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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第三章 命の重さ(六月)
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柏木の力

 現在私は、鹿鬼が出現した鴻巣市へと向かうために、上空を飛んでいた。

 

「こちら、通信指令本部、上乃ちゃん、とれますか?」

「……ザッ、こちら浅倉。風の音が強いから聞こえにくいけど、感度は良好よ」

「よかった……。上乃ちゃん達は、現在桶川市上空。間もなく鴻巣市に入るわ」

「浅倉了解。……ところで柏木さん、今の無線、傍受できましたか?」


 私は、後方に追従して飛行しているはずの柏木さんに対し、無線の状況を確認しがてら話を振った。


「おう。ちゃんと聞こえているぜ! 組長ちゃんが俺と付き合うって話だろう?」

「……残念ね。無線ではなくて、脳が故障しているようね。……今度頭を、スリッパでひっぱたいて、治してあげるわ」

「おぃおぃ、俺の頭は、家電じゃないんだ。勘弁してくれ。……ところで、話は変わるが、組長ちゃんは俺の得物は知っているかい?」

「得物……柏木さんの武器ですか? そう謂えば知りませんね。今教えてもらっても?」

「もちろん。俺の武器はアーリースミス製、EF0(イーエフゼロ)所謂(いわゆる)ライフルってやつだ。玉は5発しかないので、その辺り宜しく」

「5発ね。良く覚えておくわ」

 

 私は柏木さんとの無線を終えると、徐々に近づいてくる、町並を見つめた。

 私は、ムササビの様に、広げている両手両足に微調整を加えながら、鴻巣市街を目指す。

 左目のインカムモニターには、赤い点が表示されており、赤い点までは、残り1分もかからない距離だった。

 

 ……間もなく、鴻巣の町中ね。

 ただ、今回は蕨の時とは違って、町の約300メートル上空に辿(たどり)り着いてしまった。

 どうやら、町の真上で少し旋回して、高度を落とさないとダメらしい。


 私がそんな事を考えていると、町の中心部から砂埃が上がった。


 ……あそこか。


 私達は砂埃が舞い上がる方向へと角度を修正し、現場へと急行する。


 現場上空に到着すると、私の真下で鹿鬼が刀を振り回しながら、家屋を破壊している姿が目に飛び込んで来た。


 ……さて、場所は分かったけど、どこか着陸できる場所は無いかしら……。


 私は、周囲に滑走路の代わりとなる道は無いかと検索を始める。

 しかし、次の瞬間、私の耳を(いかずち)の様な轟音が突き抜ける。


 ズガァァアアアン!


 なっ、何事?


 私は慌てて首を左右に振り、音の発信源を探す。

 すると、すぐ横には、真下にライフルを構えた柏木さんがいた。


「えっ、柏木さん、何しているんですか!?」


 しかし、そんな私の声は届くはずは無かった。何故なら、柏木さんの体は地表へ向けて一直線に突き進む、つまり急降下をしていたのだから。

 それもそのはず。本来であれば、ムササビの様に広げていなくてはならないフライングスーツをライフルを、打つ瞬間だけとは謂え、折りたたんでしまったのだから自由落下をして当たり前だ。


 重力の影響を受けて、徐々に柏木さんの体は加速し、地面へと吸い込まれれて行く。

 しかし、彼は上空で銃を撃つ経験を何度も経験しているのだろう。

 急降下しているのにも関わらず、慌てることなく再びフライングスーツを広げると、一直線に伸びたメインストリートへ着陸した。


 ……流石ね。流石は元鋼組、組員。

 空を飛ぶのは、慣れっこって事なのね。


 私は柏木さんの度胸の強さを感心しながら、自分も柏木さんの後に続いて、同じ道へと着陸した。


「ふぅ。無事着陸。…………さてと……あー、こちら浅倉、指令本部とれるかしら?」

「こちら指令本部です。どうぞ」

「現場に到着しました。……ですが、鹿鬼の発見と同時に、柏木さんが上空から一発おみまいをして、鹿鬼の脳天に直撃。鹿鬼は沈黙したわ」

「……現場到着と同時に任務完了ですか」

「そう謂う事になるわね。では、また何かあったら連絡するわ」


 私は指令本部との通信を切った。そして、私は冷たい表情を作り出し、ツカツカと柏木さんの元へと向かう。

 そして、少し言葉強めに、上司として注意を促した。


「柏木さん、ちょっとよろしいですか」

「なんでしょう組長ちゃん。俺の射撃の凄さ分かっちゃった?」


 私は大きくため息をつく。

 

「はぁぁぁ。そうではありません。命令していないのに、勝手に撃たないで下さい」

「……だってさぁ、相手は俺たちに気付いていないし、絶好のチャンスだったじゃん」

「そうかもしれませんが……」


 私は少し冷静に事を分析する。


「まぁ、今回は、貴方の腕を知らなかった私にも落ち度はあります。ですから、あまり強くは云いません。でも、次回からは私が命令しますので、それまでは勝手に撃たないで下さいね」

「へいへい」


 ……やれやれ、まるで大きな子供を見ている様だ。

 ……さて、それはともかくとして、空中という安定の悪い場所から、よくもまぁ鹿鬼の脳天に銃弾を叩き込んだものだ。

 あの腕、間違いない、彼も達人級の腕の持ち主だわ。

 やはり、他のメンバーと同じく、性格には難があるみたいですがね……。

 だが、それも踏まえて、金沢支部長はとんでもないメンバーを集めているのは間違いない。

 本部では使いにくい、つまり尖ってはいるが、能力が高い人物を集めて、うまくバランスを図ろうとしているんだわ。

 まったく、中々の狸ジジイね。


 私は金沢支部長の考えを理解したところで、改めて鴻巣の街を見回した。

 せっかく鴻巣まで来たのはいいけれど、私の出番は無かったし、結局、何しに来たのかしらね。

 そんな事を考えながら、私は倒れた鹿鬼の元まで歩み寄る。

 

「随分とあっけなく片が付いたものね。今までの苦労を返して欲しいわ」


 とは謂え、何はともあれ、鴻巣の町は平和になった。

 それは良いことだ。鴻巣の鹿鬼も片が付いたし、回収班に任せようかしらね。

 私は腰に手を置きながら、ため息を()くように、大きく息を()いた。

 と、次の瞬間!


 ボガァァアアアアン!!

 

 今度は駅の近くの家屋が吹き飛んだ。


 ……やっぱり、もう一体現れたか。 一箇所に刀を2本置くのが、最近の流行りなのかしらね。

 変な流行を作りださないでほしいわ……。

 ……まっ、ともあれ、私にも出番が回って来たって事よね。

 さて、私の相手になってもらうわよ、鬼型鹿鬼!


 私は刀をすらりと抜いて、鹿鬼に向けて刀を構える。

 が、次の瞬間、柏木さんが、私に向かって意見具申を申請してきた。


「組長ちゃん、俺にいい考えがある。聞いてはくれないか?」

「良い考え?」


 私はこの時、ふと士官学校時代の教官の言葉を思い出しす。

 

『いいか、良く覚えておけ。お前達は卒業すれば部下を持つこととなるだろう。しかし、部下の方がその仕事においては先輩であると謂うことを絶対に忘れるな。お前達は人を上から眺める鳥の様な存在になる。しかし、鳥の視点からでは見えないものも沢山ある。蟻の視点から、魚の視点からでないと見えないものもあると謂うことを決して忘れるな。多角的に見て分析するのがお前達の仕事だ』


 そうだ、教官は確かに私達にそう教えた。

 頭ごなしに否定すれば、二度と意見など云ってはくれなくなる。

 良い上官になるためには、部下の意見に耳を傾けなくてはならない。


 教官の教えを思い出した私は、柏木さんから意見を聞くこととした。


「柏木さん、何か良い作戦でも有るのですか?」

「まぁね。今出てきたのが二体目だろう。では、三体目が現れたらどうする?」


 ……ほう、この男は、更に先の事を考えるか。


「確かに。私が妖気を開放した場合、三体目を倒すのは大変になるでしょうね」

「でしょう? で、そこで相談なんだけど、組長ちゃんは、妖気を開放せずに鹿鬼の攻撃を耐えられる?」


 耐えられる?

 そうか、鹿鬼にダメージを与える為には妖気を武器に纏われなくてはならない。しかし、受け流すだけなら妖気を必要とはしない。

 つまり、私に敵の注意を引き付けて、町の損害を押さえると謂うわけだな。


「成る程。その囮役、受けようじゃないの」

「流石、話が早くて助かる」 

「で、貴方は何をするのかしら?」

「俺は近くの屋根に登って、鹿鬼のこめかみを撃つ!」

「分かったわ。それじゃあ、その作戦で行きましょう」


 私達は、お互いに目で合図をすると、それぞれの持ち場へと走り出した。


 

 ● ● ●



 ザンッ!

 

 私は鹿鬼と対峙する。

 相変わらずの巨体に、長い刀。

 そして、今まで気に掛けることは無かったのだが、紫色の瞳。

 

 ふぅ、どうやら、その瞳の色は鬼に共通しているみたいね。


 私は、改めて鹿鬼の姿を分析していた。


 ……それにしても、あなた達と戦うのは、これで、何度目かしらね。

 意外と思うかもしれないけど、実は私、あなた達には、感謝をしているのよ。

 圧倒的な力で攻撃をしてくるあなた達に対して、真っ向からその力を受け止めない。

 まるで、指の間をすり抜けて行く風の様に、力を受け流す事をお陰で覚えられたの。

 バカみたいに、正面から力を受け止めていた私にとって、それは新しい発見だったわ。

 …………そして、今日はその覚えたての技の練習させて頂きますよ。フフフ。


「さっ、掛かってらっしゃい」


 私は、左手で来い来いとジェスチャーをした。


「グァアアアアアア!」


 鹿鬼は遠吠えを上げると同時に、刀を振りかざして来る。

 しかし私は、その攻撃の軌道を変えるように、最小限度の動きで刀をいなす。


 カンッ! カンッ! カンッ!


 乾いた金属音だけが町に木霊する。


 右、かがんで払う、側面に回り込む。拳をかわす、後方に飛ぶ。

 よし、ちゃんと見えている。


 私は、想像以上に体が動けていた。

 最小の動きで相手を翻弄する。

 鬼とは謂え、相手にも当然体力と謂うのはあるのだろう。そうなれば、いずれ疲れも現れるのかもしれない。


 まっ……この検証はいずれ行うとしよう。

 さて、後は、柏木さんが仕事をしてくれれば……。

 

 っと、そう考えた矢先、鹿鬼のこめかみから赤黒い血液が吹き出た。


 おぉ、流石ね。とんでもない命中率。


 柏木さんは、またしても一撃で鹿鬼を仕留めた。

 

 私は、刀を収めて、倒れている鹿鬼の動向を注視する。すると、銃を片手に、柏木さんが、歩いて戻ってきた。


「お疲れ様。大したものだわ」

「いゃ、俺とて、ウロウロされている鬼を撃つのは難しいですよ。一定の場所に留めておく事が出来た、組長ちゃんのお陰だ」


 そう言葉を交わすと、お互いに声を出して笑った。

 私達は、たった二発の弾丸で鴻巣の街を守ったのだ。

 

「さて、それじゃぁ私は、本部に連絡するわ」


 柏木さんにそう告げると、インカムに手を添えた。


「あー、こちら浅倉、指令本部取れますか?」

「ザザッ……こちら指令本部。あがのちゃんどうぞ」

「鴻巣の鹿鬼2体は退治したわ。いつもの様に回収班を回して貰えるかしら?」

「……わ、分かりました」「……ザッ……浅倉隊長聞こえる?」


 急に通信相手が、すいちゃんから副支部長へと変わった。


「はい、副支部長取れています。何か有りましたか?」


 私は、通信が副支部長に替わった為、気を引き締める。

 わざわざ、通信をすいちゃんから替わると謂うことは、何かしらの問題が発生していると予想が出来る為だ。

 それに、少しだけ声に緊張が走っていた。

 

 さて、どんな状況なのかしら……。


 私は呼吸を整えながら、インカムから聞こえてくる声に耳を澄ませた。


「浅倉組長、()()知らせと、()()の知らせ、どっちを先に聞きたいですか?」


 いゃいゃ。そう謂う場合は、良い知らせと悪い知らせ、どっちを先に聞きたいって聞くものじゃ無いのですか?


 そんな事を考えつつも、どうやら私の知らないところで、良く無い問題が発生しているらしい。

 もっとも、両方とも悪い情報しかないのであれば、副支部長から無線が飛んで来るのにも頷ける。


 ふぅぅ。


 私は覚悟を決めながら口を開いた。


「そうですね。では、悪い知らせから教えてもらえますか」


 私のこめかみからは一筋の汗が頬をつたり、そして、顎の先から床へと落ちた。

 

名前の売れてない作者は、0時台に上げるのは無謀らしいので、誠に勝ってながら、次回より14時20分にアップさせて頂きます。

読める時間が少し遅くなって、すみません。

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