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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第二章 諦めません勝つまでは(五月)
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女鹿鬼 後編

女鹿鬼 前編 のお詫び。

先週改稿をせずに、そのままアップしてしまい、読みにくい場所が多々あったことをお詫びします。

誤字脱字報告があればお待ちしています。

 地面に刺さっている刀を引き抜いた女性は、雷撃を受けたかと思えるほどの大声で、空に向かって叫び始めた。

 状況を知らないで、叫び声だけを聞いたのであれば、よほど酷い拷問を受けていると勘違いする程の大声だろう。


 そんな女性は、ゆらりと体を揺らすと、右手を上空へと突きつけた。

 まるで、勝者した格闘技家のような(たたず)まいだ。

 すると今度は、突きあげた右手を一気に振り下ろす。と、なんと、マジシャンが刀を取り出したかのように、突如として女性の手に刀が出現した。

 一瞬の出来事で、刀がどこから出現したのか、私には理解することは出来ない。


 だが、刀を持っているという事は、次は鹿鬼へと姿を変化させるはず。

 

 私は、そう考えていた。

 しかし、その予想は大きく外れる事となった。

 女性は、前回鹿鬼になった男とは違い、その姿に変化、肥大化などの兆候が見られないのだ。

 

 つまり、今まで見たことのある、筋骨隆々の鬼に姿を変える訳では無かった。


 とはいえ、全く変化が無い訳では無い。

 額からは15センチ程の角がニョキニョキと生えて来るし、瞳の色も紫色へと変化し、不気味な輝きを放っている。

 とは謂え、それ以外に変わった点は見られない。

 そう、他は普通の人間と変わらない外見をしているのだ。


 ……これは、王龍騎と同じ、人型鹿鬼って解釈していいのよね。

 確か、王のが云うには、人型の方が、鬼型よりも強いって云ってたかしら……?。


 私は、一息つきながら、一先ず落ち着いて現状を分析した。

 だが、ただ見ていても何かが解決する訳でも無い。

 私は覚悟を決めて、女鹿鬼へとゆっくり近づいた。


 女鹿鬼は自分の両手をマジマジと見ている。どうやら、湧き出て来る力を、全身で感じている様だ。

 

「こっ、此は一体何事かしラ」


 女鹿鬼は、握っている刀を掲げながら、自分の体の異変を確かめる。

 まだ鬼になった事は把握していないのだろうか?

 女鹿鬼の動きからは、そう読み取れた。


「……それにしても、この沸き上がる力、これって何なのヨ。……この力があれば、あいつを殺せるワ。私を裏切ったあの男を。フフフ」


 女鹿鬼が不気味に微笑む。

 すると……。

 

 ざわわぁああ。


 空気の重さが変わった。

 

 ……やれやれ、参ったわね。王程ではないけれど、とてつもないプレッシャーを感じるわ。

 生まれたばかりの割に、この女鹿鬼、かなり強いわね……。


 そう感じながらも、私は女鹿鬼の目の前まで歩き、彼女と対峙した。

 深呼吸を一度する。

 呼吸を落ち着かせると、私は優しく声を掛けた。


「ちょっと、そこの貴女。……その刀、街中では危険ですので、捨てて頂いても宜しいでしょうか?」

「……ん? 私?」


 女鹿鬼は自分の顔を指差す。


「そう、貴女よ」

「ご免なさいね。確かに駅前で、刀は物騒ですものネ」


 ……この女性、話が通じるのかしら?


「物分かりがよくて助かるわ。ありがとう。それじゃぁ、私の方でその刀は預かるわね」


 私は、女鹿鬼の刀を受け取るべく、手を差し出した。

 が、女鹿鬼は首を横に振る。


「ううん。大丈夫ヨ。刀じゃなくすかラ」


 ……刀じゃなくす?

 何を云っているの?


 彼女の言動は、私の理解を超えている。

 だが、次の瞬間、彼女はスーっと刀を(かか)げる様に持ち上げた。すると、刀は眩い光に包まれて、(むち)へと変化するのだった。


「なっ、刀が鞭に!? そんな事があり得るの?」

「まっ、私にもよく分からないけど、出来るんだから、あり得るんじゃないかしラ」


 ……何この力、……危険だわ。


 私の理解を超えた力。錬金術と呼ぶべきか、魔法と呼ぶべきか。

 どちらにせよ、物理法則を無視している彼女の力は危険すぎる。

 私は、ゴクリと唾をのみ込んだ。

 

「……ところで、私は浅倉と謂うのですが、もしよろしければ、貴女の名前を教えてもらっても宜しいかしら?」

 

 すると、女鹿鬼は、顎に手を当てながら、何かを考え始めた。


「う~ん……名前ねぇ……。そうねぇ~……」


 彼女は、私に名前を教えたくないのか? はたまた他の事を考えているのかは不明なるも、中々名前を教えようとはしてくれない。


「う~ん。よし、決めた!」


 女鹿鬼は柏手を1つ打つ。

 そして、私に向けて軽く微笑(ほほえ)んだ。

 

「折角生まれ変わったので改名するワ。そう……、私の名前は今からキョウコ。恐れを呼ぶと書いて、恐呼(きょうこ)。雷鳴の恐呼ってよんでネ」


 彼女は自分の名前を口にすると、微笑(ほほえ)みから、口角を上げて、不敵な笑みへと変化させる。

 どうやら、彼女は、既に自分が鬼である事を理解しているのだろう。

 そうでなければ、恐呼なんて、ふざけた名前を名乗るはずもなかろうし。


 そして、たった今判明した事もある。

 現時点をもって、彼女を()とみなす!

 

 私は、一気に、気を引き締め、言葉の一つ一つに気を遣う事とした。


「……あらあら、それにしても()()()()()なんて、素敵な通り名ですこと。……因みに、なぜ雷鳴なのかも聞いても良いかしら?」


 言葉は柔らかく。

 だが、私の刀を握る手は、一切緩めない。

 恐呼と名乗る鬼が、いつ仕掛けて来るかも分からないこの状況。

 私の神経は、緊張しっぱなしだ。

 

「……なぜ、雷鳴の恐呼と名乗ったか、って質問でしたっけ?」

「……そうよ……」


 恐呼が下をチョロリと出した。


「そりゃぁ……」


 来る!!!!


 「あなた達が、雷鳴の様に、泣き叫ぶからヨ!」


 そう、口にすると同時に、恐呼は鞭を振りかぶった。


 左からの攻撃!!!

 

 私は、地面と平行に襲いかかって来る鞭を受け止めるべく、刀を地面に対して垂直に構える。

 すると、鞭は刀に当たって、相手の攻撃を防ぐ…………。

 

 ……ちぃ、まずい! 防げていない!

 

 鞭が刀に当たると、次の瞬間、鞭は刀を軸として、私の体を巻き込む様に円運動を始める。

 そして、270度回って、私の体の右側面へとヒットする。


 バチィィイイイイン!

 

「がっ、ううぅあぁぁ!」


 想像を絶する痛みに、つい(うめき)き声を上げてしまった。


 なっ、何なのこの攻撃は。

 鞭の攻撃に対して、私は無知?


 下らない洒落を云っている場合で無いと知りつつも、鞭相手に戦った事の無い私は、戸惑った。


「中々良い雷鳴でしたわヨ。……でも、まだまだですわネ。私はもっと、壊れるような悲鳴が聞きたいノ」


 恐呼は鞭の持ち手をペロリと舐める。

 

 「ウフフフ。……貴女の魂の形……見せていただけるかしラ?」


 バチィィイイイン!

 

 恐呼は、サーカスでライオンに指示を出すかの如く、地面を大きく鞭で叩く。

 そう、まるで、自分は主人で、アナタは獣よと謂わんばかりに私を威嚇するのだ。


「……お生憎さま。残念ながら、私の魂は()()()()に入れてあるの。そう簡単には引き出せないので、ちょっと見せることはできないわ」

 

 私は、大きく、ゆっくりと、半月を描く様に刀を回す。

 そして、ぐるりと回して地面まで構えを落とすと、下段に構えを取る。

 彼女の意識が、大きな動きをしている私に集中しているのが分かる。

 そう、彼女には、私しか見えていない……ふっ、私だけを見るがいい。

 

 ……だが次の瞬間、彼女は顔を私に向けつつも、鞭は自分の後方へと打ち出した。

 そう、目線は私の方を向いているのにも関わらず、自分の背後に攻撃を仕掛けたのだ。


「ごはっ!」


 恐呼の後方から片桐さんの()せる声が響く。

 

「あら、ごめん遊ばセ。でも、その手って、先ほど三流鬼に使っていた手じゃないですノ。ラーメンの替え玉じゃないんだから、同じモノを出してもだめヨ」


 流石は人型。

 先ほどの連携をもう見破るとは……。やはり一筋縄じゃいきそうにないわね。


「恐呼さん。替え玉とは上手い事をいいますわね。……確かに、少し舐めていたかもしれないわ。…………それじゃぁ!」


 私は、地面を強く蹴りだす!


 「同時ならどうかしら!」


 私は片桐さんに目配せをすると、片桐さんも同時に攻撃を仕掛ける。


 私が恐呼との間合いを一気に詰める。……が、短刀の間合いに入る前で、鞭による足払い攻撃を喰らう。


 ……くっ、バランスが崩れる。

 

 更に恐呼は、足払いをした後、鞭を引き戻す力を利用して、今度は後方にいる片桐さんの槍に鞭を絡ませる。


「なにっ! 俺の槍が!」

 

 鞭が絡んだ槍は思い通りに動かない。

 まるで釣り竿で釣られた魚の様だ。


「やばい、槍が持っていかれる!」


 片桐さんは、釣り上げられそうになる槍を必死に下方へと引き下げる。

 が、その瞬間を恐呼は見逃さなかった。

 片桐さんの力に逆らわない様に、恐呼はそのタイミングに合わせて、鞭を下方へと動かす。

 絶妙なタイミングで下向きに力を加えられたことから、片桐さんは前につんのめり、バランスを崩す。

 走っている時に、後ろから背中を押されて、バランスを崩すのと同じ現象だ。

 

 そして、片桐さんがバランスを崩した瞬間、ほんの一瞬だが、彼は集中力が切れた。

 恐呼は、その一瞬の隙狙っていたのだろう。


 バランスを崩されている片桐さんは、体勢を立て直す事に神経を集中させている為、槍への注意力はほぼゼロの常態となっている。

 つまり、恐呼は、簡単に槍を掴む事が出来る。動いていない槍を掴む事など、造作も無い。

 そして、一度槍を掴んでさえしまえば、その槍は恐呼の支配下になる。

 

 恐呼は槍を掴むと、シュルリと鞭を解く。と、間髪入れずに、また鞭を振りかざす。


 バチィィイイイン!


 振りかざした鞭が、私の腹部にヒットする。

 

「ガハッ、貴女……、後ろに目でもあるの?」


 槍を掴まれてしまって、動けない片桐さん。

 腹部を押さえて、苦しみに耐える私。

 2人がかりでの同時攻撃は、不発に終わった。


「何? アナタ達、弱いわネ。そんなんで、私を倒そうとでも思っていたのかしラ?」


 恐呼は、私達を見下した目で見る。

 まるで、悪役令嬢が、奴隷を見ている様とも取れる。そんな冷たい目をしているのだ。


 しかし、この時、予期せぬ方向からパチパチと手を叩く音が聞こえる。

 突如として聞こえた、この拍手。

 私達は、拍手の源に顔を動かすと、そこには又しても王龍騎の姿があった。


「いゃいゃ、流石は私の改造した太刀が見える御婦人だ。強さは三流鬼とは比べ物になりませんね」

「チッ……また現れたわね、王龍騎」


 私は、王を睨み付ける。


「そんなに睨まないで下さいよ。それに、今回は少年ではなくて、そちらの御婦人のスカウトなんですから」


 そう云うと、私達の事など見えていないかのように、王は恐呼の前までツカツカと歩く。

 

「恐呼さんと謂ったかな? どうだい、僕が与えた力は?」

「貴方が与えた?」

「そう。僕が改良を加えた太刀なんですよ。喜んでもらえたなら幸いです」

「そうなの……。取り合えず、ありがたくこの力は頂戴するワ。ありがとうネ」

「所でですが、恐呼さんと(おっしゃ)いましたっけ? 貴女、我々の組織に入りませんか?」

「……貴方の組織?」


 恐呼の瞼が半分降りる。

 王に対して警戒をしているのか、はたまた王の意見に興味があるのか……。


「そう、我々の組織、ニコニコ世直しの会に入会しませんか?」

「……何そのダサい組織名は」

「ダメですかね?」

「ダメダメネ。……大体、私が誰かの下に付くなんて、あり得ないのヨ! 私の下に付くなら許可するワ」


 その言葉と共に、鞭が王の元へと襲い掛かる。

 しかし、王は涼しい顔をして、指2本でその鞭の攻撃を受け止める。


「ククク、中々激しい愛情表現ですね。そうだ、我が組織に入ってくれたら良い事を教えてあげますよ」

「チッ……、何よ、いい事っテ」


 鞭を受け止められたのが悔しいのだろう。恐呼の顔が曇っている。


「フフフ。いい事とは……なんと、若返りの方法です」

「……っ!…………今、なんと云ったのかしラ?」

「若返りの方法です」

「わっ、若返るってどの位よ。40歳の私に、1、2年じゃしょうがないのヨ」

「あぁ、若返る年齢ですね。う~ん、そうですねぇ……とりあえず、25歳くらいは若返れますよ」

「にっ、25歳ぃぃいいい!?」

「えぇ。そうです」


 恐呼の手から、鞭に伝わる力が一気に抜ける。


「しっ、仕方がないわねぇ〜。まぁ、貴方は趣味じゃないけれど……、ついて行ってあげてもよくってヨ」

「それはありがとうございます」

「でも、組織名はチョット頂けないので、改名を求めるワ」

「ハハハ。それはご自由に。組織名は、私がさっき咄嗟に思いついたものですから」

「……センス無いわね貴方。……ところで、この雑魚どもはどうするノ?」

「あぁ、放っておいていいですよ。所詮、芋虫みたいなモノですから、蚊取り線香でも炊いておけば死ぬでしょ」


 そう言葉を残すと、二人は空高く飛び上がり、屋根から屋根へとジャンプをしていずれかへ消えて行った。



 ● ● ●



 ダンッ!


 私は、強く地面を殴りつけた。

 完全なる敗北の味を嚙みしめた為だ。


 私は、刀を地面に突き刺しながら、人型鹿鬼が立ち去った方向を睨み付ける。


 次は……次こそは絶対に倒してやる!

 それまでは、負けって事にしてあげるわ。


 私は、この苦汁を飲まされた経験を忘れる事は無いだろう。

 そして、新たに私は誓うのだ。


「私を見逃した事を、一生後悔させてやる!」


 と。

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