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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第二章 諦めません勝つまでは(五月)
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選手交代

 浅倉達が、鹿鬼と遭遇した直後、指令本部には緊張が走っていた。


「――ザザッ……こちら尾花……、指令本部……れますか? こちら尾花沢…………本部…………」


 指令室に待機していた三沢が、慌ててマイクに近寄る。

 

「こちら指令本部三沢、尾花沢さんどうぞ」

「――ザザッ……いま鹿鬼と……遇、至急武器の……を、願います」

「指令本部了解。現場送れどうぞ」

「――現場……てっは、……宮駅、東口商店街。……前ロータリーに降下……」

「指令本部了解。4分で届ける! それまで耐えて!」

「――現在、楠……ザザッ………………」


 走りながら送信しているのか、はたまた送信場所が悪いのかは判明しないものの、尾花沢の通信が悪い。

 通信の悪さは、指令室にいる三沢の不安を駆り立てる。

 

 ……こらえてね、みんな。

 すぐに送るからね……。


 三沢は尾花沢との通信を終えると同時に、緊急出動の太鼓を境内に鳴り響かせた。


「告げる! こちら副支部長の三沢。現在、大宮駅東口において、鹿鬼が出現。敵数不明なるも、現在鋼組が交戦中。至急武器の配送準備に取り掛かれ! 繰り返す、至急武器の配送準備に取り掛かれ!」


 館内放送を終えたかと思えば、即座に三沢は整備室へとマイクのスイッチを切り替える。


「こちら指令本部。藤沢班長あと何分で射出できるかしら?」

「おう! 副支部長。こちらはあと二分で射出可能だ。何か追加注文でもあるのかい?」

「いえ、それはないけど……あっ、そうそう、浅倉組長へのプレゼントも忘れないでね」

「あぁ、ちゃんと乗せとくぜ! って、おい! そこ! グズグズするな! グズ罪で訴えるぞ!」

「フフフ。宜しくねゲンゲン」

「まかせときな!」


 威勢の良い掛け声と共に、通信は切られた。


 さて、後は現場の状況が知りたいのだけれど……。


 三沢が、モニターの画面を駅周辺に切り替えようといじり始める。

 するとその矢先、勢いよく指令室のドアが開く。


「お待たせしました参謀長!」

「大丈夫よ。それよりも、現場の映像出してもらって宜しいかしら、水沢さん」

「かしこまり!」


 水沢は慌てて席に着くと、パネルの操作に取り掛かった。

 

 

 ● ● ●


 

「キャァァァア!」


 市民が悲鳴を上げながら、逃げ惑う商店街の片隅では、楠が、今正に終わりの時を迎えようとしていた。

 

 ブワァァアアア!!


 轟音を纏いながら鹿鬼の太刀が、楠の頭上に振り掛かる。

 そして、そんな襲い掛かる太刀を見ながら楠は覚悟を決めていた。

 

 ……あぁ、もう堪える力が残ってない。

 僕の命もここまでか……。

 仇が打てなくてごめんなさい、父さん、母さん……。

 

 楠頭の目には、走馬灯の様に、過去の想い出がフラッシュバックされて写し出されていた。

 どこの村かまでは思い出すことが出来ないが、父と母が懸命に自分を庇って村人から逃げ惑う姿。

 村人を足止めをする為、必死に戦い村人と交戦し惨殺(ざんさつ)される父親。

 トンネルの中で自分だけを先に行かせて、追ってから逃す為にトンネルの中で爆破して、自害した母親。

 楠は、そんな命を()して守ってくれた両親の姿を最後に思い返していた。


 ……あぁ、僕はここで死ぬんだな。

 これで、父さんと母さんの元へ行ける……。


 そして、楠は、ゆっくりと目を閉じた…………。


 

 ガッキィィイイイン!


「…………じょうぶ?」

 

 楠は、耳の奥に響く甲高い金属音と、聞き覚えのある声に叩き起こされて、闇の中から現実へと引き戻された。


 なんだこの耳障りな金属音は?

 何が起きたんだ?


 楠は強い金属音を受けて、耳鳴りがする耳を抑えた。

 そして恐る恐る目を開くと、眩い光と共に、目の前にはたくましい女性の背中が飛び込んで来た。


 ……こっ、これは、誰?

 

 初め、楠の焦点はぼやけていたが、時間経過と共に焦点が段々と合ってきた。

 すると、目の前の女性の姿がハッキリと映し出され、誰なのかが認識できる様になった。

 そう、その女性とは、自分が散々下に見て馬鹿にしてきた女性、浅倉上乃組長だった。

 

 浅倉は包丁をクロスさせて、まるで大きな(はさみ)を開いたかの様に、包丁の柄を両手で持ち鹿鬼の刀を受け止めていた。

 

「くっ、楠君、大丈夫?」


 なっ、この人は一体何をしているんだ?

 弱いのに、死ぬぞ?

 死にに来たのか?


 楠の頭の中は、疑問の念と呆れ返る念がかき混ざり、不思議な感覚を抱いた。

 それと同時に、浅倉に対しては、なんとも奇妙な感情も芽生えた。

 その感情は、尊敬でもなく、疑念でもない。

 そもそも、楠にはその感情を、言葉として表現できるだけの語彙力を持ち合わせてはいない。


「……あのぉ……ところで組長。何しているんですか?」

「えっ、何って、見て分からない? 動けるなら、さっさと動いてちょうだい。このバカ力抑えるの大変なのよ!」


 楠の質問に対応した浅倉の声は、切羽詰まっていた。


 楠も、当然このままではマズイ事は百も承知なので、浅倉の声に後押しされながらこの場から動こうとして足に力を込める。

 ……しかし、想像以上に力が入らない。

 電線が足の付け根で切れているのではないかとすら思える感覚だ。

 腰までは、確かに力が入る。しかし、その先はピクリとも動かない。


「すみません。足が動きません。僕の事は放っておいて、組長だけでも逃げてください」


 しかしながら浅倉は、鹿鬼に刀を押し込まれながらも、必死に包丁をクロスさせて食い止める。


「……楠君、何バカなこと云っているの。置いていけるわけないでしょう! ……それに置いて行くつもりなら、最初からこんな事してないわ! いい事、よく聞きなさい。私は貴方より弱いかもしれない。でも、貴方の上官なの。貴方の上官である以上、私は絶対に貴方を見捨てない! 私が貴方を絶対に助ける!」


 浅倉は、自分を鼓舞するかのように、語気を強めて楠に活を入れた。



 ● ● ●


 

 さて、大見得を切ったは良いものの、どうしようかしらね。


 残念ながら、浅倉には何も策が無かった。

 ただ鹿鬼の斬撃を受け止めるので、手一杯である。

 浅倉の額から、一筋の汗がしたたり落ちる。


 このまま文字の通り、押し切られても洒落にならないし……。

 せめて、もう一度振りかぶってもらえれば、好機が生まれるのに……。


 浅倉がそう考えた瞬間、鹿鬼の刀に掛かる荷重が抜けた。


 チャンス!


 浅倉は鹿鬼が刀を振りかぶった瞬間を見逃さなかった。

 相手の刀が包丁から離れた瞬間、浅倉は右手に持っていた柳刃包丁を、ナイフ投げの要領で鹿鬼の顔面に投げつけた。

 スナップを利かせて投げつけた包丁は、閃光の様に真っ直ぐ空を裂き、鹿鬼の左目に突き刺ささる。

 

「グワァァァアアア!」


 鹿鬼は痛みのあまり、地震の様に地面を揺さぶる程の咆哮を、周囲にまき散らした。


「よし、今だ! 楠君、私の背中に乗って!」

「いゃ(けっ)……」


 しかし、楠が断りの言葉を口にする間もなく、楠の体は強制的に浅倉の背中の上に乗せられた。

 そして、浅倉は楠を背負ったまま街道をひたすら走り、鹿鬼との距離を確保した。


 ガランッ!


 しかし、走る浅倉の背後では、包丁が床に投げ捨てられる音が響き渡り、それを浅倉は背中で受け止めた。


 まずいな、もう来るか……。


 浅倉は、安全な場所に楠を下ろすと、壁にもたれかからせた。


「後は私に任せて」


 浅倉は楠の頭をポンポンと二度叩くと、右手に三徳包丁を持ち、振り返える。そして、元来た道を戻る様に歩き始めるのだった。


 浅倉が、50メートル程道を戻ると、左目から赤黒い血液をポタポタと流しながらこちらを見つめる鬼がいた。

 そう、先程の鹿鬼だ。

 その鹿鬼は憎悪に満ちた顔で浅倉を睨み付ける。どうやら、鹿鬼も自分を傷つけた者が誰なのかを理解しているらしい。


「あら貴方、私が憎いのかしら? さすがは先程まで人間であっただけの事はあるわね」


 浅倉が鹿鬼に対して(あお)る様な台詞を吐くと、鹿鬼はその言葉を封切と謂わんばかりに、浅倉めがけて突進し始めた。

 鹿鬼は相変わらず右手に太刀を構えて突進してくる。

 しかも、気のせい……ではない。確実に以前の鹿鬼よりも、素早い動きであると浅倉は確信した。


 さて、この包丁で次の攻撃を、どうやって(しの)ごうかしらね。

 一番問題なのは、柄の長さが片手分しか無いって事なのよね。

 ただてさえ重たい斬撃なのに、それを片手の力のみで受け止めるなんて不可能……。

 せめて両手で持てれば……。


 浅倉がそんな事を考えた瞬間、鹿鬼の50メートル後方に、尾花沢がひょっこりと現れた。

 そして、どうやら空を指差して、何かを叫んでいる様だった。


「……乃ちゃ…………ま、……が…………された……れを……取ってぇぇえええ!」


 ……ゴメンすいちゃん。何を云っているのか、全く聞こえないわ。

 何かを取ればいいの?

 私は訳が分からないものの、すいちゃんが必死で何かを訴えている事から、取り敢えずすいちゃんが指差す方向を見つめた。

 現在、正面0時の方向から突進して来ているのは鹿鬼。

 そして、すいちゃんが指差すのは、真左9時の方向。

 ……しかし、その方向には何も見えない。

 いゃ、少し上の方を指しているか?

 顎を45度の角度まで上げる。……だが、何も見えない。

 更に60度の角度まで顎を上げる。

 ……やはり何も見えな…………いゃ、何か見える。

 黒い……点かしら?

 …………いゃ、あれは!


 浅倉は飛来物が何なのかが分かった。

 しかし、残念ながら鹿鬼は、浅倉の眼前まで既に接近して来ていた。


 ……くっ、このままでは間に合わない。

 少しでいい、時間が欲しい……。


「私に、時間をちょうだい!」


 浅倉はそう叫びながら、三徳包丁を鹿鬼の肩口目掛けて投げつけた。


 ズシャァァアア!

 

 包丁は鹿鬼の左肩、鎖骨の付近に突き刺さる。

 その衝撃と共に一瞬鹿鬼の動きが止まったように感じた。


 よし、やはり左目が見えないら、左側が鹿鬼の死角ね。


 とはいえ、残念ながら鹿鬼の突進速度は殆ど変わらない。

 相変わらず刀を振りかざして、浅倉めがけて突進して来る。

 鹿鬼が停止した時間など1秒あったか無いかと謂った所だ。

 

 ……しかし、この1秒が明暗を分ける事となった。


 

 間合いに入った鹿鬼は、無防備な浅倉の頭上から刀を振り下ろす。

 心なしか、鹿鬼が笑ったかのように見えた。


 ……しかし……。


 ギャシャャャァァアア!


 辺りに反響した音は、肉が切れる音ではなく、金属と金属が激しい速度で火花を散らしながら重なり合った時に鳴る高音階のモノであった。


 鹿鬼は困惑していた。

 それもそのはず。予定であれば、目の前の娘を一刀両断しているはずだった。

 しかし、現在自分の目に映っている光景はそれとは掛離れており、無残にも自分の刀が地面に刺さって要る状況だったのだ……。


 鹿鬼は困惑しながらも、目の前の小娘に焦点を合わせる。

 すると、本来であれば血まみれになっている筈の小娘は、血まみれどころか一滴の血も流しておらず、代わりにピンピンしている。

 ただ、先程までと大きく違う点が1つある。

 そう、小娘は何処からか現れた刀を斜に構えているのだ。


 ……小娘、その刀、どこで手に入れた?

 

 鹿鬼が小娘の目を睨み付けるものの、残念ながら、そのガン付けは小娘には全く聞かなかった。

 それどころか、小娘の目には火が灯ったかの如く、熱い眼差しで睨み付け返されたのだった。


「……さっ、鹿鬼よ、お待たせしたわね。舞踊のお時間よ!」


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