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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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妖怪あらわる

「おはよう、うどちゃん」

「お早うございです。上乃っち」


 販売所の掃除をしながら、私は同僚と挨拶を交わす。


「ハハハ、うどちゃんは、今日も元気だね」

「もちろんです! 水沢うどから元気を取ったら、残るものはこのナイスバディくらいのものですよ!」


 そう話しながら、うどちゃんは、ポーズを決める。

 だが、お世辞にもうどちゃんの体系はナイスバディとはかけ離れている。

 小学生と見間違得られるその体形の、なにがナイスなのかを、私は教えてもらいたい。


「そういえば……」


 私は、辺りを見回す。

 そう、それこそ本物のナイスバディで、いつも騒がしい彼女の姿が見当たらない。

 いつもは頼みもしないのに、賑やかしにやってくる彼女の姿が無いのだ……。


「あれ? うどちゃん、今日、すいちゃんはお休み?」

「……すい?」


 うどちゃんは、考える為、少し首を傾げる。


「……すい……あぁ!」


 何かを思い出したかのように、パチンと大きく手を叩く。


「そうでした、そうでした。すいは、今日、実家に帰るって、お休みを取っていましたよ」

「へー、帰省かぁ。……ところで、すいちゃんの実家って何処なの?」

「……確か……春日部だったと思いますが……」


 春日部市かぁ……春日部ってことは、今いる大宮から、北東へ直線距離で12キロくらいよね。

 さほど遠くも、近くも無いって距離よね。

 なんの用事かしらね?


 私は、そんな事を考えつつも掃除道具を片付ける。

 そして、今度は、お(ふだ)の陳列を始める。

 そういえば、お札の整理していて思い出したのだが、私はこの仕事を始めてから、お札について知った事がある。

 お札には、大きく分けて2種類が存在するという事だ。

 1つは、一般的にお授けしている、家内安全や商売繁盛等のお札。

 当然これは、誰もが購入できるし、どこの神社にも置いてある。

 しかし、もう1つは、かなり特殊な物となっている。

 ここ氷山神社では、ある特殊な人物のみに、授けているお札が存在するのだ。

 そのお札とは、霊的な効力を発揮する物をさす。


 霊的効力とは、魔封じや結界等、専門家が使用するお札の事だ。

 我が氷山神社にも、当然魔結界や認識阻害のお札が張られている。

 分かり易い例で説明するのであれば、我々が出動する際、煙突砲で豪快に出撃する。

 しかし、町民は煙突砲を見ても、深く考えないし、疑問にも思わない。

 これが認識阻害、暗示結界のお札の効力となっている。


 かくして、我々は目立つ基地を保有しながら、誰からも疑問に思われないのだ。

 また、敵が我々の基地の発見に至らないのも、これらお札のお陰なのだ。


 

 ● ● ●


 

 昼食を食べ終えると、私は舞殿の前で、伸びをした。

 

「ん~、相変わらず片桐さんのご飯は美味しいわ~。さて、午後は……そうね……たまには舞の練習でもしようかしら」


 私は子供の頃に、日本舞踊のお稽古をしていたとはいえ、ここに来てからは、ろくに舞の練習などしていなかった。

 言い訳をするのであるならば、仕事を覚えるのに必死だった。

 神社の仕事に銭湯の仕事。そして、剣術の稽古。

 これを全てこなしていると、私の体力をもってしても、ヘトヘトとなってしまう。

 そうなると、ついつい、舞の練習は(おろそ)かになってしまうのだ。

 実は、ここ氷山神社でも雅楽会(ががくかい)というのが4月上旬に行われていた。当時、私は来たばかりなので、裏方作業をしていただけなのだが、本来であれば、私も舞を披露しなくてはならなかったらしい。


 う~ん、気が進まないが、体を少し動かした後で、先生に見てもらうとするか……。全然舞っていないと、体が忘れちゃうしな……。

 

 私は、舞殿の横に落ちているゴミを拾い上げると、昼食休憩を交代する為、うどちゃんの元へと歩き出した。


「うどちゃん、おまたせ、代わるわよ」

「上乃っちお帰りなさい。今日のお昼は何でしたか?」

「今日は、おそうめんでしたよ。なんかおそうめんを食べると、急に夏になって来たって感じがしますよね」

「分かります。麦茶も作り始めると、夏って感じがしますしね」

「そうそう。まっ、そんな訳で代わるわよ。お昼食べてきて」

「ありがとうございます。では行ってきます」

「……あっ、そうだ。なにか引継ぎってある?」

「引継ぎ……では無いですけど、こないだの金髪外人がまた来てましたよ」


 私は、頭を抱える。


 あぁ、彼ね……。顔とかスタイルは一級品なのに、なぜか棺桶を背負っていた残念男子ね。

 あと、言動がちょっと変なのよね。イントネーションもそうだけど、全体的に、選択する単語が変なのよね……。


「……で、彼は、今日はなんと?」

「なんでも、ここの『お札』って看板を差して『()()()下さい』って云って来たので、『うちには()()()は置いていません。()()()ならあります』って云ったら『なんで同じ漢字なのに読み方が違うんだ!』って永遠30分話して行きましたよ」

「……それはご愁傷様。私、その場に居なくてよかったわ」

「いぇ、ご安心を。その外国人には、全然帰ってもらえなかったので『あと30分したら、こないだここに居た美人の責任者が戻って来ます』と教えたら、嬉々として帰って行きましたから」

「……なっ!」

「では、後お願いします。ご飯食べてきますね」

「いゃ、まだ話は終わって……」


 うどちゃんは、素早くお辞儀をすると、脱兎の如くその場から消え失せた。


「……うっ、うど……ちゃん。……私を売ったわねぇぇぇええええ!」


 私は、拳をギリギリと握りしめながら、なんとか怒りを抑えた。



 ● ● ●



 私が店番を代わるも、結局怪しい外国人は訪れてこなかった。

 取り越し苦労で済んだのであれば、それに越したことはない。

 太陽が傾き、段々と赤色へと変化する。

 神社の販売所を閉めると、私は昼に決めた舞踊の練習をするため、舞殿へと足を踏み入れた。

 しかし、それを見計らっていたかの如く、境内には、太鼓の音が鳴り響いた……。


 そろそろかとは思っていたけれど、ついに来たわね……。


 緊急出動の合図だ。

 私は、急いで指令本部へと向かう。

 

 指令本場に到着すると、既に全員集合していた。

 どうやら私が最後だったらしい。


「すみません。遅れました。それで、今回鹿鬼は何処に現れたのですか?」


 私はすかさず情報を求める。

 しかし、支部長達の反応が薄い。


 あれ? 私、何かやってしまったかしら?


 私が脳内にて状況を判断していると、支部長の口からは、思いがけない言葉が発っせられる。


「おぃ、浅倉。鹿鬼って誰が云った?」

「えっ?」


 私は緊急出動の要請があったものだから、当然鹿鬼が出現したものと決めつけていた。


「今回出現したのは妖怪だ」

「……妖怪?」


 そうだった。私は妖鬼殲滅隊に所属しているのだ。

 つまり、魑魅魍魎を殲滅するのが我々の使命となる。私は、早とちりをしてしまったのだ。


「鹿鬼と思い込んでしまいまして、失礼しました」


 すると、副支部長がフォローを入れてくれる。


「浅倉組長が来てからは、鹿鬼しか戦ってませんものね。鹿鬼と思うのは、仕方のないことです」

「有り難うございます。では、若輩者の私に、妖怪の倒仕方を教えてはもらえませんか?」


 私は頭を下げる。


「そうね、浅倉組長に教える事としては、特には無いわ。ただ妖怪は人の形をしていないのが殆どなので、相手の得意とする攻撃を早めに見極める事が重要かしらね」


 成る程、確かに学校でも勉強はした。

 妖怪はサイズもまちまち。それこそ、山ほどある大型のモノから、火炎を吐くモノまでいる。

 つまり、相手の攻撃パターンを、素早く見抜く事が、勝利への道となる。

 

「分かりました。いち早く、敵を分析したいと思います」

「宜しくね。浅倉組長」

「はい!」

「では、敵の情報について伝えます。敵は布型の妖怪で、腕見たいな触手が6本生えて要るとの情報。大きさは一軒家程も有るそうなので、かなり大型になります。我々はこの妖怪を布虫と呼称(こしょう)して、迎撃に当たります」


 布虫……大きさはあるが、薄そうね。

 私の剣でも、充分に切れそうだわ。


「それと、出現場所ですが、春日部市となります。心して掛かるように。では、出現!」


 副支部長の号令に従い、全員が敬礼を行う。


 ……それにしても春日部市とは……。まさかすいちゃん、事件に巻き込まれてなんていないわよね。

 私は、そんな無用の心配をしていた。


 

 ● ● ●



 その頃、春日部市では、何故か尾花沢すいが、少年を抱っこしながら街中を爆走していた。

 

「ひぃぃいいい! 何? あれ? 布? お化け?」

「知らん。オラが見た時には既にあれがいた」

「んな訳あるかい! あんたが、封印を解いたんじゃないの?」

「しらね~よ。オラは紙剥がしただけだ」

「それが、封印を解いたって云うのよ」

「紙切れ一枚で、うるさいなぁ。そんな事より、姉ちゃん、走らないと、追いつかれるぜ!」

「あんたが悪いんでしょう! 生意気云っていると、干しシイタケにするわよ!」

「五歳児に、なに無気になってんだよ。怒るとシワ増えるぜ」

「クソガキ……後で、しばく!」


 尾花沢は、見ず知らずの少年に罵声を飛ばしながら、必死に路地を走っていた。

 抱っこしながら走る尾花沢。

 後ろを警戒しながら抱っこされている少年。

 なんとも不思議な組み合わせが、春日部の町を、暴走していた……。



「なぁ、ねぇちゃん。大丈夫か? 息、あがっているぜ」

「誰のせいだと思っているのよ」

「もしかして、オラか?」

「そうよ! オラのせいよ!」

「ねぇちゃん、ゴメン」

「随分しおらしく謝るじゃないの。意外と素直なところ、有るじゃない」

「いゃ、そうでなくて、ねぇちゃんのおっぱいが大きくて、さっきから気持ちがいいんだよ。だから、先に謝っておこうかと……」


 ブチッ!


 尾花沢の、おでこの血管が3本切れた!


「オラ……、あんた干しシイタケ決定ね!」

「何それ……オラ枯れるまで、ねぇちゃんに使われるの?」

「変な言い方するな! ガキ相手に、何もせんわ!」


 入り組んだ路地に入り込んだ尾花沢は、一先ず少年を地面に下す。

 いかんせん、尾花沢は、状況が全く掴めていない。

 実は、少年とは2分前に出会ったばかりなのだ。

 よって、少しでも情報を得ることを、最優先とした。


「……さて、オラ、まずアンタの名前は何て言うの?」

「ん? オラか? オラは金成新次郎(かなりしんじろう)。しんちゃんとでも呼んでくれ!」

「しんちゃん? まぁいいわ。で、なんで、急にあのへんな化け物に追われていたの? あなたが祠から出てくる所は見てたんだけど……」


 そう。尾花沢は、実家を訪れる前に商店街で買い物でもしようと思い、街中をプラプラと散歩をしていた。

 すると、目の前にあった小さな祠の中から、慌てて少年が飛び出て来た。

 尾花沢は何事か、と感じたことから、少年の動きを注視する。

 すると、少年の右手にはボロボロの紙が握られていた。

 しかし、問題なのはその後で、その少年を追いかけるかのように、大きな布の化け物が祠の中から出現したのだ。

 尾花沢は妖怪事件と判断し、慌てて少年を追いかけた。

 なんとか少年に追いつくと、妖怪に追いつかれまいと、少年を抱きかかえて走り出した。

 ――そして、今に至っている。


「なぁ、ねぇちゃん。オラ、これを剥がしたのがまずかったのかな?」


 尾花沢は、少年が差し出した紙をよく見る。すると、その紙片は、紛れもなくお札だった。

 きっと、その昔、名のある僧が、化け物を封印したのだろう。

 それを、この少年が遊び半分で解放した……。

 尾花沢はそう解釈した。

 

「さて、これからどうしようかしら……」


 尾花沢は、手を顎に当てながら考える。

 すると、少年がクイッと、尾花沢の裾を引っ張った。

 

「ねぇちゃん、大丈夫だ」

「大丈夫って、何を根拠に話しているのよ」

「フフフ、それはね。オラが大丈夫って云っているからだよ」


 ……? この子は何を云っているのかしら? アホなのは、話していて分かるけど。やっぱりアホなのかしら。


 尾花沢は頭にクエスチョンマークを浮かべる。


「ねぇちゃん、さっきオラの名前を教えたろ!」

「……しんちゃん……だったかしら?」

「違う違う。オラの名前は金成新次郎だ! 『かなり信じろ!』だ!」


 尾花沢は、両手で頭を抱え、その場にヒザから崩れた。


 あぁぁ……私、このおバカな少年を守りながら逃げるのは、無理かもしれない……。

 いゃ、絶対に無理よ……。


 いつもは、からかう側の尾花沢であるが、今回は、そうはいかなかった。

 さて、来週が今年最後の投稿となります。

 ですが、来週は年末企画、なんと一日に3本立て!

 走れすい! 前編・中編・後編

を投稿します。

 で、代わりに年始3日はお休みをいただいて、来年は10日からの投稿となります。

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