上乃の誕生日(後編)
その後、食べて飲んでの誕生日会は、和やかに進んだ。
そして、誕生日会は、終盤へと差し掛かろうとしていた。
「上乃ちゃん、こっちに来て!」
「こっち?」
浅倉は、尾花沢に呼ばれるがまま、食堂の上座へと向かう。
浅倉が、上座に立つと、尾花沢がエアーマイクで全員に声を掛ける。
「それでは、みなさん。今から誕生日プレゼントの授与式を行います! 各自順番に並んで下さい!」
「えっ? 私なにも持ってきてないわよ」
「何云ってるの、上乃ちゃんは貰うのが仕事よ! じゃ、私からいくわね!」
そういうと、尾花沢は、キレイに包装された紙袋を浅倉に手渡す。
「……これ……」
「お誕生日おめでとう、上乃ちゃん。さっ、開けて開けて」
浅倉は、多少戸惑いながら、紙袋を開ける。
「えっ、これ……素敵だけど……私に?」
「ふっ、ふっ、ふっ。そうよ。上乃ちゃんに似合うかと思って」
「いゃ、でも……」
浅倉が手にしているのは、なんとブラウスとミニスカートだった。
「上乃ちゃんって、いつも遊びに行くとき、ズボンじゃない。私物にスカートなんて、持っていないと思ってね」
「……確かに持ってないけど……」
「じゃっ、今履いて!」
「えっ、今⁉」
「そっ、! そこの物置でちょっと履き替えて!」
「えぇぇええ!!!」
「は~い、今から上乃ちゃんのスカート初披露を行います!」
「「「おぉぉおおお!!」」」
酒に酔っている、男どもは無駄に盛り上がる。
特に飲んだくれている、整備班の男どもは、歓声を上げては見たものの、尾花沢の話など全く聞いていない。
「ひくっ! なに? 片桐がスカートを履くのか?」
「う~、ひくっ! なんだ、そうなのか。俺は別にあいつのすね毛なんか見たくないけどな」
整備班は、そもそも誕生日とは知らずに酒を飲みに来た連中だ。
彼らにとって、余興は酒の肴以外のなにものでもなかった。
「では、お待たせしました! 本邦初公開! 上乃ちゃんのミニスカート姿です!」
尾花沢がガラリと物置の扉を開ける。
「「「おぉぉおおおお!!」」」
いつもは、戦いに身を置く凛々しい姿の浅倉だ。しかし、今日は、それとは打って変わり、想像以上にかわいらしい浅倉の姿がそこにはあった。
「上乃ちゃん、かわいぃぃ!」
「上乃っち、可愛い!」
尾花沢と、水沢が浅倉に飛びつく。
「二人とも、ありがとう。……でも、なんか恥ずかしいわ……」
浅倉は、恥ずかしそうに、スカートのすそを抑える。
「何云っているのよ。上乃ちゃんは元がいいんだから、それくらいしないとね!」
「フフフ。盛り上がっている所、いいかしら。浅倉組長、私からは、これを」
一歩前に出て来た三沢が小箱を浅倉に渡す。
「えっ、三沢さんも私に? 開けてもよろしいですか?」
「もちろん!」
浅倉が小箱のリボンを解くと、そこにはなんと真っ赤な口紅が現れた。
「えっ……これって……」
「浅倉組長に似合うかなって思って買って来たのよ」
「あっ、ありがとうございます」
少し困惑した表情を浮かべる浅倉に、今度は、水沢がプレゼントを渡した。
中身を空けると、なんとそこにはチークとファンデーションが入っていた。
「……あのぉ……三人とも……」
「あら、浅倉組長、何か云いたそうね」
三沢が、手を口元に当てて、フフフと笑っている。
「これって、絶対に、三人で話し合って買っていますよね」
「あら、バレちゃいました?」
「分かりますよ! こんな、照らし合わせたかのように、おしゃれアイテムしか無いプレゼントなんて……。……わっ、私に似合いますかね……」
「似合うに決まっているでしょう。私が教えてあげるから、今からメイクしに行きましょう!」
「へ?」
浅倉は、三沢に連れられるがまま、またしても一時退場となった。
そしてまた、食堂の奥で飲んだくれている整備班共は、人の話を半分だけ聞いていた。
「おぃ、柏木が口紅をしてくるらしいぜ」
「マジか、それは気持ちが悪いな」
「片桐のミニスカが勝つか、はたまた柏木の口紅が勝つか⁉」
「おぉ、いいね。最初あいつら喧嘩していたもんな。じゃぁ、気持ち悪い方が勝ちな」
「乗ったぜ! 俺は柏木が勝つ方に賭けるぜ!」
「うへへへ、じゃぁ、俺は片桐だ!」
誕生日会とは別に、食堂の角地では危険地帯、keep outの虎テープでを張らなくてはイケない状況が出来つつあった……。
● ● ●
「皆さん、大変長らくお待たせいたしました! 只今より、フルメイク上乃ちゃんの登場です! みなさん、ライスシャワーでお迎えください!」
「尾花沢、それ、結婚式だ!」
周りから笑い声が上がり、場が和む。
食堂の扉が開くと、髪までまとめて来た浅倉が、食堂に足を踏み入れた。
「上乃っちキレイです!」
「お姉ちゃん、奇麗!」
浅倉を称賛する声が、あちらこちらから上がる。
「さて、フルメイクした上乃ちゃん、感想を一言」
顔まで真っ赤にした浅倉は震えながら、両手を合わせる。
「……私、今までこんな風におしゃれしたことが無くて、にっ、似合いますか?」
「何言ってるの、とってもお似合いよ」
「おぅ! 片桐がスカートはくより似合うぞ!」
「そうだ! 柏木が口紅するより似合っているぞ!」
「……おぃ、そこの角の酔っ払いども! ちょっと黙っていてくれる! 後で干ししいたけにするわよ!」
どさくさに紛れてチャチャを入れる整備班に、尾花沢が一括する!
「上乃ちゃん。バカはほおっておいて、本当に似合っているわよ」
「……すいちゃん……ありがとう。こんな服装、自信が無かったけど、なんか少し自信がもてそう」
パチパチパチ!
周りからはめでたい歓声と、拍手が上がった。
「さて、野郎ども! 可愛くなった上乃ちゃんにプレゼントを渡すチャンスだ! 目の前でこんなにカワイイ上乃ちゃんを見られるなんて幸せに思え!」
「「「うおぉぉおお!!」」」
柏木が音頭を取り、酔っ払いが無駄に盛り上がる。
「さて、誰からプレゼントを渡す!?」
「はいぃぃい!」
整備班が手を挙げる!
「俺は、この枝豆を!」
「じゃぁ、俺は、熱い口づけを!」
ボフゥゥゥウウ!
尾花沢のボディーブローが整備班共に炸裂する。
「ふっ……寝言は、死んでから云いなさい!」
「……死んでしまっては、寝言も云えないのでは…………」
浅倉が小声で突っ込みを入れる。
「さて、仕切り直しよ! 上乃ちゃんに、プレゼントを持ってきた人は並びなさい!」
すると、なんと楠が一番手に並んだ。
「はい、お姉ちゃん。お誕生日おめでとう。とっても奇麗ですね」
「楠君、ありがとう。開けても良い?」
「はい」
浅倉は、楠から受け取った紙袋を開ける。
すると、中には、フェイスタオルが入っており、端には可愛らしいウサギの絵柄が刺繍されていた。
「かわいい。ありがとう楠君」
「いぇ、お姉ちゃん、いつも剣のトレーニングしているので、その時に使ってもらえればと思って」
「うん。練習の時に使わせてもらうね」
浅倉は、楠と握手をして別れた。
「さて、次は俺の番だな!」
楠の次に、浅倉の目の前に立ったのは、柏木だ。
柏木は、四角い箱を手渡す。
大きさはフェイスタオルを四分の一に折ったくらいの大きさだろうか。
「え~っと、……これは?」
「おぅ。これは俺が熊本に行った時、買って来たものなんだよ。ほら、俺、こないだまで沖縄に出張していたろ。……で、帰りに寄った九州で買って来たんだ」
「へ~、じゃぁ、珍しい物なんですか?」
「なんでも、江戸時代では、大奥に謙譲していた程の品物らしいぜ」
「そんなに良い物なんですか?」
「おう。是非使ってくれ」
「……使ってくれ……ですか。開けてみても?」
「もちろん」
浅倉は、柏木から受け取った箱を開ける。
すると、そこには、白く乾燥した芋がらが、奇麗に束ねられている。
大きさと形はズッキーニに似ているが、ギッチリと縛っている為、表面はゴツゴツとしている。さながら、鍛えあげられた腹筋の様なデザインのズッキーニと表現すれば分かりやすいだろうか。
(注 芋がらとは、サトイモ等の茎の総称です。よく絵本等で描かれている、子供が雨傘に使っている大きな葉っぱの茎。あれを乾燥させた物です。煮て食べると美味しいです。かんぴょうを思い浮かべてもらえば、かなり近いものかと思います)
……だがしかし、その芋がらを見た瞬間、浅倉の手がブルブルと震える。
「え~っと、もう一度お聞きしますね。……柏木さん、私にこれを『どうしろ』って云いました?」
「いゃ、だから使ってくれと……」
「……そうですよね。『食べてくれ』ではなく、『使ってくれ』と云いましたよね」
「因みにこれの名称は『肥後ずいき』って云ってな。使い方は、ぬるま湯で戻し……」
ボフゥゥゥウウウウウウウウ!!!
浅倉のボディーブローが、柏木に炸裂する!
浅倉は、赤面しながら、床に倒れている柏木に箱を叩き付ける。
「こっ、こんなものをプレゼントするなんて信じられません!」
浅倉が急に取り乱したことから、楠は心配になり、浅倉に近寄る。
「えっ、お姉ちゃんどうしたの? これって、そんなに危険な物なの?」
楠は縛られた芋がらを拾い上げる。……が、浅倉は慌てて奪い取る。
「なっ、なんでもないのよ楠君。この事は忘れて、今日はもう寝ましょう」
「えっ、いや、でも、まだ……」
スーーーー。
浅倉の目が坐る。
「……だめよ、寝なさい。……これから、この部屋は模様替えをするの。……そう……明日の朝になったら、ここの床は赤色に染まっているから楽しみにしていてね」
「……えっ?」
楠の顔が引きつる。
「……さて……今から私は、このアホウに正義の鉄槌を……」
「まぁまぁ、上乃ちゃん、龍ちゃんには、私から後でしっかりと叱っておくので、ここは穏便に……ね」
尾花沢が慌てて間に入り、浅倉をなだめる。
「はぃ。では、気分を変えて、次のプレゼントに移りましょう! 次はギリちゃん!」
突如指名された片桐の顔が引きつる。
「……おぃ、尾花沢。この空気の中、なぜ俺を指名した」
「いゃ、ギリちゃんなら、変な物をプレゼントしないだろうと思ってね」
「……まぁ、変なモノでは無いが、喜んでくれるかどうかは……分からないぞ……」
片桐は、少し恥ずかしそうに、紙袋を手渡す。
「組長、誕生日おめでとう。気に入るかどうかは、分からないけど……」
「あっ、ありがとうございます」
浅倉も少し照れながら受け取る。
「あっ、開けてもいいですか?」
「あぁ」
浅倉が紙袋を開けると、そこにはなんと、真っ白いベレー帽が入っていた。
「えっ、これって……」
「あぁ、前に皆で大宮観光に行った時、組長が、一生懸命見ていたやつだ。それを被れば、少しは組長としての貫禄も出ると思ってな……」
「あっ、ありがとうございます。被って見ても?」
「……もちろん」
浅倉はベレー帽をかぶる。
「上乃っち、素敵です」
「上乃ちゃんカワイイ! ねぇねぇ、三沢さん、上乃ちゃんの制服に、このベレー付けましょうよ」
「そうね。浅倉組長の戦闘服って白ですし、絶対に似合うわよね」
「いぇいぇ、三沢さん。制服に勝手にベレー被る訳にはいかないじゃないですか!」
「……いや。女性用戦闘服って、浅倉組長専用で作っているのよ。だから、多少カスタマイズしても問題ないの。それに確かにベレー帽をかぶった方が、少し貫禄があるかもしれないわね。よし、後で支部長には私から云っておくわ」
「えぇえええ! そんなんで良いんですか?」
「いいのいいの。私達も、敵になめられちゃお終いよ!」
「そんなものですかね……」
ともあれ、浅倉の制服に、ベレー帽が加わったのであった。
追伸
肥後ずいきは、後日片桐が美味しく調理してくれて、皆で頂きました。
はい。ドタバタ系の後編ですした。
……さて、言いたいことは分かります。
「肥後ずいきって何ですか?」って質問ですよね。
ですが、これは、あえて注釈を入れていません。
R15であるが由縁とだけ言わせてもらいます。
申し訳ありませんが、気になる方は自分で調べてください。<(_ _)>




