異論があるなら聞こうじゃないか? あぁ、しっかりと聞くとも
荒れたコンクリートの道路をトラックが走る。
道路はところどころコンクリートが剥がれるように土が露出していたり、道路のヒビから植物が生えている。
そのせいかトラックは揺れで余り乗り心地は良くはない。
運転はルチアが行い、その隣にはラナが乗っていた。
どうやらルチアは男嫌いらしく運転している間は此方と関わらないで済むという理由で運転を買って出た。
彼女はラナ以外が隣に座るのを極度に嫌がった為、ラナには済まないが助手席に座ってもらうことにした。
このトラックには席は運転席合わせて二つしかないので男たちとイムは荷台に乗っていた。
「ブレス、先はながいんだ。 周りを警戒するなら見張りは交代でやらないか?」
「はんっ! 俺はお前達を当てになんかしてねぇんだから俺がする。 やりたいやつが勝手にすれば良い。 俺は止めないから俺も止められる筋合いはねぇよ」
ブレスはトラックに乗った後ライフルを腰に持ち辺りを警戒していた。
いざという時集中力が切れると困るので交代で見張りをやろうと言っても聞く耳も持ってくれない。
あとから話を聞くと一日不眠でも問題なく動けるくらい体力があるから問題ないというから好きにさせることにした。
どうやらこちらを気遣っての行動らしいが言動のせいで自分の意図が伝わりづらくなっており、なんとも不器用な性格だと感じた。
とりあえず自分もブレスのようにガッチリと警戒をしないまでも視線は遠くを見つめておくことにした。
数時間以上このまま車に揺られるのだからあんな調子でいたらバテてしまう。
レオポルドとデニスの方を見るとレオポルドもブレスほどではないにしても辺りを見渡して警戒していた。
デニスは特に警戒をしている様子はなく楽な体制で休んでいる。
「なぁ、レオポルド……さん。 なんで俺をリーダーに指名したんだ? かなり出来る口だろう? アンタがやると言っても誰も文句を言わなかったと思うぞ?」
レオポルド、彼が外部から来た人間だからリーダーを辞退したのかと思い話題を切り出す。
「無理に言葉を直さなくて結構ですよ、ジャック殿。 先程言った通り私は誰かの上に立つのには向いていない性分なのです」
「そうなのか……」
「ええ、ですがそれ以上に貴方が向いてると思ったから貴方にお願いしたのですよ」
「どうしてそう思ったんだ? 貴方とは面識はなかったはずだが」
「そうですね、これと言って言えることはないのですが強いて言えばカンでしょうか」
どんな答えが返ってくるかと思ったらカンなどと言い出す物だから疑問の声が口から不意に飛び出して来てしまう。
「これが案外馬鹿にできないのです。 深く考え込むのも時として良いですが、今回の一件はそれらはノイズになってしまうでしょう。 少なくともこれでここまで生きて来たので少しは自信があるのですよ」
「その自信が本物であることを精々願っておくよ」
軽くため息を吐きながらレオポルドに言う。
レオポルドはそんな自分を見ても表情を変えずただ涼しい顔をして微笑んでいた。
「……おい、話してるとこわりーがどうやら厄介事がありそうだぞ」
ブレスがそう言いながら周りを見渡すように促す。
「ところどころに人が住んでいる形跡があらぁ。 どうやらこの辺は宿無しの縄張りかもしれねぇ」
宿無し。コロニーを持たず、各地を転々とする人たちのことを皆そう呼ぶ。
彼らは出自は様々で生まれた時から宿無しの者もいれば、コロニーから抜け出し宿無しとなるものもいる。
この世界では危険生物が多くいるので決して楽な生活ではないのだが、コロニー側の都合でいつでも殺される身としては命の危険度合いはトントンといったところだろうか。
「なんとか縄張りから抜けられればいいんだが……」
「どうだか、こればっかしはわかんねぇよ」
「ふむ、そちらのレディの御力でどうにかなりませんかな、ジャック殿?」
レオポルドの言葉でイムのソナーについて思い出し、イムにそのことを聞く。
「イム、ソナーを使って周りの様子を探れないか?」
『できますが、お勧めできません。 それでも実行しますかジャック』
「あー、お勧めできない理由を教えてもらってもいいかい? イム」
『はい、私のソナーは動作が重く消費電力が多く今使用するのは非効率的です。 今回のミッションは期間が長いのでソナーの使用は要所で使ったほうが良いかと思います』
その言葉をレオポルドとブレスは黙って聞いていた。
二人ともイムの件に関しては僕に任せる腹積もりのようだった。
ありがたい、今回はスムーズにミッションを進められそうだと思っていたところ横やりが入る。
「ちょ、ちょっと持て、何を渋っているんだ!? 寝込みを襲われるかもしれないだろう!? とっととやってくれよ!」
くつろいでいたデニスが起き上がり声を荒げながら、詰め寄ってくる。
「デニス、今ソナーを使用するのはイムのバッテリーがもったいない。 しかるべきところで使用させるから納得してくれないか?」
「そ、そんな! 今襲われたらどうするんだ!? 皆の安全のためにもするべきだろう!」
ただ自分がそうして欲しいだけのくせに皆のためとはよく言う男だ。
そもそも車で走っている相手に攻撃を仕掛けられる相手が奇襲を仕掛けてきたらどうやっても防げない。
車は常に動いているのだから待ち伏せに気付ける距離についてもイムのソナーではどうすることもできない。
車を破棄するという選択肢が取れない自分たちはただおとなしく目的地に行くのがベストだろう。
あくまで今はミッション地であるコロニーへ行く道中なのだ。
こんなところでイムという貴重なリソースを消費するわけにもいかないので穏便に話を収めなければ……。
「そんな機械人形一体どうなろうが関係ないだろうが! そんなことより人間の俺たちのほうが」
「口を閉じろ」
ほぼ反射的にデニスの言葉を遮る。
腹の奥がムカムカとし、熱気が口から吐き出るようだ。
あとから遅れて自分が怒っていることに気付いたが何に怒っているのか自分にもはっきりしなかった。
「イムは君たちとは違い、僕の管理下にある。 わかるか? 僕 の だ。 そして今回のミッションのリーダーも僕だ。 僕は君たちの進言に耳を傾けるがそれを実行するかは僕が判断する。 僕の指示に従えないのであれば死んでくれ」
デニスにジャックの凶相が向く。
はったりではない言葉はデニスを黙らせるには十分だった。
「イムのソナーは今晩のキャンプ時に一度使用する。 ブレス、道中の警戒を任してもその後に支障はないんだな?」
「あぁ、問題ねぇぜ大将。 弾を外す様なヘマはねぇから安心しな」
「わかった。 ブレスに見張りを任せこのまま目的地へと向かう。 異論があるなら聞こうじゃないか? あぁ、しっかりと聞くとも」
そう言いながらデニスをにらみつけると、デニスの体が一度はビクリと震えるとそのまま荷台の元の位置へと戻りうずくまる。
溜息を吐きながら穏便に済ませられなかった自分の行動を戒める。
どうやら今回も楽にミッションは進みそうにはなさそうだと思い肩を落としながら遠くを見つめた。




