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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第二章 諦めません勝つまでは(五月)
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楠の能力

 ――浅倉が刀を受け取る数分前――


 「指令本部からすい、聞こえる? 聞こえなかったら聞こえないって返事をして」

「――こち……い。こちらの……は5。うどのバカ…………ザザッ」


 『うどのバカ』で通信を切るとは失礼な。

 すいのやつ、後で絶対に、干しシイタケにしてやるからな。


 しかし、うどは悪態を付きながらも、こちら側の通信がちゃんと届いている事に安堵していた。


「……こちら指令本部。そちらのメリットは2程度。でもこちらからの通信が聞けるなら、一方的に送るわね。間もなく武器ユニットを射出するから、ちゃんと受け取ってよね。場所は大宮駅東口ロータリーで良いね」

「――それで……がい」

「任せて。特殊搬送部隊、絹組の力見せたげるわ。搬送出来る物で有るならば、人から戦闘機まで何でも運んであげる。搬送の極みとは何かを見せてあげようじゃないの!」


 そんな二人の通信を、副支部長兼参謀長の三沢は暖かい目で見ていた。


 ……うどちゃん、心の中の声が駄々漏れよ。少しは心の穴を塞ぐ練習をしましょうね。

 でも、まっ。それもまた、うどちゃんらしいのかもしれないわね。


 緊迫する中で、水沢の緩い感じは、三沢に落ち着きを取り戻させる、差し水の様な存在だった。



 ● ● ●



「あー、こちら整備班の藤沢だ。指令本部聞こえるか? 武器ユニット、煙突砲への装填(そうてん)完了。何時でも射出できるぜ!」


 整備班からの放送を傍受した水沢は、座席から上半身のみ振り返って、三沢の顔を見つめた。

 

「参謀長、ゲンゲンから装填完了の合図受け取りました。射出の許可を願います」


 三沢は自分を見つめる水沢の目を見ながら、小さく頷いた。


「許可します。武器ユニット射出!」

「かしこまり!」


 水沢はすぐさま元の位置へと体を戻す。そして、モニターを見ながら、館内放送のスイッチを押し上げる。


「只今より、煙突砲射出します。係員は黄色い線の内側までお下がりください。繰り返します。只今より煙突砲をぶっ放します。係員は黄色い線の内側までお下がりください」


 館内放送を聞いた整備班は、慌てふためきながら各々ぼやき始める。


「おぃおぃ、ぶっ放すってなんだよ。そんなに危険なのか?」

「大体、黄色い線の内側ったって、黄色い線なんかねえぞ!」


 当然、整備室でそんな事がぼやかれている事など水沢は知る(よし)もない。

 そして、知る由も、お(かま)いも無しの水沢は、淡々と発射の合図を告げ始める。

 

「それではカウントダウン入ります。5、4、3、2……」


 ガシャン!


 うどは射出レバーを引いた。


 ゴフゥゥゥウウ!


 轟音と共に、武器ユニットが煙突型の砲芯を駆け上がる。

 しかし、それとは別に、整備室からは罵声も上がっていた。


「バカ野郎! なんで、1で発射するんだ! 普通3、2、1、0の0で発射だろう! 水沢~~~後で覚えてろ!」


 残念ながら、水沢はこんな苦情が整備室で上がっているとは露知らず、淡々と業務を進める。


「これより武器ユニットとのシンクロに移ります」


 水沢は三沢に告げると、VRゴーグルを装着しながら、装着具合の微調整を始める。


「――よし、武器ユニットとのシンクロ完了。……あっ! いきなり、ヤバイかも!」

「水沢さん、どうしたの?」


 突如の驚き声に、三沢はVRゴーグルに映し出されている映像と同期しているモニターに目を移す。

 

「……その……浅倉組長がピンチです。多段射出の許可をもら……」

「許可します!」


 水沢が、最後まで言葉を発する前に、許可が降りた。


「では、短刀桜草来国光、射出します。場所は……上乃ちゃんと鬼の間で宜しいかしらね」

 

 水沢は独り言の様に呟いた後、VRモニターで、ターゲットを定める。


「聞こえたよねすいちゃん、今から射出するので、上乃ちゃんにちゃんと伝えてね!」

「……う……な…………!」

「う~ん、なに云っているのか、さっぱり分からないけど撃っちゃう! 射出!」


 水沢はレバーを引いて、短刀桜草来国光を浅倉目掛けて、撃ち込んだ。



 ● ● ●


 

 まったくもぉ……鹿鬼め、斬撃が重すぎるのよ!

 とはいえあの力、片手でどうこう出来る重さじゃないし。


 浅倉は、楠を背負って鹿鬼との距離を確保しつつ、そんな事を考えていた。


「組長、鹿鬼が追いかけてきますよ」

「後ろを見なくても、何となく気配で分かっているわ。私もしかして惚れられたかしらね」

「そうかもしれませんね。結婚してみてはいかがですか?」

「結婚願望はあるけれど、残念ながら私、面食いなのよ。鬼みたいな顔している人は御免だわ。それに、私角がある人は受け付けていないのよ」

「組長……、そんな角が生えた男なんて、今うしろにいる奴しか、日本全国探してもいませんよ」

「そうかもね……。さて、そろそろ戯言(ざれごと)は終わりよ」

 

 浅倉はそう話しながら、楠を道の端に降ろす。


「じゃっ、行って来るわね」

「死なないでくださいよ。結婚願望があるんでしょ」

「フフフ。そうね、素敵な男を探すまで、まだ死ぬ気はないわ」


 そうセリフを残すと、浅倉は鹿鬼に向かって歩き出した。

 そして、楠との距離を置いたところで、浅倉は三徳包丁を構える。


 さて、覚悟を決めるか!

 これ一本で、どうにかなるかは、疑問の残るところだけど。


 浅倉が覚悟を決めて、息を細く吸う。

 そして、息を止めて覚悟を決めた瞬間、なんと鹿鬼の後方に、ひょっこりとオペレーターのすいちゃんが現れた。


 なっ、すいちゃん、そんな所で何しているの?

 貴女は戦闘なんて出来ないでしょうに。怪我じゃすまないわよ! 帰りなさい!

 私はあっちへ行けと必死にジェスチャーをするも、すいちゃんは全く聞こうとはしない。

 それどころか、なにやら一所懸命に上空を指差しながら叫んでいる。


「…………う…………」


 しかし、全くと言っていいほど聞こえない。


 くうぅ、インカムはすいちゃんしか持って来てないから、全く会話が伝わらない。

 すいちゃん、何て云っているの?


 私の耳に、すいちゃんの声は全く届いて居ない。

 しかし、すいちゃんが、(しき)りに上空を指差している事だけは分かった。


 ……なに? 何か空にあるの?

 

 私はすいちゃんが頻りに指差している方向、つまり私から見て、左上空を見上げる。


 ……しかし、そこには何も見えない。


 すいちゃんは何が云いたいの?


 そんな事を感じながも、私はもう一度すいちゃんを見た。

 そうすると、何か、いや、棒を掴むジェスチャーをしている。

 

 えっ、……私は棒を掴めばいいの?

 

 そんな事を考えながら再びすいちゃんが指さす方向を見る。

 

 すいちゃんが指差している方向は、さっき見た方向よりも、もう少し上方かな?


 そう思い、私は顎を45度の高さまで上げる。

 ……しかし、何も見えない。


 いゃ、もう少し上を指しているか?


 私は更に角度をきつくして顎を上げる。

 すると、上空に黒い点が浮かび上がっているのが目に入る。


 見えた! ……けど……あれは一体……なに?


 私は、目を細くして飛来してくる物体を凝視した。


 えっ! あれは、もしかして!?

 ……そうだ、あれは、私の愛刀、短刀桜草来国光。


 フフフ。姉さん、持ってきてくれたのね。ありがとう。

 ……さて、そうと決まれば、愛刀が届くまで時間を稼がなくてはならない。

 今の常態であれば、私の手元に届くのと、鹿鬼が攻撃してくるのはほぼ同じタイミングになるわね。

 ってことは、わずかで良いの。……私に時間をちょうだい!


 私は、そんな願いを込めながら、野球のピッチャーの様にその場で構えをとる。

 そして、右手に持っている三徳包丁を、鹿鬼の左肩に向けて、おもいっきり投げつけた。

 

 さぁどうかしら、左目が潰れている貴方に取って、左肩への攻撃は見えないでしょう!


 グサァァァアアア!


 鹿鬼の死角を突く形で投げ付けられた包丁は、見事に鹿鬼の左肩に突き刺さる。


「グアァァアアア!」


 鹿鬼とて痛かったのだろう。

 鹿鬼は一瞬痛み声を上げると共に、行き足が止まった。

 とは謂え、稼げた時間は1秒あるかどうかと謂った僅かな時間だ。

 通常であれば、この1秒は何の意味もなさない。


 しかし、時には、このたった1秒が明暗を分ける事もある。


 鹿鬼は、走りながら刀を振り上げる。

 そして、その行き足のまま、浅倉の脳天めがけて刀を振り下ろして来る。


「ジネェェエエエエエ!!」


 鹿鬼が叫び声を上げる。


 しかし、鹿鬼の刀が最高点に達している時、私の左手上方からは、愛刀が飛来して来た。

 愛刀は先端、つまり鞘を先頭に飛来して来ている為、私が空中で柄を握れば、慣性の法則で鞘のみが右下方へと飛んでいく。

 つまり、刀が自動で鞘から抜かれるのだ。


 んっ……これは、私の脳が活性化しているのかしら。時間がゆっくり流れているように見える。

 私が、飛んできた刀の柄を握ると、ゆっくりと、白銀の刃体が姿を見せる……。

 そして、その刀を両手で掴むとほぼ同時に、鹿鬼の刀が私の頭上へと襲い掛かる。

 私はその刀を()なす様に、攻撃を右斜め下へと受け流す。

 すると、力任せに振り下ろした鹿鬼の刀は、途中で止まることが出来ずに地面へと突き刺さった。


「ふぅ。大分あなた達の攻撃の受け流し方が分かって来たわ。そういえば昔、お父さんに流れの極意を聞いたことがあったけれど、この事だったのかもしれないわね」

 

 私は、鹿鬼の攻撃を受け流した後、数歩足を引いて、大きく鹿鬼と間合いを取る。

 鹿鬼の動きを見るに、若干困惑しているっぽい。

 それもそのはず。ありもしない所から、突然刀が現れたのだから。

 鹿鬼にとっては、狸に化かされた感覚を得ているのかもしれない。

 

 そんな事を考えながら、私は、更に数歩下がり、間合いを取る。そして、今度は刀を右手のみに持ち替えた。

 私は刀を右手で持つと、肩叩きをする要領で、刃の峰でトントンと右の肩を叩く。

 そして空いている左手は、手を開きながら、口に当てる。


「ふぁぁぁあ~~」

 

 更に私は、ワザとらしく大きな欠伸(あくび)をすると、鹿鬼は目に見えて怒りを(あらわ)わにした。


「ギャァワァァアアア!!」


 あらあら。怒ってる、怒ってる。

 どうやら、鹿鬼にも感情と謂うのが残っているらしい。

 先ほどまで人間だったからかしらね。


 怒り狂う鹿鬼は両手で地面に突き刺さった太刀を引き抜いた。

 そして両手を空高く上げて、怒りを体で表現した。


「貴方の怒り、中々素敵よ。でも、お生憎様。その求婚は受け取れないわ」


 私の挑発に乗った鹿鬼は、見事に私以外、全く見えていなかった。


 スパァーーーーーーン!

 

 鹿鬼が、私に攻撃を仕掛けようした正にその瞬間、鹿鬼の後方から、まるで真っ赤な扇子を広げたかの如く、美しい扇模様を描き出しながら、片桐さんの槍が鹿鬼の首を跳ね飛ばした。


「いゃはゃ、流石は片桐さんですね」

「いゃ、今のは、組長が鹿鬼を上手に引き付けてくれたお蔭ですよ」

「そう云ってもらえると嬉しいですね」


 私達は、美しく機能したコンビネーションを、お互いに(たた)え合った。


 しかし、そんな会話をしている我々の傍らから、楠君が何かを指差して叫ぶ。


「くっ、組長! ……あれ……!」


 私は、楠君が指差した方向に首を向ける。

 

「……ん? あれ? あれとは何、楠君」


 そう、私は楠君が指差す方向を見たが、特に変わった様子は見られない。

 強いて云うのであれば、40代の女性が立っているだけだ。


「えっ、見えないんですか? 庚申塔の横にいる、女の人が、刀を引き抜こうとしていますよ」


 刀を引き抜くって云われても、私の目には女性の姿は映っているものの、刀は見えない。

 確かに、動きだけ捉えれば、何かを引き抜こうとしている動きではあるが……。


「組長、早くあの女性を止めて下さい!」


 切羽詰まった声で、楠君は私にお願いをする。

 私に刀は見えないが、先程の鹿鬼の一件から楠君が嘘を云っているとは考えにくい。


「あっ、ダメです、組長、急いでぇえええ!」


 しかし、危険性が認識できていない私は、反応が遅れていた。


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