断りで~す」
「……なぜ?」
浅倉は、差し出した手をそのままに、額から汗を垂らす。
「なぜと云われても、私は勝手やっているからで~す。組織、大変。私自由」
「……成程じゃぁ、自由契約ってのはどうかしら? 鹿鬼が出たら、共闘する。それ以外は、干渉しない」
「……まぁ、その条件なら考えてもいいですが……」
「それで十分よ」
「それにしても、アガノは、私が断ってもその手を引っ込めませんでしたね。何故ですか?」
「それは、貴方と共に戦いたいのと、貴方にくっつけてもらった腕がどれくらい機能しているのかを、貴方に確認してもらう為よ」
「アガノ……貴女は面白い女性ですねぇ」
その言葉を最後に、パインはアガノと強く手を握る。
そしてこの時、条件付きとはいえ、鋼組に待望のメンバーが増員された。
一周年記念としまして、本日連続投稿させていただきます。
よろしくお願いします。




