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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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布虫との再戦

 浅倉は、首を右へ左へと傾げながら、布虫を観察する。

 目尻を上げて「う~ん」と唸り、なにか納得のいかない顔を作り出す。


「何かおかしいのよね。間違い探しで、この辺、よく分から無いけれど、何かおかしいよねって感覚に似ているのだけれど……」


 浅倉は、独り言を口にしながら、布虫からの攻撃を華麗に避ける。どうやら布虫の攻撃は、浅倉にとって、回避するのに然程(さほど)難しい相手では無いらしい。よって、避けつつも、落ち着きながら、布虫の体を観察する。

 何度も攻撃を繰り出す布虫だが、一向に当たらないのに腹が立ってきたのだろう。布虫は、浅倉に渾身の一撃を喰らわせるべく、大きく腕を振り上げた。


 グワァ!


 だがその時、浅倉の目が大きく開いた! それと同時に、瞳孔も二周りは拡張する。


「あっ、分かった!」

「なんだ、何が分かったんだ?」

「この妖怪、一番上の腕の長さが違うのよ」

「一番上?」


 片桐も目を凝らしながら、腕の長さを観察する。

 すると、確かに一番上の腕の長さが、右腕よりも左の腕のほうが3メートル程短い気がする。そもそも、腕の長さが30メートル近くもある為、多少短くても気にはならない。

 ただ、他の腕の長さも同様に観察すると、確かに腕の長さは左右同じだった。

 つまり、一番上の腕だけ左右アンバランスなのだ。


「なぜ、左右の腕の長さが違うのかしら?」


 浅倉が呟くと、その呟きに対して、思いもしない方向から答えが飛んで来る。


「そんなの決まってらぁ! 腕はねぇちゃんが切り落としたからに決まっているだろう!」

「えっ、すいちゃん……いぇ、そこのお姉ちゃんが切り落としたの」

「そうだって云っているだろう。でも、ねぇちゃんが、何回切っても元に戻っちゃって……戻らなかったのは、最後の1回だけなんだよ……」

「……最後の1回だけ?」


 浅倉が少年の方を向く。


「その話、もう少し詳しく……」


 浅倉は、少年との会話を望み、少年に近づく。だが、残念ながら布虫には、そんなのお構いなしだ。2本の腕を振り上げて、浅倉と少年に襲い掛かる。


「邪魔!」


 浅倉は、飛んでいるハエを叩き落とすかのように、腕を切り落とす。


「片桐さん、楠くん。少しの間、私達を守って」


 浅倉の声に2人は頷く。

 布虫からの攻撃は止まることなく、続くが、それをなんなく2人は切り落としながら防御する。


「僕、金成君って云ったっけ。さっき話していた事、もう少し詳しく教えてもらえるかな」

「教えって何を?」

「お姉ちゃんは、あの化け物の腕を切り落としたんだよね」

「そうだって云っているだろう!」

「でも、最後の1回だけは、腕が元に戻らなかったんだよね」

「そうだよ!」

「その時、何があったのかな……」

「何もねえよ!」


 浅倉は、腕を組む。

 5歳児くらいの少年に対して、質問が難しかったと反省をする。


「お姉ちゃんは、最後に腕を切るとき、何か特別なことをしなかったかなぁ?」

「とくべつ? いゃ、それまでと変わらなかったよ」


 ……金成君の云うことが、本当だとして、変わらないと謂うことは、特別な攻撃ではない?

 ……では、特別なのは、その後?

 

「金成君、お姉ちゃんが、化け物の腕を切り落とした後の事を教えてもらっても、いいかな?」

「切り落とした後?」

「そう、切り落とした後の事」


 少年は、おでこに手を当てて考える。


「オラ……記憶力悪いんだよ」

「……あぁ……。でも、ほら、頑張って!」

「あの時は、お姉ちゃんのおっぱいに挟まれて……挟まれて……気持ちよかった。……それ以外は思い出せない」

「そこをなんとか!」

「……あっ、そうだ!」

「なに? 何か思い出したの?」

「もう一度、おっぱいに挟まれれば思い出すかもしれない。ねぇちゃんのおっぱいに、オラを挟んでくれ」


 ボゴッ!


 少年の脳天に、チョップが突き刺さる。


「痛てぇ! ねぇちゃん、なにするんだ!」

「それは、こっちのセリフ! 私に、何をやらせようとしてんのよ!」

「ガルルルゥ」

「唸っても、ダメです」

「……あっ! そうだ」


 浅倉が、呆れた顔を浮かべる。


「今度は何?」

「そう云えば、ねぇちゃんがアイツの腕を切った後、ねぇちゃん地面にお札を貼ってた」


 ……お札?


 浅倉の顔が引き締まる。


「お札って、神のお札?」

「あぁ……そうだよ。ねぇちゃんは逃げながら、地面にお札を貼って……。鳥居が何とかって云って」

「お札? 鳥居? ……あっ、もしかしてあの光の柱の事かしら」

「そうだ! それだ! あの光の柱が出た時、あの化け物、なんか体から煙吹いていたんだよ。でもねぇちゃんの必死の攻撃も、あの化け物には効かなかった……多分、最後に切り落とした腕だけにしか……」


 浅倉は、金成の両肩に手を掛ける。


「金成君、あなた最高よ。それよ、それ。それが活路となる……でもそうなると、すいちゃんの力が必須よね……」


 浅倉は、少年が抱きかかえている、尾花沢の元へと歩み寄る。そして、尾花沢の頬に、手の平を優しく重ねる。


「すいちゃん、もう一度、私達に力を貸してくれないかしら……それしか方法はないの……」


 だが、尾花沢の表情は眉すらも動かない。


「やはり、ダメか……。……ゴメンね、私達が来るのに時間が掛かったばかりに……」


 浅倉は、諦めて他の方法を考えるべく、尾花沢の顔から目を離す。そして、頬に当てていた手も、引っ込めた。


「他の方法を考えるわ……」


 浅倉が、少年に尾花沢を任せて、立ち上がろうと、膝に力を込める。


 ……ガシッ!


 ……が、この時、立ち上がろうとする浅倉の手首は、何者かに掴まれた。

 何者かが、浅倉が立ち上がるのを妨害したのだ。

 浅倉は、少々焦りながら振り返る。

 自分の腕を見る。

 捕まれている手首を見る。

 そのまま腕をたどって、掴んでいる者の顔を見る。

 目があった。

 弱々しく微笑む顔に、浅倉は吸い込まれた……。


「……あっ……すい……ちゃん……」

「フフフ。……上乃ちゃんなら、必ず……来てくれると思っていたわ……」


 つー。


 浅倉の頬を、一筋の涙が伝る。


「す……すいちゃん。気が付いたの?」


 浅倉は、再び両膝をついて、尾花沢の手を握りしめる。

 顔をしっかりと見ようとする。

 ……だが、そんな感動の再開に、少年が泣きながら割って入る。


「うぅぅ、ねぇえええちゃぁぁああん! よかった。よかった。生きていてよかった。オラをかばって死んじゃったかと思ったよぉぉおおお」


 尾花沢は、抱きかかえられているのが、少年だと気づくと、少年の頭を優しくなでた。


「云ったでしょ。私は運び屋。絶対に安全なところまで運ぶって」

「……うん。……うん。……じゅる」


 少年は、鼻水を垂らしながら、尾花沢に抱き着いた。

 尾花沢は、ゆっくりと起き上がり、そんな少年を抱きしめる。


 ……ぐっ!


 尾花沢は少年を抱きしめたまま、浅倉の目を見つめ直す。


「さっきね、うっすらと、上乃ちゃん達の声が聞こえたの。化け物倒せなくて、困っているんでしょ」

「そう……」


 浅倉は、小さく頷いた。


「で、上乃ちゃんの推理では、アイツは切った後、開門の光を当てれば、再生できない。……これで当ってる?」

「……流石はすいちゃん。当たりよ! もしかして、睡眠学習の方が向いているんじゃないの?」

「ふひっ…………上乃ちゃんは、後で干しシイタケの刑決定ね」

「なっ!」

「フフフ。冗談よ。……ところで、あの布お化け、鋼組は細かく裁断とか出来るのかしら?」

「それに関しては問題ないわ。私達を誰だと思っているの?」

「……そうね……。では、いっちょやりますか」

「そうね。いっちょやりましょう」


 コンっ!


 浅倉と尾花沢は互いの拳を合わせる。

 二人の目にはやる気がみなぎった。



 ● ● ●



 話し合いを終えると、浅倉は刀を構える。


「じゃっ、私は囮をやるわね。すいちゃんは、開門の方を宜しく」

「まかせて! 上乃ちゃんと、私。つまり、新郎と新婦の、初の共同作業ね!」

「……ちなみに、それって、どっちが新郎なのかしら?」

「細かい事気にすると、上乃ちゃん、しわが増えるわよ」


 尾花沢が、人差し指を左右にチッチッチッと振る。


「そうね。すいちゃんの話は、話半分に聞いて置かないと、バカを見るらしいしね」

「……それって、何処の噂よ……」

「フフフ秘密よ。……まっ、いずれにせよ、それだけ話せるのなら、すっかりダメージは回復している様ね」

「……いゃ、口から、血を吐きましたけどね」

「つまり、血液も(したた)る良い女って事でしょ」

「……そんな言葉、聞いた事ないわ……」


 両名は、顔を合わせてフフフと笑った。


「さて……じゃぁ、お次は……」


 浅倉は気合を入れ直すと、布虫の攻撃を防いでいる片桐と、楠に顔を向ける。


「片桐さん、楠君聞こえる? たった今、この妖怪を倒せる算段が付いたわ。なので、チョット切り刻んで頂けるかしら」

「了解だ。所で、この布虫は、なに切にすればいい? 短冊切か? それともみじん切りか?」

「……フフッ、細かく切ってさえくれれば、なんでもいいわ!」

「任せておきな。……楠、今の聞いていたな」

「もちろんですよ。何のために今日は鉄の爪を着けていると思っているんですか? 三枚おろしにしてやりますよ!」


 片桐と楠は、強く地面を蹴りだして、布虫へと突進して行った。

 

 

 

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