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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第三章 命の重さ(六月)
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本部報告

第三章 開幕

 6月1日 帝国陸軍本部3階会議室。

 現在ここには、関東支部の支部長が、円形型のテーブルに座り集まっている。

 


「全員起立。本部長入室します」


 号令が終わると同時に、会議室の扉が開く。

 両開き戸が最大限まで開くと、恰幅がよく、鼻の下に髭をはやした男が、堂々と入室してきた。

 この男こそ帝国陸軍本部長、海原五十六(かいばらいそろく)である。


「只今より、定例会議を行う。全員敬礼!」


 議事進行役の掛け声により、その場の全員が敬礼を行う。


「元へ! 本部長挨拶! 全員敬礼!」

 

 その後、会議に出ている者は着席をする。そして、本部長の挨拶へと移行した。


「さて、関東支部の支部長諸君、定例会へ集まってもらってご苦労。先だって、皆も知っていると思うが、埼玉では鹿鬼(かき)と呼ばれている鬼が跋扈(ばっこ)しているとの情報だ。今後他の都道府県にまで被害が及ばないとも限らない。そして、なにより敵の狙いが分からない。最終目的を帝都とした場合、隣接県にも応援要請をするかもしれない。心して置く様に」


 各支部長が、各々に頷く。

 

「それでは、只今本部長のお言葉にもありましたが、現在埼玉県では鹿鬼なる化物の発生が止みません。そこで、まず埼玉県支部からの報告に入りたいと思います。……では、埼玉県支部、金沢支部長、報告をお願いします」


 進行役が、金沢を指名する。

 指名を受けた金沢は、その場で起立すると、各都道府県支部長の顔を一巡して見た。


「……只今ご指名を受けました、埼玉県支部の金沢です。それでは、埼玉県内において、発生している鹿鬼と、その出現条件等についてお話します」


 金沢は細く息を吸う。


「まず、現在確認できている、埼玉県内における鹿鬼の出現数は合計10体となっています。内8体に在っては鬼型、2体に在っては人型となっています。では続きまして、鹿鬼の正体について話します。鹿鬼の正体はズバリ人間です。つまり人間が鬼として変化し、暴れているのが鹿鬼となります」

「……ちょっと待ってくれ。鹿鬼とは人間なのか?」


 神奈川県支部長が、驚きとも、反射とも捉えられる声で反応する。

 もっとも、他県の支部長も同じ疑問をもったのだろう。会議室内にどよめきの声が上がった。

 

「只今、神奈川支部長が懸念致しましたが、残念ながら鹿鬼の正体は、人間が突然変異したものになります」

「……では、いゃ、つまり、誰しもが鬼になる可能性があると謂う事なのだろうか?」


 すると、金沢の後方に立っていた三沢が一歩前に出る。


「それについては、(わたくし)から説明させて頂きます。鹿鬼への変化、都合上鹿鬼化(かきか)と呼ばせていただきます。現在、この鹿鬼化への条件として判明していることは、対象者が刀を握る必要があると謂う事です」


 三沢は一息ついて、間を取る。


「では、刀が何処に在るのかと云いますと、端的に云わせてもらえれば不明です。ただ、敵の発言から、あらゆる町に刺して置いてあると推測されます」

「発言、よろしいかな?」


 50代前半の男が挙手する。


「どうぞ」


 三沢はその男にお辞儀をすると、発言を了解する。

 

「今、あらゆる町と云ったが、それは隣接県である、我が群馬県でも可能性があると解釈してよろしいのかな?」

「はい、質問にお答えします。今のところ発生場所は埼玉県内のみとなっています。今後はどうなるか分かりませんが、今のところ他県へ飛び火しそうな感じではありません」

「それはよかった。 ……いゃ、君の県では大変なのだら、これは失言だったな。謝罪する」

「お心遣いありがとうございます。それでは、報告を続けさせて頂きます。鹿鬼化についてですが、先程刀を握る必要があると報告しました。しかし、この刀というのは普通の人には見ることが出来ません。つまり、普通の人は刀を見つけることが出来ないので、鹿鬼化する事はありません」


 三沢の目には、首を(かしげ)げる者が何人か見受けられる。

 それを確認すると、三沢は右手を上げて、係員に合図を送る。

 すると、会議室の大型モニターには、インテリ風の鹿鬼が映し出された。

 

「では、どう謂った人物が刀を見る事が出来るのかという説明をします。現在モニターに映し出されているのは、人型の鬼鹿になります。彼の名前は自称『王龍騎(おうりゅうき)』と云います。彼が話していた内容ですので、情報に確証はありません。ただ、話の内容からすると、かなり信じられる内容となっています。ですから、それを踏まえた上で、お聞き下さい」


 会議室に集まった支部長達は、モニターから三沢へと目を動かす。

 自分に注目が集まった事を悟ると、三沢は心を落ち着かせる。

 

「では…………お話します」


 支部長達は、三沢が取る間と、張り詰めた息使いから、かなりの爆弾発言が飛び出すのだろうと気を引き締める。


「……王龍騎は、私達に、刀の存在について、この様に云いました……」


 すうっ。


 三沢は小さく息を吸う。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()……と」


 ザワザワ。


 会議室にどよめきの声が上がる。


「それは、本当の事なのか!」

「確証はあるのか!」


 ゴホン。


 金沢がワザとらしく咳払いをする。


「えー只今各支部長から、確証はあるのかとの質問がありましたが、それについては、私がお答えします」


 金沢は細く息を吸って、会議室の静けさを肌で感じる。

 そして、覚悟を決めたかのように目を見開く。


「確証はあります。……なぜなら……、殺人衝動があるうちの()()が見たのですから」


 ドヨドヨ!


 先ほどよりも、ひと際大きく騒ぎ始める。

 

「ちょっと待て、それはどういう事だ!」

「埼玉では、殺人者を組員にしているのか!」

「そんな組員クビにしろ!」


 至る所から、質問と呼ぶより、叱責と呼べる声が上がった。

 しかし、その動揺を収める為、進行役が声を張り上げる。


「みなさん、お静かに! 静粛にしてください」

 

 しかし、周囲の者が、静かにする気配など微塵も感じられない。

 水面でバタつく水鳥の様に、ギャァギャァと、ただ騒いでいるのだ。

 だが、いくら騒いだからといって、何かが解決する訳でも無い。所詮は外野が騒いでいるに過ぎない。

 そんな中、各々が云いたいことを云い終えたと感じた本部長の海原五十六は、頃合いを図って口を開く。


「あー、いいかな」


 その声と共に、今まで騒いでいた者達が、一気に鎮まる。


「金沢支部長。君の部下が鬼に姿を変える刀を見る事ができるのは分かった。しかし、まだ話は途中であったと思うのだが」


 本部長から話を振られ、金沢は再び口を開く。


「おっしゃる通りです。では、話を続けさせていただきます。先にも申しましたが、鹿鬼には人型と鬼型の二種類がいます。これらはどの様に分かれているのかと云いますと、憎しみの大きさによるモノと王龍騎は云っておりました。つまり、憎しみの気持ちが、大きければ大きいほど、人型になれると彼は云っていたのです。尚、先程お見せした王龍騎は、憎しみが大きく無ければ見つけることが出来ない刀を開発しているとも公言しています。つまり、改良した刀を見つける事が出来る者は、確実に人型の鬼になれるという事になります」


 金沢は本部長に一礼をする。


「金沢支部長、ご苦労。さて、諸君、聞いての通りだ。つまり、敵の目的は判明しないが、その様な刀を開発しているという事は、人型の鬼を欲しているという事となる。つまり、破壊行動しか出来ない動物的鹿鬼よりも、考えて行動する幹部的鹿鬼を欲していると考えていいだろう。金沢君、ちなみに敵の人型は何人いるのか把握しているのか」

「はい。今のところ4人いるかと思います。これはうちの組長が、さりげなく口を割らせております。ですが、今後も増える可能性は十分にあるかと思います」


 金沢は再び本部長に一礼した。


 すると、そのタイミングを計っていたのか、神奈川県支部長が挙手する。


「発言よろしいか」

「許可します」

「ありがとう。神奈川県支部長の鵜川(うがわ)です。金沢支部長のお話を聞いていたところ、1つ疑問があったので、質問させてもらっても宜しいか?」


 神奈川県支部長が質問の許可を求めてきたことから、金沢は「どうぞ」と手の平を大きく鵜川支部長に向けて、体で答えた。

 

「では、質問させていただきます。話から推測するに、金沢支部長の部下が、鹿鬼化の刀が見られると思われるのですが、それは人型になる改良版の事で宜しいのでしょうか?」


 金沢はその質問に対して、右手をスッとあげ、答える意思があることを、会議室の者に伝える。

 

「質問について回答させていただきます。只今鵜川支部長が推測された通り、私の部下は改造版の鹿鬼化の刀を見る事が出来ます。つまり、人型の鹿鬼になる事が出来るという事です」

「……やはり、そうでしたか。……あぁ~質問を続けて申し訳ないが、ちなみに今までで人型の鹿鬼というのを、倒した経験はあるのでしょうか?」


 金沢は、すまなそうに、沈んだ声で答える。

 

「……いぇ、残念ながら、今のところ一体も倒せておりません。また、力も普通の鹿鬼とは比べ物にならないくらい強い相手でした」

「……そうですか。それでは、これは皆が思っている質問だと思いますので、代表として私がこのまま質問させていただきます。金沢支部長に、その部下を()()予定はあるのですか?」

「…………ぐっ!」

 

 金沢は拳を握りしめた。


「金沢支部長、黙っていないでお答え願いたい。今の話を聞く限り、あなたの部下は間違いなく人型の鹿鬼になれます。そして、鹿鬼となってしまえば、倒すことは難しくなります。そうなる前に、今殺してしまえばそんな心配も無くなるのではないでしょうか!」


 金沢は、手の平から血がにじみ出る程に拳を握りしめた。

 歪んだ顔をする金沢の額からは、汗が滲み出ていた。

 そして、覚悟を決めた金沢は、その場にゆっくりと立ち上がる。


「只今の質問、神奈川県支部長からの質問にお答えします」


 金沢は細く息を吸うと、目を閉じた。

 そして、少しの沈黙の後、覚悟を決めたかのように目を開く。それと同時に、口を開き金沢は鵜川支部長の質問に答えた。

 

 

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