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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第四章 西方より来る者(七月)
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飲み会の帰りに

「お疲れ様でした」


 本日も氷山神社の勤務が終わり、当直を除いて、それぞれが帰路に着く。

 そんな最中、珍しい男が、これまた珍しい男に声を掛けていた。


「おぃ、柏木。ちょっと付き合えよ」


 なんと、あの片桐さんが、おちょこで酒を飲むジェスチャーをしながら、柏木さんに声を掛けたのだ。


「おぃおぃ、どういう風の吹き回しだ? 初夏だってのに、雪でも振るじゃないか?」

「……かもな。俺もそう思うよ。まっ、いいから付き合えよ」

「……あいよ」


 そんな会話を交わすと、二人は境内から出て行った。

 ……そして、その光景をすいちゃんは見ていた。


「上乃ちゃん、上乃ちゃん、見ました?」

「……何が?」

「今の二人ですよ」

「あぁ、飲みに行くみたいね」

「そうじゃ無いですよ!」

「……そうじゃ無いって、何が?」

「いゃぁ、私はあの二人前々から怪しいと思っていたんですよ」

「怪しいって?」

「えっ……ふひっ!」


 すいちゃんが、口に手を当てて、なにやらいやらしい表情を作り出す。

 そう、私は知っている。……こう謂った表情をする時は、大体ろくな事を考えていない。

 私も、すいちゃんとの付き合いが長くなってきたので、これくらいなら直ぐに分かる。


「フフフほら、ギリちゃんも、龍ちゃんもイケメンじゃないですか」

「そうね……」

「上乃ちゃんは、どっちが受けだと思います?」

「……何の話?」

「そんなの、BLに決まっているじゃないですか」

「BL? ()カな事、()想しているんじゃ無いわよ! の略だっけ?」

「……上乃ちゃん、切り返しが上手くなってきたわね」

「お褒めに預かり光栄ですよ。まっ、……でも、あの二人が飲みに行くなんて、珍しいわね」

「そうですよね~。……後、つけちゃいますか?」

「つけません! 大体、すいちゃんも、私と一緒に、今日は銭湯の当番でしょう」

「あぁ……そうだった……」


 私に指摘され、肩を落としたすいちゃんは、とぼとぼと、番台へと向かって歩き出すのだった。



 ● ● ●


 

「お姉さん、もう一本もらえる?」


 柏木が、おちょうしをフリフリしながら、飲み屋の店員におかわりを催促する。


「……あまり飲み過ぎるなよ……」

「固い事云うなって。……で、そろそろ本題に入ろうじゃないの」


 しかし、そう話す柏木の顔は赤かった。

 どうやら柏木は、さほど酒に強い訳では無いらしい。


「……確かに。あまり時間を置いては、お前が酔いつぶれてしまいそうだしな……」

「それはどうも。お気遣い有り難うございます。……で、組長ちゃんの事だろう」

「あぁ……そうだ……」


 片桐が、小さく相槌を打つ。


「柏木……7月11日って何の日か知っているか?」

「……なながつきょういち? いゃぁ、知らないなぁ……」

「そんな人名みたいに云うな。7月11日は、組長の誕生日だ」

「へ~。組長ちゃんのね……で、それがどうしたの?」

「いゃ、尾花沢に頼まれてな……サプライズでパーティーをするって事になったのだが、料理は何を出せばいいと思う? あとプレゼントも何にするかの相談をしたくてな……」

「なるほど……」


 柏木は、おちょこを手に取り、残りの酒を一気に流し込む。


「ふぅ……。料理って云われてもな……。俺よりお前達の方が付き合い長いんだから、分かるだろう」

「分かっていれば、相談なんかしない」

「そうれもそうか……」


 柏木は、冷奴を箸で小さく切り分ける。

 そして、切り分けた豆腐を、輪切りトマトの上に乗せて、一緒に口へと運ぶ。


「トマトと冷奴って、同時に食べると美味しいよな」

「……それを誕生日に出せと?」

「いやいや、そうじゃなくて……。そうだな……飯は、普段作っているので、特にお気に召したやつなんかで良くないか?」

「『美味しい』と云っていた食べ物ね……。あぁ、黒ニンニクとか美味しいって云ってたな」

「……おぃ、片桐。誕生日に黒ニンニクは無いだろう。滋養強壮はありそうだが、色が悪い。それに、誕生日料理って感じはしないな」

「色ねぇ……。確かに黒ってのは良く無いよな……あっ、それじゃぁ、ナマスなんてどうだ?」

「正月じゃ無いんだ。色合はいいかもしれないが、ナマスはサイドメニュー止まりだろう」

「う~ん、意外と難しいな……」


 色々とアイデアは出してみたものの、結局料理は決まらない。

 二人は、枝豆を手に取り、プチッっと潰す。


「まっ、料理は一先ず置いておくとして、プレゼントはどうするんだ? なんか候補みたいなのはあるのか?」

「いゃ、残念ながら。組長の欲しい物がわからなくてな。そうだな……銭湯の掃除交代券とか欲しがるかなぁ?」

「おぃ……。それは、小学生が、親にプレゼントする、肩たたき券と同レベルだ……」


 柏木は、頭をガシガシと掻いて、う~と唸る。

 

「いゃ……だから、そういうんじゃなくてさ、今までに、組長ちゃんがお店で欲しがっていた物ないのか?」

「……お店……ねぇ……あぁ! ある」

「おぉ、それでいいじゃん! それをプレゼントしよう!」

「確か、肉屋の牛肉コロッケを欲しがっていたな。 確かに、あれ美味しそうだったしな」

「……うん、それはプレゼントじゃなくて、お前が料理として作れよな。……よかったな、料理決まったぞ」


 その後も、二人は酒を飲み続け、いよいよ閉店の時間が近づく。

 柏木は、段々とロレツが回らなくなり、行動も不安定になり始める。

 枝豆をプチッと潰したかと思うと、緑色の豆を指で摘む。

 そして、その豆を片桐に見せつける。


「いいか、片桐、この豆がプレゼントだとするだろう」

「おぅ」

「で、この冷奴が組長ちゃんだ」

「おぅ」

「でっ、この豆を冷奴の上に乗せる。なっ! 分かるだろう!」

「おぉ、それが喜ぶプレゼントか! 柏木やるな!」

「だろう! ハハハ!」

「ハハハ!」


 店員はその様子を、冷ややかな目で、少し離れた場所から見ていた。

 この酔っ払いたちは、何を話しているのだろうと感じつつも、伝票を机の上に乗せる。


「お客様、看板です!」

「おっ、(しま)いか?」


 片桐が、ガサゴソと巾着の中身をかき回し、お金を取り出す。

 

「これで足りますか?」

「えぇ、まいどあり! また、いらして下さいね~」


 店の看板娘に見送られながら、片桐と柏木はフラフラと店を出た。

 

「にしても、最後のプレゼントは絶妙だったな。あれなら組長も喜ぶに違いない」

「だろう、俺も良い案が出せたと大満足だ」


 二人の酔っ払いは、肩を組みながら大宮駅に背を向けて、神社へと歩き出した。



 ● ● ●


 

 店を出た後、二人は、仲良く肩を組みながら、人気の乏しい道を歩いていた。

 千鳥足とは、云ったもので、フラフラと歩くその足跡(そくせき)は、正に鳥の足跡(あしあと)そのものだ。


「柏木……俺は、ちょっと飲みすぎたらしい」

「片桐……俺もだ」


 そんな会話をしながら、二人は助け合いつつ、やっとやっと、歩いている。

 暗がりに入り込んだあたりだろう。なんと、意外な事に、二人の目の前には、女の子の姿があらわれる。

 片桐は、ぼんやりとする頭で、考える。

 

 ん? こんな夜中に、女の子? 歳は、13歳くらいか?

 いずれにせよ、女の子が出歩く時間では無い。


 そんな事を考えながら、片桐は女の子の元へと近づく。……が、次の瞬間、片桐は酩酊状態だったのにも関わらず、酔いが一瞬でぶっ飛んだ。

 片桐の目に、瀕死で、地面に倒れている男が映り込む。


 こっ、この男は一体…………。

 

 片桐も、暗がりに、だいぶ目がなれたのだろう。男の年齢が、概ね40代である事が確認できた。


「お父さん、お父さん……」


 少女は、地面に倒れている父親の体をゆする。

 ……だが、父親は何も答えない。

 ただ、少女の悲痛の声だけが、暗闇に拡散し、吸収されていく。


「お嬢ちゃん、お父さんはどうしたの?」

「わかんない。わかんないよぉ……気がついたらこうなって…………」


 片桐は膝を折って、父親の安否を確認する。

 しかし、驚くことに、なんと父親は半分干からびていた。


 ……何だこれは?

 一夜干しか?


 片桐は、父親の様子に異常を感じ取る。そして、尋常ならぬ者からの攻撃を受けたと瞬時に判断した。


 ……妖怪の仕業か?


 片桐が悩んでいる間、平行して柏木は、少女から情報を聞き取る。


「お嬢ちゃん。お名前はなんていうの?」

「私?」

「そう。君の名前」

「私は、漆館、漆館涼子(うるしだてりょうこ)。こっちは、お父さんの慎平」

「分かった。漆館さん。お父さんは何か病気でもあるの?」


 しかし、少女は首を横に振るだけで、何も答えない。

 途方にくれている柏木を横に、片桐は、応援を求めるべく、付近を見回す。

 すると、たまたまパトロールをしている警察官に、目が留まった。


「すまない、そこの警察官。40代の男が倒れている。応援と大八車を用意してくれ」


 呼ばれた警察官は、自体が把握できていない。

 「やれやれ」と愚痴をこぼしながら、片桐達に近づく。


「ったく、どうせ酔っぱらい何だろうから、ほおっておけば良いのに……」


 だがしかし、警察官は、倒れている男を見るなり、顔色を大きく変える。


 「なっ、これは……この姿は……」


 警察官は、呼吸をするのを忘れた。

 そして、大慌てで応援を呼びに走り出すのだった。


 片桐は、警察官が応援を呼びに行っている間に、少女へと顔を向ける。

 父親がこんな状況になっているのであるから、さぞ辛い事だろう。

 心中を察するが、今、少女から状況を聴かなくては、記憶が薄れていく。

 特に子供の記憶など改変されやすい。

 片桐は、もやっとする心を握りつけながら、少女の目を見つめた。


「漆館さん……お父さんは、誰にやられたのか分かるかな?」

「うぇうぇ」

「泣いていては、分からないよ。お兄さんに、誰にやられたのかを教えてもらえないかな。お父さんの力になれるとおもうんだ」


 片桐は、少女の頭に軽く手を置くと、優しく微笑んだ。

 少女は、そんな片桐の顔を見上げると、袖をぐしぐしと目に当てて、涙を拭った。


「えぐっ……。お……お父さんは、知らない男の人に、いきなり殴られて……」

「知らない男か……。年齢は幾つくらいだったのか、覚えている?」

「年齢? う~ん、お兄さんよりも、ちょっと年上に見えたから、30歳くらいだったと思うけれど……」

「……30歳くらいか……。何か、他に特徴とかあったかなぁ?」

「特徴って謂うか、背の高い外国人だったけど……」


 背の高い外国人……か……。

 そうそう、この辺りに居る者では無いな。

 話に聞いていた、マイク・リッチといか謂うボクサーの仲間か?

 だとするならば、相当な手練れとなるな。


 片桐が思考を巡らしていると、警察官が大八車と、応援を連れてきた。

 そして、皆で協力して大八車に病人を乗せると、急いで病院へと搬送するのだった。


 わちゃわちゃと、しながらも、現場は収束方向へと向かう。少女も父親に付き添い病院へと向かった為、結局現場には、片桐と柏木だけが残される形となった。


「なぁ、柏木、犯人は何者だと思う?」

「……さぁな。だが、あの少女の話を信じるとすると、新たに敵が現れたと考えるべきだろうな」

「新たな敵ね。果たして、何者だろうな。その外国人とは……」

 

 片桐は、大八車が去って行った方向を見つめながら、次の戦いを考えるのだった。

 何とか、一月分までは、書き終えました。

 改稿しなくてはならないので、まだ不完全ですが……。

 これで、あと二月を乗り切れば、連載一年です。

 なんか頑張れそうな気がしてきました。


 ……で、一年たつと、第1章の文章がこっぱずかしくなりますね。

 現在、チョイチョイ改稿中です。

 でも、昔の文章に引っ張られてしまって、今風の文章にするのが難しい。

 ゼロから書き直す気にもなれないし……。どうすればよいのでしょうかね?(笑)


 ちなみに下書き段階では、第四章は18話目で完結となっています。

 ちょっと長くなっています。

 もしかして、二つに分ければ、二章分稼げたのでは? っと、せこいことを考えてしまう。

 では、引き続き、応援よろしくお願いします。

 

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