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平気なわけがないじゃ無いかっ……!!

 『ミッション失敗、帰還4、コロニーはあなた達に期待しています。 次回の奮闘を我々は臨みます』


 モニター越しの機械音声に淡々とミッションの失敗を告げられる。

 あの後コロニーに戻ってきてモニター越しにミッションの失敗の報告を行った。

 細かいことは帰っている時にイムに言っておいたのでそれを今、電子情報としてイムがやりとりしてくれていた。


『ジャック、報告終了しました』


 どうやらイムの報告が済んだ様だ。


「イム、ありがとう。 ついでに治療の申請も頼んでいいか?」

『そちらもすでに終えています。 すぐに医務室にお向かい下さい』

「あ、あの!」


 イムに案内される様に医務室へと向かおうとするとラナに呼び止められる。


「そ、その、平気っスか? 先輩……」

「…………あぁ平気だとも。 心配かけて悪かったな」

「そ、そうっスか」


 ラナは名残惜しそうに此方を見ておりイリナは罰が悪そうにしている。


「イリナ、次のミッションも一緒になったらよろしく頼むよ」

「っ! えぇ……わかったわぁ」


 イリナは複雑そうな顔を浮かべながらそう言う。

 その後二人に軽く別れを行って医務室へと向かった。


 医務室へと行くと血塗れの医務服を着た男が複数人立っていた。

 事務的に前に案内され、腕の傷にクリームを塗りたくられる。

 もう一人の男がタンクを荷台に乗せながら持ってきてタンクに付いているチューブをクリームを塗った腕に当てる。

 男がタンクに付いているスイッチを押すと勢い良く緑色の液体が流れて来た。

 一瞬、床に液体が溢れるかと思い身構えるがその様なことにはならず、液体はクリームの内側に溜まり腕を覆い尽くした。

 よく見るといつのまにかクリームが薄い膜の様になっている。


「一時間程経った後に膜を破って速やかに御退出を」


 そう短く男はいうと別の場所へと行ってしまう。

 相変わらずこのコロニーの技術はどうなってるのか訳がわからない。

 男のいう通り一時間程待つと傷口は完全になくなり皮膚が完全に傷口を覆っている。

 手で膜を破ると中に入っていた緑色の液体は床にこぼれ落ちる。

 床にこぼれた液体は数秒ほどで床に吸い込まれていき、こぼす前と同じ状態になっていた。

 気味が悪くなり医務室から足速に立ち去ると部屋の前でイムが待ってくれていた。


『お疲れ様でした、ジャック。 再生治療、もしくは義手の作成には明日以降でないと申請が通りませんでした。 申し訳ございません』

「あぁ、ありがとう。 そのすまないが再生治療と義手についてご教授願えるかな? なにしろこんな事は初めての経験なんでね」


 イムは此方見つめた後、少しインターバルを挟んで答える。


『再生治療は読んで字の如く失った組織をクローン技術で培養した後、身体に合成する技術です。 以前と同じ感覚と身体能力を発揮できます。』

「すごいな。 クローンか……」

『もう一つの義手ですが此方はオーダーメイドすることが出来るので消費ポイントもそれによります。』

「ポイント……そういえばどれくらいポイントは消費されるんだ?」


 その後イムからどれくらいポイントがかかるのか聞いたら目が飛び出そうになった。

 かなり消費ポイントが高く、今までの稼ぎが飛んでいってしまう様なものだった。

 意外なことに義手よりも再生治療の方が高くつくらしい。


「はぁ、どちらにするべきかな……?」


 そうやって悩んでいると不意にイムが話しかけてくる。


『ジャック、大丈夫ですか?』

「? 腕ならこの通り傷が塞がってるぞ」

『…………そうですか』


 腕を見せながら答えるとイムは少し黙った後に返事をする。

 そのまま会話もなく自室へ戻る。


「じゃあ、シャワー浴びてくるから」

『了解しました』


 短い会話の後ポイントを払いシャワー室に足を運ぶ。

 相変わらず中は狭く、入ると直ぐに扉が閉まる。

 シャワー室は一人が立っているだけでやっとの広さだ。

 ここにいるのは一人だ、誰も自分を見ていない。

 そのことを実感し、そして認識した瞬間被っていた仮面が剥がれるかの様に感情が溢れ出してくる。

 それとほぼ同時に無いはずの右腕に激痛が走った。

 反射的に痛む腕を抑えようとするが手は空を切る。

 呼吸がうまくできず目には大粒の涙が溢れてくる。


 【平気っスか?】


 不意にラナが言った言葉が頭に流れた。


「平気? 平気じゃないっ……! 平気なわけがないじゃ無いかっ……!!」


 平気なわけがない、あるわけがない。


「なんでっ……俺が、こんなっ目にっ……!!」


 心に湧き出た感情をありのまま口から吐き出す、吐き出てしまう。

 頭に浮かぶのは何故自分がこんな目に遭わなければならないのだということ。

 そして後悔だけが涙と一緒に溢れ出してくる。


 普段から舐められない様に、そして何より生き残るために分厚い仮面をつけて生活をしているジャック。

 いつしかそれが当たり前のようになっていたそれはボロボロと崩れ、剥がれてしまっていた。

 このまましばらく居たいと思ったがそれを許さないとでも言うようにシャワーの終了音が鳴る。

 慌てて心にボロボロになった仮面を取り付けるかのようにして平静を装う。

 そうしてシャワー室から出ると目の前にイムが立っていた。


「なんのようだ?」


 正直、今は誰かと談笑する気にはなれなかったので放っておいて欲しかった。


『何故私を助けたのですか?』


 その問いかけの意味がわからず間抜けな声が口から出てきた。

 しかしイムはそんなこと関係ないとでもいうように話を続ける。


『あの場での落ち度は私の判断ミスにあります。 そのことを報告すれば貴方にお咎めはなかったでしょう。 それに私はアンドロイドです。 私が破壊されてもすぐに別のアンドロイドが支給されることでしょう。 自らの危険を冒してまで私を助けるのに合理性を見出せません。』


 その通りだ。 アンドロイドの彼女を身を挺して助ける理由なんてない。

 そもそもイムとは知り合ったばっかりで命の危険を冒してまでも助けるような間柄でもない。

 何故、何故あんな事を自分はしたんだ。

 暗い深海に潜るかのように、あの時の出来事を振り返りながら理由を探す。

 そうして一つ自分の中にあるものを、見つけ出す。


「そうするべきだと思ったからだ……」


 か細く、小さな声で見つけた答えを呟く。

 そうするべき。 そう、しなくてはならない。 何故? その理由はただ一つ。

 自分が自分であるために、何者にも侵されないように、この世界で誰にも奪われないものが自分であるという自己のみなのだ。

 それを守るかのように心に仮面をつけ、ジャックという男を演じてきた。


「君はあの時、あのミッション中、僕の装備であり僕の部下だった。 あの場で君を失うよりも助けた方が生存率が高いだろうと判断した。 それだけだ」

『そうですか』


 ボロボロだった仮面はいつの間にか元通りになっていた。

 自分がおかしいというのはわかっている。

 だが、もはやどうでもよかった。

 何故なら世界の方もクソッたれな程におかしかったから。

 ふと気づくと腕の痛みはもう感じなくなっていた。

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