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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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夜道を歩こう

 上乃の誕生日会も終わり、一週間が経過しようとしていた。

 しかし、この一週間、埼玉では、毎日の様に奇妙な事件が世間を騒がせる。

 若い男が襲われるといった事件だ。


 指令室では、三沢が地図システムを広げながら、腕組みをする。


「……参謀、お悩みですか?」


 尾花沢が、お茶をお盆に載せて、指令室に現れた。


「あっ、尾花沢さん、ありがとう」


 三沢は尾花沢からお茶を受け取ると、一口すする。


「参謀が悩むなんて、珍しいですね」

「……買いかぶりすぎよ。私は年中悩んでいるわ」

「そうなんですか? では、それをおくびにも出さないんて、それこそ凄いですね。……で、何をお考えで?」

「……えぇ、……これよ」


 三沢は、尾花沢に質問されると、エンターキーを叩く。

 すると、大宮、浦和周辺の地図に、赤い点が表示される。概ね20カ所といった所だろうか。


「……これは、何の地点を落としたモノなのですか?」

「これはね、若い男が襲われた地点よ」

「……っ! それって……」


 尾花沢は最近噂されている、イケメン男子が襲われるニュースを思い出した。

 

「そういえば、そんなニュースが世間を騒がせていますね。……で、これが我々と何の関係があるのですか? 強盗とかなら、警察の仕事では無いのですか?」

「そうね……でも、そうとも云えないのよ」


 三沢は写真ディレクトリを選択し、数枚の写真を表示させる。

 表示された写真は、どれも細身の中年おじさんが写っている。……だが、問題はそこではない。

 それらおじさんは、どれも干からびて死んでいるのだ。


「うわぁ、おじさんのミイラですか?」

「えぇ……でも尾花沢さん、1つ間違っているわ」

「間違えている?」

「……そう。これらの写真は、おじさんでは無くて、若い男の人だったの」

「……えっ! ってことは……今襲われているイケメン男子ってもしかして……」

「……その、もしかしてよ。今映し出されている、彼らよ」


 尾花沢は、驚きのあまり、手に持っていたお盆を床に落とした。


「あっ、すみません……つい……驚いてしまって……って……あっ!」


 尾花沢はお盆を拾い上げると、ある事が気に掛かる。


「参謀、1つ聞いても?」

「どうぞ」

「この襲われる人って、幾つ位の男性なんですか?」

「そうね……」


 三沢は、頭の中で、男たちのデータベースを思い返す。


「若いと18歳からで……最高は28歳だったかしらね……」

「にっ……28? 既婚歴とか、子供がいたりとか、そういう例はありますか?」

「えっ、既婚歴?」


 三沢は、質問の意図が分からないと感じながらも、再び記憶の引き出しを開ける。


「そういえば、3人ほど既婚者が居たわね。子供が居たかまでは、覚えていないけど……」


 尾花沢の顔が青ざめる。


「参謀……この事件って、春日部じゃ発生していないですよね」

「春日部? 春日部市では、発生していないはずだけど……どうしたの? 兄弟とか、親戚にイケメンがいるの?」


 三沢の質問に対し、尾花沢は首を左右に振る。

 だが、その顔は、明らかに何かを心配している様子だ。


「尾花沢さん、親戚がいる訳でもないのに…………! って、あぁ!……そう謂えばきいたわ。金成重工のお孫さん、春日部に住んでるんでしたっけ?」


 すると、尾花沢の顔が耳まで真っ赤になる。


「えっ、さ……参謀。その話は何処から?」

「それは、氷山のゴシップ記者。うどちゃんよ」


 ピクッ!


 尾花沢の耳が動く。


「……うど……?」


 尾花沢の顔色は、赤色のままだが、目の形だけは三角形へと変化する。


「うどぉぉおおお! あいつは干しシイタケ決定ね」

「あははは……尾花沢さん、まぁ、お手柔らかにね……」


 三沢の顔は、一瞬崩れて、笑顔を作り出す。……だが、直ぐに真剣な眼差しに戻る。そして、再び地図システムを睨み付けながら、思考を巡らせた。


 若い男を、中年おじさんにして、干からびさせる。

 これは、人がどうこう出来るものでは無いわよね……。

 つまり、妖鬼の仕業……いぇ、どちらかというと、今回は妖怪の方かしらね。

 先日の布虫といい、妖怪が湧き出だしたのかしら……。ただでさえ鹿鬼に振り回されているのに、人材不足もいいところね。

 ホント、アルバイトでも募集しようかしら。『妖怪と戦える人募集。時給1円』とかって……。

 いゃ、ダメ……ダメよ。この考え方は、危険だわ。なんか、金沢支部長と同じ思考だわ……。


 三沢は自分にダメ出しをしながら、残りのお茶をすすった。



 ● ● ●



 満月が照らす丑三つ時、私は、片桐さんと柏木さんの3人で、大宮の市街地から、少し離れた場所を歩いていた。


「組長ちゃん、参謀から、指示された道はここでいいのかい?」

「えぇ。そのはずよ。……さて、噂のイケメン狙いと、鉢合わせる事が、出来るかしらね」

「……わからん。ただ、参謀の読みではここら辺に出現するとの話ですからね……」

「まっ、もし会えても、俺らに掛かれば余裕だろう。……それに、もしダメでも、そこの能面野郎を囮にして、逃げちゃえばいいんじゃね?」

「……いゃ、そんなことは無いさ。俺なんかよりも、お前の方が、世の女性の為になる。ここは心苦しいが、お前にその役を譲ろう」


 私は、睨み合っている二人の間に、割って入る。


「二人とも、落ち着いて。そんなに、いがみ合っていたら、敵が逃げちゃうかもしれないじゃない。今回は、三沢さんが作戦を立ててくれたんだから、敵はきっと来るわ」

「……確かにな。今回の作戦は、あの参謀が、必死に考えた作戦ですしね。これでも俺は、あの人には一目置いている」

「そうよね。片桐さんも、三沢さんには助けられていますものね」

「あぁ……無駄に美人で、無駄に賢い参謀であると俺は思っているよ。……まぁ……そのせいで、婚期は遅れているがな……」

「……え?」

「おっ、珍しく意見が合うな、能面! ……だが、分かるぜ。参謀の、美貌(びぼう)知謀(ちぼう)。彼女は、二物を持って生まれたが故に結婚出来ない。そぅ、負け美人だよな……」


 ……二人とも、本人が居ないからといって、酷い言い(ぐさ)ね。

 今頃三沢さん、くしゃみでもしているんじゃないかしら?

 ……でも、なまじ 実績があると、そういう風に思われてしまうのね……。


「……って、あっ! そうか!」

「どうした、組長ちゃん」

「いゃ……それじゃぁ、私も、数年したら、三沢さん見たいになっちゃうのかなぁ……って」

「ならんだろう!」

「ならねぇぜ!」


 ガーーーン!

 ……ふっ、二人とも酷いわ……。


「どうして、三沢さん見たいにならないって決めつけるんですか。これでも私、士官学校を、主席で卒業したんですよ!」

「いゃ、しかし……。組長って、今までの生活から判断するに、暗記が得意なタイプですよね。だから、テストでは点数が取れるタイプ。()()()()は取れるタイプですよね」

「……片桐さん、二度も云わなくて良いです。それに強調しなくてもいいです。自分でも分かっていますから……」

「……まぁ、実際問題。組長は、教科書通り、つまり定石であれば、強いのでしょう。……ただ、いまある知識を応用して、新しい一手を生み出す力は、参謀の方が格段に上です」

「……そんな事、云われなくたって、分かってますよぉ……。でも……少し位、夢見たっていいじゃいですか」

「……夢? ……はぁ……組長、何を云っているのですか。夢を見ることが出来るのは、乙女の特権ですよ」

「おぃ、ちょいまて!」


 片桐さんの肩を鷲掴みにする。


「私、乙女! わかる? Do you understand ?」

「いっ、イエス・サー」

「……そう。分かればいいのよ。分かれば」

「いや……ですけど、夢を見るのは勝手ですが、参謀にはどうしても(かな)わないものモノもありますよ」

「……なにそれ、顔の良さとか云うんじゃ無いでしょうね?」

「いぇ……まぁ、でも半分は当たりですかね」

「なによぉ……」

「えーっと……美貌と、スタイルです」

「あー、確かに、分かるよ。組長ちゃんでは、大人の色気がないもんな。それにスタイルも……動きやすそうだしな……」

「……なっ、何ですか、その動きやすそうって。バカにしているんですか?」

「いゃいゃ、誉めているんだって。尾花沢見たいに、バインバインしてたら、組長として、戦えないだろう?」

「……なっ! どうせ私は、尾花沢さん見たいに、実ってませんよ。バインバインじゃなくて、悪かったわね!」

「いゃ、悪いとは云っていない。軽そう……いゃ、機動力に特化しているとは思っているけど……」

「……ほぅ……軽そう……と……」


 私は、目を細め、細く息を吸う。


 ギラリ!


「か・し・わ・ぎ……あんたは、後でカワハギにしてあげるわね……」

「いっ、いゃ……皮剥って……それって、拷問じゃないのか? それに、ちょっと待ってくれ。勘違いをしているかもしれないが、俺は組長ちゃん押しだ」

「……へ~~~ぇ。…………じゃあ、どのくらい私を押しているのかしら?」

「……どのくらいと云われも……足のツボくらい? かな……」

「……何それ……押してるの? 押すと痛いの? 私、痛いの? ……あっ、私、痛い女だと思っているのね。そうなのね」


 私は、腰に刺さっている短刀に手を掛ける。


「ちょい、待て、待て、組長ちゃん。……刀は危ないからな。ドウドウドウ」

「ドウドウって、私は、馬か!?」


 私は、再び柏木を睨みつける……が、その背後に少女の影が映る。


「ウフフフ……なんだか楽しそうね。私も仲間に入れて頂いて、宜しいかしら……?」

 

 突如として、聞こえる、女の声に一同が振り返える。


 ……この子……14歳くらいかしら。

 お団子風に、二カ所で、髪を纏めているのがなんとも可愛いらしい。

 細身で。お嬢様風な佇まいだ。

 将来美人さん確定の顔をしている……が、あの話し方は幼くない。


「えーと……お嬢ちゃん? 貴女は……一体誰かしら?」

「……私? まぁ、私の名前なんて、お気になさらず。それよりも、そちらの男性二人にお尋ねします。そんなガキくさい女より、私と遊びませんか?」

「あら……それは中々聞き捨てならないわね。どう見ても、あなたの方が、子供じゃない?」


 私は、一歩前に足を出す。……が、片桐さんが手で前を塞ぎ、通せんぼをする。


「君は……以前お父さんが倒れていた時に、道で会った子じゃないですか?」

「おぉ、あの時の女の子か。片桐、よく覚えていたな。ちなみに俺は、酔っていて、全く覚えていない」


 ……えっ、二人は、彼女に面識があるの?


「あっ、その節はお世話になりました。父は、無事病院で元気になりました」

「そうか、それはよかった。あの後、お父さんが無事に回復したのか、気になっていたのですよ」


 片桐さんが、両手を広げて、心を開いている意思表示をする。


「おっ、お兄さん、優しいのですね……ぽっ」


 女の子が、少し顔を赤らめて、恥じらぐ。


 えぇぇええ。この女の子、もしかして、片桐さんのこと一目惚れでもした?

 ……まぁ、その気持ちは、分からなく無いけど……。


「私、あの時、お兄さんを見て、カッコイイって思ったんです」

「そうなのかい?」


 片桐さんは、腰を落として、女の子と目線の高さを同じにする。


 ……ちょっ、なに片桐さん、女の子が抱き着きやすい様にしゃがんでいるのよ。

 もしかして、片桐さんって、ロリコン? いゃ、14歳なら来年結婚できるから、ロリコンじゃないか。

 でも……そんな趣味……いゃ、かわいいけど。


 私が悩んでいる間にも、女の子は一歩ずつ片桐さんに進んでいる。

 ……これ、間違いなく片桐さんに抱き着くわ。

 ……ほら、少し小走りになってるし……。


「お兄さん。私、貴方の事、一目惚れしてしまいました。だから……」


 女の子が、片桐さんの胸に飛び込む!


「お兄さんの血、吸わせてくださいねぇぇぇぇええええ!!!」


「えっ!?」


 女の子が、パックリと口を開けると、銀色に輝く牙が、月明かりに照らされた!

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