ラウンド1
「楠組員出撃準備整いました」
指令本部では、尾花沢の声がマイクに乗って、館内に響き渡る。
回転加速装置により、十分に加速した楠の体は、何時でも射出できる準備が調っていた。
煙突砲とは、銃弾の様に、停止した状態から打ち出される訳ではない。
もし、停止状態からの急加速では、体に掛かる負担がありすぎる為だ。
よって、煙突砲はハンマー投げの様に、重りを回転させて、遠心力で飛ばすイメージと思ってもらった方がよい。
とはいえ、煙突内では更に加速するので、一概に遠心力だけで飛ばしていると、語弊がある。
……そして今、楠の体は遠心力により、充分に加速しており、いつでも発射できる体制となっていた。
指令室では、尾花沢が、金沢の号令を待っている。
また、金沢もそのタイミングを計る。
なるべく時間を引き伸ばしたいが、引き伸ばし過ぎると、本部に揚げ足を取られる。何より町の被害が拡大化する。
……だが、そろそろタイムアップの時間が来たらしい。
金沢は、いつになく静かに号令をかける。
「出撃」
「……了解」
金沢の指示により、尾花沢がレバーを押し上げる。
すると、充分に加速した楠の体は、煙突砲内を滑るように駆け上がって、大空へと飛び出した。
ゴフゥゥウウウウ!
轟音と共に、楠は、空中へと投げ出されて行った。
尾花沢はモニターを見ながら、楠の位置を逐次確認する。
「楠組員、現在上尾上空。間もなく桶川に入ります」
金沢は、尾花沢の報告を受けながら、モニターを見続けた。
「……やっぱり、浅倉は間に合わなかったか。……まっ、アイツも良くやってくれたよ」
金沢は、椅子に深く腰かける。
「さて、俺も覚悟を決める時が来たって事かね……」
「何云ってんですか。支部長は、いつでも覚悟をきめているじゃないですか」
三沢が、金沢の独り言に口を挟む。
「そうかい? まっ、楠もただじゃ転ばんだろう。なんせ、アイツの愛弟子なんだからな」
「……そうですね。あの子が、心を込めて育てた子ですからね。そう易々と、鹿鬼になんて、ならないと思いますけどね」
そんな会話の横で、弱々しく尾花沢の報告が、指令室に流れる。
「……楠組員……桶川に到着しました。浅倉組長は残念ながら……」
尾花沢の肩に、三沢は優しく手を乗せる。
「大丈夫よ。あの子なら……」
こうして、ついに楠と人型鹿鬼との戦いが始まるのだった……。
● ● ●
「指令本部、こちら楠。無事、桶川市内に到着しました。ですが、鹿鬼の発見には至らず」
「指令本部了解。敵は人型です。近くの民家に潜んでいるかもしれませんので、警戒を怠らない様に注意してください」
「了解!」
さてと……なんとか桶川市街に不時着したのは良いけれど、肝心の鹿鬼はどこだろう。
もしかして、僕は降りる場所を間違えてしまったのか?
だが、僕が、そんな事を考えたのも束の間だった。
鳥越苦労とは正にこの事で、敵の居場所は直ぐに判明した。
ガラガラガラガラ!
なにせ、目の前の家屋が、破壊音を立てながら、倒壊したのだから。
また、倒壊音と共に、市民の悲鳴も立ち上がる。そうなれば、自ずと敵の位置は判明する。
「……酷いな。町の人が、一体何をしたと謂うのだろう」
僕は、拳を握りしめながら、臨戦態勢で倒壊した家屋へと歩みを進める。
少し歩くと、逃げ惑う市民の後ろに、長身の男が佇んでいぬのが見えた。
「あれか……」
僕は、狙いを定めると、その男の前に立ち塞がった。
……が、その姿に唖然とする。
「なっ、これが鹿鬼?」
僕は、その鹿鬼を見た瞬間、呼吸をするのを忘れた。
鹿鬼の姿は、男性で、年齢は20歳前後と推測される。また角は、額に2本生えて要るのが、確認取れる。
……だが、問題はそこでは無い。彼は金髪のオールバックで、身長は2メートルはあろう大柄。つまりは異人なのだ。
驚くべきはそれだけでない。その異人には、鹿鬼として、在るはずのモノが見当たらない。
そう、鹿鬼のトレードマークである、刀を手にしていないのだ。
そして、その代わりと謂っては何だが、その異人は、ボクシンググローブを装着していた。
「まっ……まさか、メリケンの鬼なのか?」
僕は、身構えたまま鬼の前に立つ。
「ん? ボーイ、何をしている? ほら、見逃してやるから、どこかへ行け」
そう云うと、鬼は僕の事を猫を追い払うかのように、シッシッと手を動かす。
「残念だけど、異人さん。僕はアンタを倒しに来たんだ。悪いけど、ここで、ちょっと寝ていってもらいますね」
そう云いながら、僕は両手の拳を合わせて、手に付けている装甲をカチカチと鳴らした。
「へぇ~、ボーイ俺とやり合おうってんだな。ボーイは鉄のグローブ。おれはボクシングのグローブ。殴り合いの試合が出来るとは、嬉しいじゃないか……。いいよ……、やろうか。日本に来て、ボクシングで戦えるなんて楽しみだぜ」
メリケン男はニヤリと笑うと、ファイティングポーズをとった。
……なるほど。相手は僕が殴って戦うと思っているんだな。
残念ながら、僕には殴るだけでは無い。足技もあるのだ。――それを知らないと、痛い目をみるよ。
僕は、ボクシングとは異なり、空手や八極拳に近い、構えをする。
「おぉ、ボーイやる気だね。……にしても、さっきから全く喋らないけど、もしかしてビビっちゃったの? あぁ、そうか。ボーイの口はママのおっぱいで一杯だから喋れないのか。ハハハ」
ザシュッ!
その笑い声がゴングだったのか、ボクサー鹿鬼は、一気に間合いを詰めて来た。
何ッ、不意を突かれた! まさか自分で笑った後に、間合いを詰めて来るとは!
メリケンが間合いに入ると、同時にパンチを繰り出して来る。
左ジャブ、ジャブ、と来て、右ストレート。
くっ、早い!
想像よりも早いパンチが、刺すように飛んでくる。
僕は、それら全てのパンチを、装甲を使い弾いた……が、想像以上に重たい。
普通の男が殴って来るのとは、訳が違う。
「とんでもありませんね、そのパンチ。まともに食らっては、腕の骨が、簡単に折れてしまうじゃないですか」
メリケン鹿鬼が、ニヤつく。
「へー、よく分かったなぁ。大体の奴はグローブをバカにして、ブロックするんだよ。で、そのブロックが仇となって、腕の骨が砕けるってのが、今まで相手にしてきた奴なんだが……」
「グローブですか……確かに柔らかそうなので、バカにする者はいるでしょうね。……でも、それって、あなたの拳を守るためのモノであって、相手へのダメージを軽減するモノでは無いですよね」
「……ヘッ……その通りだ。綿が入っているんだからチョロいだろうと、油断してくれれば楽だったんだがな……」
「ご冗談を。そのパンチ、マトモに受けたら、僕は一発KOですよ」
僕は、会話をして、仕切り直す。
あのまま押されていては、部が悪いからだ。
戦いに置いて、重要なのは流れであると、僕は師匠に教えられた。
師匠の教え通りに間を取って、僕は、相手のペースに流れそうな所を、一旦仕切り直したのだ。
「さて、ボーイ。そろそろ、第2ラウンドと行こうか?」
メリケンが、シャドースパーリングを始める。
「まぁ……構いませんが、その前に1つ。あなたの名前を聞いても良いですか?」
「良いけど、そんなもの聞いてどうするんだ?」
「いえ、生きているうちに聞いておかないと、あなたの墓標に、名前を彫れないじゃ無いですか」
ブチーン!
メリケンの血管が、切れる音が聞こえそうだ。
「フッ、良いだろう。俺の名前はマイク。お前を殺す男の名前だ。地獄に落ちても忘れるなよ! で、ボーイの名前は何て言うんだい? 墓に、炭で書いてやるから教えな!」
「炭ですか。そんな、すぐに消えてしまうもので……。まっ、良いでしょう」
僕は髪をかきあげる。
そして、顎を上げて、相手を見下す様に目線を下に落とす。
「僕の名前は楠清右ヱ門。地獄に行ったら、広めておいて下さいね。地獄の鬼よりも怖い存在が、現世には在た……とね」
いつも応援ありがとうございます。
この度、総合評価が40ポイントになりました。ありがとうございます。パチパチ。
きっと、大したことは無いのでしょうが、こんな自分の作品を読んで貰えて、有難いと思っています。
あと、星を付けて下さっている方、みなさん5を付けて頂きまして、遅ればせながらお礼申し上げます。
はげみになっております。おかげ様で、次章も順調に作らせていただいております。
さて、来週ですが、改稿していたら、ちょっと長くなりました。
6000文字オーバーになってしまったので、分割しようとも考えたのですが、区切りが悪くて……。
そんな訳でして、来週は少し長くお付き合いください。
そうそう。誤字報告もお待ちしています。
先日、小さじ一杯の魔女で初めて誤字報告を頂いたのですが、ちゃんと読んでくれているのだなと嬉しくなりました。
ですから、もし誤字がありましたら、遠慮せず送ってください。




