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プロローグ

「楠悠人君……目が覚めたかね?」


 まだ少しぼんやりとしている視界。どこか優しさを孕んだ渋い老人の声で俺は目を覚ました。

 辺りを見渡すと何もない静かな空間が続いている。


「……ここは?」


「ここは名前もない現世とあの世の狭間。死後の魂たちを裁きにかける場所じゃ」


「死後の、魂…」


 神聖な玉座に座る、いかにも神様ですと言わんばかりの風貌の老人の言葉を聞いて、俺は死んだのだと理解した。

 本当は焦っても良い場面だとも思うが、この空間はなぜか妙に心地が良く、心は平静を保っている。


 今朝目を覚ましてからの記憶が全く無い。どんな理由で死んでしまったのかが全く見当も付かない。


「どうして俺は死んだんですか?」


 この老人…いや、神様に聞けば分かると思った。これは直感であり、確信でもある。


「そうか、最後に強く頭を打っておったな…記憶が飛んでいるらしい。詳しく説明してやろう」


 案の定、全てを知っていた神様は、俺の質問に快く答えてくれた。


「君は今朝、いつも通り目覚め、普段通りの時間に学校に向かった。そして駅に着いて電車を待っていた」


「も、もしかしてその時に誰かに押されて…!?」


「いや、そんなことはない。いつも通り鼻をほじりながら電車を待っていた所を側を通った女子高生に笑われていただけじゃ」


「見られてたのかよ! 恥ずかしいな!」


「時刻通りに駅に着いた電車に乗って学校に向かう道中…」


「まさか電車が事故に!?」


「いや、それも違う。電車の中で乗ってくる異性を舐め回すように見続けて反感を買っていただけじゃ」


「ば、ばれてたのか…///」


「なぜお主が恥ずかしがっておる……原因は電車を降りてからじゃ」


「電車を降りた後……?」


「いつも通り、お主が駅構内の階段を登っておった時の事。すぐ前を歩く同じ高校の女子生徒を見つけたお主は…..」


「もしかして足を滑らせて転落しようとした所を助けたとか…!?」


「違う!! その女子生徒のスカートの中をどうにかして覗こうと無理な体制で階段を登っていたお主は足を滑らせ、頭から階段を転げ落ちて死んだのじゃ!!」


「は、はぁ!?」


「プププププ……あははははは!!!」


 神様の話を聞いて、驚く俺の後ろから女性の笑い声が聞こえてきた。


「だ、誰だ!!」


「あーごめんごめん。あなたを下界からここまで運んだ天使よ」


 後ろを振り返るとそこには絶世の美女という他に表す言葉がないほどの美貌を持った天使がお腹を抱えて笑っていた。


「こらヒカリ。死者を冒涜するような真似をすでないぞ!!」


「いやだって神様……周りの人たちにはあまりの馬鹿さ加減に同情されて、駆けつけた駅員は一部始終を見ていた人から事の経緯を聞くや否や最初に鼻で笑われてたんですよ?」


「うわああああああああああ!!!!! もうそれ以上言うなああああああ!!!!」


「そうじゃやめろ!!」


「神様だって最初は大爆笑してたじゃないですか。これほど馬鹿な死に方をした若者は見た事ないって腹抱えながら」


「神様にも笑われててのかよおおおおおおお!!!!」


 あまりの恥ずかしさに神様の方に目をやると、先ほどまでは天使を厳格な表情で咎めていたのに今は気まずそうに俺から目を逸らして口笛を吹いている。


「と、とにかくじゃ!! 本題を話すぞ!!」


 神様がそう言いながら手をそっと振ると、どこからともなく椅子が現れた。

 驚いて立ち尽くしていると、天使がどうぞ座ってとジェスチャーをするので俺はその椅子に腰を下ろした。


「くすのきゆうと、享年17歳」


 神様はどこからともなく紙を取り出し、その内容を読み上げ始める。


「一般職の父と専業主婦の母のもとに生まれ、妹が一人の四人家族。趣味は有名人や成功者のブログやSNSアカウントを荒らす事……」


「え、もしかして僕のこと全部知られてるんですか?」


「ああ。生前の行いは全て記録されておるぞ」


「……」


「……」


 詰んだ。


「続きを読むぞ。生前に行った主な悪行はことあるごとに道を歩く女性達下半身をパンツをのぞけないかと凝視する。公共交通機関を子供用の値段で使う。友人や仲間を売るような真似をする。子供を騙してお菓子を奪い取る。妹の下着を盗みインターネットで高値で売り飛ばすなど…..酷いものじゃな」


 先程までは優しく温かい表情だった神様は驚きと軽蔑の顔で、隣で聞いていた天使はゴミを見るような目で俺を見ている。


「もう公開処刑はやめてくれええええ!!!!!」


「他もあるがもうこれぐらいでよかろう。善行も人並み以上に積んできてはいるが、本来ここまでの悪事を働いてきたものは皆地獄行き…と言うわけなのじゃが」


「じゃが?」


 何か含みを持たせるような言い方の神様に聞き返すと、天使がここは私が説明を、と割って入ってきた。


「今私が管轄している他の世界…..あなたからすると所謂異世界では人類を脅かす魔王軍が勢力を増してきているの。その魔王を討伐してくれる勇者の出現を待ってるんだけど、勇者になれる逸材の人たちはみんな道中で死んじゃって大変なのよね」


 なんだかどこぞのRPGみたいな話だ。


「そ、こ、で!!もしあなたが勇者としてその世界に転生して魔王を討伐してくれるのなら、地獄行きを特別の特別に免除してあげるって話よ!!」


「本当か!?!?」


「ええ本当よ。地獄で苦しみながら労働を繰り返す日々を送るか、それとも夢と魔法が溢れる異世界で勇者としての栄誉を手にするか、さあ、あなたはどっちを選ぶ!?」


「そりゃもちろん、俺は異世界に行くぜ!!」


 願ってもない話。俺は二つ返事で承諾し、天使と神様を見つめた。


「だって神様!!」


「うむ。転生を許可しよう。そうと決まれば準備が必要じゃ」


 まずは服装、と神様が言うと、着ていた制服はいかにもRPGの冒険者らしい服装に変わった。


「言語も通じるようにしておいたからの。なんの武器やスキル、装備も無しに魔王軍に挑むのは自殺行為に近い。このカタログの中から好きな装備と能力を授けてやろう」


「おお!! まるで漫画やアニメじゃねえか!!」


 カタログに載っている、その強力な武器や魔法のスキルを見てテンションが上がってきた。

 ゲームのような楽しい冒険が、俺を待ってる!!


「できたら早く選んでよね〜。疲れたから今日は早くお菓子食べて寝たいのよ」


 後ろでは天使が暇そうにフワフワ飛びながらだらけた口調で喋っている。

 まあそんなことは関係ない。早く装備を選ぼう。

 神の加護が付いた黄金の装備、邪竜を宿した伝説の剣、世界の全てが書かれている全知の書!! あと魔法のスキルも欲しい!!


「こらヒカリ!! 羽が舞うからここでは飛ぶなと言っておるじゃろう」


「あ、ごめんなさい。今降りるからっ……あっ」


 天使の不穏な声と共にピッ、と言う音が聞こえた。

 振り返ると天使が着地した足の下にリモコンのようなものがあった。

 

「何を踏んだんじゃ?」


 神様が天使に尋ねるとほぼ同時、俺は暖かく眩しい光に包まれ、体がどんどんと透けてきた。


「なんだこれ!?」


「や、やっちゃった!!」


「な、何しとるんじゃ!!」


 神様と天使がひどく慌て始めた。俺はいまいち状況がわかっていない。と言うかどんどんと意識が朦朧として視界が白い光のせいで何も見えなくなってきた。


「ど、どうしよう神様!! このままじゃ武器もスキルもなしで異世界に!!」


「どうするもこうするもこの光は止められんぞ!!」


 薄れ行く意識の中でそんな会話が耳に入ってきた。

 どういう事なのか、考える暇もなく意識が遠のいていく。

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