表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
50/101

すいの理想

 布虫に向かって、片桐と、楠が走り出す。

 その両名の背中に向けて、浅倉は声を投げかける。


「片桐さんは左翼から、楠君は右翼から畳み掛けて下さい」


 浅倉の号令と共に、二人は無言で頷くと、両サイドへと走り出す。

 浅倉は、それを見送るなり、刀を上段に構える。

 

「さて、私は挟撃を悟られない様にする為、布虫を引き付けるとしましょうかね」


 浅倉は、上段から下段へと円を描くように、グルリと一周刀を回す。


「すいちゃんに代わって、お仕置きの時間です!」


 浅倉は決め台詞の様に言葉をはくと、布虫へと走り出す。

 浅倉が、大きな動きを見せたせいか、布虫の注意が、浅倉へと向く。

 布虫の腕が、交互に浅倉へと襲い掛かるが、浅倉は、何なくその腕を切り落とす。


 やはり鹿鬼に比べると、速度、力、剛性……全てに劣るわね。唯一突き抜けているのは、回復力だけってところね。

 だが、それも……。


 浅倉は、余計な事を考えつつも、スパスパと布虫を切り裂く。

 一般人が浅倉達を見ると、布虫がとてつもなく雑魚に見え事だろう。

 だがしかし、それは、目の錯覚であると断言しよう。

 布虫とて、家を吹き飛ばすだけの力があるのだ。つまり、体長10メートルの熊が現れているの同義語、いゃ、それ以上と謂えよう。

 しかし、布虫も熊も、しょせんは野生の動物。本能だけで、破壊活動をするおろかな存在。

 敵の動きを予測しながら戦っている浅倉達にとっては、朝飯前となるのだ。


 浅倉の作戦は見事にはまった。

 正面に気を取られた布虫は、左右から挟み撃ちをした片桐らに、全く対応出来なかった。

 新聞紙を切り裂く様に、はらはらと、切り裂かれていくのだった。

 こうなると、もはや布虫は、散らばった雑巾の様にすら感じられる。

 頃合いを図った浅倉は、後ろを振り返って、喉の奥から叫んだ。


「すいちゃん、粉々に切り裂いたわ。この紙吹雪に鉄槌を食らわせて!」


 浅倉はウインクを飛ばす。


「任せて!」


 それに、尾花沢が答える。

 最後の力を振り絞って、地面にお札を張り付け、力を注ぎ込む。


「化け物……ここから消えなさい。か・い・も・ん!」


 尾花沢の叫び声と共に、地面から光の柱が(ほとばし)る。

 すると、細かく切り裂かれた体から、次々と煙が噴き出す。まるで、散らばっている新聞紙全てに、ライターで火を着けたみたいだ。


 あれだけ苦労をしたのに、呆気ない結末となった。

 布虫の体が全て燃え尽きると、灰が風に流される様に、空へと消えて行った……。


「流石はすいちゃんね。終わったわ」

「……そう……それはよかったわ……」


 グラッ。


 尾花沢が、膝を付いて、地面に座る。

 そして、倒れそうになったところを、少年が支える。


「……ハハハ、オラに助けられちゃったわね」

「何を云ってんだよ。ねぇちゃんが、オラをずっと助けてくれていたんじゃ無いか」


 少年の目から涙がこぼれ落ちる。

 その涙を見届けると、尾花沢の目からも涙がこぼれる。

 尾花沢の手のひらが、優しく少年の頬に触れる。


「……よかった。……あなたの命が救えて、本当に……よかった……」


 ドサッ!


 尾花沢は、力の限り少年を抱きしめようと首に手を回したが、その途中で倒れてしまった……。


「…………ちゃん…………目をあけてくれよぉぉぉ……」


 少年の言葉を聞きながら、尾花沢は深い闇の中へと落ちて行った。



 ● ● ●



「……ん……ここ……は……」


 尾花沢が目を覚ますと、そこは、カーテンで覆われているベッドの上だった。

 見知らぬ天井に、見知らぬ布団。

 尾花沢は、寝た状態のまま首を右に傾ける。

 すると、泣き疲れて、寝落ちをしたのだろう。少年が尾花沢の布団に、うつ伏せ常態で眠っていた。


「……オラ、泣き疲れちゃったのね。……それと、雰囲気から推測するに、ここは病院かしらね」


 尾花沢は落ち着いて、自分が置かれている状況と、自分の体の状態を確かめる。


「体も……まぁ、動くし……大丈夫そうね」


 尾花沢はゆっくりと体を起こして、ベッドに寄りかかる。


 ……さて、あの後戦いはどうなったのかしら……。

 情報を仕入れようも、インカムも無いし、誰もいないし……。


 尾花沢は窓の外の景色を見ながら、先の戦いを思い返えしていた。


 ……でも、病院にいると謂うことは、無事に戦いは終了したって事よね。

 よかった……。


 尾花沢は、自分の技が成功したことに、安堵を覚える。……が、なんの前触れもなく、カーテンが開く。

 カーテンレールが流れる音に、尾花沢が反応する。

 ……だが、開いたカーテンの先には、知らない男が立っていた。


 ……誰?


 尾花沢は、男を観察する。

 背が高く、スーツを着たイケメン。

 視角から得られる情報はそれだけだが、目の前にイケメンが現れたのだ。尾花沢にとっては、それだけで十分だった。


「あへ? どちら様でしょう?」


 尾花沢は驚きのあまり、つい変な声を出す。

 だが、目の前のイケメンは、そんな尾花沢の言葉を気にする様子もなく、すぐさま頭を下げる。

 

「……いきなりカーテンを開けてしまい、失礼しました。私は、そこで寝ている金成新次郎の父親で、金成兼有(かなりかねあり)と申します。この度は息子を助けて頂きましてありがとうございます」


 尾花沢は、横で寝ている新次郎の顔を見ると、父親の顔と見比べる。


 まぁ、なんとなく似ているかしら?


 そんな事を思いつつも、相手に合わせて、お辞儀をする。


「お礼を云って頂いて何なのですが、別に、私は何もしていません。助けたのは私では無く、私の仲間です……」


 尾花沢は、自分1人の力では無いことを告げると、首を左右に振った。


「……尾花沢さんは、謙虚な方なのですね。一通り、息子から話を伺っています。どの様にして、命を助けられたのか、どこまで尾花沢さんが体を張ったのか……。どれだけ傷付いたか……。もう、お礼のしようがありません」


 すると、兼有は、手に持っていた花束を尾花沢に手渡す。


「遅くなりましたが、お見舞いです。そうそう、もちろんここの医者代も、入院費も全て私の方で払わせていただきますので、尾花沢さんは、ゆっくりと体を休めて下さい」


 尾花沢は、キョトンとした目で、兼有の顔を見る。

 そう、この時代の医者代と入院費は、相当な金額を要するのだ。


「……えっ、いゃ、そんな悪いですよ。給料何ケ月分とかですよ。そんなの出してもらえるわけ、無いじゃないですか」


 尾花沢が、兼有に代金のお断りを告げた次の瞬間、病室に浅倉の姿が現れる。


「……あっ……すいちゃん……よかった……気が付いてくれて……」


 浅倉は、ゆっくりと尾花沢に近づくと、両手を広げて、優しく尾花沢を包み込んだ。


「上乃ちゃん、ごめんね。心配かけちゃったよね」

「ううん。それよりも、すいちゃんが無事でよかった……」


 二人は、がっしりと、抱き合い、安否を確認し合った。

 お互いに確認をし終えた所で、浅倉は、一旦離れる。


「そうそう、すいちゃん、こちらの方、紹介していなかったわよね」

「えぇ、そうですが、先程、金成さんと伺いましたよ」

「あっ、本当。それなら話が早いわ。こちら、私たちの煙突砲とかの技術提供をしてくれている、金成重工の専務、金成兼有さんよ。次期金成重工の社長さんね」


 尾花沢の目がまん丸に見開く。

 

「……えっ、……あの金成重工の専務?」

「はい。そして、そこで寝ている、新次郎の父親でもあります」

「えっ、あぁ、それは先程聞いたけど……専務?」

「はい。私が金成重工専務の金成兼有と申します。まぁ、威張れた事では有りませんが、それなりに金銭的には余裕があります。ですから、入院費はお気遣いなさらず、ゆっくりと体を直してください」

「……はぁ……」


 新次郎の父親というよりも、金成重工の専務である事に、尾花沢は驚きを隠せなかった。

 まさか、毎回自分が触っている機械の製造元の、それも専務にお会いする機会があるとは……と。


「……それにしても、あの新次郎が女性になつくなんて、思いもしませんでしたよ」


 尾花沢は、兼有の言葉の意味が理解できない。

 あんな女好きの子供が、女性になつかないと口にした為だ。

 父親が、不可思議な発言をしたことに、首を傾げる。


「……えーと、その……女性って、お母さま……奥様がいらっしゃいますよね。オラ、いぇ新次郎君は、母性を、とても受けて育っていたように感じられましたが……」


 兼有の顔が急に曇りだす。


「いぇ、残念ながら妻は1年ほど前に、病気により他界しまして……」


 尾花沢はマズい事を訊いてしまったと、(うつむ)く。


「大変失礼な事を訊いてしまいました。……ごめんなさい」

「いぇいぇ、事情を知らないのですから、仕方ないですよ」


 作り笑顔を浮かべながらも、兼有は話を続ける。


「実は、1年前に妻を亡くしてから、新次郎は心を開かなくなりました。……その反動なのでしょう。息子は悪戯(いたずら)三昧の日々をおくる様になりました。きっと母親が亡くなった事に対する憂さ晴らしだったのでしょう」


 兼有が大きなため息をつく。


「ただ、新次郎が悪戯をするのは、ただ母親が亡くなったからでは無いのです」

「……と、いいますと?」

「妻が無くなった後の事になります。先程も少し話に出ましたが、私は金成重工の次期社長となる人物です」


 尾花沢が小さく頷く。


「……ですから、妻が無くなったのにも関わらず、すぐに再婚を求める声が周囲から上がったのです。やはり、社長が独身というのは、体裁的に良くないらしく……」

「……それでは、オラ……新次郎君の気持ちは……どうなってしまうのですか!」

「……えぇ。私も、頭では分かっているのです。ですが、子供の気持ちよりも、会社の体裁……。私は、周囲の圧力に争う事ができずに、幾人かの令嬢とお見合いをする事になったのです」


 兼有が寝ている新次郎の顔を見る。


「しかし、この子からしてみれば、母親が亡くなって直ぐに新しい母親と云われても納得がいかなかったのでしょう。お見合いをする女性に対して、すぐに嫌がらせや悪戯をして、お見合いを破綻させてしまうのです。……まぁ、私としても心の中で、若干ホットしたのは否めませんが、息子の気持ちも痛いほどわかるんですよ。……ですから、そんな息子が妻以外の女性に懐いているなんて、信じられない光景なのです」


 尾花沢は横で寝ている新次郎の頭を優しく無でる。


「そう、あなた、お母さん無くしていたのね。だから、祠のお札を剥がしたり悪戯をしたのね。困った子だわ。フフフ」


 尾花沢は笑いながら、新次郎の頭を撫でる。

 その姿を見ると、兼有は驚きの表情を浮かべる。


「あっ……あの、尾花沢さんは、なんで笑っていらっしゃるんですか。息子のいたずらで、死ぬ思いをしたんですよ。愚息が憎く無いのですか?」

「ん〜、憎い? フフフ。まぁ憎ったらしいですよ。……でも……この子の気持ちも分かるんですよね。ですから、私は新次郎君が、お札を剥がした事を許せちゃうのかもしれませんね。あぁ、でも勘違いしないでくださいね。お札を剥がした事はきっちりと、叱りますから! 悪いことは、悪いと教えないと行けませんからね。教育とはそういうものです!」


 尾花沢が人差し指を立てて、兼有の顔に向ける。


「ぶっ!」


 兼有が、つい吹き出す。そして、お腹を抱え始めた。


「アハハハ、尾花沢さんは、面白い方ですね」

「そうですか?」

「えぇ、とっても」

「フフフフ」


 尾花沢も兼有につられて笑い出す。

 

「……そうだ、尾花沢さんお願いがあります」


 兼有は笑顔から一点、急に真顔を作り出す。


「はい、なんでしょう。私にできる事ならば」


 尾花沢も、笑顔で軽く承諾する。

 

「いぇ、尾花沢さんにしか出来ない事です」

「私にしか?」


 尾花沢は首を傾げる。


 ……除霊か何かかしら?


 そんな事を考えていたが、兼有のお願いは、尾花沢の予想の遥か上空を飛行していた。


「結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか?」

「…………はへ? …………はぃぃぃいい?」


 尾花沢、本日二度目の変な声を出す。

 尾花沢の記憶では、金成重工の専務の年齢は、確か26歳かそこいらだった記憶がある。つまり、結婚するのには申し分のない年齢だ。

 しかも、顔もいいし、身長も高い。何より金持ちだ! 尾花沢が旦那に求める金持ちでイケメンと謂う条件を満たしているのだ。

 ……もっとも、こぶ付というのは予定には無かった事であるが……。

 だが、一緒に居て、新次郎に母性本能がくすぐられるのもまた事実。

 新次郎の母親になるのも悪く無いと、少し考えてしまった。


「もし宜しければですが……」


 兼有が、尾花沢に手を差し出す。

 尾花沢は驚きの顔を隠せない。

 だが、おずおずと差し出された手を握り返す。


「わ……私なんかでよければ、是非!」


 二人が見つめ合うと、どちらともなく、微笑み返す。

 ……が、なんと、今まで寝ていたと思っていた新次郎が飛び起きる。


「やったぁ! ねぇちゃん、オラの母親になってくれるのか? ママになってくれるのか?」

「……いゃ、まだそうと決まったわけでは……」


 尾花沢が口ごもると、新次郎はベッドの上に座っている尾花沢に飛びついた。


「やったぁ、すいが母ちゃんになるってことは、このおっぱいは揉み放題だ!」


 そう云って、尾花沢の胸を両手で揉み始めた。


 ぷちっ!


 尾花沢のおでこの血管が切れた。っと同時に、新次郎の脳天にチョップが突き刺さる。


「オラ、あんた何しているのよ。ぶつわよ!」

「うぅぅ、もう、ぶっているじゃないかぁ!」


 その様子を見ていた兼有は、声を出して笑い出す。

 そして、そんな柔らかな笑顔を作り出す尾花沢に、一瞬で魅かれていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ