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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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久しぶり

 少女は小走りで、片桐に近づく。


 くぁぱぁぁ!


 少女の口が大きく開く。

 鋭く発達した二本の牙が、片桐の首筋を狙って襲いかかる。


「片桐さん、危ない!」


 浅倉が、大声をあげて、注意を促す。……が次の瞬間……。


「ごふぇぇええ!」


 少女のみぞおちに、片桐のボディーアッパーが炸裂する。


「なっ、わごぅ……た……」


 片桐は、立ち上がり、少女に(さげす)んだ目を送る。そして、一度肩を回すと、体勢を整えた。


「で……なんだ? 何を云っているのか分からないが。『なぜ、分かったのか?』そう、云おうとしているので合っているか?」

「ゼィゼィ……ぞうだ……なぜ、私がおぞうどわがっだ……」


 片桐は、手錠を取り出すと、地べたに倒れている少女の腕を、後ろで拘束する。


「……そうだな、何故か教えてやろう。前回お前と会った時の被害者、あれがこちらの調べで、22歳と、とても父親の年齢では無い事が分かってな。つまり、お前が若い男を干からびさせる犯人だとは目星がついていたのさ」

「ちっ、やはりあの時に片付けておけばよかったか……。あの時は腹が膨れていたので、つい取り逃がしたが、それが仇となったか……」

「まぁ、こちらとしては、お前の都合なんぞは知ったことではない。……だが、何故こんなことをしているんだ?」


 すると、少女の顔から笑みがこぼれる。


「そうか、そうか……。お前たちは、そこまでは分かっていなかったのか」

「どういう意味だ!」


 少女は膝を付きながら、ゆっくりと立ち上がる。

 すると、風も吹いていないのに、お団子に纏めていた髪が解けた。


 ブワサァァ!


 ほどけた髪は長く、少女の腰まで垂れ下がる。

 しかし、驚くべきはそこでは無い。なんと、お団子の下に、角が隠れていたのだ。


「おっ、お前は人型の鹿鬼か?」

「ふっ……、『鹿鬼』でも『柿』でもいいけれど、私にはちゃんと名前が在るの。そっちで、呼んでもらえないかしラ」


 少女から、とてつもない威圧感が発される。

 オーラと呼ぶか、覇気と呼ぶべきか……。いずれにせよ、ただならぬ圧力が三人を襲うのだ。


「なっ、なんだ、この威圧感は……だが、俺はこの威圧感を知っている……以前どこかで……」

「そりゃぁ、知っているでしょう」


 バキャーーン!


 少女の発言と共に、手錠が粉々に砕ける。


 ペロリ!


 少女は舌を出し、唇を嘗め回す。

 そして、上空に右手を振りかざすと、そこには、真っ黒い鞭が出現した。


「まっ、まさか、それは!?」


 片桐に戸惑う間も与えず、鞭が飛んでくる!


 サシュゥ!


 だが、片桐は、後方にジャンプし、鞭は空を切る。


「……忘れもしない。その鞭……お前……恐呼(きょうこ)だな……」


 恐呼は鞭をまとめると、髪をかき上げる。


「ご名答! 久しぶりね。槍(おとこ)

「おぃまて、その呼び方には訂正を求める。ヤリ男は、そっちに居る、軽薄な男だ」


 片桐は、すかさず、柏木を指差す。


「おぃおぃ。片桐、あまり失礼な事を云うなよ。俺のどこが軽薄だって? それに、お前は薄情なんだから、大して変わらないだろう。同じ薄いって漢字を使用している者同士、仲良くしようぜ」

「はっ、お前なんかと仲良くできるか!?」


 その喧嘩に、恐呼はあっけに取られる。


「……あなた達って、イケメンなのに、仲が悪いのね……」

「まぁな。生まれつき、あいつとは、仲が悪くてな……。まっ、でも、今、新たにコンビが結成されたところさ。俺は薄情で、アイツは軽薄。合わせて薄々ペアさ……」


 片桐が大きく腕を横に広げながら、首を左右に振る。誰が見ても、ダメダメとアピールされている事が、受け取れる。

 だが、それと同時に、恐呼の背後、頭上から、浅倉が刀を振り降りる。


 ガキャァアアアアン!


 まるで金属が衝突したかの様な音が、辺り一面に響き渡る。

 恐呼は両手いっぱいに鞭を張る事で、その攻撃を受け止めていたのだ。


「……あら、そう云えば、もう一人いたわネ。薄いメンバーが……」

「……なによ。影が薄いとでも云うのかしら?」

「いいぇ、アナタが薄いのは、()って云いたいのですヨ」


 プチーン!


 浅倉が切れた。

 一旦距離を取った所で、感情をむき出しに、大きく剣を振りかぶる。


「恐呼……私に喧嘩を売るなんて、いい度胸ね。殺されたいの? それとも、一生寝ていたいの?」

「……フフフ……残念ながら、どちらも遠慮するワ。それよりも、どぉかしら私の美貌」


 恐呼は、その場でクルリとターンを決める。

 まるで、パリコレモデルがポーズを決めるかのように、腰に手を当てて、一瞬止まった。


「どうかしらって云われてもね……。……まっ、あえて感想を云わせて貰うとするならば、おばさんが、ガキになったって所かしら?」

「……口が減らないわネ。若返ったとは云ってもらえないのかしラ?」

「云うわけ無いでしょう!」


 浅倉は叫びながら、恐呼の首を薙ぎに行く。……が、恐呼は、それを受け止める。


「ちぃ!」


 舌打ちをすると、今度は喉元に突きを仕掛ける。だが、それも、ピンと張った鞭により受け流される。


「恐呼、しぶといわよ」

「……それはあなたの方じゃなくテ? しつこい女は嫌われるわヨ」


 浅倉は、恐呼と無駄口を叩きながらも、連続攻撃を仕掛ける。

 だが、恐呼はその攻撃を(ことごと)く防ぐ。


「おぃ、能面、俺たちの武器はいつ届く?」

「水沢からの回答によると、後1分程度だそうだ……」


 片桐と柏木の武器は、囮作戦の際に持っていると、餌が食いつかないと予想された。

 よって、敵が餌に食いついた後、空輸にて運ばれる手はずとなっていたのだ。


「あらあら、聞こえちゃったワ。あと1分であの二人に武器が届くんですってネ」

「……だとしたら……なに?」

「いぇ、アナタ一人で、私の事を、止めることが出来るとお思いデ?」


 そう、いつしか戦況は反転していた。攻める側が恐呼、受け止める側が浅倉となっていたのだ。

 ……だが、それでも浅倉は善戦していた。

 以前の浅倉は、相手の攻撃を受け止めてからの反撃する。つまり、タイムラグの多い戦い方であったが、今は違う。

 相手の攻撃を受け流し、その動作の延長に攻撃がある。

 敵の攻撃を受け流す技、三神絶世流(みかみぜっせいりゅう)静流駆(しるく)が、着実に自分のモノとなっていたのだ。


「……前より強くなったじゃない、洗濯板!」

「だれが、洗濯板よ。あんただって、変わらないでしょうまな板! それに、私の名前は上乃、浅倉上乃よ! 覚えておきなさい!」

「アガノ……ネ。まっ、墓標に掘らないといけないから覚えておいてあげるワ」

「バカ云わないで、墓標を掘るのは私の方よ!」


 浅倉は、刀で飛んできた鞭を打ち払う。すると鞭は失速し、再度攻撃をする為、一度、恐呼の後方へと下がる。

 鞭は、一度引いてから、スナップを利かせる事により攻撃力が生まれる。

 浅倉は、この攻撃の狭間であるスキを狙っていた。

 鞭が後方へ下がったこの瞬間に、一気に間合いを詰める。

 そして、刀の間合いに入り込むのだ!


「もらった!」


 浅倉が吠える!

 恐呼の鞭は、まだ後方にある。

 浅倉は、右手を大きく振りかぶり、一気に振り下ろす。

 剣道で謂う所の、右片手上段切りに近い。


 ザシュゥゥウウウウ!!


 腕の切り落とされる鈍い音が、周囲に木霊する。

 錐揉(きりも)み状に、腕が上空へと昇って行く。

 最高到達点までたどり着くと、腕は、自由落下を始め、地面へとたどり着いた。


 ドサァァァア。


 土嚢袋(どのうぶくろ)に詰めた砂を、地面にぶち()いた様な、鈍い音が耳を打つ。

 切り落とされた、腕からは、ドクドクと真っ赤な血が流れ出ていた……。


 浅倉と、恐呼はお互いに睨み合う。


「恐呼……あんた、一本でも強いわよね?」

「まぁね。一本でも、充分強いし、戦えるワ」

「そう……」


 浅倉は、切り落とされた腕へと、ゆっくりと近づく。

 そして、床に転がっている腕に、そっと触れる。

 腕は切り落とされても、未だに握っているものを離さない。

 浅倉は、そんな指を、一本一本ゆっくりと解きほぐし、握っているものを取り出した。


「ふぅ……まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 ……そう、なんと腕を切り落とされたのは、浅倉の方だった。

 浅倉は、左手に刀を持ち替えると、再びそれを構える。


 ……浅倉の目は、まだ死んでいない。

 深手を負った虎が、獲物を睨みつける!


「……ねぇ、恐呼。あんたいつから()()で鞭を使うようになったのよ」


 なんと、恐呼の両手には、鞭が握られていた。


「え~っとねぇ、今さっき? てへッ。ところで、上乃ちゃんは、まだ戦うノ? 右腕から、ダラダラと血が流れているわよ。そのままだと、出血多量で、死んじゃうんじゃないかなァ~」

「やかましい! 私は、まだ戦える!」


 自分を鼓舞させ、気合を入れる。だが、ただ立っているだけなのにもかかわらず、バランスが悪い。

 それでも、持ち前の体感を駆使して、浅倉は体勢を整える。

 そう、気力だけで立っていたのだ。


「恐呼……くらえぇぇえええ!」


 浅倉は、渾身の力を振り絞って恐呼に切りかかる。

 ……だが、右腕がないので、バランスが悪い。

 攻撃のリズムに、力の入れ方。それら全てが、バラバラだった。


 ドゴゥ!


「うっ!」


 ……そして、事もあろうか、浅倉は、恐呼の足蹴りで地面に倒れ込む。


「弱い、弱すぎるわ……上乃ちゃん。それに、残りの二人も、まだ武器が届いていないみたいネ……」


 ……そう、この場に、片桐と柏木の両名はいなかった。その要因は2つある。

 1つ目は、浅倉と恐呼は常に移動をしながら戦っていたという事。

 2つ目は、敵に武器を取られない様にする為、若干離れた場所に武器を落下させた為だ。


「さて、それじゃぁ、サヨナラ! 上乃ちゃん!」


 恐呼の鞭の刃体部分が、地面に横たわっている浅倉の心臓めがけて襲い掛かった。

 再び恐呼の出現です。

 恐呼の話し方、個人的には好きなのですが、最後の1文字だけカタカナに変換するのが意外と面倒だったりします。w

 さて、2月も半を過ぎました。

 ……そう。間もなくこの作品も一周年を迎えるのです。

 いやぁ、すごいですね。

 そんなわけで、一周年企画としまして、小さじ一杯の魔女にエピソードを追加しようと思っています。(そっちかい!)


 これを読んでくださっている方、一年間応援ありがとうございました。

 また、引き続き応援のほどよろしくお願いします。

 <(_ _)>


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