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第5話 ベッドの下

「さて。掃除の続きをしますよ。お風呂場とかベッドとか、酷いですからね」

「本当に徹底的にやるんだな……」

 感心半分呆れ半分で呟く。

「当たり前です。よく今まで怪我とかしませんでしたね」

「あー。割と体感良い?」

「茶化さないでください」

 人差し指を向けてメッと叱る龍王子さん。

「もうしかたのない人ですね!」

 そう言って俺のベッドの下をモップで……

「て。そこはダメだ!」

 俺が大声を上げて静止しようとする。

 が――。もう遅い。

「これは……」

 ベッドの下から出てきた写真の数々。

「これ、わたしですよね……?」

 そうそこには龍王子さんのブロマイド写真がたくさんあったのだ。

「俺、実は龍王子さんのファンなんだよ」

 悔しい。でも、笑っちゃう。

「今まで良く隠し通せましたね!」

「言う必要があるかい?」

「ありませんね。あなた以外なら不快ですから」

「俺、以外?」

「いえ、なんでもありません」

 ぷいっと顔をそらし、掃除を続ける龍王子さん。

 何やらニヤニヤしながら、風呂掃除を始める龍王子さん。

「水回りはけっこう綺麗にしていますね」

 なるほど。手間が省けて嬉しいんだな。

「ああ。さすがに汚れたシャワーを浴びたくないからな」

「ふふ♪ まあ、もっと磨けますが」

 容赦のない掃除魔が風呂をピカピカにするまで綺麗にする。

 さすが掃除魔、いや龍王子さん。

 ついでにトイレもピカピカにしていく。

 その頃には世界が夕陽に染まる。

「ふう。そろそろ夕食を作るので、暇にしていてくださいね」

「え。つくってくれるのか?」

「……はい。それとも手作りはいやですか?」

 ふるふると首を横に振る俺。

「いや、食べたい」

 あのオムライスは美味しかった。お店ほどではないけど、家庭的で良き。すこ~。

「龍王子さんの手料理はすこすこのすこ~」

「何を言っているか分かりませんが、褒められている気がして嬉しいです♪」

 素直に感情を表現できる子なんだな。推している子だものな。

 作り終えたのか、龍王子さんは料理を持ってくる。

 麻婆マーボーナスに、生サラダ、温野菜の煮付けもの、味噌汁、オカヒジキのおひたし、白米。

「うまそう!」

「さ。召し上がれ」

「いただきます!」

 箸を伸ばして、口に運ぶ。

 もちろんのようにおいしい。

 こんな幸福があっていいのか、と思うほどに嬉しい。


 食事を終えて、三十分後。

 俺と龍王子さんはゲームをしていた。

「この、この!」

「ふふーん。わたしの方が強いようね」

 有名な格闘ゲーム《スマッシュ・シスターズ》をやっていたのだけど、なぜか龍王子さんが強い!

 初めてやると言っていたのに、操作を学んだだけで、かなりの上達を見せた。

「こ、コントローラーが悪いんだよ」

「負け惜しみですね。可愛い♪」

「馬鹿にして……」

 そうだ。俺はフラれたばかりだ。調子に乗っていた。

 俺は価値のない人間なんだ。

 ひとしきりゲームを終えると、俺は隣に座っていた龍王子さんに向き直る。

「掃除に夕食、感謝してもしきれない。何かお礼をさせてくれ」

「ええと。じゃあ、暇なときの遊び相手になってくれませんか?」

「え。なんで俺に? 龍王子さんならたくさん友達がいるじゃないか」

「ええと。素を出せるのはあなたくらいなので……?」

 なぜか疑問系な彼女。

 でも素を出せる、か。普段は仮面をかぶっているものな。

「分かったよ。それで満足できるのなら、いいよ」

「ホント! ありがとう」

「いや、お礼を言うのは俺の立場だからね?」

「分かっているわよ~っ!」

 恥ずかしそうに顔を背ける龍王子さん。

「じゃ、じゃあ、暇な時間を聞くから、連絡先、交換しよ!」

「あー。それもそうだな。いいぞ」

 俺は慣れない手つきで操作し、QRコードを差し出す。

 交換が終わると試しにメッセを送ってくる龍王子さん。

《明日は暇?》

「あー。暇だな」

《じゃあ、あそぼ?》

「いいぞ」

《うん、ありがと》

 龍王子さんはスマホで口元を隠しながらメッセを送り続ける。

「いや、目の前にいるんだし、会話しようよっ!」

 焦りを覚える俺。

「ふふ。慌てている。可愛い」

 女の子の〝可愛い〟は信用できないからな……。

「じゃあ、明日」

「うん。あした」

 そう言って帰る龍王子さん。


 なんだか、ドキドキして眠れない。

 龍王子さんがこの部屋にいたのだと思うと、少し胸がワクワクする。

 なんだろう、この気持ちは。

 落ち着かないから、少しコンビニにでもいくか。夜食でも買うか。

 俺は着替えると、財布を持って徒歩三分のコンビニに向かう。

 どこにでもあるチェーン店のコンビニ。昔は7時から11時までやっていたらしい。

 そんなコンビニでカップ麺を手にすると、隣の商品を手にする女の子。

「あ、赤井あかい君?」

 その女の子はこちらを見て小首を傾げる。

 褐色の肌、赤髪のショートヘア。黄色い瞳。人なつっこい笑みを浮かべ、動きやすそうな服。いかにも運動ができそうな女の子。

「俺を知っている?」

「あははは。面白いこと言うじゃん。同じクラスじゃん!」

「ええと……」

「もしかして覚えていないじゃん? アタシ、色恋いろこい三咲みさき

「あー。いたような……」

「もう、酷い奴じゃん!」

 じゃんじゃんうるさいじゃん。

 スポーティな彼女にしばし目を奪われていると、物寂しそうに顔を近づける。

「本当に覚えていないじゃん?」

「ええと。ごめん」

「まあ、素直なのは美徳じゃん」

「ははは……」

 乾いた笑いを浮かべる俺。

「あ。それ激辛ラーメン?」

「うん! そうじゃん。アタシ、辛いの好きじゃん!」

 知らんがな。

「そういう赤井君は背脂のラーメンじゃん!」

「あー。新商品だから手に取ったんだ」

「もしかして、チャレンジャーじゃん? すごいじゃん! 当たり外れ、あるのに!」

「そうかもね」

「なんだ。赤井君っていつも暗そうな顔しているけど、けっこう面白いじゃん」

「え。そう?」

「そうそう! 女子からはミステリアス少年なんて言われていたじゃん!」

「ミス……?」

「あ。今のなしなし! みんなからは口が軽いって言われているじゃん。アタシ」

「そ、そうなのか?」

「だから、今のなし!」

 大きくバッテンを描く色恋さん。

「まあ、何かの縁じゃん。よろしく」

 手を伸ばしてくる色恋さん。

「ああ。よろしく」

 俺はその手をとると、堅く握り合った。

 そのまま買い物を終えて、俺と色恋さんはそれぞれの帰路を目指す。

 アパートに帰る、とそこには佐里がいた。

「何やっているんだ? お前」

「む。お兄ちゃんに愛に来たの。悪い?」

「会いに来たって。まあ、入れよ」

 五月とは言え、この時期は夜がまだ冷える。

 解錠して部屋に入れると、買ってきたカップ麺にお湯をそそぐ。

「で。なんできた?」

 義妹とはいえ、家族だ。無碍むげにはできない。

「お兄ちゃんが心配なの。そんなご飯食べているし……」

「あ。えっと」

 さすがに夕食で龍王子さんの手料理を頂いたのは隠すべきだよな。

「まあ、ははは……」

「それに聞いたよ。龍王子さんと付き合いだした、って。なんでそんなこと」

 ブツブツと文句を言い出す佐里。

「いや、まあ、いいじゃないか。俺だって花の男子高校生だ。恋愛の一つや二つ」

「二つあっては困るの!」

「あー。はい。すみません」

 分かっているかもしれないが、俺は佐里に頭が上がらない。

 それは佐里の方がしっかりしているからだ。

 誕生日だから俺の方が上ってだけで精神的な成長は違うんだなーと思い知らされる。

「ワタシ、今日ここに泊まるから!」

「え……」

 言葉を失う俺。

 本気で言っているのか。

 家族だけど。家族だけど!

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