水判土戦線3
祝100話!
ライフルから放たれた弾丸は、柏木の頭部めがけて空気の層を突き抜ける。
もし頭に当たれば柏木は即死だ。つまり、パインの治癒術があろうとも、蘇りはしないのだ。
だが、そんな事を考えるよりも先に浅倉の身体は動く。
条件反射とも取れる動きで浅倉は舞殿から飛び降り、宙を舞う。
「かしわぎぃぃぃいいいい!」
会場内の全ての音を書き消す程の大きな叫び声と共に、浅倉が舞い降りる。だが、咄嗟の浅倉の声に柏木は反応出来ない。
……ダメだ、間に合わない。無我静流駆……弾道が読めて避けられるのは自分だけ……。これでは、仲間を守る事は出来ない。
情けない、弾道が読めてもこれでは……!?
バシュュュユユユユ!
柏木の顔面に、真っ赤な血液が飛び散る。
……だが、この血液は柏木のものではない。そう、浅倉の足から飛び散ったものが、柏木の顔面に付着しただけだったのだ。
ふぅぅ。
……無我静流駆。弾道が読めるなら、それに当てることもまた可能!
だが……これは……。
「グァァアアアア!」
浅倉の口からは、激痛あまり、叫び声が噴き上がる。
右足首に食い込んだ弾丸は、ライフル弾だ。つまり、足など簡単に貫通する威力を持っている。
しかし、当然その事を理解している浅倉は、ただ自分の足に弾丸を食い込ませただけではない。ギリッっと筋肉を収縮させて弾丸を絡めとる。そして骨に当てると共に思いっきり脚を蹴り出したのだ。
骨を砕きながらも貫通した弾丸は、柏木のこめかみをかすめる。ギリギリのところで柏木の命は助かった。
「組長ちゃん!」
「私に構うな! 敵を撃て!」
浅倉の声に圧倒されて、柏木は銃を構える。だが、これで浅倉の動きが止まった訳ではなかった。
弾が貫通した右足を軸に、回転を始める。いわゆる後ろ回し蹴りの体勢だ。そのまま左足を蹴りだし、柏木の頭上を通過すると、その足は柏木の面前につき出された。
はたから見ていると、柏木の後頭部に繰り出した回し蹴りが、空を切った様に見える。しかし、足を伸ばした瞬間、踵から、ふくらはぎに掛けて、二射目の弾丸が食い込んだ。
ギリッ!
奥歯を噛みしめて、浅倉が痛みに耐える。
弾丸を左足一本で巻き取った痛みは想像を絶する。
彼女の苦痛に耐える顔が、柏木の視界の外側に入る。……だが、スコープを覗いた柏木は、落ち着きながら照準を合わせる。
ふぅ……焦るなよ俺。今ので分かったことが二つある。一つは、敵は二人いる事だ。
目の前に見える二つの丘。この両方から連続して攻撃されたという事。
もう一つは、弾道から敵の位置が分かったという事だ!
柏木は、敵をスコープに収めると、息を吸う様にトリガーを引く。
ズガァァァアアアアン!
敵の腕にヒットした。敵が絶叫を上げているすぐ後ろには、片桐の姿も確認取れた。
よし、後はあいつに任せる。俺は……。
チリチリとすぐに第二の標的に照準を合わせる。
さっきの弾道からだとこの辺りに……居た!
スコープ越しに敵がこちらを狙っているのを捉えた。
やるな……だが、悪いな。俺の方が早いぜ!
ズガァァアアアン!
二射目が火を噴く。
だが、柏木は、敵のライフルが宙を舞うのを確認する。
よし、これで追撃は無い。
敵の最後を確認せずに、柏木はライフルを床へと置いて振り向く。
……が、その時、浅倉の身体が地面へと倒れ込む。
ドサッ!
肉の塊が、地面に落ちた鈍い音が柏木の耳に届く。
「くみちょぉぉおおおお!」
柏木は、いつになく早く駆けだすと、彼女を抱き上げた。
不安そうに見つめるその瞳には、光の粒が現れる。そう、それは柏木自身の人生において捨てて来たはずのモノ。辛い人生を生き抜くために忘れたモノ。そんな過去の遺産、レガシーとも呼べるものだった。
そしてその結晶が集まると、雫となって浅倉の頬に落ちた。
「しっかりしてくれ、組長!」
やるせない叫びが、目を閉じた浅倉に投げつけられる。
しかし、浅倉の身体は微動だもしなかった。
「ちくしょう!」
涙を堪えながら、浅倉を抱き抱える。
ふわりと、小柄な女性の身体は簡単に持ち上がった。
「くっ……こんな小さな身体で、俺の命を救ってくれたのか。痛い思いをさせてしまって、すまない」
柏木は、浅倉を抱きかかえたまま、首を大きく動かし、パインの居場所を探す。
「パイン、どこだ! 早く組長を! 組長を頼む!」
柏木が、これ以上無いほどに、大きな声でパインを探す。
「うるさい!」
だが、その大声に答えたのはパインでは無かった。柏木の腕の中から発されたモノだった。
「柏木……やかましいぞ。私は大丈夫だ。それよりも敵はどうなった……。ちゃんと倒したんだろうな」
やや、か細い声で状況確認をする。
自分では立てない程に、両足を砕かれている彼女だが、自分の身体よりも作戦を心配した。
そんな献身的な態度に、柏木は心が動かされる。
「あぁ、やったぜ組長。安心してくれ、大丈夫だ敵はちゃんと迎撃した」
「……そうか。やるじゃないか……流石は私の部下だ……」
「それにいま、インカムから、楠が敵を捉えたって無線が入った。まっ、片桐の方は、敵が抵抗してきたみたいで、思わず殺しちまったらしいがな。だが、いずれにせよ、一人はちゃんと捕えられたみたいだ。それも、これも組長のお陰だ」
「そ……う……か。それは良かった」
浅倉の身体からは、徐々に力が抜けて行く。まるで、今にも消えそうな線香花火の様だ。
「あと……柏木」
「なんだい?」
「……『ちゃん』をつけ忘れているぞ……」
「へへっ、すまねぇ、そうだったな。つい興奮してしまったぜ、組長ちゃん」
「そうだよ、それでこそ……」
……ダラリ。
浅倉の体から、力が抜け落ち、腕の筋力は完全に脱落した。
瞳は閉じられ、もはや屍に近い状態となった。
「おぃ、嘘だろう。嘘と行ってくれ」
柏木は、浅倉の身体を強く抱き締めると、空に向かって大声で叫ぶ。
「パイン! ここだ! 早く来てくれぇぇえええ!」
柏木の涙が、浅倉の顔に流れ落ちた。
ついに、ついに100話まできましたよ。ビックリです。
何度終わらせようかと考えた事でしょう。これも、皆さんのおかげです。
★を付けて下さっている方、ブックマークに入れて下さっている方、本当にありがとうございます。
時間があれば、1話から改稿をしたいところなのですが、中々時間がそれを許さず、出来ていない次第です。
さて、物語は次回で6章は終わります。
7章も皆さんの期待を裏切れる展開にしていきたいので、今後とも応援よろしくお願いします。
因みに、1月17日現在、7章はまだ一文字も入力されていません。(笑)
ふわふわ~っとは決まっているんですが、中々文字が打てなくて……。
モチベーションを上げる為、100話記念として、応援コメントなどお待ちしています。
では、今年もガンバリましょう!




