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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第一章 あがのたつ(四月)
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初帰還

 私たちが、鹿鬼を退治して10分が経過した頃、回収用のトラック数台が現場に到着した。

 その頃には、鋼組の面々も多少妖力が回復し、立って歩ける程度にはなっていた。

 

 私は、部下の回収を願うべくトラックへと歩み寄ったところ、先頭車両の助手席から、若い男が飛び降りた。そして、その男は私の前まで駆け寄ると、キリっと敬礼を行い、自己紹介を始めた。

 

「私は、陸軍支援部の内田と申します。今回鋼組の…………えっ?」


 内田の報告の声が途中で止まった。そして、内田は困惑しながら、私の顔をマジマジと見つめた。

 そいうえば、私の顔は鹿鬼の返り血でドロドロだったな。困惑する程私の顔は酷いのか?

 そんな事を一瞬考えたが、どうやら驚いた理由は、そうでは無かったらしい。


「もっ……もしかして、浅倉さんですか?」


 浅倉さんですか? とな?

 私は、改めて、内田成る男性の顔をマジマジと見つめた。 

 …………あぁ、同期の内田君じゃないか。


「あら、内田君じゃない。久しぶりって、卒業して、まだひと月も経ってないか……」

「いゃ、そうじゃなくて、浅倉さん……巫女勤務じゃ無かったですか?」


 内田君は困惑していた。

 それもそうだろう。巫女をやらされているはずの同期と、まさかこんな所で出会うとは、思ってもいなかっただろうし。


「巫女もやっているよ。それより、内田君、私の部下の面倒見と、鹿鬼二体の回収をお願いできるかしら?」


 私が仕事モードに切り替えると、内田君もそれに同調して、再び敬礼を行った。


「了解しました。これより回収の任に着かせていただきます」


 そう報告終えると、彼は乗って来たトラックへと、戻って行った。

 私はそんな後ろ姿を見ながら、内田君の慌てぶりを思い返していた。


 ……これは近いうちに、同期に私の卒配先がバレそうね。


 そんな事を考えながら、私は微笑んだ。

 そして、一呼吸置いた後、改めて倒れている鹿鬼を見つめ直した。


 さて、どうして今回に限って、鹿鬼は二体も現れたのかしら?

 過去にそんな例はなかったはずだけど……。

 しかも鹿鬼が現れるのは決まって埼玉県。これもきっと何か意味があるに違いない。

 そもそも、鹿鬼の狙いは何なのか?

 必ず刀を所持しているが、なぜ刀なの? 槍ではいけないの?

 急に出現するが、出現条件は一体何なの?


 考えれば、考える程キリがなかった。

 

 幾ら考えようとも、とりとめが無い。私は、一旦考えるのを止めた。そして、今度は部下の元へと歩み寄り、部下の容体を気にかけることとした。


「片桐さんも、楠君もお疲れ様でした」


 私が、ねぎらいの言葉を掛けると、二人は私に顔を向けて、無言で会釈をする。


「別に、俺はただ仕事をこなしただけだ」

「僕も、生活の為にやっただけです」


 二人は、そんな風にそっけなく答えると、帰宅するのが当たり前の様に、無言でトラックへと歩き出した。


 はぁぁ。まだまだ、彼らとの距離は遠いわね。

 

 私は、彼らとの心の距離が遠いことを肌で感じると共に、どうすれば、もう少し彼らと仲良くする事が出来るのかを考えるのだった。



 ● ● ●



 浅倉たち、陸軍が撤収作業をする中、少し離れた火の見櫓の上からその状況を観察している者達がいた。


「おや、おや~。鹿鬼を二体も出現させたのに、やられてしまいましたよ」

「……全くだ。それにしても、鹿鬼を倒した、あの連中は何者だ?」

「そうですね~、何者でしょうかね~。陸軍とは違う服装をしていますし……それに、なんかワクワクさせられちゃいますね」

「……ワクワクするのは、お前だけだろう。俺は、微塵もワクワクなどしない」


 そう話しながら、男は、若干不機嫌な顔をした。

 しかし、横にいるチャラい感じの男は、あまりそれを気にした様子はなく、話を続ける。

 

「またまたぁ。棟梁なんですから、ドーンと構えて下さいよ」

「棟梁……か。まぁ、それはいいが……それにしても、なぜお前は俺に協力しているんだ? お前は俺に協力して、何か特になる事でもあるのか?」

「えっ、僕ですか? ……そうですね、ありますよ。……僕はね、憎いんですよ、()()が。だから、僕の大事な人を奪った人間を滅ぼすのが、僕の目的…………ってので納得できませんか?」

「……なんだかな。のらりくらりと、あまり信用のない男だ……」

「まぁ、まぁ。そう云わないでくださいよ。貴方のおかげで、この力を得ることが出来たのですから、貴方には全面協力しますよ、棟梁!」

 

 もっとも、そんな不穏な会話をしていた二人の存在に、浅倉たちは、当然気付くはずも無かった。

 

 そう、浅倉たちが彼らの存在を知るのは、もう少しだけ先の事となる。



 ● ● ●



 私はトラックの荷台に乗りながら、折れた刀を見つめていた。


 すまなかった、桜草来国光。私がもう少し上手にお前を使ってやれれば、こんな事にはならなかただろうに。


 私は折れた刃体を、大切に飼っていた小鳥が亡くなった時の様に、優しく包み込んだ。

 そう、入学祝として父から賜ったこの刀は、今や父の形見となっていた為だ。

 私とて、大事な刀であったのにも関わらず、こんな形で失うとは、夢にも思わなかった。


 まったくもって、不甲斐ないな。

 父がこの場に居たら、私は、叱責された事だろう……。

 

 ……さて、果たして、こんな情けない私が、組長などやれるのだろうか……。

 今回の戦闘で、私が、いかに弱いかを痛感させられた。士官学校では敵なしだったが、まさか一線ではここまで弱い存在だとは思いもしなかった。本当、井の中の蛙とは云ったものだ……。

 

 ……そして、なにより実感したのが、部下の方がよっぽど強いと謂う事だ。

 そんな彼らからしてみれば私などただの小娘に過ぎないだろうし、彼らに呆れられるのもまた当然。

 彼らの態度から、私を本物の組長として認めていないのはよくわかる。


 だがしかし……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 今はまだお飾りかもしれないが、必ず彼らを振り向かせてみせる。

 今に見ていろ。


 私は大宮へと帰るトラックの中で、理想の組長になると、決意をしたのだった。



 ● ● ●



「あ・が・の・ちゃ〜〜〜ん!」


 埼玉支部に到着するなり、尾花沢すいが飛びついて来た。


「上乃ちゃん、上乃ちゃん!」


 すいちゃん、の抱擁が想像以上に私を締め付ける。


「すっ、すい……苦る……しい。ガクっ」


「えっ? あぁぁあああああ、ごめんなさい、ごめんなさい」


 私は、万力に締め付けられる感じとは、こう謂う事を指すのだろうと、薄れゆく意識の中で微かに感じていた。


 そして、なんやかんや帰還歓迎ムードが一段落を終えた所で、やっと支部長である金沢が、我々の前に出て来た。


「三人ともお疲れさん。浅倉は初出撃で大変だったと思うが、今後も鹿鬼との戦闘は激化するだろうから、精進してくれ」

「はっ!」


 私は、金沢にキリっと敬礼をした。


「……おぃ、浅倉」

「はっ!」

「お前は、固すぎる……もう少し、柔らかくなれ」

「はっ!」


 そうは謂っても、今までそういった人生を送って来たので、急に変えろと云われても、中々難しいものだ。

 ため息をつく支部長には悪いけど、申し訳ありません。

 私は、やれやれと首を横に振りながら立ち去る金沢支部長の後姿を、敬礼のまま見送った。

 

 

 ● ● ●



 作戦指令室から、人々が去った後、私だけはまだ残っていた。

 今回の戦闘を振り返り、研究をするためだ。

 私は、過去データと、戦闘映像を凝視しながら、考えに(ふけ)っていた。


 過去に、鹿鬼と二度戦い、分かった事がある。……そう、それは我々の戦闘時間が短すぎるという事だ。

 個人差はあれど、多分妖気を纏っていられるのは長くて3分程度。

 つまり、一人ずつ交代で戦ったとしても、最大戦闘時間は9分となる。

 もし、敵が五体も同時に出て来れば、我々の全滅は必至だ。つまり、長時間戦闘できる環境を作る事が、今後の我々の課題となるだろう。


 また、今日までに倒した鹿鬼の数は、全部で七体となる。

 私が来る前までに倒したのが四体。そして、私が来てから倒したのが三体。

 内訳として、大宮が二体、浦和が二体、蕨が二体、上尾が一体。

 ……これだけ見ても、特に共通する点が見当たらない。強いて云うならば、国鉄が通っているって事くらいだろうか? 敵は、国鉄の駅を狙っている? そんな事をして、彼らに何かメリットがあるのか?

 そもそも、敵に狙いがあるのか? それとも気まぐれか? 線路、交通網の断絶? いゃ、それなら、駅から遠い方が……ブツブツ。

 

 私が分析に集中をしていると、背後から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「浅倉さん、今日はもうお休みになってはどうですか?」


 声を掛けて来たのは三沢さんだった。


「あっ、参謀長。スミマセン、演算機を借りてしまって」


 私は三沢さんに対して頭を下げた。しかし三沢は「そんな事は気にしないで」と、手をパタパタと上下に振り、陽気に答えた。

 ところが、三沢はすぐに険しい表情を作り出し、私に質問を投げかけて来た。

 

「……浅倉組長、鹿鬼は今後どうなると思いますか?」


 私はなんとも漠然とした質問だと感じた。

 しかし、()えて情報を持っていない私であれば、先入観を持たずして考えられる。

 三沢さんはそう考えて、質問を私に投げ掛けているのでは無かろうかと解釈し、自分の意見を頭の中でまとめた。


「鹿鬼は、何がしたいのかが分かりません。ただ強いて云うならば、町の破壊が目当てな気もします。建物を壊す。町を壊す。これが彼らの目的な気がします」


「……そうね。それは金沢支部長も同じ意見だったわ。鹿鬼が初めて出現したのは、今年の一月七日。それから、概ね二週間おきに出現しては、町を破壊している」


 私は、参謀長の話に頷き、理解を示す。

 

「えぇ、そうなんですよね。今のところ発生件数も少ない事から、確証は得られませんが、鹿鬼は田舎に出現しないんですよね。もっとも、今後もそうである保証はありませんけど……」


 私は、自分の意見を述べ終えると、急に眩暈(めまい)を感じ始めた。

 どうやら、戦闘の疲れが出て来たのか、立ち(くら)みを起こしたらしい。


「あらあら、浅倉さん、無理は禁物です。健康管理も大切な任務です。今日は銭湯でゆっくりと戦闘の疲れを癒してください」


 三沢さんは優しいな……。私は、体を支えてくれる三沢さんに対して、少しだけ笑みを浮かべた。


「それにしても……銭湯で、戦闘を癒すとは、随分と小洒落た事を云うのですね、参謀長は……」

「別に、洒落を云ったわけではありません。揚げ足を取らないで、さっさとお風呂に行ってください」


 そんな、たわいも無い会話をしながら、私達はクスクスと笑うのだった。


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