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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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走れすい!(前編)

 年末特番


 走れすい(前編)(中編)(後編)

 3作本日全て公開。


 ですが、1月3日はお休みします。

 次回は1月10日となります。

 ガシャーン!


 尾花沢の後方で、長屋の屋根が吹き飛んだ。

 尾花沢は少年を体で覆い、襲い掛かって来る瓦等から少年をかばう。


 ……もう、来たのね……。


 尾花沢が、壊れた家屋を睨み付けると、長屋の中から、ぬっと布の化け物が現れる。


 ……いやぁ、ホント近くで見るとデカイわね。ざっと見ても10メートルはあるわよね。


 まるで、三階建てのビル程に大きいカーテンが、目の前に有るようだった。


 ……にしても、この化け物、目も鼻も口も無いけど、よく私達の場所が分かるわね。真っ黒い布切れにしか見えないけれど、何か秘密でもあるのかしらね。

 って、妖怪相手に、そんなこと考えても無駄か……。


 尾花沢は、ため息を付くように息を吐き、(あき)れたように目を細める。


 ……さて、どうしようかしら。

 ……今、私の横には、信じられない新次郎。信じられるのは、自分だけ。

 助けも、応援も呼ぶ手段は無し……と。


 尾花沢は、大きく伸びを始める。

 体のあらゆる筋肉と腱をほぐし、少しずつ自分で、自身に準備を促す。


 ふぅ……やっぱり、私がやるしか無いわよね。

 相手が鹿鬼でなければ、私にもやれる事はある。


 尾花沢は、肩に掛けていたショルダーバッグを、お腹の位置までずらしてカバンの蓋を開ける。

 手をカバンの中に突っ込むと、ガサゴソと何かを探す動きを見せる。


「……確か、持ってきたはずだけど……おっ、あったあった」


 尾花沢はカバンの中から、お札を取り出すと、扇形に広げる。


「にー、しー、ろー。うん破れていないし、大丈夫そう」


 お札の数を数えていると、尾花沢の(すそ)を少年が引っ張る。


「ねぇちゃん、ねぇちゃん。あいつこっちを見ているぜ」

「いゃ、いゃ、目なんて無いでしょうに……」


 尾花沢は、呆れながら布妖怪の方を見上げる。

 すると、なんといつの間にかに、布の真ん中には、大きな目が浮かび上がっていた。


「うっ……きもっ!」

「なっ、気持ち悪いよな」

「気持ち悪いけど……ところでオラ、走れる?」

「そりゃ、まぁ……」


 尾花沢は少年に話し掛けながら、地面にお札を貼り付ける。

 そして次の瞬間、少年の手を引きながら、化物に背を向けて、走り始めた。


「はぁ、はぁ……。ねぇちゃん、あいつ追いかけてくるぜ」

「知ってるわ」

「あのさ……もしかして、アイツねぇちゃんの事、好きなんじゃね?」

「バカ云わないで。私は金持ちのイケメンしか相手にしないの。それにあいつが追っているのは、オラ、あなたよ!」

「えっ、オラ?」

「そう。オラを追いかけているの!」

「なんでだ? オラ何もしていないのに」

「……なにもしてなく無いだろうに……。オラ……(ほこら)からお札剥がしたの忘れたの? オラは、3歩あるいたら忘れる鶏か!」


 走りながら、少年は髪をかきあげる。

 そして、キザな目付きを作り出す。


「ふっ、オラこう見えて、記憶力がないんだ」

「…………あっ……うん……大丈夫よ。オラは、見たまま通り記憶力が無くて、安心したわ」

「ねぇちゃんは、失礼だなぁ……」

「そうね。失礼で構わないから、しっかり走ってね」


 尾花沢は、少年と無駄口を叩きながらも、(きょう)あいな路地を駆け抜ける。

 そんなバタバタした状況にも関わらず、尾花沢は所定の位置に、次々とお札を貼っていく。


「よし、この調子なら、行ける!」

 

 だが……そんな皮算用をした矢先、事は起こる。


 ズザザァ……。


 少年が転んだ。


「オラ、大丈夫?」

「痛だいよぉ、痛だぃよぉぉおおお……うぅぅえぇぇええええ!!」

「オラ、泣かないで、頑張って。ねっ」

「うえぇえええええ!!」


 少年は、まったくもって泣き止まない。

 だが、そんな二人の背後に、化け物は着々と迫って来る。


 キッ!


 尾花沢は、一度振り返って、化け物との距離を目で測る。


 あと、50メートル……このままじゃダメ。……追い付かれる。

 ……でも……オラが泣き止まない。子供は泣き止まないと、次の行動には移れないし……。

 それに、何よりこのままでは、オラは走れない。

 どうする……?


 尾花沢は瞑目(めいもく)する。


 ……いゃ、答えなど初めから決まっている。

 どうせ、やらなくてはと思っていたんだ。

 それがチョット早まっただけの話よね。


「ふぅ……」


 尾花沢は、小さく息を吐くと、目を『ガッ!』っと見開く。


 ……仕方ない……やるしかない。


 尾花沢は、近くに置いてあった物干し竿を手に取る。


 ……少し長いかしらね……。


 尾花沢は、物干し竿を段差に立て掛けて、思い切り踏みつける。

「バキッ」っと乾いた音と共に、物干し竿が折れる。

 概ね3メートル位に折れた物干し竿を手に取ると、持っていたお札を一枚張る。


「さて、やりますか……。オラ、危ないから、チョット下がってなさい。鼻血が出るわよ」


 少年は無言で頷くと、そそくさと下がる。


 ザンッ!


 覚悟を決めた尾花沢が、化け物と対峙する。

 どうやら、化け物もただならぬ空気を感じ取ったらしい。

 今までは、我武者羅に、尾花沢達を追い回していたが、今は明らかに尾花沢を警戒している。


 フフフ……どうやら、私を敵として認めてくれたみたいね。

 うれしいわ。


 ジリッ。


 尾花沢は、足指に力を入れる。

 いつでも飛び出せる準備をしながら、お互いに間合いを計る。


 いい感じに緊張するわね……。


「なぁ、ねぇちゃん。戦えるのか?」

「なっ、オラまだ居たの? 早く逃げなさい!」


 視界から消えていたから、オラはてっきり避難していると思い込んでいたわ……。

 これは私のミス……。まずいわね。


 しかし、化け物は、その隙を見逃さない。

 尾花沢が少年に気をそらせた瞬間、攻撃をくり出す。


 ヒュッ!


 乾いた音と共に、ゆらゆらと揺れていた2本の腕が、閃光の如く同時に襲いかかる。


「早い!」


 尾花沢は、右から襲ってくる腕を、物干し竿で下に打ち付ける。そして、左から襲ってくる腕を、今度は、下から上へと跳ね上げる。

 風車の様に、ただ回転させるのではなく、一撃一撃に力を込めて、正確に打ち込む。

 これには化け物も動揺する。


 ……そう、お利口さんね。

 私を倒すのに、無傷ではいられないのを、感じてちょうだい。


 尾花沢は、敵からの先制攻撃を(しの)ぐと、再び間合いを取って構える。


 ふぅ……最近は、あまりやっていなかったけれど、物心かつく前からやらされていると、意外と体が覚えて要るものね。

 ……さて次は、こちらから行かせて貰うわよ。


 尾花沢は、両手を揃えて前に出し、物干し竿を地面と平行に持ち替える。


「神・力・注・入」


 尾花沢が、物干し竿に張ってあるお札に力を注ぎ込むと、物干し竿全体が、うっすらと黄色に輝きだす。


 私は、上乃ちゃん達みたいに、妖力は無いけれど、その代わりにこの力がある。

 昔とった杵柄。尾花沢流薙刀術と神力の合わせ技、お見せしましょう。


 尾花沢の表情が、薄らと微笑む。

14時20分

15時20分

16時20分

の三本立て。

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