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第二話 厨二のあの子

「あら、あなた買い物早いのねぇ」


「はい、足には自信あるんで!!」


「お釣りも持っていっていいよぉ。お昼ご飯食べてくかい?」


「ごちです、あざぁっす!!」


 昼下がりの片田舎。自分にできることからやろうと始めた、買い物に行くのが難しいようなおじいちゃんおばあちゃんたちのおつかい代行を終えて、おばあちゃんからお小遣いとお釣りををもらった。

 俺が始めたこのサービスはどうやら少しだけ需要があったようで、1日に二、三件、なんとか300リリス、日本で言う3000円ほどの収入がある。

 優しいおばあちゃん達が多いのでよくこういうふうにおつかいの後お昼ご飯をご馳走になることが多い。夜はギルドで夜ご飯を食べた後、公衆銭湯に行って雑魚寝スペースの端っこの方で寝かせてもらっている。


「兄ちゃんは…服装からして冒険者かい?」


「あ、はいそうなんです」


 すぐそばに流れる運河を眺めながら、おばあちゃん特製のランチを頬張る。

 本当は早く冒険者としてクエストを受けて報酬をもらいたいのだが…レベル制限に引っかかってクエストをまともに受けることができないのだ。

 他の高レベルな冒険者とパーティーを組めばクエストを受けることができるのだが、他のパーティーのほとんどがもう人数は足りている……らしい。パーティー募集の張り紙を見て応募してもレベルを見られた途端に鼻で笑われる、同情される、言葉を失うなど様々な反応で断られてしまった。

 

「あんたはいい子だから、いい仲間が見つかるよぉ」


「だったらいいんですけどねえ」


 目標として言われた、魔王討伐なんて夢のまた夢だ…


「見つけたぞユウト!!」


 庭に生えていた木が揺れて、黒髪を靡かせながら忍者の如くリンがいきなり現れた。


「ユ、ユウリン!? ど、どこから出てきたんだ!? てか不法侵入……」


「邪魔するぞ、おばあちゃん」


「最近の子は元気だねえ」


 元気だねえじゃないよおばあちゃん?異世界の防犯意識はこんなもんなのか? それともボケ始めてるのか……


「パーティーメンバーを探している初心者がいると聞いた。もしやユウトのことか?」


「ああ、確かにそうだ」


「私もちょうどパーティーメンバーを探していたんだ。どうだ、一緒にクエストに行かないか?」

 

「いいのか!?」


「ああ。私は君のような者を探していたんだ」


 またユウリンは何か興奮したように笑っている。

 まあ断る理由もないし、なんなら願ったり叶ったりだ。

 俺は快く承諾してユウリンの手を取った。

 ひとまずおばあちゃんにごちそうさまを言って、俺たちはまずギルドに向かう。

 ユウリンのレベルは30ほど。俺がついていく事を考えて、受けるクエストは余裕を持って対象レベル15ほどの討伐クエストを受けた。

 受付に向かってユウリンと二人でクエストを受ける旨を伝えると、初日と同じように視線が俺たち二人に集まった。

 冒険者達は驚いたように、また心配するようにこちらを見ている。俺のレベルが心配なのだろうか。


「目立っている……目立っている……!!」


「ん、なんか言ったかユウリン?」


「いや何も。安心しろ。お前は私が守る!!」 


 あらやだかっこいい。

 まあ本当は俺がいうセリフのはずだったんだけどね…。


* * *


「農作物を荒らす害鳥の駆除か」


「ああ。そこまで強いわけでもないから気負いしなくていい」


 町外れの一角。緑々しい農地が目前に広がる。

 天気は晴れ。そして時々レタスが降っている…


「なんでレタス降ってんだよ!?!?」


「よく農地を荒らす害鳥、クァラスは農作物を引きちぎって空中に運んでから一度落として汚れやついている虫を落とすという習性があるんだ」


「危ない害鳥がいたもんだな」


 ギルドの入会特典として貰った探検を鞘から抜いて、しめしめとクァラスをキッと見つめる。

 言えばカラスのようなしょぼいモンスターだ。数十匹の黒の集団が空を埋め尽くしてはいるが、一匹ずつなら特に気を張らずにできる簡単なお仕事だろう!!


「そういえばクァラスはキラキラと光るものを集める習性があるからな。剣や装備を奪われないように気をつけるんだ」


「分かったぜユウリンさん… ほら来いよクァラス!! 今日の晩飯にしてや……る…?」


 こちらに気づいて急降下を始めたクァラス。最初こそ意気揚々と剣を構えていたが、なぜかクァラスが大きく見える。

 いや待てほんとにでかい。俺の腰ぐらい……いや俺の背丈と同じぐらいでけえ!!


「ちょ、ちょ、ちょ、デカすぎっ!!」


「クアッ!! クアッ!!」


 構えるのをやめて俺はクァラスを背にして悠々と仁王立ちで身構えるユウリンのもとに走る。


「ハハハっ、クァラスはでかいんだよ。気をつけないと」


「いや先言ってくれよ!! てか助けて、死ぬっ!! これやばい!!」


 呑気に笑うユウリン、なぜか助けるそぶりは見せてくれない。というかこの状況を楽しんでいそう。


「あぁっ!! 掴まれたよユウリンさん…!! 俺飛んでるよユウリンさん…!!」


「くそっクァラスめ!! 私の仲間を連れ去る気か!!」


 いやあなたに見捨てられたんですけどね?


「仲間の絶体絶命のピンチッ…!! ギリギリで助けに入る、クールでかっこいい私ッ…!!」


「何言ってんだっ!?」


 まさかこのお姉さん、初心者をクールに助ける実力者って言う厨二ポジションを取るためにわざとか!?


「お前は……絶対に私が助けるッ!!」


 あ、やっぱりそうだこの人。決め台詞とキメ顔をこれみよがしに見せつけてきてる。

 ん…なんだ? 石を拾って振りかぶって…?


「いや待て待て待て!! 今落とされたら落ちて死っ…!!」


 美しい投球フォームから放たれた投石は綺麗に俺を掴んだクァラスの頭に命中し、俺は重力に引き戻され始めた。

 空気の抵抗を一身に受けて、地面がどんどんと近くなるのを感じる。

 当のユウリンは、最初から落下地点に待機して受け止めてくれればいいものの、わざわざ少し離れて追いつくか追いつかないかのギリギリの速さで走っている。


「必ず……助ける!!」


「いやそういう演出いいから!! ぜ、絶対キャッチして!! 死にたくねえ!!!!」


「任せっあぁっ…!!」


「ちょ、キャッチ、キャッチ、キャッチしてっ……ぶへえッ!!」


 ユウリンは……転けた。

 クァラスが空から落としたレタスが頭に当たって、そのままバランスを失って転けたのだ。

 受け止める相手が消えた俺は、そのまま地面とこんにちは!

 全身が痛い。体が動かない。もう二度と美人には付いていかない。

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