表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第三章 命の重さ(六月)
33/101

ラウンド2

 楠とマイクは、約2メートルの間合いを取り、お互いに相手の動きを観察していた。

 楠は両足を地面にペタリと付けて、マイクはそれとは対照的に、軽いフットワークをしながら、構えている。

 

「ボーイ、俺をKOする見たいに云ったが、あまりいい気になるなよ。ふざけていると、火傷するぜ」


 楠は、マイクから挑発を受けると、やれやれと眠たげな顔を作り出す。

 

「ふぅ、別に、いい気になってなんていませんよ。誤解が無いように云っておきますと、()()()()()なんですよ」


 楠は、チロリと舌を出す。

 すると、それが試合開始のゴングかの如く、マイクは憤慨しながら襲い掛かる。


 右、左、左から右。

 うん。見えている。


 楠は相手のパンチをことごとく躱す。

 だが、マイクのラッシュは止まらない。


「……成程。云うだけの事はあるな。ところで、ボーイは攻撃してこないのかい? 俺のラッシュにビビって、手も足も出ないのか?」

「……いゃ、出ない訳では無いのですが……」


 楠は、そう話しながらも、回避行動のみを取る。


「強がりは、よしな! ボーイ、そろそろ地面にキスさせてやるぜ!」


 マイクのラッシュが加速する。


「……確かに、あなたの攻撃は早いですね。……でも、段々と、あなたのリズムが分かってきましたよ。そろそろ反撃させて頂きますよ」


 ザッ!


 楠は相手の懐に飛び込む。


 雷の様に早い右ストレートが、楠の顔面を狙って来る。……が、楠はその相手の右ストレートを、左手の掌底で、打ち払い軌道をそらす。

 そこで、右掌底を急所である稲妻(右腎臓の付近)に打ち込む。


 決まった!


 ……そう思ったが……届かない。


 おかしい。僕の掌底が届かないだと?

 距離感を見誤るなど、今までした事なんて無いのに……。

 ……なぜ?


 楠は、今のは、たまたまだろうと考え、仕切り直す。


 ……もう一度やって、次こそは当てる!


 楠の眼光が鋭くなる。

 ……しかし、それとは反対に、マイクの目元は緩み出す。


「ヘイ、ボーイ。どうした? 今、当たるはずのが当たらなくて、困惑しているんじゃないか?」


 ギリっ!


 楠が、奥歯を噛む。


「……何を云っているのですか? そんな訳ないじゃないですか」

「ふっ、なら、いいんだが……。どうだい? もう1回やってみるかい?」

「くっ……バカにしないでください」


 楠は改めて、もう一度先程と同じように、敵の攻撃を掻い潜って、攻撃を仕掛ける。


 ふっ!


 しかし、やはり、あと1センチ届かない。

 楠の攻撃は、空中で止まる。

 それでも諦めずに、何度も攻撃を仕掛ける。……しかし、楠の攻撃は、後少しの所で届かない。

 場合によっては、あと5ミリという時もあった。

 だが、何度やっても、楠の攻撃は相手に届かないのだ。


 ……なぜだ? なぜ僕の攻撃は届かない?


 焦りの表情を浮かべる楠。そして、其を(あざ)笑うかの様な、笑顔のマイク。

 二人の表情には、歴然な差があった。


「ククク。悩んでいるな。ボーイ。……ところで、ボーイの武術は中華拳法か何かか?」

「……だったらどうかしましたか?」


 楠がむくれる。


「いゃな、ボクシングには、スウェーバックってのがあるんだよ」

「スウェーバック?」


 楠は構えながらも、眉をひそめる。

 

「そう。のけぞる様に状態を下げて相手の攻撃を避ける技だ」

「……で、それがどうかしましたか?」

「お前さんの攻撃は、相手との距離を確実に把握する事により、絶大な威力が出せる技だろう。発勁とかその類なんじゃないのか?」

「……何が云いたいのですか? 僕には分からないのですが……」

「ふっ……、だから、俺に、当たらねぇんだよ」


 マイクは、ニヤけながら楠の顔を見つめる。

 そして、ファイティングポーズと取ったかと思いきや、一気に間合いを詰める。

 歩くでも、走るでもない、不思議な間合いの詰め方だ。


「今度はこちらから行くぜ」


 マイクの間合いに入った楠は、敵の攻撃に備える。


 相手の攻撃は、どうせパンチだけだ。

 今までと同じ……いやっ、左側のアウトサイド攻撃、右フックかっ!


 楠は、相手の攻撃を読んでいた。

 

 これなら躱せっ……!

 

 ドゴゥゥゥウウウ!


 次の瞬間、楠の体は、5メートル程宙を舞った。


 ドサッ!


 地面に米俵を落とした様な、鈍い音が響き渡ると共に、楠の体が地面に転がる。

 そして、その転がる楠の体を見下ろしながら、マイクがニヤける。

 まるで、トカゲがパックリと口を開けた様な、そんな顔付きだった。


 マイクは、地面に転がる楠を見て、勝利を確信した。 

 

 ボーイ、今の攻撃は見えなかっただろう。いや、何で、ボーイが空を舞ったのか、それすらも理解出来なかっただろうな。

 ……人は、横から攻撃が来れば、どうしてもそちらに目が動く。人の目は動くものに反応するからな。

 ボーイの視線を、俺の右フックで、左側へと誘導させる。そして、死角からの左アッパー。

 ボーイにはなぜ自分が宙を舞ったのかすらわかるまい。


「ハーハッハッハー」


 マイクは、口を大きく開けて、高笑いをする。

 

「……さて、トドメでも刺そうかね……。残念ながら、地獄へ行くのは、ボーイ、君の方だったみたいだね。クククッ」


 マイクは一歩一歩、地面に転がっている楠に近づく。

 

「ボーイ、悪いが、地獄で名前を広めるのは、自分でやってくれ。このマイク様に、KOされたってな! ハーハッハッハー」


 楠は、地面に捨てられた軍手の様に、道路にへばり着いて動かない。

 アッパーは、顎に衝撃を受けるが、問題はそれよりも急激な脳への揺さぶりだ。

 顎下からの攻撃は、脳が頭蓋骨の前部に打ち付けられる。

 そして、今度は戻る反動の力で、脳は、頭蓋骨の後頭部に打ち付けられる。

 前後に大きく揺さぶられた脳は、三半規管を著しく低下させる。

 つまり、今の楠は、ただ地面に転がる石ころの様に、何も出来ないのだ。


 ――ザッ!


 マイクが、仰向けで倒れている楠の横に立つ。


「ボーイ、安心しろ。今、楽にしてやるからな!」


 マイクは大きく息を吸う。

 そして、右手を大き後ろに引いたかと思うと、渾身の右ストレートを、楠の顔面めがけて振り下ろす。


 ズガァァアアアアン!


 強力な右ストレートが炸裂し、地面が陥没する。

 また、その衝撃により砂埃が大量に舞い上がり、濃霧の如く、辺りの視界をすべて奪った。


 ひゅーーーーっ!


 そよ風が吹く。

 優しい風が、砂ぼこりを(さら)っていく。

 すると、徐々に視界が開ける。

 陥没する地面に、突き刺さる右ストレート。

 だが……、なぜか、そこには楠の姿がなかった……。


「……ボーイ、どこへ行きやがった?」


 マイクは辺りをキョロキョロしながら、楠を探す。


「……別に、……どこへも行きやしませんよ」


 マイクは、背後から聞こえる声に反応して、慌てて振り返る。


「へっ、ボーイ……よく避けたな。俺のアッパーは効いてい無かったのかい?」


 楠は両手を左右に広げて、やれやれと謂ったジェスチャーをする。


「ご冗談を。ガッツリ頂きましたよ」

「じゃぁ、なぜ立っていられる? ボーイの中華拳法が成せる技なのか?」


 楠は首を左右に振る。

 

「違いますよ。貴方の攻撃が当たる直前に、上方に飛んだんですよ」

「……成程な……道理で軽かった訳だ。……ボーイが小さいから、重さを感じないと思っていたのだが、残念ながらそうでは無かったらしいな」

「……まっ、そう謂う事です」


 楠は再び、構えを取って、相手の攻撃に備える。


 ……さてと……先程、マイクの攻撃を避けられたのは、まぐれだった。

 下から何か嫌なものを感じたから、とっさにジャンプして避けたけど、パンチが見えていたわけでは無い。

 残念ながら、もう一度、あの技を避けられる自信など、僕には無い。


 だが、楠に考える時間を、マイクは与えてはくれない。


 ブォォォオオオ!


 右ストレートから始まり、左右のコンビネーション。

 楠は、ストレートは受け流せたが、その後はガードに徹する。

 

 楠が着用している鉄甲とは、竹を半分に割ったような形をした金属の防具だ。

 手の甲から肘までの外側に金属が入っている為、刃物ですら、受け止めることが出来る。

 また、拳を作って殴れば、鉄甲が先に当たる為、メリケンサックの様な武器にもなる。

 しかし、この鉄甲だが、刃物が相手であればメリットが大きいものの、こと相手がボクサーと謂うのは相性が悪い。

 鉄甲で防御をする事が出来ても、ダメージがダイレクトに腕へとのし掛かってくるためだ。

 つまり、バカ力である鹿鬼のパンチを受け止めるという事は、楠にとっては負担でしかないのだ。

 

 今のマイクは、大振りの攻撃をせず、素早い連打の攻撃に切り替えた。

 素早い攻撃になると謂う事は、本来であれば、パンチが軽くなると謂う事だ。しかし、相手は人ではなく、鹿鬼である。

 鹿鬼にとっては軽くても、そのパンチは、成人男性の全力パンチよりも重かった。

 つまり、徐々に楠の体力は、削られて行くのだ。


 マイクは、足を止めて間合いを取る。


「ボーイ、まだ倒れるなよ?」

「……ぇぇ、これしきでは倒れませんよ」

 

 楠は、ここで一旦相手の攻撃が止まるかと思ったが、マイクは相手が(ひる)んだと解釈した。よって、マイクは更にラッシュを続ける。

 楠も懸命に耐える……が、防御の腕が少しずつ上がってきた。

 そして、ついにガードしていた腕が、上方に弾け飛んだ。


 くっ……やばい!


 楠が焦りを感じたその瞬間を、マイクは逃さない。

 地面を這うような角度から、左手が伸びて来る。


 左アッパーが、また来る。

 ジャンプして避けなくては。


 だがしかし、マイクの攻撃は、楠の考えの上をいく。


 左手はアッパーへいかず、そのまま伸びて楠のボディーへと突き刺さる。


「ぼへぇぇ……」


 嗚咽(おえつ)混じりの声が楠の口から漏れると共に、その体は、メインストリートを20メートル程吹き飛ばされた。


「今の一撃は、効いたろ? ボーイ、これでノックアウトだ。テンカウントは必要無さそうだな」


 マイクは、ゆっくりと楠の元へと歩み寄る。その姿は、雌ライオンが獲物を仕留めた後に、雄ライオンが、食事をしに行く姿の様でもあった。

 楠の元へと来たマイクは、足を使って、うつ伏せの状態から、仰向けにひっくり返す。


「へっ、完全に伸びてるな。最後くらいは楽に死なせてやるか」


 マイクは胸の前で十字を切った。

 そして、大きく右手を振りかぶった後、楠の顔面目掛けて振り下ろす。


「さらばだ!」


 楠はピクリとも動かない。

 だが、次の瞬間……。


 バゴォォオオオオ!


 マイクの放った右拳が、後方に弾け飛ぶ!!


「……なにっ?」


 マイクは慌てて、正面を見る!……が、そこには誰もいない。

 楠も倒れたままだ。

 何に攻撃をされたのかが、全く分からないまま、辺りを振り返った次の瞬間!


 ズガァァアアアン!


 マイクの耳に銃声が響く。

 銃声を聞くなり、マイクは慌てて、自分の右手を見る。すると、確かに、右手グローブには銃弾の跡が見られた。


 ……まさか、銃声が聞こえるよりも先に弾が届くとは、いったい何処から撃っていやがる?

 取り敢えず、このままここに居るのはまずいな。

 狙い打ちにされる。


 マイクは危険を察知し、左に一歩踏み出した。……が、その瞬間。


 ザシュッ!


 マイクの右頬がパックリと割れて、赤黒い血液が飛び散った。

 そして、先ほどと同じく、遅れて銃声が鳴り響く。


 ヤバイぞ。

 このままここに居るのはマズイ。

 

 マイクは大慌てで、物陰へと身を潜める。


 ちっ……敵は何処にいやがる。

 サノバビッチ! 見えやしねぇ。

 

 マイクは、敵の位置を確認するため、様子を見る事とした。



 ● ● ●


 

 私達は、丘の一本道を走っていた。


「組長ちゃん、取り敢えず、少年から鹿鬼を引き剥がすのには成功したぜ」

「柏木さん、貴方流石ね。空中から撃って命中させるのだから、バイクの荷台に立って撃っても当たるんじゃ無いかと思ったけど、まさか本当に当てるとはね」

「いゃ、すっ飛んだバイクのハンドルを、逆に切って、二輪ドリフトをかました組長ちゃんの腕のお陰だろう」

「褒めてくれて有り難う。まかさ、カントリーコースで、タイムトライアルをしていた時の技が、役に立つとは思わなかったわ」

「そんな事、してたんですか……おてんばな……」


 私は、クスッと笑う。 

 ……いぇ、柏木さん、本当にスゴいのは、あなたの方よ。

 私には、ここから見える鹿鬼は、点にしか見えない。

 幾ら一本道だからと謂って、楠君が吹き飛ばされたのを目視できるとは、どんな目をしているのかしら。

 そして、何より、このガタガタ道を走るバイクの荷台に立って、命中させる制度。

 稀に見る化け物ね。

 ……しかし、問題なのは、弾が残り一発しかないって事よね。

 つまり、ここからは私の出番ってな訳ね。

 それにしても、柏木さんが私の妖力を温存させてくれなかったらと思うと、眩暈(めまい)がするわ。

 私の妖力が残っていなければ、バイクも運転できないし、この後鹿鬼と戦うことも出来ない。

 今回は、柏木さんの先読みの力に救われたわね。

 …………さて、まもなく到着だわ。

 よし、楠君の近くに、鹿鬼は見えない。

 いい感じに、警戒されているって事で、間違いはなさそうね。


 ブォォンッ!


 私は、楠君のすぐ横にバイクを止める。


「楠君。大丈夫?」


 私は、彼を抱きかかえて、頬を軽く叩く。


「ぁ……ぉ、ぉねぇちゃん」

「そうよ。お姉ちゃんよ。助けに来たよ!」

「……に、逃げて下さい。……あっ、あいつ強いです」

「意識が有るなら、もう喋らないでいいわ。少し休んでいてね。……後はお姉ちゃん達に任せなさい」


 私は、楠君を団子屋のベンチに休ませる。楠君の安全を確保すると、私は振り返り、スラリと短刀桜草来国光を引き抜いた。


「さぁ、出ていらっしゃい。ウチの弟が世話になったわね。今度は、私がアンタを切り刻んであげるわ!」


 すると、物陰から、金髪でボクシンググローブを手に嵌めた外国人がぬっと現れた。


「ハハハハハ、レディーが俺に何を出来るって? お前よりも怖いのは、さっき俺の顔を傷つけた男の方だ。あいつは何処に行った。出てこい!」

「馬鹿云わないで。ライフルで、接近戦なんてするわけないでしょう。あんたの相手は私よ」


 ボクサー鹿鬼は少し考えているようだ。

 多分、2対1では部が悪いと考えているのだろう。


「悪いが、先に殺さなくてはならない奴がいてな。そっちを優先させてもらう」

「だれ、それは?」


 ニヤリ。

 ボクサー鹿鬼が気持ち悪く笑う。

 と、次の瞬間。私に背を向けて走り出した。


「ちょっと、待ちなさい! 誰を殺すの?」


 誰を殺すつもり? そんなことを、させる訳には行かない。


 私は慌てて、鹿鬼を追いかけた。

 細い路地を走り抜けると、民家の間にある井戸が設置された、少しだけ広い空間に出る。


「ふぅ、ここならいいだろう」


 鹿鬼が足を止めて、ニヤけながら振り向いた。


「なんの話?」


 鹿鬼が、笑いながらストレッチを始める。


「馬鹿かあんた。ここなら射線が確保できないんだよ。民家が密集している真ん中だからな」

「つまり、ライフルが届かないって事ね」

「そういう事だ。お前はまんまと俺に騙されたのさ。そうだな、さっきの質問に答えてやるよ。『誰を殺すの?』って俺に聞いたろ」

「……確かに聞いたわ」

「それの答えだよ。誰を殺すのか。…………それは、お前だよ。レディー。ヒヒヒヒヒヒ!」


 私は、中段の構えをしながら、相手を睨みつける。

 

「……ふぅ、まったく、下品な笑い方ね」

「なんだ、騙されたのが悔しくて、負け惜しみか?」


 私は、大きくため息をするように息を吐いく。

 そして再び睨み付ける。

 

「はぁ……。まっ、いいわ。今からその口、動かないようにしてあげるから、今のうちに遺言を云っておきなさい!」


 さて、対マイク戦が本格化してきました。

 マイクは書いていて楽しかったですね。なんかヒールっぽくて、いいんですよ。

 名前は、ボクサーっぽいってだけでつけました。w


 さて、前回40ポイントに達成しました! とか、書いたのですが、2ポイント削られて、38に落ちて今した。 あうぅ。

 なんか、私がポイント詐称したみたいですよね。

 いやぁ、本当に40あったんですけどねぇぇ。ポイントって、胃かなにかで消化されて、消えるんでしょうかね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ