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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第六章 浅倉暗殺計画(九月)
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水判土戦線4

 浅倉が倒れてからしばらくの後、ロープでぐるぐる巻きにされた男が舞殿の前に連れてこられた。

 男の口には猿ぐつわが取り付けられており、フゴフゴと叫んでいる。

 捕虜となっているものの、中々に威勢がいい。


「参謀、つれて参りました」


 陸軍の兵士が、三沢の前に捕虜をつき出す。

 三沢はチラリと捕虜の顔を見ると、兵士に猿ぐつわを外すように指示した。


「さて、はじめましてスナイパーさん。時間がもったいないので、サクッと聞かせて貰うわよ。まず、貴方達の目的を教えて貰おうかしら?」


 捕虜が三沢を睨み付ける。


「あぁぁん、目的? そんなの知っていても答える訳無いだろう。まっ、姉さんが俺と一発やらせてくれるなら考えなくもないがな。べっ」


 男は舌を出してバカにする。

 ……が、舌が出るのと同時に、三沢のナイフが、男の頬を切り裂く。


「ギャャヤヤヤヤ!」

「ギャアギャアうるさいわね。ほら、もう一度聞くわよ。貴方達の目的は何かしら?」


 男は、もだえ苦しみながら脂汗をかく。


「わっ、分かった。話すから、ナイフはもう止めてくれ」

「あら、意外と根性無いのね」


 三沢は、男の目の前で、ペン回しの様に、ナイフをくるくると回転させる。

 その洗練されたナイフさばきを見るなり、捕虜は闘志を失う。


「おっ、俺たちの目的は、城の復活なんだ」

「……城? 城って何かしら?  何かの比喩?」

「それは俺も知らない。本当に知らないんだ。だから、命だけは助けてくれ」


 三沢は、くるくると回しているナイフの回転を止めると、息を吸うように男の肩に突き刺さす。


 ギャァァアアアアア!


 男が、地獄の釜を開けたかのような叫び声を上げる。


「頼む、俺みたいな下っ端は、何も聞かされていないんだ。わかるだろ。俺ともう一人居たやつは、恐呼様に作られた眷属なんだ!」


 男の話す通り、確かに、叫んだ時に口腔内には、二本の牙が見えた。報告に受けていた、ツインズにも、このような牙があった事を三沢は思い返す。


 ……さて、こいつは本当に眷属なのかしら、それとも人型鹿鬼の成り済ましか。

 人型鹿鬼も眷属も紫色の瞳をしているとの報告は受けているから、間違いなく鹿鬼かその眷属である事は間違いないのだけれど、それ以外の見分け方が分からない。

 ただ、楠君が労せず捕えられたと謂うことはやはり眷属と考えるべきかしら。人型はとてつもなく強いのが特徴だし。

 いぇいぇ、待ちなさい。この者は遠距離型。つまり、近距離戦は弱いと考えられる。そもそも氷山神社で狙撃して来たのはこいつなのかしら?

 それとも既に殺したもう一人が人型鹿鬼?


 三沢は高速で、脳内のシナプス結合をフル稼働させる。


 ……いずれにせよ、この男から話を聞く必要性はまだあるわね。

 取り合えず連れて帰りますか。


 三沢は考えが纏まると、更にナイフを高速で回し始めた。


「そうね、貴方が云っている事も一理あるけれど、貴方が下っ端ってのも、嘘の可能性もあるのよね。実は恐呼と同列って線も捨てきれないし」


 捕虜の額からは、脂汗が流れる。


「確かにそうだ。俺が嘘をついている可能性は否定出来ない。だが……」


 男は黙って思考を巡らす。


「そうだ! 良いことを教えるから、それでチャラにしてくれないか?」

「良いこと?」

「そう、次回の大規模作戦についてだ」


 三沢の眉毛が動く。


「どおだい、中々有益な情報だろ」

「そおね……悪くはないかしらね。ただ、内容次第では、貴方の命、即消えるわよ」

「それは分かっている」


 捕虜の目が真剣なのは、三沢も理解する。


「で、その情報とは……」

「それはなだな……ブヘッ!」


 男の脳天から血液が飛び散る。


「にっ、似鳥様……」

「敵襲! 総員戦闘配備!」


 兵士達は慌ただしく守備を固める。三沢を守る形で盾が用意された。

 だがそんな中、三沢は落ち着いて撃たれた男を見つめていた。


 ……男の頭を狙撃した。何処からと考えたい所だけど、方角と角度から見出だせるのは、一つしかあり得ない。そう、一番遠いあの丘の上……。ひし形の対角線で一番遠い距離。

 あの距離からの狙撃……そして、最後にこの男が叫んだ『似鳥様』。

 どうやら、敵にはこの者達よりも上位の敵が居るようね。そして、それは普通に考えれば人型鹿鬼。

 つまり、敵にもとんでもない狙撃主が居るって事ね。

 これは厄介よ……。柏木君で対処できるかしら……。


 三沢はスクリと立ち上がると、第二波に備えて神経を尖らせた。



 ● ● ●



 その頃、山の上では似鳥がライフルを釣竿のケースに仕舞っていた。


「やれやれ、あのザコは何情報を漏らしているんだよ」


 似鳥は、金色々に輝いている瞳に右手被せる。すると、輝きは落ち着き、紫色の瞳孔へと変化した。


 ズーム眼は疲れるから、あまり使いたくないんだけどな。でもまぁ、そのお陰で読唇術が使えるのだからよしとするか。


 似鳥は「フゥ」とため息をつくと、釣竿ケースを肩に掛けて山を下り始める。

 だが、似鳥が数歩歩みを進めたところで、目の前に人影が現れた。


 ジャリ!


 土と砂利の絡まった音が緊張感を引き上げる。


「青年、ちょっといいかな?」


 声を掛けたのは、先程、似鳥と会話をした警察官だ。そんな警察官は、似鳥の前に立ちはだかると、敵意が無い風を装い、両手を広げる。

 その姿をみるや、似鳥は、笑って糸目を作り出す。


「何でしょうか?」


 警察官は、瞳の色が確認できないことから、距離を縮める事無く間合いを確保する。


「いやなに。そういえば君は、先程自分の事をスナイパーと云っていたのを思い出してね」

「そうですね。確かに云いましたよ」


 似鳥の身体に力が入る。


「あの時は、女性を撃ち落とすとか云っていたので、ついナンパ男と勘違いしていたのだけれど」

「ほうほう、でも安心してください。その考えは正しいですよ。なにせ希代のナンパ師、ユースケとは僕の事なのですから」


 警察官の目が鋭くなる。

 明らかに警戒しているのが見て取れる。


「ユースケ……か……。因みに、名字を聞いても構わないかね」

「構わないよ。僕の名前は、似鳥、似鳥雄介さ」

「そうか、そうか。君があの似鳥君だったのだね」

「……あの?」


 似鳥の片目が開く。

 そこからは毒々しくも美しい紫色の瞳が輝きを放つ。

 警察官もその瞳の色を確認すると、一歩足を前に出す。


「そうなんだ。有名人らしいよ君は」

「ふーん、で、どうするんだい?」


 似鳥も負けじと一歩近づく。

 だが、警察官は、その間合いを危険と感じるなり、手を上げて首を左右に振った。


「ハハハ、どうもしないよ。君に戦いを挑んで勝てるわけ無いじゃないか。俺はただの警察官なんだぜ」

「でも、それだと反逆者として、後でつるし上げられるんじゃないの? それに、その腰についている拳銃は伊達なのかい?」


 警察官は鼻で笑う。


「バカ云え、似鳥なんて男はいなかったと報告をすればいいだけだろう。俺が正義感に燃えている男に見えるか?」

「アハハハハ、そうだね。確かに君は最初からいいかげんだったよね。いいね、その性格実に僕好みだ。なぁ、どうだい、うちのチームに入らないか? 君みたいな人材は、大歓迎だよ」


 似鳥が手を差し出す。

 だが、警察官は相変わらず手を上げたまま首を左右に振った。


「いゃ、ありがたいけど、やめておくよ。大体、こんないいかげんな性格じゃ、そちらのチームでも役に立ちそうにない」

「そんなこと無いよ。君は最高だよ」

「似鳥さんのお眼鏡に掛かってありがたい。でも、俺は、グータラして生きたいんだよ。グータラ公務員、最高だろう」


 似鳥はおどけた顔を作り出す警察官の目を見ると、差し出していた手を下げた。


「ハハハ、なる程ね。じゃ、次に会うときまでに考えておいておくれよ」

「そうさせてもらうよ、ではお気をつけて。次に会うときは、酒でも飲もう」

「いい性格をしているな……ホント……」


 似鳥は警察官とすれ違うと、そのまま丘を下っていった。



 ● ● ●



 ペタリ。

 似鳥とすれ違った後、警察官は倒れる様にしりもちを着いた。


 うぇぇぇ、殺されるかと思った。本部から、もし似鳥に接触した場合は、適当にお茶を濁すこと。そして、事を荒げずに、その場を立ち去ることと云われていなければ、今頃は正義感を出して戦っていたはずだ。それにしても、とんでもない気迫だったな。鋼組はあれと戦っているのか? こりゃぁ、幾つ命があっても足りないぜ。……っと、報告、報告。


 警察官は、無線機のマイクを取り出すと、口に当てた。


「こちら、警戒十三班。本部応答願いますどうぞ」

「こちら本部、警戒十三班どうぞ」

「ただいま、似鳥と接触。容姿、体格など記憶。似顔絵製作班の応援願うどうぞ」

「本部了解。直ちに似顔絵班を送る。なお、三沢参謀からの伝言を伝える。『よく忠実に命令を遂げた。そなたの活躍をほこりに思う』とのこと」

「警戒十三班了解」


 警察官は、仰向きに倒れる。


 ……あの参謀はスゴいぜ。俺らなんぞが束でかかってもかなわないのを逆手に読んで、敵の情報を集める。

 確かに、敵のスナイパーなんて顔が分からないのは当たり前だからな。俺達みたいな『ふ駒』を無駄に使わない辺りが、名参謀と呼ばれる所以なんだろうな。

 でもあの似鳥って男、何処かで見た事ある気がするんだよなぁ。

 ……気のせいか?


 警察官は、今更ながら吹き出て来た冷や汗を、手ぬぐいで拭き取った。

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