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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第三章 命の重さ(六月)
30/101

夕日号AA確保

 副支部長の声が、電波に乗って私の耳へと届く。


「では、悪い知らせからでいいのね」

「……はい、悪い知らせからでお願いします」

「それでは伝えるわね。……まず上尾に鬼型鹿鬼1体が出現したわ。それに対しては、片桐組員が単独で向かったわ」

「……そうですか。それは大変かもしれませんが、片桐さんならなんとかやり切ってくれるでしょう」


 確かに悪い知らせだ。単独で鹿鬼に挑まなくてはならないのは、リスクが高すぎる。

 しかし、最悪の知らせとは……?

 私の胸に緊張が走る。


「では、最悪の知らせを云うわね。桶川に人型鹿鬼1体が出現したわ」


 ブヮァァアア!


 私は全身に、鳥肌が立った。

 

「なっ、で、どうしたんですか? まさか、楠君が単騎で向かったんですか?」

「いえ、落ち着いて。楠組員はまだここに居るわ」


 ふぅ……。

 私は胸を撫で下ろす。

 

「そうですか。……では、我々が汽車で桶川まで移動すれば……」

「……残念ながら、そうは行かないのよ。この情報を知った帝国本部が、直接こちらに命令を下して来てね」

「て、帝国本部がですか?」

「えぇ、そうなの。『今すぐ、楠組員を派遣せよ』とね……」


 なっ、本部は何を云っているのだ。バカなのか? それとも、大バカなのか?

 ちょっと待て……落ち着け私……。本部はわざわざ無駄なことで、埼玉支部に介入などしてこない。

 必ず狙いがあるはずだ。

 先日の報告で、楠君が鹿鬼に変化する可能性が高いことは、本部の人間も知っている。

 では、なぜ単騎で楠君を向かわせるのか。

 もし単騎で向かわせる目的があるとするならば、楠君を鹿鬼にする事くらいしか、思い当たらない。

 つまり、鹿鬼にして、責任を金沢支部長に取らせるのが目的?

 

「浅倉組長、聞こえているかしら。……浅倉組長応答せよ」

「……すみません。こちら浅倉です。少し考えごとをしていました。楠君を単騎で出撃させようと、本部からの命令でしたね」

「……そうなのよ」

「分かりました。……本部の事情は知りませんが、もしかして、金沢支部長は、本部の人間に恨まれていたりするのですか?」

「…………っ」

 

 副支部長。言葉が詰まっていますよ……。


「何となく分かりました。今はそれだけで充分です。で、楠君を射出するまで、後どのくらい時間を稼げますか?」

「浅倉組長、口を慎みなさい。時間を稼ぐといった云い方は、適切ではありません。ただ射出まで急いで5、いや、6分くらいは掛かるわ。煙突砲は、先の連続発射で、熱を帯びてしまってオーバーヒートをしてしまったの。ですから、そちらからも、応援に向かってもらえるかしら?」


 ……成程。そういうことですね三沢さん。

 ……そう、今の三沢さんの無線かなりおかしかった。

 そもそも、煙突砲は()()()()()()()()()()()()

 それをあえて、口にすると謂う事は、三沢さんなりの時間稼ぎ。

 つまり、この無線は、本部に傍受されているって事ね。もし時間稼ぎなんて無線で云えば、それこそ本部の思う壺。

 三沢さんも苦労しているのね。


「分かりました。浅倉、柏木の両名は、桶川へと転進します」

「よろしく頼むわね。浅倉組長。……あなただけが頼りよ……」

「了解しました。今後我々は特命へと移りますので、無線を(だん)といたします。以上」


 私は、耳についている骨伝導無線装置を、首に掛けてスイッチを切った。


「で……今の無線は聞いていたけど、組長ちゃん、どうするんだい?」

「……そうね。とりあえず、汽車に乗れば一駅で着くのだけど……柏木さん、次の汽車いつ来るのか調べてもらえるかしら?」

「了解!」


 私は、柏木さんに汽車の時間を調べさせている間に、鹿鬼との位置関係を脳内で整理する。

 埼玉支部のある大宮。

 そこから北へ7キロの地点に上尾。現在ここでは片桐さんが交戦中。

 そして、更に北へ4キロで桶川。ここが目的地であり、人型鹿鬼が暴れている場所。

 で、桶川から更に北へ8キロが、今私たちの居る鴻巣。

 つまり、私達が桶川へ行く為には、8キロ南下しなくてはならないのだ。しかも、なるべく早く……。

 今直ぐに汽車が来るのであれば、10分とかからず桶川に着くだろう。

 だとすれば、楠君の射出に6分。飛行時間が4分……。つまり、ちょうど楠君が到着するのと、私達が到着するのは同じくらいだ。

 これならばなんとかなる。

 ……だが、汽車が来なかった場合はどうする……?


 私は辺りを見回した。

 残念ながら鴻巣は田園広がる農村地帯。

 車等の、エンジンが搭載された車両は走っていない。

 もっとも、車なんて高級な代物を買える人物が、この田舎に、ゴロゴロいるとも思えない。

 なんとか手に入れる事ができる乗り物と謂えば、せいぜい自転車がいいところだ。

 ……だが、それでは圧倒的に時間がかかり過ぎる。

 それにもし、楠君が鹿鬼化しなかったとしても、相手は人型鹿鬼だ。楠君が殺される可能性は充分に高い。

 ……頼む、汽車よ来てくれ。


 私は、そう願いながら駅の方へと走り始めた。

 すると、真向かいから、柏木さんがこちらに向けて走ってくる姿が目に映る。


「ハァハァ。組長ちゃん、次の汽車の時間わかったよ」

「いつだった?」


 私は、願いを込めて尋ねた。

 しかし、その願いは簡単に裏切られた。

 

「一時間後だそうだ……」

「……そう。……それじゃぁ、汽車はダメね」

「ダメってどうするんだい?」

「そうね……」

 

 私は、呟きながら、辺りを見回した。

 そして、願った。

 

 一台くらいあるでしょう。お願いだから、あって頂戴!

 

 私は、希望と怨念を込めるように念じながら、首を左右に振った。

 すると、黒く光る、鉄の物体を見つけた。


「あった」


 私は、すかさず、その物体に駆け寄る。

 そして、その物体にまたがっている人物の目を見つめる。

 

「突然現れて何なのだけど、貴方、このバイクを、私に貸してくれないかしら」

 

 私に、いきなり声を掛けられたボンボン風の男は、瞬時に怪訝(けげん)な顔を浮かべた。


「はぁ? あんた何を云っているんだ? 俺の虎の子、夕陽号AAを貸す訳ないだろう」


 まぁ、急に見知らぬ女が声を掛けて、宝物であるバイクを貸してくれと云って来れば、当然の反応だろう。

 しかし、事態が窮している為か、柏木さんも話に割って入る。

 

「悪いな兄ちゃん。見えねぇかもしれないが、こちとら一応軍の人間でな、別によこせといっている訳じゃないんだ。ちょっと貸してくれないかと云っているだけだ」


 この言葉にカチンと来たのか、ボンボンは声を強ばらせる。


「はっ、何いってんだあんた? それを脅しって云うんだよ。貸せってのは、よこせと同義語だろう?」


 確かに、今の云い方では、そう捉えられても仕方がない。

 だが、我々にも時間的猶予はない。こんな所で、門義をしている場合ではないのだ。


 ギリッ!


 私の拳が、一段階強く握られる。


「あ~そうだな……まっ、どうしても貸して欲しいっていうなら、貸してやらなくも無いぜ。……ただ、そこの姉ちゃんが俺を楽しませてくれるならの話だ。そうだったら、とりあえず(また)がせてやるよ。まぁ、跨らせてやるのはバイクじゃなくて、俺の下半身だがな。アハハハハ!」


 ……くぅっ、ゲスが。

 取り合えず今判明したのは、この男がバイクを貸してくれそうでは無いという事だ。バイクを貸す気配など、微塵も感じられない。


 しかし、次の瞬間、柏木さんの銃口がボンボンに向けられる。


「おぃ、兄ちゃん。黙って貸せって云ってんだよ!」

「ほら、軍ってやつはこれだよ。なんかあれば直ぐに脅しだよ!」

「まて、柏木!」


 私は柏木さんの銃口を下ろさせる。


「軍はなんかあれば、すぐに脅しですよね~。酷いなぁ~」


 ちっ、このボンボンは、面倒臭い男だ。

 だが、この男からバイクを借りない限り、活路は開けない。

 ……しかし、このままでは、楠君を助けに行くことが出来ない。


 ……ギシュッ!


 私は、唇を嚙みしめる。

 

 今この男から、無理やりバイクを奪い取る事は簡単だ。

 だが、その後の事を考えると、無理にバイクを奪い取る事はしたくない。

 どうする、どうすれば、バイクを借りることが出来る……。

 このままでは、楠君を助けに行けない……。


 くそっ……、私は……私は楠君と約束をしたのに……したばかりなのに……。

 私が、絶対に楠君を守る……絶対に見捨てないと……。

 ……でも、良い案が浮かばない。ごめん……お姉ちゃんに力が無いばっかりに。

 私にもっと力があれば……力が……。


 私は拳を握りしめて、その拳を見つめた。

 非力な拳は、何も掴めず、ただ、ギリギリと震えるだけだった。


 ……だが、次の瞬間、私は背中から男性に声を掛けられる。


「……あんた、もしかして、さくらちゃんかい?」


 私は、はっとして、その声の主の方へ振り返る。

 すると、そこには大宮の商店街でお世話になった魚屋のおじさん……ではなく、見た目は似ているものの、見ず知らずのおじさんが立っていた。

 合った事も、見たことも無いこの人は誰? と感じながらも、私は律儀に自分の名前を訂正する。


「あっ、すみません。何処で私の名前を知ったのかは、分かりませんが、私の名前は浅倉であって()()()ではありません。新聞では間違って掲載されたみたいですが……」

「おぉ、やっぱりそうか。こないだ号外で読んだよ。大宮の鹿鬼倒したのって、アンタなんでしょう? あんた今、英雄だよ」


 えっ? 英雄? 何の話?


「お~い! みんな、聞いてくれ! ここ鴻巣にも大宮の英雄()()()()()()が来てくれたぞ!」

「本当か?」

「話しには聞いていたけど、こんな小柄な女の子が」

 

 なんだか分からないが、あれよ、あれよという間に、私の回りには人だかりが出来た。


「あっ、お母さん、あのお姉ちゃんだよ。僕を(わらび)で助けてくれたの」


 すると、私の元に母と子が現れた。


「あっ、初めまして、さくらさん。その節は、私の息子を救っていただき誠にありがとうございました。なんとお詫びを申し上げれば」


 母親は、私に深々と頭を下げた。


「いぇいぇ、私は当たり前の事を、したまでです。そんなにかしこまられても困ります」


 私は、深々と頭を下げる母親の手を取ると、笑顔で答えた。


 しかし、そんな矢先、今度は私の背後から、柏木さんが思わぬ声を上げ出した。

 

「みんな、聞いてくれ! 俺たちは、鬼を倒すために、今すぐ桶川へ行かなくてはならない。しかし唯一ある交通手段のバイクを、この男が貸してくれないんだ。誰か説得をお願いできないだろうか?」


 すると、その意見を聞き入れた町民から、声が上がり出す。


「おぃ、こいつ、庄屋のドラ息子、伸介じゃないか」

「なんだこいつ、さくらちゃんにバイク貸さないってのか」

「伸介、バイクを貸してやれ!」

「貸さないとお前の家に火をつけるぞ!」

「そうだ、そうだ! 貸してやれ!」


 なんと、急に回りから私達を後押しする声が沸き上がる。

 これは予想外の追い風だ。

 

「おっ、お前達、火をつけるって、そんな事して良いと思っているのか? そんな事をしたら、パパに云いつけるぞ!」

「知るかよ。火つけられたくなかったら、さくらちゃんにバイク貸せ!」

「そうだ、そうだ!」

「か~せ! か~せ!」

「か~せ! か~せ!」


 伸介と呼ばれたボンボンが、後ずさりを始めた。

 流石にこれだけの人数に火をつけると云われては、食い下がるしかなかったのだろう。伸介は、ふて腐れながら、私に鍵を手渡した。


「ばっ、バイクは貸してやる。……それで、バイクは桶川まで俺が取りに行くから、駅前にでも置いておいてくれ」

「えっ、本当ですか! あっ、ありがとうございます。これで仲間を助けに行くことが出来ます」


 私は、伸介と町民に対して深々と頭を下げた。


「おぅ、さくらちゃん、どうってこと無いさ。鴻巣同様、桶川の町も救ってやってくれ!」

「あんたは鴻巣でも英雄だ!」

「……はいっ!」


 私は涙交じりで、飛びきりの笑顔を作った。


「いゃ、ホント凄いね組長ちゃんの力は」

「いぇ……私は組員の皆さんに比べると弱いですし……」

「何を云っているんだい、組長ちゃん。力ってのは、腕っぷしだけじゃないんだぜ。世論を味方に付ける力。これも立派なあんたの力だ。流石は俺たちのボスだけあるな」


 そう話しながら、柏木さんは私の背中をポンと叩いた。


「柏木さん、ありがとう」


 私は柏木さんに微笑むと、大きく深呼吸をする。


 さて、交通の手段は手に入れたわ。待っててね、楠くん。

 お姉ちゃんが必ず助けに行くから!


 私は、そう決心をすると、桶川市の空を見つめた。

今回登場しましたバイクですが、朝日号AAというのを参考に使わせて頂いています。

値段的にも、一応庶民にも手に入る価格で量産された国産バイクらしいです。


さて、私はといいますと、次章のプロットに悪戦苦闘しております。

話が足りず、五話くらいで終わってしまいます。アウウ。

頑張ってお話考えますので、応援宜しくお願いします。

後、どなたか分かりませんが、お気にいりとか、いいね!とかしてくださった方有り難うございます。

最後まで書ききるように、応援してください。

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