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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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走れすい!(中編)

 化け物は体勢を整えたかと思うと、再び、2本の腕が鳥の羽ばたきの様に、両サイドから襲いかかる。

 尾花沢は先程と同じように、腕に対して上から打ち付ける。

 ……だが、先程とは違う。


 スパッーーーー!!


 なんと、化け物の腕が切れたのだ。


「あら、キュウリより簡単に切れるわね。……さて、スパスパ切って行くから、覚悟しなさい」

 

 尾花沢が、薙刀ならぬ、物干し竿を構える。


 布の化け物には、帯状の腕が6本生えている。

 まるで、ペラペラの虫が、地面に座っているかのようだ。

 それら、6本の腕は、順次尾花沢に襲いかかる。

 だが、今の尾花沢は、それらを落ち着いて、切り落とす。


「あら、意外と余裕じゃない? 私、倒せちゃうかも」


 尾花沢が余裕の一言を口にする。

 だが、次の瞬間、尾花沢は目を疑った。……なんと、切り落としたはずの腕が、再び本体と結び付いたのだ。


「えっ、腕って、くっ付くの? 磁石と磁石が引っ付くみたいに、そんな簡単なの?」


 尾花沢は、あんぐりと口を開けた。

 攻撃力としては、然程強い部類の化け物ではない。

 よって、尾花沢は、簡単に勝てると考えていた。

 だが、敵は想像以上にタフだった。


 ……っと、我を見失っている場合じゃ無いわ。

 こんな切りの無いヤツを、いつまでも、相手になんてしていられない。

 まずは、逃げないと。


 尾花沢は、先行して逃げている少年を追いかけた。

 ……しかし、想像以上に早く、少年に追いついてしまった。

 少年は、少し先のT字路で立ち尽くし、どっちへ行こうか迷っていたのだ。

 

「なっ、何をしているの! オラ、さっさと右に逃げて、右、右、右に走って!」


 尾花沢は声を張り上げる。

 しかし、少年は、両手の平を見ながら、首を傾ける。


「……ん? 右って、どっちだ?」

「どっちって、あんた、さっき、お札を右に持っていたでしょ。だから、右利きよ!」

「右利き?」

「あ~もぅ。いつも箸を持つ方の手よ。そっちが右」

「え〜っと、いつも箸を持つ方? つまり、おっぱいを揉む方の手の事?」


 コケッ。


 走りながら、尾花沢は首を折る。


「ばっ……馬鹿ガキ……そうよ、おっぱいを揉む方の手よ!」


 かぁぁぁ。


 尾花沢の顔が赤面する。

 

 私は、街中で、一体何を叫んでいるのだぁ! うら若き乙女が叫ぶ言葉じゃないぃぃ。

 お嫁に行けなかったら、クソガキ! お前のせいだからなぁぁぁあああ!


 だが、少年は、今だに動かず、両手を見比べている。


「何してるの、早く走って!」


 尾花沢と少年の距離が、段々と縮まる。


「ねぇちゃん、困った」

「何?」

「オラ、いつも、おっぱい両方の手で揉んでる」


 ピシッ!


 尾花沢のおでこの血管が切れる。


 …………やばい、このクソガキ、ちょー殴りたい。


 そうこうしている内に、尾花沢は少年に追いついてしまった。

 尾花沢は、走りながら、少年を抱きかかえると、路地を右へと曲がる。


「ちゃんと、私に捕まっていなさいよ! このまま、この道を走り抜けるわよ!」

 

 尾花沢は、足に力を込めて、更に加速する。


 ……よし、この速度なら逃げ切れるか……。


 だが、尾花沢が考えている程、世の中は甘くなかった。

 次の瞬間、なんと、尾花沢達の前方に家が降ってきた!


 ドガシャァァアアアアン!


 瓦の砕ける音。

 壁の崩れる音。

 それら全てが合わさる。そんな破壊音が奏でる、不協和音が、二人の耳を打ち付ける。


「あら、まぁ。前方の道が、無くなっちゃったわね……」


 しかし、呆れる尾花沢の目の前に現れたのは、倒壊した家屋だけではない。

 大きな山が動くかの様に、破壊された家屋の横からそいつは現れた。

 布の化け物は、倒壊した家屋を、まるで階段でも上るかの様に、ゆっくりと歩く。

 そして、瓦礫の頂きまで移動すると、まるで天下でも取ったかのように、仁王立ちをする。

 

「……まいったわね、道を塞がれてしまったわ。一度下がって、仕切り直しかしらね」


 状況を的確に分析する尾花沢。

 だが、その横では、少年がガタガタと震えていた。


「ねぇちゃん、オラまだ死にたくない……。オラ、まだ死にたくないよ! どうせ死ぬなら、ねぇちゃんの、その大きなおっぱいの中で死にたい」


 ボコッ!


 少年の頭にゲンコツが突き刺さる。


「うるさいわね……、無駄口叩くなら、死ね!」

「……うぅぅ、そんな……死ねだなんて、酷いよぉ」


 一転して、少年はポロポロと涙を流す。

 そんな顔を見て、尾花沢は優しく微笑む。


 ……強がってみたり、おどけてみたり、泣いてみたり……コロコロと変わる感情は、ホント子供ね……。


 尾花沢が少年の頭を撫でる。


「フフッ、冗談よ。……まだ私も、オラも、死ぬ予定は無いわ。オラは私が守ってあげるからね」


 尾花沢が少年を優しく励ますも、化け物は空気を読まない。読むはずもない。

 二人の会話を無視するかの様に、化け物の腕が二人に襲い掛かる。


 シャァァァアアアアアアア!


 空気を切り裂く音と共に、化け物の腕が二人に接近する。

 

 …………が。


 スパーーーン!


 尾花沢が、弧を描くように、物干し竿を薙ぐ。すると、化け物の腕は、すっぽ抜けたバットの様に、豪快に飛んで行った。


「ほらね。私強いでしょ! だから、そんなに心配しなくても大丈夫よ」

「うぅ……」


 少年は弱々しく頷く。


「……それにね、私は、ただ闇雲に逃げていたわけじゃ無いのよ」

「……ほへ?」

 

 首を傾げて、尾花沢の顔を見る。

 少年は、言葉の意味を、理解出来ていない。


「いい事、オラ。私は今まで町の中を走りながら、6か所にお札を張って来たの。そして、お札の場所を線でつなぐと、横に二本、縦に二本。つまり、丁度鳥居のマークになるの」

「……で? それが、どうしたの?」

「フフフ……鳥居って、神社の出入口にあるでしょう」

「うん」


 少年が大きく頷く。


「ねぇ、オラ。鳥居の意味って知ってる?」

「意味?」

「そう、鳥居が設置されている意味」

「そんなの、オラが知っていると思うか?」


 尾花沢が、ケタケタと笑う。

 

「まっ、知っているわけないわよね。……じゃぁ、教えてあげるわ」


 尾花沢は、人差し指を少年の顔の前に立てる。


「鳥居はね、結界の出入口を意味しているのよ。神聖な場所と、そうでない場所の門なのよ!」

「はぁ……」


 少年はため息のような、相槌を打つ。


「つまり、私は地面に鳥居を作り出したの! ……では、そこで問題です。私が、その鳥居を開けると、どうなるでしょう?」

「どうなるって、神聖な場所と、ここが繋がるんじゃないの?」

「ピンポーン! オラ賢いじゃない。そう、つまり、神聖な場所とここが繋がると謂う事は、神聖な空気が一気にここに流れて来ると謂う事。そして、これが開門のための、最後のひと札!」


 バシィィイイイイン!!


 尾花沢は、お札を豪快に地面に張り付ける。


「さぁ、食らうといいわ、布の妖怪! これが、神聖な風、神風よ! ……開門!」


 尾花沢の声に反応して、地面が光始める。

 上空から見ると、半径100メートル程の光の円が輝く。また、その円に内接するように、鳥居の絵柄も浮かび上がる。

 遥か上空から見れば、神社の地図記号が、リアルに、地面に描かれているとも見えよう。


 ジャリッ。


 尾花沢か、倒れ込むように、地面に、片手片ヒザを付く。

 薄っすらと、辛い表情を浮かべる。

 ……だが、目の輝きは失われていない。


 くっ……全身の力が持っていかれる。

 ……でも……。


「ひらけぇぇええええ!」


 鼓舞するように、尾花沢が吠えた!

 

 すると、光の円が応える様に、輝きを強める。


 バシュゥゥウウウ!


 配線が、ショートしたかの様な音が轟く。……と同時に、半径100メートルの、光の柱が成層圏まで立ち昇る。

 その光景は、光の塔と呼ぶ以外、言葉が見当たらない。……そんな、美しくも主張の激しい光だった。


「ヴガッ、ゴゥォォオオオオ!」


 神聖なる光を受けた布の妖怪が、咆哮をあげる。

 それと同時に、体のいたるところから、煙が吹きだす。

 まるで、熱湯を被り、全身火傷を負ったかの様だ。


「……さて、化け物、私の攻撃はどうだったかしら?」


 尾花沢は、膝に手を置きながら、ゆらりと精神力のみで立ち上がる。

 満身創痍だが、それでも目の輝きだけは失せていない。


「へへっ……そうそう。……1つ云い忘れてたけど、私これでも氷山神社の巫女なの。……巫女とは、神と交信が出来る官職なのよ……って、……死んじゃったから、聞こえないわよね」


 グラッ!


 尾花沢が、長屋の壁に、崩れながらもたれ掛かる。


「ねぇちゃん。大丈夫か?」


 少年が、尾花沢の横に駆け寄る。


「フフ……オラ、なに、そんな顔をしているのよ。大丈夫に決まっているでしょう」


 しかし、少年の顔は曇ったままだ。

 どちらかというと、泣き出しそうなのを、こらえている様にも見える。


「んぐっ……ねっ……ねぇちゃん、すごいな!」

「そぉ?」

「うん。……オラ……大きくなったら、ねぇちゃんを嫁に貰ってやるからな!」

「ありがたいわね。……でも結構よ。私は、金持ちのイケメンと結婚するって、決めているのでね」


 その言葉を聞くと、少年は、満面の作り笑顔を尾花沢に向けた。


「……そうか。じゃぁ、生き残っていたらオラ、金持ちになるな」

「ん……生き残ってい・た・ら?」


 ガシャァァアアアアアン!!


 次の瞬間、尾花沢の死角から、帯状の腕が二人に襲い掛かる。

 両者は、突風にあおられた空き缶のように、地面を転がりながら吹き飛んだ。


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