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第23話 赤井タケルの三原則

「呼び出してごめん。龍王子」

「なんですか? 改まって」

 205号室の戸口を開いて、俺はビシッとした格好で告げる。

「俺、まだキミを一人の女の子として見ることができない」

「! ……そうなのですね」

 落胆した様子を見せる龍王子。

「だけど、これからは少しずつ知っていけたらいいと思う。キープとかじゃない。知りたいんだ」

「なら、良かったです。少しずつ歩み寄りたいですっ」

「お願いだ。少し待ってくれ、ってあれ……?」

「なんですか?」

 龍王子さんの目が潤っている気がする。

「わたしはそれでいいです。今は」

「そ、そうか? それでいいのか?」

「はいっ。嘘偽りのない気持ちですっ!」

 弾んだ声音で返してくれる龍王子。

「そ、そっか。じゃあな」

「待ってください。食べていきませんか?」

「え……」

「オムライス! また作ります!」

「いいのか?」

「はい。もちろんです!」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 佐里にはあとで野菜炒めでも作ってあげよう。

 そう思い205号室の敷居をまたいだ。

 午後五時半。

 夕食には早めの時間だが、小腹は空いている。

 手際良くオムレツを作る龍王子。

 彼女の一番得意な料理らしい。

「できました!」

 ニコニコ笑顔でお皿に盛り付ける龍王子。

 机まで運んでくると、赤いケチャップで文字が描かれている。

 ――大好き

 と。

 いや食べづらいんだが……。

 まあ、気持ちは伝わっているからいいのだけど。

 マジマジと見つめてくる龍王子はどこかそわそわしている。

 感想を求めているやつだな。

 ちなみに龍王子の分もある。

 先に食べないのはおもてなしの精神か。それとも恋心か。

 分からないが、俺はスプーンでオムライスを掬い、口に運ぶ。

 ふわとろの卵が甘くて、ケチャップの酸味が足されて最高の味になっている。

「うまい」

「そうでしょう。そうでしょう」

 少し失敗したオムライスにスプーンを通す龍王子。

 そちらも問題なく食べているから、味はうまいのだろう。

「そろそろ中間テストだな」

「はい。赤井くんには負けませんよ?」

「ははは。いつも一位の龍王子には勝てないって」

「本当ですか? なんでいつも三位なのですか?」

「……なんのことだ?」

「わざといつも三位ですよね? どうやっているのですか?」

「聞かなくていいこともあるよ。これでも頑張っているんだ」

「なら、本気でかかってきてください。《《本気》》の赤井くんが知りたいんです」

「そうか。考えておく……」

 言葉を濁しながら、オムライスを平らげる。

「今日はありがとな」

「いえ。幸せでした」

 別れを告げると、俺は201号室に戻る。


「お兄ちゃん?」

 半同棲している義妹が目をつり上げている。

「どうせいっちゅうに……」

「何、訳の分からないことを言っているの? その口元のケチャップは何?」

「あ。いや、これは……」

 ハンカチでとっさに拭う。

「誤魔化さないで!」

「その、龍王子の家で、ごちそうになってきた……」

「信じられない。こんな浮気症だったなんて!」

「いや、誰とも付き合っていないのだから、セーフだろ!?」

「お兄ちゃんのバカ!」

「じゃあ、夕食は作ってやらないぞ!」

「いいもん! 勝手にすれば!!」

 拗ねたように怒り出す妹。

 自分の布団に潜り、顔を見せない。

 どうしたものか。

 いつも通りお風呂を沸かして、歯磨きをして眠る俺。


 夜中になり、コツコツと音が鳴る。

 音に気がついた俺は起き上がり、周囲を見渡す。

 キッチンでベーコンを片手にする佐里。

「お腹空いたのか?」

 見てみると午前一時。

 あのまま眠った佐里が空腹で目を覚ましていてもおかしくはない。

「何よ。バカお兄ちゃん」

「……はぁ。分かった。俺も大人げなかったな」

 売り言葉に買い言葉だった。

「野菜炒め。作ってやるよ」

「……分かった」

「ごめんな。心配かけて」

「……しょうがないお兄ちゃんだね。もういいよ」

「でも……」

「そういうのは要らないから。代わりにうんっとおいしく作ってね!」

「分かった」

 苦笑を漏らし、俺は野菜を切っていく。

 野菜を炒め始める頃には佐里は机の前でスマホをいじっていた。

 料理を作り終えて、差し出すと、満足そうに食べる佐里。

 なんだか彼女の機嫌を伺う彼氏みたいだな――。

 いかんいかん。

 龍王子に当てられて変な気がしてきた。

「それ食べたらうるかしておけよ。俺は寝る」

「うん。分かった」

 さっさと寝てしまえば、余計な気持ちなんて湧いてこないだろう。


 一睡もできなかった。

 なんだろう。

 目が冴えていた。

 思考が加速していた。

 なぜか佐里を抱き寄せたいと思ってしまった。

 妹なのに。

 これって変だよな。

 今日も色恋さんに相談してみるか……。

 すっかり恋愛マスターだものな。

 やっぱり女の子の視点は大事だ。

 でもお返しか。

 それも考えないといけないな。

 そう言えばコロッケ美味しそうに頬張っていたな。

「よし。作るぞ」

「お兄ちゃん、朝ご飯?」

「それと一緒に献上品を作るんだ。ほら、早く顔を洗う」

「はーい」

 佐里は寝ぼけているのか、顔を洗うにも一苦労していた。

 三つ分の弁当箱を用意し、俺が二つ、佐里に一つ渡す。

 家を出ると、真っ先に学校を目指す。

 今日は寝坊しなかったから、龍王子とは合わなかったな。

 あいつ、いつもギリギリできているのかよ。時間にルーズな奴だ。


 教室にはいると、目が合う。

「赤井くん、おはぴっぴ!」

「いったいいくつの挨拶があるんだよ……」

「えー。可愛くない?」

「いや、まあ。可愛いけど、さ……」

 女の子に「可愛い」というと、告白しているみたいでなんかむずがゆい。

「でしょ! それで、何かあったのかな?」

「昼飯をおごる、ってか弁当を持ってきた」

「ふーん。あの紫色の……」

 よだれがたれてきている色恋さん。

「それで、お昼の時間が欲しいのかな? あきちくん」

「ああ。そうだ」

 あれ? あきちって誰だ?

 まあいいか。気にしてもしょうがない。

「よ。朝からナンパか? さすが八股」

「うっせーよ」

「冷蔵庫で筋トレ、今も続けているのかい?」

 綾崎までクスクスと笑っている。

「お前ら、あとでけちょんけちょんにしてやるぞ!」

「へいへい。あ、一応忠告」

「なんだ?」

 大河と綾崎は目を合わせてこくりと頷く。

 仲間外れにされたみたいで気分が悪い。

「「お前、来週の中間テスト、本気だせよ!!」」

「……善処する」

 苦い顔で応じる俺。

「ははーん。赤井くんは手加減していたんだ? それってみんなに失礼じゃない」

「そんなことはいい。今日は付き合ってもらうぞ」

「はーい!」

 返事だけはいいんだから。

 俺はやれやれと思いながら自分の席につく。

「また、おれらを置いてけぼりかよ」

 大河がジト目を向けてくる。

「俺がいなくて寂しいのか? この甘えん坊」

「ちげーよ。お前がかわい子ちゃんばかり集めているからムカつくんだよ」

「僕も同意見だね。あれじゃ飼い殺しだよ。楽にさせてあげて」

「どうやって?」

「全員、ふる?」

「おれなら一発やったあとにふるな」

 さすが大河だ。俺のやらないことを平然とやってのける。

「ま、その様子ならカノジョもできないか」

「僕もそう思うよ。大河」

「なんだよ。みんな一発やりたくてカノジョを作るんだろ?」

「いやいや、精神的な支えが欲しいとか、可愛いとか。いろんな理由があるだろ……」

 呆れて物も言えない。

 大河のお陰で雰囲気は良くなったけどさ。

 まあ、あいつの良さだよな。

 あっけらかんとしているところは。

 俺なら確実に引く内容だったし。

 それでも大河が言えるのは持ち前のメンタルか。

 俺、弱いからな……。

 あれ? 俺、陰キャで根暗で豆腐メンタルってやばくね?

 俺の三原則やばくね?

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