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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第三章 命の重さ(六月)
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そのころの氷山神社

 金沢が陸軍本部にて報告をしている頃、氷山神社の食堂では、先日大宮観光をした4人と、水沢うどを加えた5人でお茶をしていた。

 

「ねぇ、ねぇ、上乃ちゃん。金沢支部長どうですかね?」


 かりんとうを(くわ)えながら、すいちゃんが、私に質問を投げかける。


「そうね。楠君の処遇どうなるかしらね。こればっかりは、私ごときじゃ分からないわ」

「そう云ったって、この中じゃ一番階級が、上じゃないですか……」

「まぁ、そうなんだけど……ね」


 そんな事を聞かれても、私だって困る。

 本当に分からないのだから。

 ただ私に云えるのは、楠君の扱いは、トップシークレットとなっているはず、と云う事だ。

 しかし、このトップシークレットは、悪い方でのトップシークレットだ。つまり、都合が悪ければ、存在そのものを消し去っても構わない。そう謂った、危険とも呼べる機密事項なのだ。

 

 そんな事を考えながら、私もかりんとうに手を伸ばす。

 私が、かりんとうを口に咥えると、ピタリと片桐さんと目が合った。

 どうやら、彼は私の方を見ている様だ。


「……あっ、え~っと、片桐さん。私に何か御用でも?」


 片桐さんは、一瞬目を反らすも、再び私を見つめる。

 

「……あぁ、そうだな。折角なので、1つ質問してもいいか?」

「どうぞ……」


 私は片桐さんに対して、手の平を向けると、質問権を彼に与えた。

 しかし、ここで思わぬ伏兵が現れる。

 そう、尾花沢すいだ。

 すいちゃんは、片桐さんのこの神妙な面持ちを全く感じていないのか、それとも感じていながら、敢えて壊そうとしているのか。

 その心の内は全くもって不明だが、ただ一瞬の(すき)を付いて、真面目な空気に水を差したのは事実だ。


「ねぇねぇ、ギリちゃんは何が聞きたいのですか? もしかして、上乃ちゃんの好きな男のタイプですか? それともスリーサイズですか? もぅ……ギリちゃん、それ聞いちゃいます? スケベ~」


 話の腰を折られた片桐さんは、頭を抱えた。


「……おぃ、尾花沢。どうして、おれが、組長の男のタイプやスリーサイズを聞かないといけないんだ?」

「いやぁ、健全な男子なら気になるかな~と思って」

「……そうか? 健全な男子ならそう謂うものか?」

「そうです、そう謂うものです! 聞いちゃいますか? 聞いちゃいましょう!」


 すいちゃんの行動がおかしい。妙にそわそわ、ワクワクしているのが表面に出ている。

 本当、隙あらば、恋バナに話を持って行くその話術には、脱帽ですよ。


「ん~、そうだな。じゃぁ、聞いてみるか!」

「おおぉぉ~~~ふひっぃ!」


 変な声と共に、すいちゃんの顔がニヤける。

 

「おぃ、尾花沢。お前の好きな男のタイプとスリーサイズを教えろ!」

「えっ!」

 

 いきなり、話を振られたすいちゃんが、自分の鼻を指差す。


「へっ? 私? 私のスリーサイズ? あんで?」

「あんで? じゃねぇよ。お前が聞けって云ったんだろう」

「……えっ、ギリちゃんって私に興味があるの?」

「何云ってんだ? お前に興味なんか、微塵もねーよ。今月の水道代幾らだ? って質問しているのと、同じくらい気にしてねーわ」

「え~、少しは気にしてよ~。このスイカの様に、どでかい巨乳が、何カップなのかとか」

「すまん、飯を作る時に計量カップは気にするが、お前の胸のカップなど気にしたことは無い」

「うぅぅ…………わ、私の胸の大きさは、計量カップに負けるのね……およよよ」


 すいちゃんが、机につっぷした。

 どうやら、勝敗は片桐さんの勝ちで決したらしい。


「さて、邪魔者を倒したところで、本題に入るぞ」


 邪魔者って……ハハハ。……それに、そう云えば、元々私に質問してくる予定だったわよね。

 すいちゃんが会話の主導権を握っていたので、忘れていた……。


「片桐さん、質問をどうぞ」


 私は、再び、手を差し向ける。

 

「……いやぁな、前回の戦闘で、組長って最初普通の鹿鬼を相手にしていただろう。っで、その後おばさん鹿鬼を相手にしたと思うのだが、妖力の持続時間がちょっと長かったなぁと思って。何か秘密でもあるのか?」

「あー、私の妖力ね」

「そうだ。俺よりも先に妖力を使い始めて、俺よりも後に妖力が切れたよな。あれって気のせいじゃないよな?」


 流石は片桐さん。あのゴタついている中で、よく妖力の持続時間など気にしている。

 まっ、片桐さんの実力なら気が付いてもおかしくは無い。

 

 私は、ついに修行の成果を話す時が来たと、小さく微笑んだ。


「……そうですね。妖力の持続時間が長かったのは、気のせいじゃありませんよ。確かに私の方が先に使用し始めて、片桐さんの後まで使っていましたね」

「なぜだ、妖力が増えたのか?」

「いぇいぇ、増えてなんていませんよ。ただ、途中で一度止めただけです」

「………………なに?」


 片桐さんの顔が固まった。 

 片桐さんでも、驚くとあんな顔をするのだと、私は少し悦に浸る。


「ちょっ……ちょっと待て。妖力を途中で止める事など、出来ないだろう」

「チッチッチッ」


 私は人差し指を左右に振る。


「それが、出来ちゃうんですよ」

「……どうやって?」


 片桐さんの顔は、相変わらず固い。

 いゃ、驚きのあまり、表情を作る余裕がないのかもしれない。

 それにしても、片桐さんからマウントを取るのは実に快感だ。

 ん~、いつまでもこの状況を維持したいものだが、片桐さんも説明を待っているので、手早く説明をしないとですね。


「さて、これは周知の事実ですが、一度妖力を開放すると、全て使い切るまで妖力は出続けます。これまで、これを例えると、水の入った瓶を逆さまにするって言い方を良くしてましたね」

「そうだ。それが常識だ」

「ですよね」


 私は、顎に手を当てながら頷く。

 私は顎から手を外すと、今度は人差し指を立てて、自分の右目の前に持って来る。

 そう、まるで探偵が、今から謎解きをするかの様、さながらにだ。


「……フフフ。しかし私は、この理論に異を唱える事としました!」

「異?」

「そうです! あっ、そうそう。別に、いーーーって、声を出して、呪文を唱える訳では無いですよ」

「……そんな事は分かっている。話を続けてくれ」

「はぃはぃ、冗談です。では話を戻します。私は、妖力の例えを瓶ではなく、と~~~ってもオシッコがしたい時に、我慢していると例えます」

「へっ?…………あのぉ……組長? 世の中には、言い方ってのがあると思うんだけど……。因みに、組長って19歳でしょう?」

「黙って、片桐さん! いいですか? この説明は、オシッコである事に意味がるのです!」


 私は体を前に乗り出して、力説する。

 私の圧に押されてなのか、片桐さんがたじろぐ。


「……ごくりっ」


 片桐さんの喉ぼとけ上下に大きく動く。

 片桐さんの唾を飲み込んだ音が、ここまで聞こえてきそうだ……。


「さて、よ~く、訊いて下さい。いいですか? 片桐さん、とってもオシッコがしたい時に、我慢したこと有りますか? 有るでしょう? そう謂う時って、膀胱がパンパンになるじゃないですか」

「……おっ、おう」

「で、その状態のままトイレでオシッコをすると、どうなります?」

「えっ、あっ、俺に質問しているのか?」

「そうです! 片桐さんに質問しています!」


 片桐さんの顔が真っ赤になる。

 

「なぁ、尾花沢や、水沢も居るのに話すのか?」

「いいから!」


 心なしか、すいちゃんと、うどちゃんの目がランランと輝いているように見える。

 片桐さんのオシッコに、興味が有るのかな?

 それはともかくとして、今は片桐さんだ。

 

 私は、片桐さんの目を見つめる。


「え~と……ト、トイレで放尿すると、気持ちいよ。束縛からの解放感というか……やっと出せた爽快感というか……」

「そう、そうでしょう! 片桐さん、そこです!」

「……え~と……なにがそこなの?」

「そこで、オシッコを止めます!」

「いっ! いゃぁ、それは結構痛いし、無理だろう」

「いやいや、勢いよく出ている時に、止めると、尿道が痛くなるけど止まるじゃないですか」

「……ん……まぁ、そんなにやったこと無いけど、そうだろうな。勢いよく出ている時に止めると、尿道が痛くなるよな」

「そう、そんな感覚です」

「………………えっ? なにが?」

「妖力を止める、と謂うのはですよ」


 片桐さんが、ポンと手を打った。


「あぁ、そうだった。妖力を止める話をしていたんだった」

「なっ、忘れてたんですか? 私一所懸命に話していたんですよ!」

「いゃぁ……組長が、放尿について、力説しているのかと……」

「なっ、なっ、何を云っているのですか! 私が好んでオシッコの話なんてする訳ないでしょう。片桐さんに分かり易く話をする為、折角オシッコに例えて、話をしたのに…………ハッ!」


 やってしまった!

 力説している時は、なんとも感じなかったが、いざ落ち着いてみると羞恥心に(さいな)まれる。

 穴があったら入りたい……。


 しかし、片桐さんはそんな私に追い討ちを掛ける。


「組長、そんなにオシッコ、オシッコ連呼しないで下さい。一応女子なんですから、少しは恥じらいってものを……」


 かぁぁああああ。


 はっ、恥ずかしぃ。誰か、私の記憶を消して……。

 私……今まで、よくオシッコを、連呼出来たわね……。


「べっ、別に、私だって、好きでオシッコ、オシッコ連呼している訳じゃありません」


 しかし、片桐さんの私いじりは、まだ終わらない。

 

「……で、話が途中なんですが、オシッコ組長」


 すぅーーっ!


 私の目が座る。それと同時に、周囲の気温が2度下がる。

 

「ヵ・た・ギ・り・サん? 次、それ云ったら、干し椎茸にして切りますからね? フヒッ」


 大きく片桐さんが、後ずさった。


「お、OK組長。もう云いません。何も云いません」


 左右に首を振る片桐さんの顔から、無数の汗が流れ落ちる。


「……さて、話が脱線してしまいましたね。つまり、妖力は止める事が出来ますが、それなりに体へ負荷が掛かると云いたかったのです」

「……まぁ、先程の話からすると、そういう事になるな。……どうだ、楠もやれそうか?」


 今まで、机の端で話を聞いていた楠君に、片桐さんが、話を振った。


「そうですね。妖力を止めると、便利かもしれませんね。今までは、あまり妖力の事を考えて戦っていませんでしたから……。今後は、そういった事も考えながら戦う必要が有るかもしれませんね」

「だな。まぁ、練習が必要そうだから、合間を見ながら、少しづつ訓練して行くしかなさそうだがな」

「そうですね。僕も空き時間にやってみる事にします」


 どうやら、片桐さんと楠君は、妖力への理解が高まったみたいだ。

 今後は、妖力に対して、考えながら戦ってくれそうで安心する。



 ……しかし、私は、まだこの時、知らなかったのだ。

 ……まさか、陰で私の事を『オシッコ姫』と呼ぶ者が生まれていた事に…………。

 

 フフフ、でもね、そんなふざけた噂を流す犯人なんて、もう分かっているのですよ。 

 そう、この時、この場には居たが、一言も声を発っさなかった二人組。

 氷山神社の拡声器と名高い『すいかうどん』の二人である事はね……。


 ククク、後で覚えておきなさいよ。

 あんたらは、干しシイタケ送りよ!

 しっかり、切り刻んであげるわ!


 アーハッハッハッハッーー!


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