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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第二章 諦めません勝つまでは(五月)
16/85

大宮観光 前編

 15話も読んでいただいて、ありがとうございます。

 さて、今更ですが、鋼鉄の舞姫は、埼玉県さいたま市にある氷川神社を舞台に作成しております。

 大宮という地名は、大きなお宮がある事から付けられたそうです。

「上乃ちゃ~ん、こっちです、こっち!」


 私を見つけるなり、尾花沢すいちゃんが、両手をぶんぶん振って、私に呼び掛ける。

 境内(けいだい)に参拝客はそんなに居ないのだから、よく見えてます。ちょっと恥ずかしいのでやめて貰いたい。

 私は、そんな事を考えながら、既に集まっている3人の元へと、小走りで近づいた。


「お待たせしました。今日は、私の為に大宮案内してもらう事になってしまい、ごめんなさい」

「何云ってんのよ! 上乃ちゃんのお蔭で、お金も貰って遊びに行けるのよ。最高じゃない」


 すいちゃんは両手を合わせて、感動しているかの様に目を細めた。

 ……なんか、私に対して、お祈りをしているみたいだ。……私は神様か、何か?


「片桐さんも、楠君も時間を作ってくれてありがとうございます」

「まっ、宮司の頼みだからな、仕方ない。付き合ってやる」

「僕も宮司の命令じゃ逆らえないので、気にしないでください」


 ……う〜む。やっぱり私、この二人に嫌われているなぁ……。命令だから仕方なく感が、痛いです……。

 しかし、これは支部長が与えてくれたチャンス! きっと、これを機会にチームの仲を良くしなさいとの命令だと、私は受け止めています。

 ジジイ! もとい、支部長! 私、頑張ります!


「上乃ちゃん。なんか、決意表明をしている所悪いんだけど、そいえば、今月っておみくじ引きました?」


 うっ、決意表明を見られてしまった。ちょっと恥ずかしい……。

 

「……べっ、別に、そんな決意表明ってほど決意表明してないですよ。ハハハハハ」

「いゃ、決意表明していてもいいんだけど。……で、上乃ちゃんは今月おみくじ引きましたか?」

「……いゃ、今月っていうよりも、最近引いたことは無いですよ」

「なっ、なっ、何やっているんですか! まずはおみくじ引きに行きますよ! 今月の上乃ちゃんの運勢を占いに行きます!」

「何云ってるって……あっ……うっ……」

 

 私の返答も半ばに、すいちゃんは私の首根っこを掴んで、おみくじ売り場へとズカズカ歩き出した。


「ようこそ氷山神社へ……って、すいちゃんと上乃ちゃんじゃない。二人してどうしたの?」


 巫女仲間の水沢うどちゃんがビックリしている。


「うどちゃん。おみくじ1つ下さい! 上乃ちゃん、今月の運勢占っていないのよ!」


 そう云うと、すいちゃんは、うどちゃんからおみくじが沢山入っている箱を譲り受け、私に手渡した。


「はぃ、引いて!」

「……引かないと、ダメ?」

「何云ってんの、当たり前でしょう!」


 すいちゃんの何だか分からない圧力に押されて、私は取り合えず一枚おみくじを選んだ。

 そもそも、おみくじって、月の運勢を占うものだっけ?

 私がそんな事を考えている間にも、すいちゃんからは矢継ぎ早に急かされる。


「はぃ、上乃ちゃん()けて! (ひら)いて! オープン! プライス!」

「プライスって……にしても、随分と、せかしますね」

「当たり前でしょう! 乙女に占いは必須です!」

「必須ですか!?」

「必須です!」


 私は、すいちゃんに云われるがまま、おみくじを開いた。

 すると、末吉だった。


「え〜っと、すいちゃん。末吉でした」

「そんなのはどうでも良いのよ。ところで、待ち人は来るの? 来ないの?」

「まっ、待ち人? え~っと、来るみたい……」

「本当? え~誰かしら。とはいえ、こっちに来てから上乃ちゃんが知り合った人なんて数える程度だし……もしかして、一目ぼれコースなんてのもあるのなかぁ? フフフ」


 すいちゃんの顔が、妄想で盛り上がっている。

 私は、妄想に関わりたくないので結んでしまおうと、おみくじを帯状に折った。そして、近くに結ぼうと思った瞬間、私の体は急停止を始めた。


 ガシッ!

 

 そう、背後からすいちゃんの手が私の肩に乗しかかったのだ。


「なっ……、なにかなぁ~? すいちゃん」

「まぁ……、普通に考えれば、ギリちゃんだと思うのよね」

「ギリちゃん? なんの話?」

「そう、片桐ちゃん。顔もいいし、料理も出来るし。でも、倍率がちょっと高いのよね~」

「はぁ……そうなんですか」

「そうなんですかじゃない! ギリちゃんモノにしたくないの?」

「……すいちゃん、盛り上がっている所悪いんだけど、私片桐さんに嫌われている見たいなのよね」


 すいちゃんが豆鉄砲を食らったみたいな、まん丸な目をする。


「えっ、ほんと?」

「本当だよ。だから、片桐さんはあり得ないかな~って」

「そっ、そんなぁ~」


 何をそんなに期待していたのか、すいちゃんが砂利の上で崩れた。


「ほら、ほら、汚れちゃうから立ちますよ」


 私は腕を引っ張りながら、すいちゃんを抱き起す。


「わっ、私の見立てが……。絶対に鹿鬼(かき)戦の後、仲良くなっていると思っていたのに……」


 すいちゃんゴメン。多分その鹿鬼戦が、嫌われた原因かもしれない。


 私は、心の中ですいちゃんに謝った。

 そして、この話は無かったかのように、私はそそくさと、おみくじを結びに行くのだ。

 

 私は、おみくじを結んだ後、うどちゃんに遊んで来る旨を伝えて、留守番をお願いした。

 すると、いつの間にかに先に進んでいるすいちゃんが、私を呼んでいた。


「上乃ちゃ~ん。ぼ~っとしていると、置いて行きますよ~」

「えっ! 立ち直り早! 待ってください。行きます、行きますから~」


 そんなこんなで、私は自分の職場である大宮という町を知る為、観光へと出掛けるのだった。



 ● ● ●



 境内を出るや否や、すいちゃんが、大きな鳥居をポンポンと叩いた。


「さて、上乃ちゃん、ここで問題です。この鳥居は、何でしょう?」

「……はぃ? 何って、赤い鳥居でしょ?」


 私が、首を傾げて悩んでいると、片桐さんが、横から呆れた声で会話に介入してきた。


「尾花沢さん……それは、問題の出し方が悪いです。そうですね、こんな感じで如何でしょうか。ここ、氷山神社の参道には3つの鳥居があります。では、この鳥居は、一の鳥居、二の鳥居、三の鳥居のどれでしょう?」

 

 なるほど。三択なわけですね。……そう云われてみれば、確かに境内をでると、見上げる程の立派な鳥居がある。

 それで、この鳥居が何番目かって問題ね。

 う〜ん。


「まぁ、普通に考えるなら、境内を出て一番初めにあるから、一の鳥居かしらね」

「おっ、上乃ちゃんの答えは一の鳥居でいいのかな?」

「……いいです」

「じゃぁ、ここの決定ボタンを押して下さい」


 そういいながら、すいちゃんは、何も乗っていない自分の(てのひら)を私に差し向けた。

 そう、私の目に映るのは、すいちゃんの掌だけなのだ。

 これは一体何? バカには見えないボタンとかそういうモノなの?

 私は、すいちゃんのテンションの高さに驚きを隠せなかった。


「……えっ、決定? ボタン? どこ?」

「そうです。私の掌の上にボタンがあると思って押して下さい!」

「……はっ、はぁぁ……」


 私は、すいちゃんのテンションに戸惑いながらも、すいちゃんの掌をポチっと押した。


「上乃ちゃんの、答えが『一の鳥居』に決定されました!」

「…………はぃ、されました……」

「では、答えはぁぁあああ。ドゴドゴドゴドゴ」

「…………答え?」

「上乃ちゃん、なに黙っているの! ハイ一緒にドゴドゴドゴドゴ」

「ど・ご・どぉぉぉ……」

「なに恥ずかしがっているの! ハイ! ドゴドゴドゴドゴ」


 ……うぅぅ恥ずかしい。だが……こうなったら、とことん付き合いましょう。


「ドゴドゴドゴドゴォォオオオオ!」

「その調子! さぁ、ドゴドゴドゴドゴォォオオオオ!」

「はぃ、ドゴドゴドゴドゴォォオオオオ!」

「さぁて! 上乃ちゃんの答えはぁぁぁあああ!」

「答えはぁぁぁああああああ!」

「…………ブッッブー! 残念でした! これは三の鳥居です!」

「そんだけ私にやらせておいて、ハズレなんかい!」


 私は、つい手の甲をすいちゃんの胸に当て、ツッコミを入れてしまった。

 

「上乃ちゃん、ナイスつっこみ! 因みに、一の鳥居は、ず~っと先、参道の入口にあるのよ!」

「へ~~。確かに真っすぐな参道ね。一の鳥居はず~っと先なのね」


 にして、すいちゃんのテンションが凄い。

 私も頑張らなくては、潰されてしまう。ファイト! 私。

 私は、小さくガッツポーズを決めた。

 

「上乃ちゃん、実はね、この参道日本で一番長いのよ! フッフッフ~」

「うぉぉおおおお! 凄い、凄い、すいちゃん! パチパチパチ! よっ大統領!」


 すいちゃんが、両手を腰に当てて、鼻高らかな仁王立ちをしている。

 どうやら、私に説明するのが楽しいらしい。私も笑っているすいちゃんを見るのは好きだ。


 ……しかし、そんなすいちゃんと私を、片桐さんは冷ややかな目で見ていた。


「……尾花沢さん、俺は何故お前がそんなに誇らしげなのかが分からん。それに組長共々、テンションが高すぎます。もう少し抑えてもらえませんか。一緒に居るのが恥ずかしいので……」


 しかし、これしきの注意で引き下がるすいちゃんでは無かった。

 反撃とばかりに、片桐さんの鼻っ面に、人差し指を思いっきり突きつける。


「何云ってるのよ。当たり前でしょ! 今日は軍資金もあるし、あの駅前のパンケーキ屋へ、みんなで行くわよ!」

「……えっ、あの女の子でにぎわっている店に俺も行くのか?」

「当たり前でしょ! あんた、それでも料理人!? 料理人たるもの、向上心を無くして美味しものが作れると思っているの!?」

「……いゃ、俺は、洋菓子職人ではな……」「何云っているの! パンケーキはご飯です!」


 すいちゃんは片桐さんの言葉を遮って、パンケーキ屋をごり押しする。パンケーキ愛が重い……。


「いゃいゃ、尾花沢さん。パンケーキは、ご飯では無いだろう?」

「ご飯です! パンですから!」

「いゃ、ケーキでしょう?」

「パンです!」

「いゃ、だって例えば『のりの佃煮』『大根の煮物』ってあるだろう。これらは、後ろにある言葉の食べ物がメイン。つまり、佃煮であり、煮物ではないか。この法則に当てはめるなら、パンケーキはケーキだろう」

「何云ってんですか! 頭の言葉がメインに決まっているじゃないですか! 佃煮の『のり』ですし、同じく煮物の『大根』でしょう? だって、大根の煮物食べて『あぁ、煮物だ~』って口に出しますか? 『大根だ~』って云うでしょ!」

「……いゃ、それは人それぞ……」「云・う・で・しょぉぉおお!?」

「……はっ、はぃ。いいます」


 ……なんだろう。すいちゃんのスイーツ愛が片桐さんを論破した。かなり強引な感じもするが……。

 それにしても、いつもはクールな片桐さんが、タジタジなのは見ていて面白い。

 片桐さんにもあんな一面があるのだな。私はなんだか、これから行く大宮散策が楽しみで仕方無くなって来た。

 元々は一つのお話だったのですが、あまりにも長くなってしまった為、前後編と分けさせていただきました。

 なお、第二章は全11話となっております。

 最後までお付き合い頂ければと思います。

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