走れすい!(後編)
「ゴハァ!」
尾花沢の口から、鮮血の血しぶきが飛び散った。
「ねぇちゃん、大丈夫か?」
尾花沢は吹き飛ばされている最中、少年を胸に抱きかかえた。そして、転げまわる地面、はたまた塀にぶつかる瞬間、自分の背中を犠牲にして、少年をかばったのだ。
尾花沢の背中からは、おびただしい量の血液が流れだす。
また、彼女の体内では、何らかしらの臓器が欠損したのだろう。口からは、ぽたぽたと、血液が流れ続ける。
「……オラ……あなたは、無……事?」
「グスッ。……あぁ、オラは、ねえちゃんの柔らかいおっぱいのお陰で助かったよ」
「オ……ラ……。あんた……ほんと……バカね。……でも……助かったのなら……逃げなさい……」
「だめだよ。オラ、ねぇちゃんを置いて逃げられないよ!」
「……くっ……めんどう……かけさせるじゃ……ないわ……よ……」
尾花沢は残った力を振り絞り、物干し竿を握りしめる。
ギリッ!
食いしばった奥歯から、鈍い音が生み出される。
……私はまだ武器を握れる。
……武器が握れるなら、まだ立てる。
ガンっ!
尾花沢は、物干し竿を、杖の様に地面に突き立てる。
そして、重心を杖に乗せる。
グググっと竿に体重をかけながら、ゆっくりと、しっかりと、尾花沢は立ち上がる。
「くっ……がぁ!」
苦虫をつぶしたような顔を浮かべながらも、直立する。
「へへ……もう大丈夫よ」
尾花沢は、少年の頭を優しくなでる。
それと同時に、満面の笑顔を作り出す。
「オラ、私は大丈夫よ。……私を誰だと思っているの? 私の名前は、尾花沢すい! 尾花沢すいよ!」
その話し方は、少年に対してではなく、自分自身に自己暗示をかけている様でもあった。
「オバナザワスイ……?」
「……そうよ、……それが私の名前! ちゃんと覚えておきなさい!」
ジャリッ!
尾花沢は、両足に力を籠める。
二本の足で立ち上がり、物干し竿を構える。
そして、大きく息を吸う。
吐く……。
再び、息を吸う。
ザンッ!!
眼光鋭く、化け物を睨み付ける。
尾花沢の目は、まだ死んでいない。
「私は、妖鬼殲滅隊埼玉支部、絹組『尾花沢すい』! 任務を受ければ、目的地まで人から戦闘機だろうと、なんでも届けるスペシャリストよ!」
「スペシャリスト?」
鼓舞の為の口上に、少年が口を挟む。
「フフフ……そうよ……それが本当の私の仕事。……だから、私は、あの化け物からオラを逃がすと決めた時点で、私の仕事は決まったの……。オラを安全な場所まで届けるというね……」
「……オラ……を……?」
「……そう、オラをよ。……それに、悪いけど。『モノを届ける』この一点に関して、私の右に出る者はいないわ!」
尾花沢は元来た道を少年に指し示す。
「さぁ……今来た道を戻りなさい。ここは私が何とかする」
「グズッ……やだよ。ねぇちゃんを置いてなんていけないよ。……だって何とかするって、……ねぇちゃん、どうするのさ。あの化け物が、こっちに向かって来るよ」
夕日を背中に仁王立ちをしている化け物は、尾花沢達に黒い影を落とす。
あたかも、黒い影は、尾花沢達を飲み込んでいる様だ。
そして、その、そびえ立つ化け物の両脇には、6本の腕がイソギンチャクの触手の如く揺れている。
「……ねぇちゃん」
少年の声は、今までに無く、か細くなっていた。
「オラ、泣くんじゃないよ。男の子でしょう。それに私は云ったでしょう。必ずあなたを安全な場所に届けるって……」
尾花沢は気丈にふるまう。
だが、徐々にだが、声は弱々しくなっており、口元からもタラリと血液が流れ落ちる。
もはや、気力と体力は限界に達していた。
「……ねぇちゃん……オラ……」
少年は、目元に涙をたっぷりと溜ながら、言葉を振り絞る。
尾花沢は、そんな少年の涙を人差し指でぬぐい取ると、その指を夕日へと向けた。
そして、夕日をみながら、尾花沢は口を開く。
「……オラ、知ってる? こういう、どうしようもない時に、1つだけ信じられるものがあるのよ」
「信じられるもの?」
「そう、私はそれを信じている。……だから……私をかなりしんじろ!」
「……金成……新次郎。……それって……オラの名前……」
「……そう、とても、いい名前ね」
尾花沢の顔は夕日を見たままだ。
「ほら、夕日を見て……」
「夕日?」
「……そう、よ~く見て」
「よ~く…………ん? 点?」
少年が目を凝らして見ると、夕日の中には黒い点が4つ見える。
「ねぇちゃん、黒い点が4つ見えるよ」
「……そう……よかった、来てくれたのね……」
ドサッ!
その言葉を最後に、尾花沢が地面に倒れた。
「ねぇちゃん、ねぇちゃん。立ってくれよ!」
少年の目から、涙がこぼれる。
ポタポタと落ちる涙の粒が、尾花沢の頬を伝うも、尾花沢が目を開けることは無い。
「うわぁぁあああ!!!」
少年の泣き声が、辺りに響き渡る。
だが、いくら泣ことも、叫ぼうとも、尾花沢はピクリとも動かない。
その感情に流された泣き声は、化け物に位置を知らしめる。
この行動は、マイナスにしか働かない。
そんなことは、少年にも分かっていた。
だが、頭では理解できても、感情がついていかない。
そこまで、感情コントロールが出来るほど、成熟していない。
「グガァァアアァァ」
案の定、化け物が少年らを発見する。
そして、当然の如く、少年らに照準を合わせる。
もう、少年を守れる者はいない。
化け物は、直感でそれが分かるのか、大きく、二本の触手を天高く持ち上げた。
帯の腕が、天を突きさす様に真っすぐに伸びる。
ブワァァアア!
次の瞬間、叩きつける様に振り下ろされる触手が、二人の頭上から襲い掛かる。
…………が!
ズバーーーーン!
化け物の体に、風穴が空いた!
「えっ! なんだ? 何が起きたんだ? ……なぁ、ねぇちゃん、教えてくれ! なぁ……」
少年は、呆然と、立ち尽くしながら、化け物を見上げる。
だが、理解に苦しむ少年をよそに、気を失っているはずの尾花沢の顔は、なぜか微笑んでいた。
年末スペシャル 3作同時公開でした。
よって、来週1月3日はお休みします。
次回1月10日をお待ちください。
さて、今年の3月よりスタートした鋼鉄の舞姫、なんとか毎週更新できました。
これも皆さんの応援のお陰です。
予定では、第四章をちょうど、一周年あたりで終えて、来年3月より第五章へと入れればなぁと考えております。
いゃぁ、四章が、無駄な事を書いていたら、想像以上に長くなってしまいまして……ハハハ。
ちなみに、かなり影響を受けている作品にのっとって章を作っていますので、どんなに頑張っても作中の冬、2月頃で終わります。
なんとなく、分かっている方もいらっしゃるかと思いますが、これは決定事項なのですよ。
いずれにせよ、最後まで書き続けたいと思っております。
今後も応援よろしくお願いします。
それでは、よいお年をお迎えください!
令和の空に鐘は鳴る!
ゴーン!
あっ、今年最後ですから、ついでに、下にスクロールさせて、⭐を
⭐⭐⭐⭐⭐
べべべべっってやっていって下さいね。
っと、まぁ、年末最後まで、露骨に宣伝してみる。(笑)




